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『魅惑のラミア様 』
松本・太一8504

●問題作
 松本・太一はうだるような暑さのなか帰宅し、エアコンると「い、生き返った」と声が出る。
 会社の往復が一番地獄だ。特に帰りは金曜日だと動きが異なり妙に電車が混む。
 一息付き、パソコンを開いてネットをつなぐ。気になっている資料を探しておきたい気持ちがあるが、のんびりしたい意識もはたらく。
 まずは一週間の各種ニュースを眺め、新作ゲームの話題を見る。
「なんだこれ。現代が舞台で魔と戦うのか。へええ」
 太一はストーリー、世界設定など順繰りに見ていく。
「陣営は二つで人間と魔を選べるのか。人間は個人でできることが幅広いけれど……魔は……つまり、プレイヤー同士で戦うのか。基本は無料、アイテム課金があり、か」
 太一は閉じようとしたが、最後の一文で「げっ」とうめいた。

 ――登録完了しました!
 ――キャラクターは自動生成で、一アカウントにつき一キャラクターです。

 画面にはシステムメッセージが流れていた。このゲームの案内人なのか、人間の姿をしたブレザーの制服を着た少女のイラストが出てくる。
『あなたはどちらの陣営の、どのような種族やクラスがいいのかな? 結果は二秒後だよ!』
 可愛らしい声も入っている。
「こういう案内役なら、どこかに解説があってもおかしくないよな」
 太一が見なかったなと考えている間にキャラクターができた。
『あなたのキャラクターは魔の陣営のラミア。名前を入力してね……あ、あなたは敵なのねっ! 今度会ったら、倒してあげるんだから!』
「案内役……」
 太一が溜息をついた。
 こうなると気になるので見てみることにする。名前は女性キャラであるため「やよい」と入力すると画面が切り替わる。
「動きとか質感は、まるで、本物みたいだ」
『本物だよ』
「……え?」
 少女の声はしたが、テキストは表示されなかったため聞き間違いだと思いたかった。
「少し寝よう」
 パソコンを休眠させ、太一は横になった。

