▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『木の気 』
ファルス・ティレイラ3733

 今日はお休み!
 って、私――ファルス・ティレイラは働いてるんだけどね。
 もうちょっと説明すると、今日は“お姉様”のお店がお休みなの。だったら私も休んじゃおっかなって思ったんだけど、こんな日に限って本業(?)の配達依頼いただいたりしてありがとうございますー!
 お届け先は街中だったんだけど、竜力全開で飛んでって超高速で無事終了。深呼吸してー気持ちあらためて。
 よし、今からお休むっ!
 さて。決めたはいいんだけど、なにしよっか? プチ旅行はさすがに準備してないからダメだし、ひとりでカフェって気分じゃないし、スポーツとかも、やっぱりひとりじゃなぁ。
 なんて悩んでるとどんどん時間経っちゃうから、とりあえず羽とか角とかしまって下の町に降りよっか。行きの途中でちょっと気になるお店見つけたはずなんだけど、どこだっけ――


 思い出すより先に見つかりましたよ気になるお店。
 だってすっごく怪しいんだもん。見た目がってことじゃなくて、漏れ出してる気配? お姉様がよくながめてる魔法具からもよく出てるんだけど、古くて重たくてでろでろしたにおい。
 そういうのがわかっちゃうくらい、私も関わっちゃってるんだよね……それだけならいいんだけど、その度に酷い目に合ってる気がするよ……気がするんじゃなくて、ほんとに合ってるんだけど。
 でも。お姉様のお土産になるよう掘り出し物、あるかもだし。一応、ね。

 あちこちニスが剥げてる木の扉を引き開けて、私は中に入ってみた。
 陳列棚に収まりきれなくて、通路へ半分くらいはみ出しちゃってる物、物、物。値札ついてるから商品なんだなってわかるけど、アンティークってより古物? 手入れされてないーってことじゃなくて、ここに来るまでさんざん使い込まれてきましたーって感じ。なんていうか、人の手のにおいが染みついてるの。美術品とはまたちがう味があるよね。
 あ、店主さん発見。おもしろそうなものがあるか聞いてみよ。
「こんにちはー」
「……」
「あのー! ちょっとお伺いしたいんですけどーっ!!」
「……」
 大きな声出しても聞こえないみたい。そんなにおじいちゃんでもないんだけど……なにか作業してるみたいだし、集中しすぎ?
 しょうがないから、気づいてもらえるまでいろいろ見て回ることに――はい、さっそくなんだけど、アンティークあるある言うね。
 使い道がぜんぜんわかんない!!
 置物は置物だよね。壺も壺だよ。でも、妙に機械っぽい小箱とか、錆びてる歯車いっこだけとか、何用なのか謎。売り物なんだから使い道あるはずなのにー。
 こうなったら私も意地! せめてこの小箱の正体くらいは自分で解き明かす! だって私、アンティークにもくわしい(すっごく不本意なんですけど……)魔法使いなんだから!
 かちゃかちゃ、きゅきゅきゅ、かちん。あ、なにか外れる音。
 がぎょん! フタがいきなり開いて、中からちっちゃい般若さんが! え? なんで般若さん!? まさかこれって、ただのびっくり箱だったり――
 まんまとびっくりさせられちゃった私は思わず「ふぇっ!?」、自分で言うとウソっぽいけどかわいらしい声あげて、ふらっとよろけて尻餅を……バランス取ろうとしてシッポ伸ばしたけど間に合わなくて、羽も拡げてみたけどやっぱり踏みとどまれなくて。
「っ?」
 床が、思ってたよりぜんぜん近いんですけど。
 そろっと振り返ってみたら私、椅子に座ってました。
「あ、ありがと」
 思わずお礼言ったけど、椅子は無言。あたりまえだよね。椅子だもん。
 せっかく座ったんだしってことで、そのまま私を助けてくれた椅子のこと見てみる。
 まわりの物といっしょですごく古いです、以上。
 ……これは私に見る目がないからじゃないよ? それしかコメントできないの。だって、適当に木の板組み合わせただけの、背もたれもない、踏み台みたいな椅子なんだから。初めてのDIYだってもうちょっとデザインぽくしようってなるはずなのに、そういう飾り気とか意欲みたいなのはぜんぜんなくて。作った人がメッセージ込めたとしたら「なんでもいいから座れば?」って感じ。
 まあ、そういうシンプルイズベストさが私のお尻守ってくれたわけで、ほんとにありがとうございましたー。
 ん?
 その、ありがとうございました。
 んんー?
 立ち上がれません。
 ヤスリかけてなくてざらざらしてる座面だから、トゲが引っかかっちゃったのかな? のぞきこんでみたら、お尻に食い込んでる。トゲとかケバじゃなくて、根が。
 まさかこの椅子、ちょっと前に私のこと捕まえたりした、御神木さんのお友だちだったり?
 なんて小首傾げてる場合じゃないー! 痛いとかないけど、やばいやばいやばい! 店主さんに助けてって言わなくちゃ!
「店主さんー!! お店の椅子が私のこと捕まえてるんですけどぉ!!」
 あああああ、ぜんっぜん聞いてないーっ!!
 さっきから火魔法使おうとしてるのに、火が点かない! それだけじゃなくて、放出した魔力は根に吸われてて、元気になった根が次々新しい根で私のこと捕まえて。
 あーもー私っ! どうしていつもいつもいつもいつも! あっさり捕まっちゃうのー!


