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『不良中年部は永久に不滅です』
不知火あけびjc1857)&逢見仙也jc1616)&ミハイル・エッカートjb0544)&ラファル A ユーティライネンjb4620)&不知火藤忠jc2194


 あれから四年。
 無事に大学を卒業した不知火あけび(jc1857)は、学生時代を過ごしたアパート風雲荘を去ることとなった。
 いよいよ当主として不知火の里に帰る時が来たのだ。

「部屋はこのまま借りっぱなしだけどね!」
 もともと家賃は不要な上に、持ち主である門木章治(jz0029)がそのままでいいと言ってくれたのだ。
 そのお言葉に遠慮なく甘え、あけびもその婚約者である日暮仙寿之介も、先に所帯を持った不知火藤忠(jc2194)も、それまで借りていた部屋はほぼそのままに残してあった。
 必要なものを小さな荷物にまとめるだけだから、ちょっとした旅行に出かけるような気分でさえある。
 とは言えケジメは必要――というわけで。

「送別会やるよ!」

 送られる側が企画するのもどうかと思うが、実態はただの宴会。
 改まった挨拶や湿っぽい空気にはご遠慮いただき、いつもの部活ノリで騒ぎ倒すのだ。
「みんな、今日は集まってくれてありがとう!」
 勉強よりも戦いが本業だったような時代には、毎日のように不良中年部の部室に集まっては他愛もない話で盛り上がっていたものだが、今ではあのプレハブを訪れる機会もめっきり減ってしまった。
 しかしそれは部員たちが新しい生活に馴染み、新しい居場所で充実した日々を送っているという、その証でもある。
 それはそれで喜ばしいことだとあけびは思う。
「おう、俺はどんなに忙しくても呼ばれれば来るぜ、なんたって元部長だからな!」
 ミハイル・エッカート(jb0544)が胸を張った。
「うん、知ってる! ありがとうございます、ミハイルさん!」
 あけびにとってのミハイルは、企業家としても人生においても、そして戦いの場にあっても、信頼する頼もしい先輩だ。
 彼が部長だったからこそ、部活動にここまで深く関わることが出来たと言っても過言ではない。
 もちろん、友人たちの存在が大きかったことも忘れてはならない。
「それに今日はラルが来てくれたし!」
「ま、俺はだいたい暇だからな」
 ラファル A ユーティライネン(jb4620)は、ペンギン帽子の下から悪戯っぽい緑の瞳をのぞかせた。
 ラファルは今、自分の会社を立ち上げる準備のために昼も夜もなく走り回っているはずだ。
 それでも「暇だ」と言い、こうして駆けつけてくれる、その気持ちがあけびにとっては何より嬉しい。

 そしてもうひとり、今日は予想もしていなかった意外な人物が顔を見せていた。
「仙也君! もうこっちには来ないって言ってたのに!」
 嬉しい驚きに目を丸くするあけびに、逢見仙也(jc1616)は以前と変わらぬ様子でしれっと答えた。
「まあ、そのつもりだったんですけどね。ついでがあったもので」
 お忍びで墓参りを済ませてきたらしい彼は、ひとりではなかった。
 仙也とさほど変わらない歳に見える青年と、小学生くらいの男の子と女の子を後ろに従えている。
「それで、仙也君……その子たち、もしかして」
「違いますよ」
「私まだ何も言ってないよ!?」
「あけびさんの言いそうなことくらいわかります、なんだかんだで付き合いも長いですし」
 子供たちは、なるほど確かに仙也と似たところはない。
 年恰好から言っても、冥界に戻ってから生まれた彼の息子や娘というわけではなさそうだった。
「一応、紹介しておきますか」
 いかにも「ついで」と言う感じで、仙也が傍の青年をちらりと見る。
 だが彼らの顔見せこそが今回の主たる目的だった。
「部下その1です」
 青年の名はカルデラーシュ。紹介はぞんざいだが、仙也が最も信頼を置いている部下だ。
「そして育成中の子供その1、その2ですね」
 前に押し出された男の子はウィルタ、女の子はサンカという。
「他にも大勢いますが、今回はお忍びですからね」
 彼らは部下兼後継者候補として育成中の、元は捨て子だった子供たちだ。
 今回は人間界の様子を見せるため、特に優秀な者だけを選んで連れて来たらしい。
「仙也君、孤児院の先生になったの!?」
 あけびの言葉に、仙也は表情ひとつ変えずに答える。
「孤児院と言うより、学校か養成所の寄宿舎のようなものですね」
 ただし人間界に攻め込もうとか、他の異世界にちょっかいを出そうとか、そんな物騒な話ではない。
 あくまでも冥界で自分の勢力を拡大するためだ。
「これでも、わりと真面目にやってるんですよ」
 わりと、と言うよりかなり真面目に、これまでのような半分遊びのノリも止めて、本気で取り組んでいる。
「家の復活も果たしましたし、あとはどこまで手を広げられるか、というところですね」
「仙也君も頑張ってるんだ、なんだか嬉しいな」
 あの全体的にやる気に乏しかった彼がと思うと、なにやら子供の成長に目頭を押さえる親のような心境になってくる。
 と、積もる話はひとまず置いて。

