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『まだまだ懲りずに、もう一回。 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

 ちょっとした魔法道具で悪戯を仕掛けたら。
 予想通りに、素敵な「仕返し」が待っていた。

 …別世界よりこの世界に訪れた紫の翼を持つ竜族、シリューナ・リュクテイアとファルス・ティレイラの師弟…と言うか姉妹に仕掛けたその悪戯。まず、面白い魔法道具を仕入れたから、とそれを使ってティレイラを封印、オブジェ化させて遊ぼうとシリューナにこっそり持ち掛けた。が、その実シリューナごとその魔法道具の効果に巻き込む事も目的の要であって、結果、その悪戯を仕掛けた「彼女」――ティレイラと良く似た容姿を持つ自称「異世界の魔族」にしてシリューナの同好の士である――が一人勝ち。

 当の魔法道具を使った上々の結果として、シリューナとティレイラを素材に作り上げた、銀のオブジェが「彼女」の目の前に完成していた。
 勿論その時点で「彼女」も心行くまでそのオブジェを堪能したが、そこまでの顛末については「彼女」にとっては実のところまだ前置き程度のものであって。

 そう、「彼女」の本当の目的としてはむしろその先、だったかもしれない。即ち、そこから引き続くだろう後の状況そのもの――即ち、シリューナならただ「されっぱなし」でいる訳も無く、後に必ず仕掛けてくるだろう「仕返し」、「意趣返し」の方が倒錯的かつ被虐的ながらも「彼女」にとってはより興味深い状況でもあったりする訳で…。
 心密かに「期待」していたその通り、結果としてそちらの目的も、確りじっくり果たされてしまった…のだと思う。

 …そして、それから。
 やっと「彼女」当人の意識が、オブジェ化封印の淵から戻って来る事になる。



 …身体が動かないのは、自分がオブジェ化しているからだろうと「彼女」は漠然と思う。何でそうなっていたんだっけと改めて思考を巡らせ、こうなる直前の状況に思い至るのと――オブジェ化の封印が完全に解け身体がまともに動かせるまで戻るのが、殆ど同時だった。

 最後の一欠片、見覚えのあり過ぎる魔法道具の銀滴が自身の手の甲からすぅと消えるのを視界の隅で見、そして同時に目の前でシリューナとティレイラが(殆ど「彼女」に見せる為のポーズとして)怒って見せている姿を認め――これは事前に想像し期待していた通りの状況があったのだろうと「彼女」は確信した。

 それだけで、一気に昂揚する。

 …自分を素材としたオブジェは、シリューナからどんな風に愛でられてしまったのだろうか。彼女の事、きっとその審美眼を以って最高の作品にしてくれただろうから、陶然としていたに違いない。…わたしならきっとこうする、と思う鑑賞の仕方を、シリューナがした事として妄想する。最高の作品を前にして、どんな風に触れたか、撫でたか、見つめたか。思わず吐くだろう感嘆の吐息はどんな風だろう。愛でている最中はどんな貌をしていただろう。ううん、この様子だと鑑賞したのはシリューナだけじゃなくティレイラの方も一緒だったんだろうなと思う。となれば二人掛かりで…? それだけで「彼女」は身悶えするような思いがする。
 と言うか実際、身悶えてしまっていた。やだあ、と身体をくねらせつつ、実際に発した言葉とは裏腹に――嬉しそうに自分自身を抱き締めている自分が居る。
 と、呆れたような溜息がシリューナから発された。

「全く。怒る気も失せるわ。懲りないわね貴方も」
「んふふ。…だって想像するだけでとっても素敵なんだもの。ねぇそうは思わない?」

 ティレイラちゃん、と「彼女」はごくごく自然にティレイラに振る。
 と、ティレイラは俄かに慌てた――ついでに、顔が赤い。

「! …ってっ…そ、そんな事…は…」
「あらあら、かーわいい。ティレイラちゃんはわかってくれるのねー?」
「ちょっと。私の可愛いティレを貴方の世界に巻き込まないでくれる?」
「むー、シリューナのガードはホントに堅いわね。どうしたら崩せるのかしら?」
「…どの口がそんな言い方をするのかしらね」

 呆れたような溜息に苦笑が混じる。…どうしたら崩せるか――先程の「仕返し」前、騙されてオブジェ化する過程で――シリューナは既に一度崩れているとも言える訳で。
 まぁそれでも確かにシリューナの場合、ここまで露骨に人前で欲望を披露はしない気がするが。幾ら同好の士、の前でとは言え、まずは少々はしたないと思う気持ちがどうしても先に来る。…余程理性を蕩かす状況にあればまた別の話だが。…例えばティレイラが想像を超えた余程の作品になった場合とか。

