▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『それでは誓いのキスを 』
紅 鬼姫ja0444)&藤村 蓮jb2813

 真っ昼間のことだった。

 藤村 蓮(jb2813)は午前の仕事を終え、コンビニで買ったお弁当を前に「いただきます」と手を合わせていた。
 久遠ヶ原学園を卒業して、就職して、ぼちぼちの生活――今日もそんな日常の中の一つ。そんな風に思っていた。その思いは、最後に取っておいたカラアゲを頬張ろうと口を開けたところで幕を下ろす。

「蓮、鬼姫と結婚式を行いますの」

 蓮の目の前に紅 鬼姫(ja0444)――撃退庁所属のエース――がいた。その登場はあまりにも想定外で、明らかに闖入者で、カラアゲを頬張ろうとしたまま蓮の動作は止った。
「はい?」
 え、突然の求婚? 嫌な予感のまま蓮はとりあえずカラアゲを頬張って、慎重にモグモグする。と、そんな連に鬼姫からとあるモノが押し付けられた。
「……なにこれ?」
「タキシードですの」
「タキ、」
「結婚式だから、当たり前ですの」
「ええ……ていうか、ウソ、今から? 俺、仕事が――」
「既に上には話を付けておきましたの」
「エエエ」
「さ、行きますの♪」
 天使のような悪魔の笑みで、鬼姫は蓮の手首をつかんだ。「いやあのちょっと」と蓮が狼狽えていると――気が付けば蓮は黒塗りの高級車の中。問答無用である。そのままあれよあれよと着替えやセットを施されて、ひと段落する間もなく、車は目的地に到着していた。
「……海だ……」
 真っ白なタキシード姿の蓮は呆然と風景を眺めていた。青い空、青い海、太陽を浴びてキラキラ輝く純白の教会。もう、いかにも……といった雰囲気である。
 そういえばいつのまにか鬼姫がいない。「紅さんはどちらに?」と近くの者に聞けば、その者はニッコリと微笑ましい表情を浮かべるのみだった。いやノロケじゃねーよ。心の中でそうつっこんでいる間にも、またもや蓮はベルトコンベアの上の冷凍マグロのように教会へと運ばれていくのだった。

 たららーん。
 たらららーん。

 ――結婚式用に使い尽くされたおなじみのBGM。曲名は知らない。
 気が付けば神父の前に立たされていた蓮は、「ガチャリ」とドアが開く音に振り返った。そこには純白のドレスを身にまとった鬼姫がいた。ああ、メイクアップやらがあったからさっきは一時的にいなくなっていたのか……と蓮は納得する。その間にも、鬼姫はしずしずとヴァージンロードを歩いていた。長いドレス、儚げなヴェールが、歩みに揺れる。なお、ヴァージンロードには鬼姫一人だけだ。彼女へ、少数の参列者が惜しげもなく拍手を送っている。
(うわー……)
 蓮は遠い目をした。というのも、その参列者達、撃退庁の撃退士……それも鬼姫の部下達じゃないか。彼らが漣を思いっきり睨んでいる。眼差しの矢じりの名は嫉妬と羨望だ。蓮はどうして彼らがそんな目をするのか分からない。彼らとは顔なじみだけど、怖くて理由を聞いたこともない。
(まあ、紅さん強くて美人だから……)
 それで贔屓にされている己が嫉妬されているんだろう、と蓮は幾度目かの結論をつける。まあ実際は贔屓なんかじゃなくて“引きずりまわされている”のが正解であるが。おかげで苦労は絶えないが、まあ、スパルタな行為に見合ってスキルアップしていることは事実である……。
 とはいえ、蓮が望んでいるのは血を血で洗うような闘争ではなく、穏やかな日々だ。武器を手にした荒事よりも、黙々と事務作業をしていたい。

「蓮、ボーッとしてちゃダメですの」

 考え事をしていたら、鬼姫がすぐ目の前にいた。そのかんばせは華やかに化粧が施され、ヴェール越しだというのに花のように目を惹いた。
「……素敵ですの、蓮」
 蓮の姿を見渡した鬼姫は、長い睫毛をはにかむように伏せさせた。「や、紅さんの方こそ……」と蓮も尻すぼみに呟く。反射的に口にしたが、いざ声にすると自分まで恥ずかしくなった。
 その間にも神父の言葉が教会内に朗々と響いていた。鬼姫と蓮は沈黙し、その言葉を聞いていた。やがて神父はこう告げる。ドラマや映画で良く聞く台詞だ。

 病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?

 はい、誓います。――と答えてもいいんだろうか? いや、ここまでやってここでNOは流石に。ていうかNOって言うと紅さんに縊り殺されかねない。色々考えた後、蓮は一先ず「はい、誓います」と答えることにした。続けて鬼姫も「はい、誓います」と神父に答えた。
「では誓いのキスを……」
 神父が穏やかに笑む。蓮は頭の中が真っ白になった。ヴェール越しに鬼姫が期待の眼差しを蓮に注いでいる。
(えええちょっと待てちょっと待てちょっと待て)
 誰か、何か、この場をどうにかできるサムシング、助けて。冷や汗を流す蓮。待ちくたびれた鬼姫の眼差しがちょーっと睨むような色になってきた。ヤバイ。ギクシャクする手で蓮は一先ず鬼姫のヴェールを持ち上げた。新婦の赤い瞳と目が合った――。

