▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『たまにはこんな日が 』
鞍馬 真ka5819

「あれ、透? 珍しいね。どうかした?」
 突然の連絡にも関わらず、伊佐美 透の呼び出しに鞍馬 真は穏やかな様子でそう応じた。
 ……珍しい、と言うならば。正直、真と唐突に連絡を取ってみてすんなり居たということの方が珍しい、と透は思う。どうせなんか依頼受けてるんだろうな、と半ば以上予想していた上での事だったので、実は呼びつけておいて一瞬戸惑った透である。が、居たからには腹をくくらねばならない。
「ええと……」
「うん」
「唐揚げ、食わないか?」
「…………」
 反応が止まったのは。
 純粋に、話の流れについていけなかったからなのだろう。言い出しにくそうな空気、てっきり何か悩みでも相談されるのかと思っていたら、何だって? 唐揚げ。食べるのか。私が。順番に理解していったのだろう、そうして。
「えっと、良いけど……何?」
 漸く返ってきた返事は極めて妥当な反応だと思う。別に全く問題は無いが一体何なのか。
 要するに──今日、透は無性にひたすら揚げ物がしたい気分だった。
 が、そうしたときに呼びつけるいつもの相棒が今日に限って依頼で居なかったので、それならということでためしに次に友人として思い当たる人物に声をかけてみた、それだけの話である。
 だが、思うに。
 ……しょうもなさすぎる事情に付き合わせられる相手というのは、ある意味、切実な無理難題を頼む相手よりも有難いものではなかろうか。笑ってこれを受け入れてくれる友人に、透はしみじみ、そんなことを感じるのだった。

「あ、手伝うよ」
「あー……うん」
 透の部屋に着くなり、真はそう言った。これもやっぱり、まあそうなるだろうな、とは思っていた。いきなり誘っておいて手伝わせるのは、とも思ったが、多分ここでじっと座らせておく方が気疲れするタイプの人間だろう。これまでの付き合いからそう判断すると、結局、申し訳ないと思いつつサラダや付け合わせなんかの準備を適当に手伝ってもらうことにする。
「ところで、透は料理が好きなの?」
 そうして、自然な流れとしてそんな話題になる。
「いや。料理自体は必要に駆られて出来るようになったってだけで、普段からそこまで好きな訳じゃない。……なんというか、悪癖なんだよな」
 ストレスを感じると大量に料理がしたくなるのだ。特になんか、揚げ物の音を聞いてると心が落ち着く。恥ずかしい話だと思うが、真は、なんかわかるかも、と笑ってくれた。
「だからまあ、正直揚げる前の下拵えなんかは面倒に思ってるんで、手伝ってくれて非常に助かる」
「そう? 邪魔になってなくて良かったよ」
 そうして、謝意を伝えると、真は今度こそ、気遣いではなく嬉しそうに笑った。
 というわけで、唐揚げである。
 熱した油に衣を着けた鶏肉を沈めていくと、さーっと揚がっていく音がする。身の表面で油が弾けていく様子を半ば無心に眺める。そこに、背後で手際よく動いてくれる友人の存在が加わって、今日は何だかいつも以上にいい気分だった。
 ここに来るまでに買い出しで、何かそういう感じだよね、とビールやら缶チューハイやらが買い込まれている。それを踏まえてあとはどうしようか、なんて考えながら準備を進めていって。
 かくして。
「えーと、なんか、これで良かったかな」
 ちょっと困った感じで、透は真に尋ねた。
「別に全然。いいんじゃないかな」
 足りないなら買い出しも作り足しも請け負うけど。そんなことを言外に漂わせながら真が聞くと、透は改めて完成した食卓を見た。
 メインの唐揚げはだからそれなりの量があって。そこにポテトサラダと、枝豆と。それからチーズたっぷりのピザと。
 ……なんというか、いかにも働き盛りの男子の飲み会と言うか。題するならば『ザ・真夏のビールクズ』とでも言うべきな、実に、これからそれほど高くない酒を全力で飲みます的なラインナップとなっていた。
「正直に、言うとさ」
「うん」
「駄目っぽさに逆にテンション上がってきた」
「……あはは。まあ、なんか、分かるよそれも」

