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『やっと誰かさんと話が出来て、最低限の話が付いた後…の話。 』
黒・冥月2778

「周波数合わせたとして、」

 誰が憑坐役やれるんだ。と黒冥月はまず思う。

 関係者総出で秘密裏に御膳立てした儀式の場こと、冥月が影で構築した亜空間の中。そこで湖藍灰の弟子を憑坐とし降ろした、元霊鬼兵の魂――ノインと漸く直接の対話が出来るようになり、まずは当の待ち人になる零やエヴァとも挨拶程度は済ませ――それから喚んだ目的や互いの現在状況を簡単に擦り合わせてからの事。
 冥月が思い付きで指摘した「互いの周波数を決めれば今後の会話が楽になったりしないか」の件が実はオカルト的な方法論としても意外と都合が良かったらしく、すぐさま湖藍灰からノインに提案され、ノインの側でも否やはなくとんとん拍子に実行する方向になっているのを聞いて…ついつい突っ込みたくなった話である。

「湖藍灰で可能か?」

 弟子は基本忙しいんだろうし、そもそも極力その力を秘匿したい以上は弟子の身柄をそう何度も借りない方がいいんだろう。となると今現在ノインを降ろしている当人、湖藍灰の弟子はまず除外だ。

「んー…。まぁ俺が暇な時ならそれでもいいけど必要になった時にいつでも暇とは限らないよ?」
「だよな」

 幾ら暇そうに見えてもまぁ、この湖藍灰がそこまでまめに付き合ってくれるとはさすがに思っていない。

「零達で可能なら好都合…いや、好きな男を体に宿す? それは少しエロいな」
「って何考えてっ…!」
「あああの、好都合って…!」
『…。…えぇとそれは』
「いやー、そもそもそれやっちゃうと憑坐本人とは話が出来ないけど」
『…ですよね』
「…どうもほっとしたような声に聞こえるが?」
『それはそうでしょう!』

 と、やや焦ったように顔を赤らめるノイン。…ふむ、こんな貌も出来るのか。

「て言うかね。基本的にはわざわざ憑坐無くても周波数合わせは本当に「周波数合わせ」で済むよ。つまり無線とかラジオとか少し弄れば。何なら携帯とかでもいけるし。ほら、発明王のエジソンが霊界と通信しようと頑張ってたとかって胡散臭い話聞いた事無い? 要するにそっち系の方法なんだけど」
「…つまり何かの例えどころか、本当にチューニングな訳か」
「うん。でもまぁ「本当のチューニング」だと御手軽な反面、機能上お互いの声届ける位しか出来ないけどね。まぁ、対面が必要な事があればその時は改めて誰かに憑坐やって貰えばいいし」

 例えば探偵さんとかでも可能だし、と湖藍灰はしれっと続ける。…曰く、周波数さえ合わせられれば霊感体質とかそうでないとかほぼ関係無くだいたい行けるらしい。

「兄さんに…ですか」
「そーしときゃ探偵の旦那の居ないところでこっそり、って訳には行かないし、お兄さんとしても安心だったりしないかなあ、とかね?」
「…待ってくれ。憑坐本人とは話が出来ないと言ってなかったか」

 と言う事は、憑坐で居る間の事は憑坐には認識出来ないって事にはならないか、と草間。

「あ、バレちゃった」
「なら却下だ」
「…兄さん」

 ふむ。…湖藍灰も乙女の味方と言う事か。の割には詰めが甘いが。
 まあいい。

「具体案は任す。素人が口を出してもいい事は無い」

 その代わり生活環境や根回しは整えておいてやる。偽造だが我慢しろよ。
 柵も無くしておくが…楽な毎日は過ごさせてやらんから覚悟しておけ。



 そして湖藍灰とノインの方で互いの周波数合わせも意外とあっさり済んだようで、最低限今この場で済ませておきたかった相談事は駆け足ながら(脱線もあったが)一応終わらせられた。
 即ち、まだ憑依時間は保っている訳である。…となれば、ノインとの時間を再び零とエヴァに返してやれる。

 で、そうなると。
 ノインを喚び込む為に用意した『目印』の方に頭が向かう余裕も出て来る訳で…。

「折角だ。無駄にするのも忍びなかろう?」
「〜〜〜! って、そりゃそうかもしれないけど…っ!」
「た、確かに、食べ物を無駄にする訳には行きません、けど…っ」
「でも身体は別人な訳でしょっ」
「だが今の状態だと味覚は確りノインの方にあるらしいが?」
「――」