「ごめん姫叔父! 姫叔父にばっかり裏方やらせちゃって……」
「まったくだな」
 慌てて廊下に駆け込んできたあけびに、藤忠はバケツで雑巾を絞りながら答える。
「まあ、仙也とは久しぶりだからな、盛り上がるのも無理はない。おかげで心置きなく掃除に専念出来たぞ」
 本人の言う通り、リビングやキッチンなどの共有スペースはピカピカに磨き上げられている。
 そして今は――
「えっと、それは……何してるの?」
 廊下の端に裸足で立った藤忠は着物の袖をたすき掛けにし、頭には手ぬぐいで鉢巻き、手にはしっかり絞った雑巾が握られている。
 その隣には同じ格好をした仙寿之介――ただし頭の手ぬぐいは鉢巻きではなく姉さん被りにしていた。
「これか?」
 あけびの視線に気付いた仙寿之介は、至極真面目な表情で答えた。
「髪が邪魔になるからな」
「……そういうことを訊いてるんじゃなくて」
 しかも廊下の反対側には、何故か門木の姿がある。
「章治先生まで!?」
 説明を求めて、あけびの視線は三人の間を行ったり来たり、しかし説明されても咄嗟には意味がわからなかった。
「まあ見ていろ、今いい勝負なんだ」
「二勝二敗、次こそ俺が勝つ」
「あけびに良いところを見せたいんだろうが、そうはいかんぞ仙寿」
「お前こそ、嫁の前で恥をかかずに済むことを有難く思うのだな」
 そんなことを不敵に言い合いながら、藤忠と仙寿之介は揃って雑巾を廊下に置いた。
 その上に両手をついて膝を折る。
 廊下の向こうから、門木の「よーい!」という声が聞こえ、二人は同時に膝を伸ばして腰を高く上げる。
 ここに至って、あけびはようやく理解した。
 そうじゃないかな、とは薄々思っていたけれど、まさか本当にソレだったとは。
「どん!」
 その掛け声とともに、二人は弾かれたように飛び出して行く。
 互いに肩をぶつけ合い、雄叫びを上げながら、弾丸のように――

 ちょっと男子ぃー、何してるのー?
 遊んでないで真面目に掃除しなさいよー。

 あけびの頭の中で、架空の委員長のそんな台詞が聞こえた気がする。
 要するに、雑巾掛け競争をしていたのだ。良い歳をした大人が、大真面目に。
「どうだ! あけび、見ていたか!?」
 廊下の向こうから、仙寿之介の勝ち誇った声が聞こえる。
 アホなことをと半ば呆れつつも、楽しげな様子が嬉しくもあり、あけびは手を振って答えた。
「うん、見てたよ仙寿様! やったね!」
 怜悧な刃物のような天使の、ごく親しい者の前で気を許した時にしか見せない素顔。
(「長い廊下は不知火の家にもあるけど……」)
 あの廊下では、仙寿之介も藤忠もふざけて遊ぶ気にはならないだろう。
 あんな無邪気に笑う顔も、滅多に見られなくなるかもしれない。
「どうした?」
 いつの間にか傍に来ていた仙寿之介が、あけびの頭を軽く撫でる。
 不安を振り払うように首を振り、あけびは目一杯の笑顔を作ってみせた。
「ううん、なんでもない。仙寿様、それ似合ってるね!」
「そうか? 藤忠には散々笑われたのだが」
 仙寿之介は姉さん被りを外すと、その手ぬぐいで今度は髪をひとつに結わく。
 以前は常に髪結い用の飾り紐できっちりと結んでいたものだが、近頃は手近なもので間に合わせる適度なルーズさも身についてきたようだ。
 そのせいか、身に纏う空気もどことなく和らいできたように思う。
 不知火の家に入ったら、こういうところも元に戻ってしまうのだろうか。
(「……そんなことないよね」)
 そうならないように、自分が頑張ればいいのだ。
 彼がいつでも自然体でいられるように――
「あけび」
 その思いを見透かしたように、仙寿之介が言った。
「お前は笑っていればいい。お前が笑っている限り、どんな場所でも俺は俺のままでいられる」
 以前にも同じことを言われた。
 その言いつけを守っていたら、仙寿之介が帰ってきた。
 だから、今度もきっと大丈夫。
「うんっ!!」
 答えと同時に鼻の穴がぷっくりと膨らむ。
 その表情は、仙寿之介のお気に入りのひとつだ。
「あっ、ほら! 掃除が終わったら会場の準備しないと! 姫叔父も手伝って! 章治先生も暇してるならお願いします!」
 あけびは仙寿之介の腕をとると、料理やお菓子の匂いが充満するキッチンへと引っ張って行く。
 その途中で手持ち無沙汰にしていた仙也にも声をかけた。
「そうだ、せっかくだから久しぶりに仙也君の料理も食べたいな!」
「へーいへい、そう言われると思って準備してきましたよ」
 どんな料理になるかは出来てからのお楽しみ、だ。


