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『レオポンの夏 』
海原・みなも1252

 8月ももうすぐ終わりですね。
 というわけでみなさまごきげんよう。海原・みなもです。
 あたしは中学生なので、まだぎりぎり夏休みなのですが……なぜか動物園でバイトしてます。あ、飼育員さんとか動物ショーのお姉さんとか、専門技術がないとできないものじゃありませんよ? なんというか、人は選ぶけど誰でもできる感じのバイトです。
「うわーこえー!」
 夏休み最後の思い出作りにやってきた子どもたちがおののきます。
「えー!? らいおんってさー、なまにくさー、たべるんだよー!」
 はい、そこの男子。ほんとの知識を披露しない!
「ちょーきょーぼーなんだよねー。うち、たべられちゃうよねー」
 そこの女子は無闇にまわりの恐怖煽らない!
 ライオンじゃないですし、男子も女子も食べません! 焼いたお肉は食べますけど、あたしもお年頃。某ゼミで『うそっ! 82点!?』とか落ち込むとかいう奇蹟を巻き起こすくらい思春期ですから、美容と健康のためにお野菜もいただきたい感じです。
 んー、でも。よい子のみんなの夢を守らないといけないのがこのバイトですから、肉って単語に反応しておかなくちゃですね。
「ぎぃぐぅ」
 こえでたー! ぎゃー! ないとくんがたべられるぅ! 子どもたちが口々に叫んだり。
 そうです。あたしのバイトは地元動物園の夏休みスペシャル企画に参加中の“動物”なんですね。
 くじ引きで決まった動物の着ぐるみ着て、子どもにサービスするのが今日のお仕事。はい、騙されたんです。割のいいバイトあるから来ない? って。それだけでほいほいやってきちゃうあたしもあたしですけど、ほんと、大人ってずるいです。
 ちなみにあたしが引き当てたのは、豹の父とライオンの母を持つハイブリッド、レオポンです。
 ……いきなりマニアックすぎませんか? まあ、ほかの担当動物がバビルーサとかアオイガイとか、ちょっとマニアックを越えちゃってるラインナップなので、まだマシではあるんですけど。

 あたしが装着してる、すごく精巧なレオポンの着ぐるみ。
 なにやら怪しい新技術やら多分魔法なんかが関わってるようで、まるで本物の体みたいですし、着ぐるみ特有のあの理不尽な暑苦しさや汗のにおいもありません。これだけの予算があるなら本物連れてくるほうが安くあがるでしょうに。正直意味がわかりません。
 ともあれ問題は、両腕と両脚がそれぞれレオポンの四肢に同化しちゃってるので、自分ではお腹の毛に隠されたチャックが開け閉めできないことなんですけど――と、焼いたお肉が差し入れられましたので、ちょっと食べに行ってきますね。