●ゲーム
 太一は近所に買い物に向かう。
 昨晩あのまま寝てしまったため、朝が早かった。暑さを考えそのまま買い物に出たが、それでもゆでられているようでげんなりする。
「暑い……言ったら余計に暑い……しかし、暑い。……あ、貧血?」
 目の前が赤くなった。スーと景色から色が消えていく。
「あ、違う意味でまずい」
 熱中症ではないと判断したが、脳内では警鐘が激しくなる。
 心地良い空気が周囲を満たす。
 太一の視界が晴れた。
 景色は変わっていないが、現実味がない雰囲気になっていた。五感のうち嗅覚が何も伝えてこないのだ。写真と間違うような緻密なイラストの世界の中に入り込んだようだ。
 不意に銃声が響いた。
 太一は反射的にそちらを見る。
「魔の執事を逃がすなっ!」
 声もする。戦いの音は銃だけでなく、魔法や剣などもありそうだ。ゲームやアニメの効果音で馴染みの音だ。
 風が起こり、太一の前に一人の青年が立っていた。
 黒い服を着た【執事】だと太一は理解した。整った顔立ち、全体もほっそりとしてしなやかな動きの青年だ。
「これは、魔女殿ではないですか? このようなところでぼーとしていますと、彼らを付け上がらせてしまうだけですよ?」
 嫌味な口調であるが、言っても許されるような顔と笑みだ。
(絶対、女性ファンは多い!)
 太一は冷静に分析するが、現実逃避に近かった。なんとなく昨晩のゲームだと理解していた。
「随分な姿ですねぇ? 追ってくる輩を……寝ぼけているあなたでは無理そうですね」
 太一の姿を見て執事は溜息をつく。
「一旦退きましょう」
 太一は質問をしたかったが、顔の横を銃弾が駆け抜けた為、執事の手を取った。
 目の前には大きな木の門が現れた。門に執事が触れると、きしむ音をたてながら開いた。
「待てえ」
「逃げる気か!」
「卑怯者」
 声が迫る。
「おやおや? 多勢に無勢のあなた方は卑怯ではないのですか?」
 執事はの言葉に彼らがどういう反応をしたのか、太一は見る事は出来なかった。門が閉まったからだ。
 太一は魔の領域に移動したと理解した。
「えっと、執事さん?」
「陛下の右腕である【執事】のノワールでございます、寝ぼけた魔女殿」
(セバスチャンじゃないんだ!)
「ありきたりですね」
 太一が驚くのを見て、ノワールが笑う。
「セバスチャンじゃないかと思ったのですね」
 太一はノワールが心ではなく、発想を読んでいたと気づいた。
「あー。助けてくれたのは、ありがとうございます」
「なかなか新鮮な反応ですねぇ」
 ノワールは口元に指を当て思案のポーズになる。
「みすぼらしい殿方の姿ではこの世界にはふさわしくはないですよ?」
「ぐっ」
 図星なため太一は言葉は出なかった。
「そろそろ、お目覚め頂ければ幸いです」
 ノワールはお辞儀をする。
「いや、帰りたいんですが!」
「戦いを放棄するのですか? 魔の淑女たる【魔女】のやよい殿が? それはひどいですねぇ」
 ノワールが冷たい目で微笑む。
「ならば、わたくしがあなたを食らってもよいということですねぇ」
「え?」
 ノワールが薄い唇を舌で舐めた。手にはナイフを持ち太一に襲い掛かる。とっさに避けるが、Tシャツの肩が切られた。
「おや? では、こちらでどうでしょうか」
 ノワールが小さく何かつぶやいた。それが力を解放する呪文だと太一は直感する。対処する間なく、暗い闇に飲まれはじかれる。
「ぐっ」
 太一は地面に手を付いた。
「意外と頑丈ですねぇ」
 太一はどうにかしないといけないと必死に考える。
 ――あたしにまかせてよ?
 脳内で声が響く。あの悪魔かと思ったが、違うと感じた。
「それは困るっ!」
 太一はどこに向かって言えばいいかわからないため、周囲に聞かせるような行動になる。
「ようやくお目覚めですか?」
 ノワールが嬉しそうな声だ。
「困る!」
「困りませんよ?」
 太一はどのような影響が及ぶのか想像の範疇を出ず、抗うことを願った。
 足が熱い。
 顔がきしむ。
 体が重い。
 全身が熱を持つ。
「う、うわああ」
「変身など日常茶飯事。痛みも何もないのですよ?」
 ノワールは肩をすくめる。
「頭の中が……ごちゃごちゃしてきた」
「本来、魔女殿ですからねぇ。あなたは」
「うっ」
 世界がどこかで入れ替わったのか、それとも夢を見ているのかわからないが、この世界の住民は太一であってもラミアのやよいなのだ。
 理の一端が見えたと思った瞬間、【魔女】の思考にからめとられた。
「うわあああ」
「やよい殿もあなたなのですけれどね?」
 ノワールは抵抗するのが意外という顔をしていた。
 ふと太一はノワールとの身長差が消えているどころか逆転しているのに気づく。体を見ると上半身は婀娜ぽい女性、下半身は巨大な蛇という形状の魔、ラミアだった。
「あらぁ、ノワール、おはよう」
 太一はやよいとなり、告げる。蛇の部分を地面につけ、身長を下げ、ノワールの首に両腕を絡めるように下から回し、豊かな胸を押し付け見上げる。
「さっき、あたしを食べるとかひどいことを言ったわよねぇ?」
「ええ、面白みがなかったので」
「まあ、そうよねぇ? ふふっ。ああ、そうね、さっきあなたを追いかけていた坊やたちと遊んでくるわねぇ」
「あれはあなた向きの敵ですから、存分、遊んでいらしてくださいませ」
 ノワールは一礼して立ち去る。
 やよいは蛇の部分を脚に変化させ、街に出かけた。敵を篭絡し、生気を奪うため。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
8504/松本・太一/男/48/会社員・魔女
???/ノワール/男/25/執事?

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 イケメン執事は毒を吐き、美少女な案内人も癖がありそうなキャラになりました。
 ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年09月03日

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