 ──まあ、だからつまり、初めから今日はそう言う気分だったのだと、思う。

 駄目な奴になろう。
 今日は、駄目な奴になろう、と。
 物分かりの良い大人を求められて不満も不安も押さえつけて。そんな気分から、少しだけ解放感を。
 笑いあって乾杯して、そしてとりとめもなく交わす会話には、だから、最近の、どうしても心に陰を落とすあれやこれやの真面目な話はお互い出さなかった。
 互いの知り合いの事だとか、最近のちょっとした笑える話だとか、そうした話題で、酒が進んで──
「改めて見ると、透はイケメンだよねえ……」
 そんな発言は、まあ、そんな雰囲気の流れに沿ってしれっと出てきた。
「いや……まあ、どうも」
 透にしたら、職業柄、まあある程度はそう言うものなんだろう、という自覚はある。ただまあ、やっぱり、良く知れた相手にいきなり言われると反応に困るものではあるが。
「背も高いしさー。私は微妙に小さいから羨ましい……」
「ええと、飲みすぎてないか? 大丈夫か?」
 ふと真の表情を見るとその目は半分据わったような様だった。卓上を見ると、気がつくと結構な本数が空になっている。ちょっといい気になりすぎただろうか。
「んー……まあ、酔ってる、けど、いい加減な事は言ってないよ?」
 かくん、と小首を傾げて、真。
 これはなんなのだろう、と透は少し醒めた頭で考える。絡み酒……とは違うのだろう。否定したりやんわり流そうとして縋り付かれる訳でもない。となると……。
 見た感じで、思うのは。
 ただ、思い浮かんだことが、そのまま口から出てきている。なのだが。
「演じてる姿は勿論だけどさ、戦ってるところも格好良いよね」
「いや、君まで言い出すのかそれ……」
 そうして誉められているのが他人ならともかく、自分の事となると果たして、そう考えてよいものか自信が全くない。
「アイツもなんだけどさ……実際のところ、剣士としての腕前は君らの方が俺より上なんだから……俺の剣ってのはさ……」
 それもまた、透からしたら悪癖なのだが。見た目が派手な剣というのは、効率で言ったら余分が多い。それを、真っ当に戦うために剣を鍛えてきた人間から誉められるというのは、なんというか複雑な気分だ。
 言い返すも、真は分かっているのかいないのか、ただ幸せそうにふわふわと笑っているだけだった。
 そうして。
「うーん……ねむい……」
「……おい?」
 仕舞いには、そう言い残して机の上にコテン、と頭を預けてすやすやと寝息を立て始めてしまうのだった。
「……何なんだ」
 その、気の抜けた態度が。普段、依頼で見る彼の様子とは、余りにも──常に誰かの役に立とうとして必死な彼には、余りにも。
「……何というか、俺は君にとってそんなに気を抜いて良い相手かね」
 情けない姿しか晒していない感覚なのだが。それでも俺は君にとってもう、守るべき、気を使うべき存在ではなくて。気を抜いて、身と心をすり減らすばかりの日々から少しでも休ませてやれるような。そんな位置に。立てていると思って良いのだろうか、これは。
「ふ……はははっ」
 思って、透は、今日一番、楽しそうな笑い声を上げた。
 まあいいや。
 決めたはずだ。
 駄目な奴になろう。
 今日は、駄目な奴になろうと。
 例えばそう、酔っ払った友人の言動に自惚れる程度には。
 自分を駄目にしてくれる友人の存在に、乾杯して。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闘狩人(エンフォーサー)】
【kz0243/伊佐美 透/男性/27/闘狩人(エンフォーサー)】(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注有難うございます。
軽めの絡みとのことですが、求められてた軽さと違う気がしますねこれは!
酔っぱらって振り回される……とのオーダーでしたが、そもそもこの二人の飲み会ってどんな感じに始まるのだろうと考えてったら……
すみません、要するに、こいつもオフの日は大概でしたとさ。
改めまして、今回もご発注有難うございます。
シングルノベル この商品を注文する
凪池 シリル クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年08月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.