 その時である。
 ひらり、白い羽根が二人の間に舞い落ちる。

「……?」
 怪訝に思い、見上げる二人。そんな二人を祝福するかのように――大きな影が舞い降りた。
 色鮮やかなステンドグラスから這い出したかのように、透過能力を用いて現れたのは、二体の天使である。祝福のように舞い降り、全てを絶望に変える悪夢の使者。数多の翼を生やした異形はおぞましくも、色素のない体をステンドグラス越しの光に彩られて……神秘的であった。
「祝福の天使……案外醜悪ですの」
 鬼姫の目が途端に刃のようになる。一方で蓮は「ほっ、助かった」という心地すらしていた。
「皆は一般人対応と周辺警戒を。これは鬼姫と蓮で仕留めますの」
 流石の本職、鬼姫は部下に的確に指示を下す。「了解!」と答えた部下が、腰を抜かした神父を連れて教会内から離脱した。
「え、え、俺達二人でアレを?」
 蓮は目を見開く。
「相手はサーバント、二人で十二分ですの」
 言いつつ鬼姫は光纏する。鎖が巻き付いたような痣がドレスから覗く肌に浮かび、天使とは対照的に黒い羽根の影が舞い始めた。勿論、阻霊符も展開済み。そのまま鬼姫はドレスのスカートの中から白銀の銃を、ブーケの中から漆黒の銃を取り出した。
「ど……」
 どこに仕舞ってたんそれ。そんな蓮の言葉は、サーバントの羽ばたきと共に射出された刃状の羽根にかき消される。
「うわ、っと!」
 転がるように辛うじてかわす蓮。一方の鬼姫は陰影の翼を広げ、後方へと飛び下がる。
「鬼さんこちら……ですの」
 ルージュで彩られた唇を笑ませつつ。鬼姫は天使へと銃口を向けた。
「後方支援しますの。蓮は前線を頼みますの」
「ええっ――」
 戦力的には俺が下がってる方が良くない? という言葉は飲み込みつつ、蓮は双伸刀剣を構えた。トンファー型の双剣は蓮のアウルによって、その白銀の刃を大きく伸ばす。
 蓮の進むべき突撃路は、鬼姫が銃声と銃弾とを以て切り開く。正直、鬼姫の技量ならば、野良サーバント二体程度なら瞬く間に鎮圧できる。けれど敢えて直接的に天使を撃つことはなく、蓮の成長の為にも牽制や妨害に努めていた。
(押し付けられてるなぁ……)
 蓮はそのことに気付きつつも、振り下ろされる天使の巨翼を刃で受け流し、返す刃で斬りつけた。切り口からはいやに赤い血が噴き出して、血飛沫と羽根を神聖な場所に散らす。
「もう一発ッ」
 続けざまにもう一撃、天使へ的確な斬撃を。敵からの反撃は跳び下がりかわす。鬼姫が的確に狙撃支援してくれるお陰で、いずれの動作もスムーズに行えた。戦況はほぼ一方的じゃなかろうか。ふ、と蓮は間隙に呼吸を整え敵を見澄ます。その瞬間だ。メキメキと天使の口らしき部分が裂けて、響き渡ったのは絶叫。
「ッ――!」
 頭が割れるような衝撃に、蓮の脚がふらついた。意識がぐらつく――その間にもう一体が蓮に翼を叩き付けようとしていて。あ、ヤバイ。そう思った直後に、響いたのは銃声。鬼姫が放った弾丸の雨が、サーバントの半身を削り取り、完全に沈黙させた。立て続けに、鬼姫は銃床で蓮の横っ面を殴り飛ばした。
「何をぬるいことしてるんですの?」
「いたた、ごめんだよって、ありがと」
 もう少し優しくしても、と思うも、言ったら多分イジめられる。だから言わない。蓮はじんじんする頬の痛みを感じつつも気を取り直しつつ、残り一体のサーバントへと間合いを詰めて刃を一突き――ありったけのアウルを込めて押し込んで、そのまま長い刃を以て壁へと縫い付ける。翼をばたつかせるサーバントを力の限り抑え込む。
「紅さん、あとお願い!」
「お任せですの」
 既に鬼姫は狙撃姿勢だった。響いた銃声は一発、放たれたそれは精確無比に天使の頭部らしきパーツを撃ち抜いた。血に染まった羽根が、銃声の残滓が消える教会にひらりひらりと落ちていく……。
「ふひぃ、終わり終わり」
 サーバントの体から完全に力が失われたことを確認してから、刃を抜いた蓮は大きな吐息と共にその場に座り込んだ。怪我らしい怪我は、鬼姫から殴られた頬の打撲だけ。あとは無傷だ。返り血で酷いことになっているが。
「蓮……この程度の敵に返り血なんて、腕が鈍ったんじゃありませんの?」
 新婦が銃を両手に、天使の血と羽根で飾られたヴァージンロードを歩いてくる。ドレスも彼女も無傷。かんばせは信頼と期待からのからかう笑み。綺麗なんだか物騒なんだか。蓮は「いやいや、紅さんと違って近接だから返り血くらい浴びるよって」と言いかけたが、嫌味が返ってきそうなので肩を竦めるだけに留めておく。
「ていうか毎回だけど部下の人達でいいじゃん、なんで俺なん? 部下の人たちの視線怖いし」
 呼吸を整えつつ、蓮は傍らの彼女に問うた。すると淑女は、鬼のように、姫のように、微笑んで。

「――先に、誓いのキスをすべきですの」

 ウェディンググローブで飾られた白い手が、彼のネクタイを掴んで、


 そして……。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
紅 鬼姫(ja0444)/女/16歳/鬼道忍軍
藤村 蓮(jb2813)/男/17歳/鬼道忍軍
パーティノベル この商品を注文する
ガンマ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年08月30日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.