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『Fight!Fight!Fight! 』
高野信実jc2271

 ちらほらと大型商業施設や高い建物ができ始めた、田舎を脱しつつある町のとある高校。

 GW明けの初日、朝のHRが始まる2年の教室で、1人の男子生徒が教壇に立っていた。

「今日からみなさんと一緒に勉学を励む事になりました、高野 信実です。よろしくっす――よろしくお願いします」

 最後の最後でつい漏れ出た口調に、小さな笑いがちらほら聞こえる。頬が熱くなり、笑っている少女と目が合ってしまって、信実は耳まで赤くなってしまう。

 信実のキャラが決まってしまった瞬間であった。

「笑っちゃいかんぞーおまえらー。高野はなーこう見えて、柔道全国ベスト8だからな。怒らせたらいかんぞー」

 無精髭の担任が言うも、そうは見えない外見のせいもあって、それがどれほどなのかピンとこない生徒達に変化はなかった――ただ一人、信実と目が合った少女を除いて。

 ちょっと大きめの手帳を胸のポケットから引き抜き、少女は何かを書き込み始めるのであった。




 体育でジャージに着替える時、男子は女子がいても教室で着替えるんだという言葉を信じて、脱ぎだして止められたとか転校初日から色々あったが、おおむね問題なく一日を過ごした。

 放課後、さっそく柔道部へ入部して稽古に混じったのだが、それほど緊張感もなく、ともすればダラけているような内容に、信実は困惑していた。

 この地域の中では強豪校だと聞いていただけに、肩を透かされた思いだった。

(これじゃ言葉通り、今度も負けてしまうっすね)

 ベスト4進出をかけた試合で判定負けしたのだが、その相手は信実以外を一本で勝ち、優勝した。誰よりも善戦したのが信実だと誰が見ても明らかであったが、優勝者曰く、「今のままの彼なら怖くない。何度やっても僕が勝つと思います」と言われた。

(きっとそれが現実なんすね。俺なんかがあそこまでいけただけでも、十分じゃないっすか)

 そんなことを考えながら練習に勤しんでいると、気がつけば清掃当番の同級生を残して、部員はみんな帰ってしまっていた。

「掃除、俺がしとくんで帰っていいですよ」

 そう声をかけると、「わかった、あとはよろしく頼む」と言って、道場をあとにした――が、閉じた戸をすぐに開いて戻ってきた。その後ろにあの少女を連れて。

 にやにやとしている同級生へ不思議そうな顔を向け、それから信実は少女の方へと向ける。

 何か言おうとしている少女が背中を同級生に小突かれ、ようやく口を開いた。

「あの、高野君」

「は、はいっす!」

 背筋をぴんと伸ばし、気を付けの姿勢で次の言葉を待つ。

「もしよかったら……」

 たっぷりの間に、信実ののどがゴクリと鳴った。疲労感とは違った汗が頬を伝う。

「私に……私に、取材させて!」

 ――何を言っているのか、一瞬、わからなかった。一瞬を過ぎて、言葉は理解したが、意味を理解できない信実。

「私、放送部なんだけど、高野君にスポットを当てたドキュメント番組を作って、コンクールに出品したいの」

 そこまで言われてやっと、意味も理解した。

 コンクールがどんなものか知らないが、そんなのがあるんすねと考えていると、少女は道場まであがってきて信実に近づきながら「高野君なら良い作品できるよ!」などとおだて、ぐいぐいと押してくる。

 そして信実は、押しの強さとおだてに乗せられ、承諾するのであった。

 ――そんな事があったその日から、夢を見るようになった。

 銃を手にしたまま壁に背を預けて寝起きし、疲れた表情をした目つきの鋭い自分が、警察官の服装で怪物と戦ってる夢。妙に生々しいその奇妙な夢を、毎日のように。

 夢の中は同じ日本とは思えないほど荒廃していて、毎日のように誰かが死んでいく。仲間だったり、一般人だったり。

 それなのに、自分は一滴の涙も流さない。ただあるのは憎悪に近い、敵を倒すという使命感のみ。

 目が覚めたとき、そんな自分に涙してしまう信実であった。

 ――1週間ほどの密着取材が終わった後も、それなりに仲良くなった少、日野は「作品の出来が良いのは信実君という素材が良いから」と、信実を褒めちぎる毎日だった。

 褒められ慣れていない信実も、最初はなかなか素直に褒め言葉を受け止めようとしなかったが、一ヶ月近く言われ続けているとだんだん、悪い気はしなくなってきた。

「ここまで褒められたのは生まれて初めてなんすよ。天狗になったらだめっすけど、ここ最近は日野さんから褒められるたびに、嬉しくなって、舞い上がりそうになるんすよね。

 日野さんだからなんすかね。どう思うすか?」

 乱取りしながらそんなことを同級生に打ち明けると、「好きなら告白しちまえって」と言われ、赤くなる信実。その隙をついて同級生が小内をしかけてきたが、信実の身体は反射的に背負って投げていた。