 リビングのテーブルには、この人数で食べきれるのかと思うほどの料理が溢れかえっていた。
「私はお菓子を頑張ったよ! みんながびっくりするくらい、腕が上がったんだから!」
 あけびが作ったのは、苺がどっさり乗ったショートケーキに苺山盛りのタルト、苺のトッピングが可愛いムースや透明なゼラチンに閉じ込められた苺が涼しげなゼリーなど、苺づくしのスイーツ。
 それに南瓜のクッキーや南瓜のパウンドケーキ、南瓜のマフィンに、様々なフレーバーのプリンや甘くないお菓子も用意されていた。
「甘くないのにスイーツとはこれ如何に」
 ラファルが茶化してみるが、あけびが大切な家族や自分を含めた友人たちのために頑張ってくれたことは、ちゃんと知っている。
「これなら俺も食えそうだぜ。ありがとな、あけびちゃん」
「うん、たくさん食べてね!」
 誰でも参加できるようにと、料理も多めに用意してあった。
 料理は藤忠の「月」やミハイルの「聖母」、門木の「翼」をはじめ、風雲荘の仲間たちが腕をふるってくれたものだ。
 その一角にあるゲテモノっぽい料理は仙也シェフの作。
「向こうの食材ですから、見た目がアレなのは仕方ないですね」
 ただし味は保証する。
「自分の土地で採れたものだし、食に関しても面倒なくらい真面目にやってますし」
 酒も諸々の技術を利用して、かなり高品質なものを作っているという。
「今日は持ってきてませんが」
「問題ない、酒ならここにあるぜ!」
 ミハイルがホームバーの宝物庫、もといキャビネットを開く。
「出でよ! ペトリュス!!」
 シャトー・ペトリュス、それは世界で最も高額なワインとして知られる超高級ブランドのひとつだ。
 他にも色々、出てくるのは庶民には手が出せないどころか存在さえも知られていないような、超高級酒の数々。
「遠慮はいらん、好きなだけ飲んでくれ。ああ、章治にはこいつでカクテルを作ってやろう」
 赤ワインとジンジャー・エールを使った「キティ」はアルコール度数も低く、甘口で飲みやすい。
「ペトリュスで作る酔狂な奴は俺くらいなものだろうがな。まったく贅沢なカクテルだぜ」
 ミハイルはシュワシュワと泡の弾ける真っ赤なグラスを門木の目の前に置く。
 そうする間に他の者もそれぞれに好みのドリンクを選び、まずは乾杯の運びとなった。
「ミハイルさん、お願いします!」
 あけびに言われ、ミハイルはおもむろに立ち上がる。
 コホンとひとつ咳払いをして――
「不良中年部よ、永遠に! そしてあけび、おめでとう! 乾杯!!」

 かんぱーーーい!!!

