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『それは愛らしい曰く付き 』
ファルス・ティレイラ3733

 依頼人との待ち合わせの場所へと向かう事が、これほどまでに億劫だった事が果たして今までにあっただろうか。とある特殊なアンティークショップを営む女性、碧摩・蓮から紹介された仕事の内容を思い出し、ファルス・ティレイラは蓮に文句を言いたくなる気持ちをぐっと堪える。代わりにその口からは、憂鬱げな溜息がこぼれ落ちた。
 ――新作の呪具の実験台。それが、なんでも屋さんであるティレイラの元に舞い込んできた今回の仕事だ。
(新作の呪具っていうのがどんなものかは気になるけど、自分で実験しなきゃいけないなんて……正直不安だよ)
 少女の足取りは重い。それでも、約束した時間に何とか間に合うように辿り着いたティレイラは、不安げな顔でその扉をノックするのだった。

 ◆

「やーやーよくきてくれたね、ティレイラさん! 碧摩さんに相談したら実験に適している人を知っているから紹介してくれるって言ってくださって……! 本当助かったよ〜!」
 ティレイラを迎えた依頼人は、明るくお喋りな性格のようだ。「しかも、私の予想以上に可愛い子!」と語尾に付け加えた依頼主は、抑えきれぬ興奮を言葉にして吐き出さなくては破裂してしまうのかと思う程に先程から矢継ぎ早にティレイラへと話しかけている。
 何気ない話題の中に、「実験」やら「呪具」という不穏な言葉が当然のように混じってくるものだから、ティレイラの胸に芽生えた不安の種は急速に成長していってしまっていた。依頼人の造る呪具は身体に変化を与える類のものが多いらしく、呪いや魔法に耐性の強い者を探していたのだという話が、ますますティレイラを憂鬱にさせる。
(このままずっと喋っていてくれれば、実験も始まらないのに……なんて、問題の先延ばしでしかないけど)
 などという現実逃避じみた事を考えていた矢先に、「じゃあ始めようか」と依頼人が笑ったものだから、ティレイラは思わず「え!?」という素っ頓狂な悲鳴をあげてしまった。
「も、もうですか!?」
 どうやら依頼人は話しかけながらも器用に実験の準備を進めていたらしい。焦るティレイラを尻目に、早速とばかりに何かをティレイラの前へとかざし始めた。
(まだ心の準備が出来てないのに〜!)
 その嘆きをティレイラが口にするよりも前に、実験は開始されてしまう。
 最初にティレイラの前に置かれたのは、一枚の絵画だった。呪具らしくないその見た目に、ホッとしたのもつかの間。次の瞬間、ティレイラは自らの身体に起こる変化に悲鳴をあげた。身体が何かに引っ張られているような感覚に、少女は戸惑い怯える。
(す、吸い込まれる……!?)
 彼女の悲鳴と、依頼人の歓喜の声が重なる。気付いた時には、ティレイラは先程までとは別の場所に立っていた。どこかで見た事のある景色が、そこには広がっている。つい最近見たばかりの……否、正確にはつい先程見たばかりの景色だ。
(嘘、私、絵の中に入っちゃった!?)
 ティレイラは、絵画に吸い込まれてしまったのだ。まるで最初からそうだったかのように、先程ティレイラの前に置かれた絵画の中には長い髪の竜族の少女の姿が描き加えられている。
「やった、実験は成功だ! 凄い凄い、綺麗〜!」
 依頼人は感嘆の声をあげ、たっぷりとその呪具の効果と出来栄えを記録する。ティレイラが解放されたのは、それからだいぶ時間が経ってからであった。ようやく呪縛から解放され身体に自由が戻り、思わず安堵の息をこぼしたティレイラ。だが、彼女が一息つく間もなく、次の呪具が目の前には迫っていた。
 見るからに怪しいアクセサリーが、ティレイラの身体へと取り付けられてしまう。徐々にティレイラの身体にはもふもふとした毛が生え、爪と牙が鋭く伸びていく。瞳孔の形が変わったのは、驚きだけのせいではないだろう。室内に設置された鏡を見て、ティレイラは悲鳴……というより、鳴き声をあげた。彼女の身体は、一瞬の内に獣になってしまったのだ。
(実験とはいえ、こんな事になるなんて聞いてない〜!)
 自らの身体が変化し別の存在に変わる感覚は、ひどく気味が悪く慣れる事は出来そうにない。次はいったいどんな呪具をつけられ、自分の身体はどうなってしまうのだろう。恐怖と不安が胸中でまぜこぜになり、思わずティレイラは泣きわめいてしまう。
 しかし、彼女の嘆きがはたして耳に届いているのかいないのか、実験に夢中になった依頼人はその手を止める事はなかった。そして、新たな呪具が、また一つ。ティレイラの身体へと装着される。
 ティレイラは、ゆめゆめ考えもしなかったのだ。まさか動物になるレベルの呪いがマシだった、と思う程に、この先自分の身に苦難が降りかかるだなんて。

 ◆

 それからも実験は続き、ティレイラはすっかり疲れ果ててしまっていた。身体がお菓子や物に変えられた数も、宝石等に吸い込まれたり封印されかけた回数も、もう両手では数えきれない。
 実験の中止、せめて休憩をと何度も訴えてみたが、依頼主は実験の結果とティレイラの美しさを饒舌に語るばかりで、彼女の願いを聞き入れてはくれない。また次の呪具を身体につけられ、自身の変化に困惑し悲鳴をあげるティレイラの声が室内には響き渡った。

「邪魔するよ。実験のほうはどんな感じだい?」
 蓮が依頼主の元へと訪れたのは、日も暮れ実験が終わりにさしかかった頃だ。彼女の声に言葉を返したのは未だに興奮した様子の依頼主だけで、いつも明るく元気なはずのティレイラの声はそこにはない。
 代わりに、室内に足を踏み入れた蓮を出迎えたのは嘆きの表情を浮かべたまま佇む少女の像だ。蓮はすぐにそのオブジェの正体が強力な呪いにより固まってしまったティレイラである事に気付き、その目を細めた。
「ああ、思っていた以上に良い出来じゃないか」
 けれど、それは哀れな少女を心配する瞳ではない。訳ありの商品を取り扱う、アンティークショップの店主の値踏みするような目だ。
「うちの店先に合いそうだね。目立つところに飾っておけば、客も増えるだろうさ」
 舐め回すように蓮はティレイラの身体を観察し、手で触れその質感を確かめる。ティレイラをこのまま買い取り、店に置こうかとどうやら考えているようだ。
 もしティレイラの口が自由に動いていたら、冗談じゃない約束と違う、と騒ぎ立てていた事だろう。しかし、今彼女の口は自由に動く事はない。
 そもそも、この仕事には最初から期限など決められていないのだ。いつティレイラがこの実験から解放され、自由になれるかは依頼人と蓮の裁量次第なのである。
 曰く付きの品ばかりを扱う、アンティークショップ レンの店主は微笑む。呪具により固まってしまった少女のオブジェなど、まさに彼女の店に置かれるに相応しい"曰く付き"の品だろう。
 今の蓮の瞳には、ティレイラの姿はティレイラという名の少女ではなく、美しい商品にしか映っていないのであった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】
【NPCA009/碧摩・蓮/女/26アンティークショップ・レンの店主】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
色々な呪具と依頼人に振り回されるティレイラさんのお話、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。お楽しみいただけましたら幸いです。
何か不備等ございましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。それでは、いつか機会がございましたらその時はまたよろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年08月27日

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