 そして動揺が残っていたせいで、引き手を引っ張り損ねて同級生を思いっきり畳に叩きつけてしまう。

「ごめんっ、大丈夫っすか!? いきなり、からかわないで欲しいっすよ」

 同級生の上半身を起こして背中をさする信実へ、「冗談でもない。嫌、半分は冗談だけど」と同級生は言う。

「あいつの事は昔っから知ってるけど、高野と話す時のあいつの顔、俺の知ってる顔とちょっと違うから、わりとあるかもしれないぞ?」

「信実君!!」

 戸が勢いよく開かれ、部員の視線を一身に集めながら気にすることなくずかずかとあがりこむ日野。信実の前までくると、手に持っていた紙を広げた。

 難しそうな言い回しで、長々とした挨拶の後に書かれている事を要約すると――

「予選、通過したよ! 信実君のおかげだね!」

 嬉しさを隠さない笑顔に、信実も、笑顔を浮かべていた。

「それでさ、東京で本戦やるんだけど……よかったら信実君も一緒に来てくれないかな?」

 その言葉にドキリとしたが、「わたし、東京の道なんてわかんなくてさ」と続く言葉で自分の勘違いに気づき、首が熱くなった。

「いいっすよ。ちゃんと道案内できるか、わからないっすけど」

 と、返した信実ではあるが、同級生のにやけた顔と周りの視線に気づき、顔を赤くして首を縮こまらせ、目を伏せてしまう。

 そんな信実には気づかず、日野は無邪気に喜ぶのであった。




 ――瓦礫しか残らない東京で剣呑とした目つきの信実が、天魔のいない世界へと改変した影響の歪みで自然発生する小規模ゲートを目指して走っていた。

 そして、ゲートに向かう人影を発見。

 人影の号令で、瓦礫の陰から飛びかかってくる人のような形をしたサーバントの腕を取り、背負い、地面に叩きつけると銃口を口の中につっこみ引き金を引く。

 サーバントに限らず、四肢を地につけたディアボロも次々と襲いかかってくるが、信実はそれらの脚を関節技で折り、敵同士をぶつけ合い重ねてありったけの弾を食らわせる。かつて憧れた先輩達と何ら遜色もない戦いぶりであった。

 憧れた先輩達はメインゲートを閉じる為に、その命を使った。

 あの頃の同級生なんてもう、ほぼいない。どこかで生きている可能性もあるが、今の信実のように身も心も擦り切れているに違いない――そんな雑念が戦いの最中、頭によぎってしまった。

 その瞬間、尻ポケットに入れていたスマホを落としてしまった。

 戦いの最中でも、傷だらけのスマホを拾い上げる。もう電源も入らないし電波もないので、不要な物でしかない――が、それでも拾った。

 僅かなタイムロス。

 人影は信実が追いつく一歩手前で、サーバントとディアボロを引き連れゲートへと消えていく。

 舌打ちしながら信実も、ゲートへと飛び込むのだった。




(今朝の夢は一段とすごかったすね)

 無人運行の列車に揺られながら、夢の事を考えていた信実。

「信実君、大丈夫?」

 信実の荷物を膝の上に載せて席に座っている日野が、ずっと立っている信実に声をかけてきた。ぼんやりしていたのを疲れたせいだと思ったのだろう、「大丈夫っすよ」と力こぶを見せて安心させる。

「そっか、さすがだね。それじゃあ今日もよろしく」

 笑みを見せる日野へ、力強くうなずき返した。昨日、大会が終わり、惜しい結果に終わったものの、日野の態度は変わらなかった。

 そして少し観光をしてから都内に一泊後(もちろん部屋は別)、引き続き新幹線の時間まで都内を見て回っていた。これから向かう先は昨日、一般人入場時間を過ぎてしまって入れなかった、テレビ局である。

 道すがらフラフラ寄り道したりかき氷で舌を青く染めたりと楽しみつつも、球状の展望台が見えたあたりから日野のはしゃぎようがすごく、それを見ている信実もなんだか嬉しくてしかたない。