 リビングのあちこちで、グラスの触れ合う音が響く。
「堅苦しい挨拶は抜きでいいよね!」
 けれど報告はきちんとしなければと襟を正し、あけびは仙寿之介と並び立つ。
「みんなもう知ってると思うけど、こちら……私の伴侶です」
「ひゅーひゅー!」
 途端にラファルから冷やかしの声が飛んだ。
「あっ、まだ結婚はしてないけどね!」
 とは言え、それはさほど遠い先のことでもない。
「仕事が落ち着いた頃……桜の季節がいいなって思ってるんだ」
「以前の花見で花嫁舟の話を聞いたらしくてな」
 皆にお酌をして回りながら藤忠が言う。
「結婚式は絶対にそれでやるそうだ」
「もう予約もしてあるしね!」
 実家に戻ったらすぐ当主に就任して、仕事が落ち着いたら結婚式。
 その計画は今のところ大きな破綻もなく、順調に着実に、目標へと向かっていた。
「その、仕事ってのは何だ?」
 ミハイルが問う。
「私は当主としての色々。それと姫叔父が警備会社、ラルが医療関係の会社の社長をやってくれるんだ!」
「任されちまったんだよなあ、これが」
 ラファルがどこか遠い目をして、苦笑まじりに呟く。
「で、もしかして俺や叔父姫の会社がコケたりしたら、結婚も延期になるってことか?」
「そうだね。でも大丈夫、私は心配してないよ!」
 二人はもちろん、自分だってそのために勉強し、準備を進めてきたのだから。
「仙寿、お前も半年後には名実ともに不知火の一族だな。もう婿殿と呼んだ方が良いか? 不知火代表として」
「お前が俺をそう呼ぶなら、俺はお前を傍系の主と呼ぶが?」
「それは遠慮しておこう」
 仙寿之介の答えに、藤忠は小さく肩を竦めた。
 つまりは今まで通り、親友として変わらずにいろということか……寂しがり屋さんめ。

「ほんとだ、これ美味しいよ仙也君!」
 必要な報告も終わり、あとは気楽な宴会モード。
 あけびは見た目がアレな仙也の料理に恐る恐る手を出して、その美味さに目を丸くする。
「レシピ教え……あ、でも材料がないんだよね。じゃあ普通の料理でいいから!」
「へーいへい」
 気のなさそうな返事をする仙也の傍らでは、ラファルが藤忠に絡んでいた。
「ところでさー叔父姫、自分の時はどうだったんだよ?」
「どう、とは?」
「とぼけるなよー」
 ラファルは藤忠の脇腹を肘でぐりぐり。つまりはどうやってプロポーズしたのか、それを白状しろということだ。
「……例の騒動の後に、藤色の石をあしらった指輪を贈ってだな……いや、俺のことはいいだろう!」
 照れ隠しなのか、藤忠はラファルのグラスにドボドボと酒を注ぐ。
 他にも酌をして回ったり、箸の進み具合を気遣ったりと、今日の彼はいつになくマメに気を働かせていた。
「こうして集まる事は中々出来なくなるからな。今の内に世話を焼いておこうと……」
「何を言ってる。お前もあけびも、また遊びに来るんだろう?」
 寂しいことを言うなとミハイルが藤忠を小突き、ついでに門木も巻き込んでいく。
「来ないと章治が泣くぞ? なあ章治?」
 こくりと頷いた門木が、ミハイルに何ごとかを囁き――藤忠に向けて悪戯っぽく微笑んだ。
「おう、そうだ。今日は部室から良いものを持ってきてるんだぜ」
 部室と聞いて、藤忠の眉がピクリと跳ね上がる。
「それは、まさか……」
「これだ!」
 アルバムどーーーん!
「やっぱりか!」
「そう、藤忠と言えば女装の歴史だった」
 ナレーション風の台詞と共に、次々と現れる藤忠の勇姿、もとい艶姿。
「待てミハイル、章治! 女装を自らしたのはやむを得ない事情の時だけで、あとは仲間の陰謀だ!」
「でもいつもノリノリだったよね、姫叔父! ほら見て仙寿様、美人でしょ!」
「ほう、これが……」
 あけびの言葉に仙寿之介までもが興味津々の様子で身を乗り出してくる。
「やっぱりこのお姫様抱っこが最高だよな!」
 ケラケラ笑うラファルに、しみじみと頷く仙也。
「今でも結構いけるんじゃないですか?」
「だよなー。宴会に余興は付きものっつーことで、行け叔父姫!」
「誰がやるか!」
 あれは若気の至りだ、若さゆえの過ちだ。
 ちょっとだけ、楽しかったなーと思わないでもないけれど。
「ちぇー、ノリが悪りぃなー」
 不満げに帽子のつばを下げたラファルは、あけびの袖を引いた。
「せっかくの宴会に余興もナシじゃ寂しいからな。あけびちゃん、イイねダンス踊ろうぜー」
「えっ、何それ私知らない……!」
 イイねダンスとは、少し前に流行したダサかっこいいダンスのことだ。
「いいから、俺の真似してやってみ?」
 ラファルはどこからともなく流れてきた音楽に乗って、ぴょんぴょん跳ねたりバタバタしてみたり――

