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『黒と紅に揺れる姫 』
シルヴィア・エインズワースja4157)&天谷悠里ja0115

 女王の口付けは花嫁に紅と黒の愛を授けた。

『女王』への絶対の忠誠と愛は彼女の手にゆだねられることになった。

  ***

 目覚めから幾夜かが経ったある夜、シルヴィア・エインズワース(ja4157)は秘密の部屋に天谷悠里(ja0115)もとい美紅とともにいた。

「そのヴェールは外さないのね」

 この部屋の中ではかつての美紅の姫として振る舞い愛し合うことを許されていることを美紅は知っている。

「私は黒の女王様のものですから」

「この部屋で起きたことは黒の女王は関知しないのでしょう?それなら裏切りにはならないんじゃない?」

「そうかもしれませんが、これは私の問題です。ご理解ください」

 美紅への想いを思い出したとはいえ今は黒の女王の姫であり彼女に藍と忠誠を誓っている。
 その事実が変わらない以上、自分の背徳をシルヴィアは許せない。

「相変わらずね。まあそんなところも私は好きなのだけれど」

 他人の姫としての表情の中にかつての姫としてのシルヴィアを見つけ、今まで感じたことのない悦びを感じながら甘く囁く。

「黒の女王はどう?」

「……素晴らしい方です。あの方へ尽くせる私は幸せ者だと思っています」

 美紅の甘い吐息に、シルヴィアは無意識のうちに唾を飲み込む。
 昔の快楽が心を揺さぶるが騎士としての矜持がそちらへ流れることを許さない。

(この感情は出してはならないものだわ)

 美紅への愛を表に出さないように、あくまでも黒の姫として接しようとシルヴィアは心を新たにする。

「そう。なら私はどうかしら?」

「黒の女王様の美しいご友人です」

「そう。もう、愛してはくれないの?」

「……」

 それには答えず、シルヴィアはそっと視線を外した。

「そんなことはない、そう思ってもいいのかしら」

 美紅は喉で笑うとヴェールを纏ったままのシルヴィアを抱き寄せた。
 薄衣で隔たれるだけこんなにもじれったくなるものだろうか。
 美紅はそんなことを思う。
 ヴェールを外して情欲と悦びを刻みたいという欲と手に入らないが故の愛おしさや情欲を愉しみたいという欲がせめぎあいあう。
 美紅にとってはそれもまた愉悦だった。

「シルヴィア」

 ヴェール越しのキス。
 触れるだけのそれは唇の柔らかさや温かさを確かめるだけでくすぶる熱を交換することはない。
 何度口づけても返ってくることのない反応。だが徐々にシルヴィアの吐息の香りが甘くなっているのを美紅は気づいていた。
 絶対の忠誠を口にしたその唇が自分の中で溶かされていく。
 それがまた紅の女王を沈溺させていく。

「黒の女王からはちゃんと愛されている?足りないなら愛してあげるわよ」

「……あの方はいつも私を愛してくださいます。先ほども……」

 一気に甘くなる吐息と共に吐き出されるのは愛欲の記憶。
 無意識だろう伸ばされた指の先には赤い跡が見える。

「あら、妬けるわね」

 美紅が跡の上に唇を落とすと小さな声がシルヴィアの唇から漏れる。
 身体が愛を求めている、シルヴィアはそんなことを考えたが、真紅の女王に自分から手を伸ばすことは出来なかった。

「……」

 ヴェール越しに甘い言葉と口付けを受ける度にピクリと動く指。
 シルヴィアは自分の中にこみあげる愛の衝動を感じていた。だが、
 それは心のありかとはあまりにも遠い場所にある。

 愛を紡がれれば愛と快楽の記憶に体は疼くが、今もこれからも美紅とは唇も肌も重ねることはない。
 その一方で黒の女王とは毎晩愛を交わしあう。
 そうなれば黒の女王への愛が大きくなっていくのは必至。
 今はどちらの女王も等分に愛しているが黒の女王への愛が上回る日は遠くないだろう。
 それでも、紅の女王への愛が消えることはない。しかし、この行為すら許せなくなる日が来るのかもしれない。

(それは当然なのだけれど)

 黒の女王と別れ愛と忠誠を誓ったことに後悔はない。
 記憶を取り戻した今もシルヴィアにとって彼女は思考の女王であるし、最愛の人だ。

 服従と忠誠、奉仕の悦びを授けてくれた貴婦人として感謝している。
 もう過去のものとは言え一度は愛した人の吐息や言葉、口付けは妖艶で淫蕩な美しさを持っていると思う。
 それでも……

(淫乱……)

 それも他人の姫という立場になってみれば一言で片付いてしまう。
 自分だけの姫を持ちながら、他人の姫にも気を持つような女王に愛も忠誠も誓えない。
 それは、黒の女王も、白の姫も、自分をも裏切る行為だ。
 何度唇を重ねられてもその気持ちは変わらない。

「考え事かしら?」

「……いえ」

 だが、身体はそうではない。
 口を開けば漏れてしまう声にそれ以上シルヴィアは口を開けなかった。

(あぁ、素敵な姫になったわ)

 愛を抱かない相手から何をされても反応しない事を美紅は十分すぎるほどに知っている。
 自分と黒の女王がそういう身体にしたのだ。
 黒の女王への愛だけではない、自分へも確かに愛が戻っている。
 黒の姫の性格ならばそのはざまで多少なりと葛藤するだろう。
 その姿を想像するだけで愉悦がこみ上げる。

  ***

「では、失礼致します」

 2人だけの時間が終わる。

 部屋から出るとシルヴィアは恭しく頭を下げた。
 先程までとは違う社交辞令の色をまとった他人行儀な言葉に美紅はくすりと楽しそうに微笑んだ。

「ええ」

 真紅の女王として応えシルヴィアに背を向ける。

 完全に自分のものでも完全に他人のものでもない、危うくも新しい関係。
 これからどんな風になっていくのだろう。
 今までの愉しみとはまた違う愉しみと悦びの予感を感じながら美紅はその場を後にした。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / 黒と紅に抱かれて 】

【 ja0115 / 天谷 悠里 / 女性 / 18歳 / 素晴らしい予感を胸に 】
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年08月27日

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