「本当にもう。「仕返し」しても「仕返し」になった気がしないわ」
 どうしたら貴方をやり込められるんだか。
「ま、たまにはいいじゃないの。…ってあ、そうだ。これお詫びにお裾分け」
「?」
「何ですか?」

 はい、と「彼女」が何処からともなく取り出したのは、可愛らしい小さな袋。中身は――クッキーやらチョコレートにキャンディ、プチケーキ――と言った類の、口寂しくなった時に手軽につまめるような色とりどりの菓子だった。

「! わー…美味しそう!」
「今袋開けたんじゃなくて、食べかけだけど。でもその方が安心出来るでしょ?」
「どうかしら。そう見せているだけかも」
「んー、じゃあこれで信じて貰えるかな」

 と、自称魔族の「彼女」は袋から菓子を一つ取り出し、ぱくりと食べる。
 そうしてから、シリューナとティレイラに向けて、改めて袋の口を差し出した。隠しようの無いいい匂いが漂って来る――菓子自体の造作からしても丁寧に作られており、恐らくは味も絶品だろう、と一見しただけでごくごく自然に判断出来る品。
 こうなると、ティレイラとしては――手を伸ばさない、と言う選択肢はほぼ無い。
 が、それでもさすがに今までの成り行きがあるので、なけなしの警戒と我慢がてら、シリューナの顔を見る。

「っ…お姉さま」

 頂いてもいいんでしょうか。と言うか頂きたいんですが大丈夫です…よね。

「…」
「味には自信あるんだけど?」

 と「彼女」も後押しをぽつり。
 受けて暫しの沈黙の後、わかったわ、と結局シリューナの方が折れた。完全に信じた、とまでは行かないが――ある意味半分諦めたとも言えたかもしれない。そして結局、甘味の誘惑に女子は弱い。万が一何か仕込まれていたとしても、味の方が本物だと言う事は、漂ってくる匂いや見た目の仕上げからして、シリューナもまた疑ってはいない。

 とまぁそんなこんなで、結局、御相伴に与る事になる。







 やった、と小さく喜びながら、ティレイラは「彼女」の差し出す袋から貰った菓子をもくもくと頬張っている。うん、と大きく頷いたかと思うと、食べる速度が上がる。…美味しかったらしい。
 シリューナの方でも、焼き菓子の一つを、さくり、と齧って上品に咀嚼していた。あら、と少し意外そうな貌をしたかと思うと、さらりと「彼女」に流し目。

「…悪くないわね」

 味。…確かに絶品である。
 だからお詫びにお裾分けって思ったの。と「彼女」。まだまだあるから、欲しいだけあげる。と袋自体をシリューナとティレイラに「それぞれ」手渡した。

「彼女」が持っていた菓子入りの袋は、あくまで「一つ」だった筈なのだが――…
 …――それぞれ別の袋を渡された二人は何故か、気に留めてもいない。











 お茶受けに良さそうだからお茶も入れましょう、とシリューナ。お茶会ですね! と更に喜ぶティレイラに、じゃあそのお茶はわたしが淹れて来るわね――と「彼女」が当たり前のように言って席を立つ。

 今居るここはシリューナの営む魔法薬屋であって、「彼女」であってもさすがに茶道具の所在まで把握しているような「勝手知ったる他人の家」では無い筈なのだが――…
 …――なのにシリューナは何故か、じゃあ宜しく頼むわね、と当たり前のようにそんな「彼女」を見送ってしまっている。

 更に言うなら今この場、「彼女」が立つ席などあっただろうか、そもそも座っていたのだろうか――…
 …――席も何も、魔法道具を使ってのオブジェ化から解けた直後の、座る場所の用意など無い状況だった筈である。











 色んなお菓子があるんですねー、と感心しながらも御満悦のティレイラ。袋の中にあるお菓子のどれもが、期待以上に美味しくて、色々騙されて銀のオブジェ化させられた事も、その後の「仕返し」が「仕返し」になってなかったんじゃないか、と言う何だか釈然としない感じも、悉くがもう頭から吹っ飛んでいる。次から次へと袋の中へ手が伸びてしまうが、手触りとして、まだまだたくさんあるっぽいので、嬉しくなる。