 かああ、と真っ赤になるエヴァと零に、何だ何だとノインも目を瞬かせている。無駄にするのが忍びない折角の食べ物――つまり、待ち人二人が作った手作り弁当、の事である。
 まぁ、愛妻弁当と言ってしまった方が手っ取り早い気がするが。取り敢えず先回りしてノインに知らせてやる。

『…僕の為にお弁当作ってくれたんですか。…エヴァも? 零君と二人で一緒に?』
「…はい」
「が、柄じゃないのはわかってるわよっ」
『ううん。凄く嬉しいよ。…でも、この身体で頂いて、いいのかな』
「大丈夫だと思うよ? うちの子別にアレルギーとか無いし」
『いやそういう問題じゃなく』
「何だ、二人の気持ちを受け止める気になれんか。恋文もあると言うのに」
「っ…てあの冥月さ…!」
「何 口 走 っ て る の よ ッ ! ! !」
『…恋文?』

 ぴたり。

 ノインがそう問い返した時点で、零もエヴァも動きを止める。それから…ああああの、と紅潮の上にどもりまくり恥ずかしげに俯く零に、エヴァの方は…フリーズが解ける気配が無い。大丈夫かーと目の前で手を振ってみても反応しない。この程度でやり過ぎになるか? と歯応えの無さに内心苦笑しつつ、ひとまず話を逸らしがてらノインを見る。
 …と言うか、これも必要な事に含まれるが。

『えぇと…何か、悪い事をしてしまいましたかね』
「どうだかな。まぁ、折角の弁当は食べた方がいいとは思うが。後な…「ノイン」はそのままでいいが、新しい苗字を考えておくといい。生前の血縁や柵とは無関係のな」
『…あ』
「この国で暮らすなら苗字位無ければ目立つ。考えるのも自我を保つのに役立つだろう?」

 以前、名乗れるなら霊鬼兵時代の素体の名を名乗りたいと言っていたらしいが、その名前――『刑部』はどうやらその筋じゃ目立つらしい。となれば一から考えた方がいい。反面、ノインの方は元が数字だ。目立つ目立たないで言えばどうとでもなる。それに使い慣れた名なのだろう。

『そう…ですね』
「二人と決めるのもいいか」

 零と、エヴァ。

「日本では大抵結婚後は夫の姓になる、好きな名前の方がいい」
『…』
「ん? 何を困ってる、このリア充霊魂め」
『? りあ…何です?』
「通じんか。まぁいい。本命はどっちだ?」
「…えっ」
「そういう事だろう。こっちと、こっちだ」

 タイプも違う姉妹だしな。と、恋文振りでどちらも何だか色々覚束無くなっている零とエヴァの肩をそれぞれ両手で抱くようにして、ぐい、と引き寄せる。そこまではさっきもした事だが――今度はノイン本人に迫ってみた。
 途端。

「っ…えええっ冥月さんっ!?」
「〜〜〜! っきゃあああああっ!?」

 …フリーズから戻って来た。

『だ、大丈夫二人とも!?』
「駄目です!」
「ダメ!」

 異口同音に息がぴったりである。…さすが姉妹。ともあれ、これではきちんとした回答まで行きそうにない。…ある意味では想定通りだが。

「戻ったら三角関係に大いに悩め」

 にやりと笑い、そう言っておく。霊魂に戻りたくなる位の幸せな生き地獄かも知れんぞ――からかうつもりも多分にあるが、それこそ「戻って来る」と言う『目印』に、と言う気も勿論ある。

 さて、今はこの位で勘弁しておくか。
 私も話したい事は色々あるが…今は彼女達に譲ろう。

 …ああ、後一つだけ。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

■NPC
【NPC5488(旧登録NPC)/ノイン/男/?/虚無の境界構成員(元)】

【NPCA016/草間・零/女/-歳/草間興信所の探偵見習い】
【NPCA017/エヴァ・ペルマネント/女/不明/虚無の境界製・最新型霊鬼兵】

【NPC0479、480(旧登録NPC)/鬼・湖藍灰/男/576歳/仙人、虚無の境界構成員】
【NPCA001/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長、探偵】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして今回もまた結局期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。

 内容ですが…相談後の話と言うか、「提案」やら弁当、恋文、プレイング反映…が混じったような流れになりました。そして何となくオチが付いてないような感もあります(恋文の行方とか)。いやこの(元含め)霊鬼兵三人のやりとり自体が、三人の性格上まだるっこしくてスパスパ話が進まない面があるので…このままどたばた部分が終わるか、次回でもう少し騒ぐかはお任せしたいと思います(零に対してもエヴァに対しても弄り方が甘い気がしますし)
 なお、どちらが本命かについては今回直接迫ってみました。

 と、今回はこんなところになりますが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年08月28日

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