 ショッピングモールよりもまずはと、展望台直通のエレベーター前で肩を並べ、順番を待つ事にした。

 だが待つのはいいが、前も後ろもカップルばかり。信実も日野も気にしないようにしているが、それでも視界に入ってしまう。こうなってくると信実ばかりでなく、日野の方もさすがに意識するのか、いつもより口数が少なくなっていた。

 人の流れに押され、触れあう肩と肩。

 お互い、触れあった肩に視線を向けると、視線同士が交わる。言葉はかわさず、ただ見つめあった。視線を外すのがもったいない。

 日野の唇が開きかけたそこで――エレベーターが吹き飛んだ。

 信実達まで破片は届かなかったが、前に並んでいた人達がただの肉塊へと変わり果て、悲鳴を上げた男が突如現れた大柄な人を模した何かに腹を刺し貫かれた。

 その後ろから次々と現れる人型の何かと四本脚の獣達が散り、人々を襲い始める。

 そこら中から悲鳴が響きわたり、一気に阿鼻叫喚へと変わり果てた。そんな中、信実と日野は目の前の異形の人間から目が離せない。

 振り上げられた拳が霞んで消えたかと思うと、日野がはね飛ばされたように軽々と吹き飛び、アスファルトへと叩きつけられた。

「日野さん!」

 金縛りが解け、信実は日野へと駆け寄る。体中擦り傷だらけで、頭から血を流して意識がない日野を抱きかかえた。温もりはまだあるが、生気がどんどん失われていくのがわかる。

 信実は異形の人間を睨みつけ、これまでに抱いたことのないほどの怒りがこみ上げて泣きながら叫んでいた。

「何をしやがるっすかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 信実の茶色だった瞳の色が、金色へと変化する。

 そんな信実へと異形の人間が近づき、腕を伸ばしてくる――が、その腕をぼろぼろの警官服を着た自分がつかんだ。

 異形が信実の前で投げ飛ばされ、信実の前に信実が立ちふさがる。そしてちらりと信実と、その腕の日野を見て鋭い目を一瞬だけ丸くし、眩しいものを見るように目を細める。

「大丈夫か、こっちの世界の俺」

「――俺は平気っすけど、日野さんが、日野さんが……!」

「泣いていても助かりはしない。助けたいと想うなら、目の前の敵と闘え」

 銃で異形を牽制する。

 瞬間移動のような速度で銃弾をかわすのが、日野を抱いた信実にはしっかりと見えていた。拳が見えなかったのに、今ならはっきりと見える。

 それでも――

「俺なんかじゃ……助けたくても、助けられないっすよ……闘う力なんて……ないっすから……」

「人命救助に躊躇いはいらない。自分の可能性を信じろ、今のお前には助けるだけの力もあるし、助けたいという想いがあるのなら、闘える」

 そう言われても顔を上げる事のできない信実の胸倉がつかまれ、自分でもこんな顔ができるのかと思えるほど、怒りに満ちた自分の顔がアップで映し出される。

「彼女をお前が助けろ! お前しか、助けられないんだぞ!!」

 信実は呆気にとられたが、涙を拭い、頷いた。

「あれは俺がやる。お前は他の奴らをどうにかしろ。地面に叩きつけても意味はないが、あいつらにあいつらをぶつければ何とかなる――わかったな?」

「了解っす」

 日野を寝かせて立ち上がり、ぼろぼろな自分と背中をあわせる信実。

 異形に呼び集められた人型と獣が取り囲むが、不思議と負ける気がしない。いや、負けてやるつもりはない。今なら柔道の全国大会だって優勝できる。してみせるんだ。

 これまでにはなかった、勝つまで負けてやらないという気迫が、信実を支配する。

「絶対に勝つぞ!!」

「おうっすよ!!」

 2人の信実は負けられない戦いで、敵へと向かっていくのであった――……




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jc2271@WT09/高野信実/男/17/強く逞しく寂しく】
【jc2271@WT09/高野信実/男/17/きっと強くなる】
【日野(苗字)/女/17/放送委員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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遅くなりまして、申し訳ありません。もっと早くに書き上げていれば災害の影響もなかったのですが、なんだかんだとここまで延びてしまいました。
放送委員の女子を名無しで通すにはなかなかきついので、とりあえず日野(苗字)さんという女の子になってもらいました。
これでEの発注が最後なのは残念ですが、よろしければ今後ともよろしくお願いします。
この度のご発注、ありがとうございました。
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楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年09月10日

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