 突然始まったダンスのレクチャーをBGMに、皆の藤忠イジリは続く。
 しかし、いつまでもイジられるのはかなわないと、藤忠は強引に話題を変えた。
「章治もそろそろ卒業じゃないのか?」
「いや、俺はまだ……医学部は6年あるからな」
 そこから更にインターンだ何だと、医師への道は長く険しい。
「長いな……いや、学ぶことの多さや責任を考えれば妥当なのか」
「付け焼き刃で患者の命を預かるわけにはいかないからな」
 ミハイルが小さく笑う。
「ちなみに章治の患者第一号は俺だからな。健康管理はしっかり頼むぜ、先生」
「任せろ、限界まで長生きさせる」
「章治ならその頃には不老不死の薬でも作り出してるんじゃないか? なあ、ミハイル」
「謎の突然変異でか、有り得るな」
 冗談とも本気ともつかない会話に笑いが起こる。
「俺は仙寿やラファル、俺の妻と一緒にあけびを支える。より良い世の中というものを目指すさ」
「ミハイルさんの会社とも連携出来たら良いな」
 ダンスの特訓を続けながら、あけびが話に加わった。
「ああ、もちろん構わん」
「すぐ大企業に成長しますから待ってて下さいね!」
「いや、規模は問わないぞ。現に学園卒業生と個人契約だってしてるんだ。重要なのは仕事の中身だな」
 有用かつ信頼に値すると判断すれば仕事を回す、それだけの話だ。
「仙也とも何か取引が出来れば面白そうだな」
「何かあれば、こいつらを寄越しますよ」
 仙也は部下と子供達を顎で示す。
 それは将来的な可能性を考えた返事と受け取って良いのだろう。
 頷いて、ミハイルはあけびに視線を戻す。
「そっちは実家の近くにヘリポート用意してくれれば、何かあったら飛んで行くぜ」

 暫しの後。
 いつの間にか会場から消えたラファルは、ひとり庭の片隅に佇んでいた。
(「戦争は終わった。曲がりなりにも仇も討った。あけびちゃん達のところで義体の専門会社も興すことになっちまった」)
 医者には余命わずかと言われていたし、諦めてもいたけれど。
(「生きたいと思っちまった。ここまで進んだら、やっぱ生きたいって思っちまうよな」)
 ラファルは漏れ聞こえる賑やかな声に耳を澄ます。
(「うん。だから……」)
 胸の内で何かの決意を固めた、その時。
「あーっ! もう、ラルってばこんなとこにいたー!」
 振り返ったラファルの目が、走り寄るあけびの姿を捉えた。
 もうかなり雰囲気に酔っているらしいあけびは、親友の腕をぐいぐいと引っ張る。
「ラルも飲んで! 飲んで食べて、みんなで幸せになろうよ!」

 戻って来た会場では、男たちの惚気話に花が咲いていた。
「俺の妻はいつだって癒しだ、陽光だ、柔らかな風で、心安らぐ香り、俺の支え……ああ、妻がいない人生なんて考えられない」
「俺の月は意地っ張りだが本当は寂しがり屋でとても可愛らしい。頭を撫でた時に幸せそうな表情してくれるのが嬉しい」
「子供の写真も見るか? 長女に長男だ、美男美女だろう」
「俺の翼は――」
 皆それぞれに幸せそうで何より。

 今も幸せだけど、もっともっと幸せになれる。
 ずっと大切な仲間達に向けて、あけびはグラスを高く掲げた。

「ここが我らのエリュシオン!」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jc1857/不知火あけび/女性/外見年齢22歳/当主】
【jc2194/不知火藤忠/男性/外見年齢27歳/社長】
【jb0544/ミハイル・エッカート/男性/外見年齢37歳/重役】
【jb4620/ラファル A ユーティライネン/女性/外見年齢16歳/社長】
【jc1616/逢見仙也/男性/外見年齢16歳/首長】
【jz0029/門木章治/男性/外見年齢36歳/医学生】

【NPC/日暮 仙寿之介/男性/外見年齢?歳/補佐役】

【NPC/カルデラーシュ/男性/外見年齢?歳/部下】
【NPC/ウィルタ/男性/外見年齢?歳/養い子その1】
【NPC/サンカ/女性/外見年齢?歳/養い子その2】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました。

NPCの月さんは、字数の関係と部活での集まりということで、今回は気配のみの登場とさせていただきました。結婚式にはちゃんとご登場いただきますので、ご了承ください。
また、仙也さんのお連れ様には勝手に名前を付けさせていただきました。お気に召さなければ、なかったことにしていただいて構いませんので……!

なお久遠ヶ原学園の年度区切りは8月末ですので、卒業後すぐということは9月初めの出来事ということになります(他ノベルでは春になっていたようですが……)

誤字脱字、口調や設定等に齟齬がありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。



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エリュシオン
2018年08月31日

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