 美味しいものは全てに勝り幸せになる。

 手軽につまめるようなお菓子ばかりなのは食べ易くていいのだけれど、あんまり美味しいと――特にケーキとかだと、プチじゃなくてもっと大きいのとかって無いのかな、とふと考えてしまう。
 と、何故か考えたら考えた通りに、プチでは無い普通のカットケーキと言って差し障り無いサイズの、プチだったものと同じ種類と思しきケーキが、目の前で皿に載っていた。
 わー、とティレイラの喜びの声が上がる。良かったわね、とシリューナから声も掛けられ、はい! といい返事を返すティレイラ。シリューナの前にも、皿の上に載っているお菓子がある。手軽につまめるものと言うより、綺麗に盛り付けてある可愛らしいお菓子が。…勿論、袋に入れて持ち歩くようなタイプの菓子ではない。が、シリューナは何故か、それを当たり前のように食べている。

 そう、最早袋の容量にそぐわない程の、カフェで出されるような菓子すら何処からともなく供されていたのだが――…
 …――二人は何故か、「気にする事が出来ていなかった」。







 …わたしの場合「異世界の魔族」だから、夢魔系の「この魔法」には、それなりに耐性がある。
 だから体質的に、ちょっとくらいなら「食べて」も効果は無かったりする。

 まぁ、ある程度たくさん食べたならわたしでもこの菓子に籠められた魔法で狙われた通りの効果は出てしまうのだけれど、一つくらいならまず効果は出ない。そして体質的に一つくらいなら食べても問題が無いとなれば、こんな感じに引っ掛けたい相手を引っ掛けるにもちょうどいい。わたしの方で先に食べて見せれば、引っ掛けたい相手も安心する。
 …シリューナはそれでも少し警戒していたが、結局、菓子自体の「味」と言う威力に陥落した。ああ、ここでもティレイラの存在が大きかったかもしれない。この子が見るからに食べたそうで居てくれなければ、そもそも口にしてくれなかったかも。

 ふふ。と自称「異世界の魔族」な「彼女」は含み笑う。
 今「彼女」の目の前にあるのは――シリューナとティレイラの面影が残る、菓子、である。…それもちょうど、二人がそれぞれ気に入って食べていたような形の。

 そう、それがこの袋の菓子、の効果である。
 味はきちんと絶品、但し魔法が籠められており、食べた者を夢の世界に誘う。その夢の中では食べたいと思った菓子が幾らでも出て来て、幾らでも愉しめる。夢だから、少しくらい不都合な事があったとしても喫食の邪魔にならないよう当たり前のように無視される。…そうする事で誘った者を夢の中で虜にする。
 虜になった者は、虜になっている間――現実の世界では、夢で見たその菓子とへと変化し、封印されてしまう。
 つまりそれが、今「彼女」の目の前にある状況である。

 甘くて綺麗で可愛くて美味しそうな、シリューナとティレイラ。
 どんな風に遊ぼうかな、と「彼女」はわくわくどきどき思案中。じっくり見て鑑賞するのもいいけれど、菓子だから勿論味見もしたい。でもし過ぎると大変だから、少しくらいは自重。…と言うか、どのくらいの間この封印、保つだろう。まずシリューナの方が封印解除して元に戻るのは早いだろうから、そちらで遊ぶのが先かな、とは思う。
 何にしろ、これからじっくり、満喫予定。

 勿論、気付かれれば――封印が解除されたら何らかの「仕返し」が来るとはわかっている。
 わかっているけれど、やめられない。
 だって、愉しいのだから。
 同好の士であるシリューナからのその「仕返し」すらも、「彼女」にとっては愉しみに含まれる。「あれ」、の「仕返し」で「ああ」だったのだから、「これ」、の仕返しはどうなるだろう。
 愉しみで愉しみで、仕方が無い。

 そう、まだまだ懲りずに、もう一回。

【了】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3785/シリューナ・リュクテイア/女/212歳/魔法薬屋】
【3733/ファルス・ティレイラ/女/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 紫の翼を持つ竜族な御二人にはいつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして最早毎度の如くになってしまっているのですが(汗)、またもお渡しが遅くなってしまっております。大変お待たせ致しました。
 そしてまたもお待たせしている間に台風や地震が…と言うか最早近頃全国各地で様々な災害が起きておりますが、もし何らかの被害に遭われていたとしたなら御見舞い申し上げます。影響の無い地域にお住まいでしたら見当違いの話ではありますが、こういった場では何処の何方なのかがわからないものなので、再び一応まで。

 内容についてですが、「複雑だけど、まぁいいか。」の続きイメージと言う事で、こんな形になりました。
 ただ、さすがにシリューナ様の方は…直後に菓子出されたら警戒するのではと思ったので、お任せされたのをいい事に「菓子の魔法」についてをちょっと捻ってみました。夢の中に引き込む魔法となったら夢魔さんの領分か→夢魔系の魔法だったら魔族なら耐性あるんじゃ→自分も食べる事で相手の警戒感を払拭する役に立つのでは、と言う流れでの思い付きです。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、またの機会が頂ける時がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年09月10日

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