 アオイガイの担当になるべきでしたー! そしたらお水の中にいられたのに!
 いくら着ぐるみが謎仕様でも、夏の暑さは防げません。それにあたし、そもそも人魚じゃないですか。乾ききった地上でいったいなにができるというのでしょうか!? はい、差し入れてもらった氷柱を抱いて、ぐんにゃり横たわることしかできませんね。
「ぜんぜんうごかねーんだけどー」
「しょくむたいまんだよねー」
 あなたたちは遊びで来てるだけですけどー、あたしは仕事で着てるんですー。
 ああ、職員さんからハンドサインが! サービスサービスって、それだったら次回でいいじゃないですか。とは思いつつ、お金もらうわけですから逆らえません。よっこいしょ。
「れおぽんがたった!」
 はいはい、レオポンはこんな感じですよー。ライオンぽくて、柄は豹。そういえば日本だと阪神パークで生まれたことあるんですよね、レオポン。ここはひとつ、関西言葉でしゃべるべきでっしゃろか?
「かおでかーい!」
 四足動物はそういうものなのです。と、中の人であるところのあたしがあくびすれば、レオポンの大きな顔も連動してあくびします。
「くちのなかこわいー!!」
 実は歯とかレジン製なので、そこまで危険じゃないんですけど。
 さて、ひと仕事終わりましたし、氷柱を取り囲む作業に戻りましょうか――えー、ムーブムーブ、ドゥーイットって口パクで言われましても。というか、職員さんてばどうして英語なんでしょう? 狂おしいほどレペゼン・ジャパンなのに!
 うーん。動く、なにかする。お子様受けのいい、ネコ科っぽいことといえば……じゃれる?
 というわけで。あたしは岩場の真ん中に寝転んで、シッポの先についてる房を相手に戯れてみました。ほら、普段柄の悪い男子がちょっといいことすると突然人気者になったりするパターンがあるじゃないですか。恐そうな動物がちょっとかわいいことすれば、ものすごくかわいく見えるにちがいないんです。
「じぶんのしっぽつかまえよーとしてるー」
 ほら、さっそく食いついてきましたよ。我が意を得たりってやつです。
「しっぽたべるとかちょーあたまわるくね?」
 ヘイボーイ、ノーイートマイテール! って、ショックすぎて職員さんの拙いUSAスピリットが乗り移ってしまいました。当の職員さんはドンウォリィ、キープキープキープとか言ってますけど、あたしの某ゼミ(中略)くらい思春期なハートは一撃でボロボロですよ!?
「グギグギ」
 無理無理。必死で訴えておいて、あたしはそっと立ち上がりました。
 これで言い訳は充分です。さあ、精いっぱい悲しげにうなだれて、とぼとぼと氷柱のそばへ戻りましょう!

 とはいえ心の傷を頼りになにもしないを貫くわけにもいかず、あたしはときどき男子を脅したり女子にシッポを振ってみせたりしながら氷柱警備に勤しみました。
 焼いたお肉以外のごはんもいただきましたよ。今日の楽屋弁当は唐揚げ弁当でしたけど――って、またお肉じゃないですか。しかも着ぐるみ脱げないですから職員さん(おじさん)に裏であーんしてもらって。これ、けっこう精神的ダメージ大きいです。
「あーんもあれですけど、レオポンとはいえあたし、思春期の女子ですよ? 焼いたお肉と揚げたお肉しか与えないのはいかがなものかと思います!」
 こっそり抗議してみた結果、黒烏龍茶がつきました。いえ、脂対策したいわけじゃなくて、お年頃な女子的心理によるものなんですけど。


 現在のお時間、午後3時。
 事件です。
 氷柱が溶けちゃいました。
 暑さ最高潮なのに、あたしはもう剥き出しです。
 絶望の余りうろうろしてみましたけど、もちろんなにが見つかることもなくて……こうなったらバックヤードに引っ込んで隠遁生活を送るしか!
 そんなあたしの思惑を見透かしたらしく、職員さんが裏に通じる路を塞いでお掃除など始めてしまいました。しかもこっちをじーっと見てます。
 こうなったら見せますとも。あたしの最高のレオポンっぷりを!
 すごい勢いでジャンプして岩場に跳び乗って、振り向きざまに「うがおー」。そのまま柵のすぐ近くまで走っていって子どもたちをキャーキャー言わせて、でんぐり返し。
 さて、酷暑の中でこんなにがんばるとどうなるでしょうか?
 はい。あっさり体力が尽きるわけですね。
 ぜはぜはしながら職員さんのところまで戻ってタップ。もうがんばれません!
「んー、じゃあ、最後に楽なパフォーマスして終わりにしよか?」

 そして始まるレオポン餌付けショー!
 さっき焼いたお肉と唐揚げ食べた女子なんですけど!
 でもやだって言ったら運動させられそうですしね!
 思春期のプライドはズタズタですけど、焼いたお肉はおいしいので、これはこれでよしとしましょう。
 ……本当にそれでいいのかは、後でじっくり考えます。多分。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【海原・みなも(1252) / 女性 / 13歳 / 女学生】
【職員さん(NPC) / 男性 / 51歳 / 飼育員】
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年08月29日

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