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『『過去への誘い 前編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 特殊警備を請け負う会社から、アレスディア・ヴォルフリートに依頼が舞い込んできた。
 都心から車で1時間ほどの山の中に、東京と異界を繋ぐゲートがある。
 そのゲートから出現した獣を捕らえて、元の世界に追い返すという仕事だった。
 ゲートの周りには結界が張られており、獣が通過して町へ下りてくることは出来ないはずだった。
「放置しておいてはなんらかの被害が発生する可能性もある、とのことだ」
 同行を申し出たディラ・ビラジスに説明をしながら、アレスディアは山の中の封鎖された鎖の奥――結界の中へと入っていく。
 結界の先は、一般人には岩壁にしか見えない。
 アレスディアは右手に、紋章の描かれた手袋をしていた。この手袋で触れることで、結界の中へと入ることができる。
 同じ効果のある左手の手袋は、ディラの手に嵌められており、ディラもアレスディアの後から、結界の中へと入った。

 結界の中は、整備されていない山道だった。
 管理者である術者が定期的に行き来しているため、人が歩くことが出来る程度の道はある。
「どうかしたか?」
 普段よりも無口なディラが気にかかり、アレスディアは彼に尋ねた。
「……なんか、嫌な空気だ」
「そうか? 私は何も感じぬが」
 辺りは普通の山の中と変わらず、空気も都心より美味しく感じた。
 ゲートの先は禍々しい空間があるというわけでもなく、アレスディアには特に何も感じなかった。
「む……」
 結界から、入口まではさほど遠くは無く。
 その獣の気配も、ほどなくして感じ取れた。
 獣も2人の気配を感じ取ったのか、唸り声が響く。
「来る。私が押さえる」
 アレスディアがディラの前に出る。
 狼のような姿の獣が、木々の間より現れ飛び掛かってきた。
 アレスディアは二枚の大盾で獣の一撃を受け、押さえつけようとするが、獣は盾を蹴り空へと飛び、体を回転させるとディラの方へと飛び下りる。
「ちと痛めつけるぞ」
「あまり手荒なことはするな」
 木刀を構えるディラにそう言い、アレスディアは確保のための縄を手にする。
 獣の爪を、ディラは木刀で受けた。……彼の顔に僅かな傷がついた。
 剣を振り上げて、着地した獣の肩に強く叩きつける。
「キャンキャン」
 獣が声をあげて、地に伏せながらディラを見上げた。
「よし、確保……!?」
 しかし、アレスディアが獣に縄をかけようとした瞬間。獣は強い光に包まれ、2人の前から姿を消した。
「帰った……のか?」
「多分な。で、悪いが」
 ディラは顔の傷を右手の甲で拭った。
「気分が悪い。先に帰らせてもらう」
「ああ、体調でも崩したか?」
 アレスディアの言葉に、ディラは目を伏せ首を左右に振り「大丈夫だ」と小さな言葉を残した後、1人で先に帰っていった。
 これまで、このようなことはなかった。
 送っていった方が良いだろうか。と思いもしたが、獣の帰還の確認が済んでいない状態で、この場を離れるわけにもいかず。
「もしや熱中症だろうか。病院に連れて行く必要があるかもしれぬ」
 早く仕事を終わらせて、ディラを追おうと思いながら、アレスディアは山道を急いだ。

 ゲートの側に、獣の姿はなかった。
 周囲を見て回っても、気配を感じない。
 やはり元の世界に戻ったのだろうか。
 そう思い、アレスディアが戻ろうとしたその時。
 強い風が吹いた。舞い飛んだ葉がアレスディアの身体に当たった……だけだと思ったが、何故か首筋が熱い。
 触れてみると、僅かな傷ができていた。
『ぐるるるるる……』
 獣のうなり声が響いた。だが、実体はどこにもない。
『ディラ・ビラジスの肉体は、我々のもの』
 傷口から入り込むように、アレスディアの脳裏に機械的な声が響いてきた。
「誰だ? 何故ディラ殿を知っている」
『奴は我々と契約せし者。自らの意思でゲートを潜り、我等のもとに戻るだろう』
「あの……騎士団か」
 かつて、ディラが所属していた非道な騎士団が思い浮かぶ。
『奴の身体にウイルスを流し込んだ。不要な感情を消し去るウイルス。数時間以内に奴は我々の戦いの道具に戻るだろう』
「不要な感情とは……させぬ!」
 アレスディアの脳裏に、昔のディラの眼と、今のディラの自分に向ける眼が、思い浮かんでいく。
 首筋が熱い。小さな傷口から強い熱を感じる。
『貴様にも流し込んだ。しかし、貴様は抗体を持っているようだな。ならば試してみるか? 奴の身体に貴様の抗体を流し込み、止められるか』

 戦え。
 血を流せ。
 この世界に、貴様らの居場所などない。
 戦いの場で、生き、死ぬことが貴様らの幸せだ。

「違……」
 アレスディアの声が止まった。
 違うのか?
 戦いに、護るために身を投じつづける自分。
 戦いの場で、誰かを護り命を、使い果たそうとしてきたのではないか。
「出ていけ!」
 強い思念をぶつけて、入り込んだモノを外へと追い出す。
 アレスディアの首筋から飛び出た小さな光は「待っている」と言葉を残し、ゲートの中へと消えていった。

「止めねば……」
 アレスディアは、ゲートを背に立ち上がる。
 ディラを行かせてはならない。

 彼を止めたいと思うのは何故だ。
 人の痛みを知らず、下される命のまま他者を虐げる彼が腹立たしいからか。
 自分についてきてくれる彼への情か。
 彼の心を守りたいと思うのは何故だ。
 彼に幸せになってほしいからか。
 護るために生きる自分の側にいるより、素の自分に騎士団に戻ることが……彼の幸せならば?


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご参加ありがとうございます。ライターの川岸満里亜です。
次回ですが、時間が経てば経つほどに、ディラはアレスディアさんへの想いを失っていきます。
落ち着いて話し合う時間はないものとお考えください。
それでは引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年08月31日

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