 結局、椅子に同化させられた私。
 一応説明しとくと、竜の羽拡げたまま座ってる私の木像が、背もたれになった感じ。座り心地あんまりよくなさそうだけど、羽の先にコートなんかかけられそうだし、角の先にも帽子かけられそう。多分便利!
 そんなこと考えてると、常連さんぽいおじいさんがお店に入ってきて、店主さんの耳からすぽんって。耳栓? ちがう。あれ、カナル型のイヤホンだ。多分ノイズキャンセリングついてるの。ええー、私の声ってキャンセルされちゃうノイズだった!?
 ふたりでなにか話し込んで、おじいさんが私に座って……羽の先にハンチング引っかけた。やっぱり便利ですよねー、でっぱり具合とか。
 座面が狭いのかな? おじいさんのお尻がもぞもぞしてたら、椅子のほうが根を私の腿の高さに合わせて座面平らにして。木だけに気が利くのねって、だったら私のこと開放してよー!
 でも。こうしてると椅子の気持ちがちょっとわかる。座ってもらってこそ椅子なんだーって。
 うん、この椅子、ずっと気にしてたんだよね。座り心地悪そうだから座ってもらえないんじゃないかって。だから私のこと取り込んで、見栄えと機能性高めようって。付き合わされる私の気持ちはあれだけど、椅子の満足が私に染みこんできて。なんだか落ち着いちゃうなぁ。
 あ、座面も背もたれもちゃんとつるつるにならないと座ってもらえないんだからね……よし。

 その後も何人かお客さんが来て、なんだか私に座ってくれて。あ、両腕が肘掛けになったから、最初よりもっと座りやすくなりましたよー。
 この椅子のこと魔法具って言っていいのかわかんないけど、魔法具も物だし、物は使われてこそ幸せなんだなってわかったんだ。これからは私も、お姉様のだからってだけじゃなくて、もっと魔法具のこと大事にしてあげたいなって思うの。


 夕方になるころ、私は椅子じゃなくてファルス・ティレイラに戻ってた。いきなりお店の中に私がいて、店主さんびっくりさせちゃったけどね。
 さて、お家に帰らなくちゃ。左手にお姉様用のあのびっくり箱、右手に私用のあの椅子を持って、飛ぶ。出逢いは大切にしなくちゃだもんね。
 そういえば……お姉様が座ったらどうなるんだろ?
 これはつまり純粋な知的好奇心で悪戯なんかじゃなくて。だからぜひ試してみなくちゃ!


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ファルス・ティレイラ(3733) / 女性 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年09月03日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.