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『永遠の愛を貴女へ 』
天谷悠里ja0115)&シルヴィア・エインズワースja4157

「ねえ」

 天谷悠里(ja0115)のドレスを整えながら黒の少女が口を開いた。

「はい?」
 さっきまでの雑談とは違う、少し改まった様な声に悠里は首を傾げる。

「本当にユウリ・エインズワースになるの?」

「え?えっと……」

 言っている意味を掴みかねた悠里が返答に困っていると、

「我ながら変な言い方だったわね、ごめんなさい」

 黒の少女は苦笑する。

「名は体を表すって言うじゃない。名前を変えると言うことは自分の在り方を変えること。その名を名乗るようになれば、彼女の花嫁として、夫人として一生を生きることになる。勿論、貴女は彼女だけの姫だと周りも認識する様になるわ。それでもいいの?」

 そう問われて、悠里は改めてシルヴィア・エインズワース(ja4157)のことを想う。
 彼女と過ごした時間とその思い出、これから過ごすだろう時間と未来を。

「……はい。私はそれが良いです」

「いい顔ね。なんだかこっちがあてられてしまいそうだわ」

 そう言われて鏡を見る。
 悠里は笑っていた。
 嬉しそうに、幸せそうに笑う鏡の中の自分に迷いなどこれっぽちもありはしなかった。

「なら祝福を授けましょう。目を閉じて」

 髪にそっと差し入れられる櫛が優しく悠里の髪を梳いていく。
 そっと額に触れる柔らかな感覚は少女の唇だろうか。
 丁寧に髪を通っていく感覚に心地よさを感じながらぼんやりとそんなことを思う。

「ユウリ、私の姫」

 愛しい人が名前を呼んでくれた気がした。

(もう普通の女の子じゃないんだ、私。シルヴィアの姫、ユウリ・エインズワースなんだ)

 姫という言葉にそんな実感が染み渡り根付いていくのを感じる。

「どうかしら」

 少女の言葉に現実に戻される。

 瞳を開けると目の前には長い黒髪の女性がいた。

「あら?髪が……」

 長くなった髪に触れる。

 サラサラと小さな音を立てて指の間を滑り降りていくそれは紛れもなく自分の髪だ。

「エインズワース夫人の誕生に立ち会えたこと心から嬉しく思うわ。貴女の新しい門出に祝福を」

 そう言いながら少女は悠里の髪を結いあげていく。メイクも相まってか清楚な美女が出来上がる。

「いつも思うのですけれど、髪型とメイクでこんなに大人っぽくなるのですね」

「メイクなんてなくても十分貴女は大人っぽいのだけれどね」

 そうでしょうか? そう首を傾げる悠里の手を取り黒の少女は微笑む。

「ええ、私はそう思うわ。さあ、騎士様に、花婿さんに会いにいきましょう」

  ***

 シルヴィアは別室で白の少女と相対していた。

「花嫁様は如何でしたか?」

 白いタキシードに違うコサージュをさしながら少女はふと口を開いた。
 いつものように事務的にも聞こえる淡々とした口調。
 その中に穏やかな雰囲気があることにシルヴィアは気がついた。
 何度も2人で交わした会話の中で、彼女の声には機微が現れにくいだけなのだとシルヴィアが理解したのはいつだったろうか。

「いつも通り素敵でしたよ」

 穏やかな声で返す。

 言葉にするだけで、美しくも可憐で高貴な姫に仕えられる喜びが湧き水の様に込み上げてくる。
 美しくもいじらしく愛らしい初夜の彼女をきっと生涯忘れることはないだろう。

「私は、ユウリ・エインズワースは貴女のもの」

 彼女の口から出た自分のラストネームが胸の中でリフレインする。
 なんて自分は幸せ者なのだろう。

「あぁ、すみません」

 意図せず下がる目尻と上がる口角に気が付き、メイク直しに支障が出るだろうと元に戻す。

「いえ、お気になさらないでください」

 そう返す少女の表情が一瞬だけ少しほころんだ気がした。

「貴女は花嫁と花婿の心を抱く方。相応しいお姿を」

 少女はそう言ってシルヴィアの髪に櫛を通す。目を瞑りその丁寧な動きを感じる。
 あるべき毛先まで行かない櫛の動きと、徐々に軽くなっていく頭に不思議な感覚を覚える。
 それにうなじに今までなかった何かが触れている。

 何が起こっているんだろうと首元へ手をやるとそこにあったのは毛先だった。
 鏡を見ると長かった髪は少年の様に短くなっていた。

 どこかの歌劇団にいる男役の様に凛々しさと女性らしさが同居したその髪にシルヴィアは微笑む。
 花嫁と花婿の心、今の髪型は確かにそれを体現していた。

「花婿様の門出に幸多からんことを」

 優しい額へのキスを瞳を閉じて受け入れる。

 その柔らかい唇に花嫁を思い出す。
 騎士として、そして花婿として生涯姫を護り敬い慕おうと、花嫁として花嫁を甘く愛そうと改めて強く想う。
 ずっと抱いてきたその想いは今この瞬間に頂点にまで高まり花開いた。

「ありがとうございます」

「さあ、夫人の、花嫁様のところへ参りましょう」

 差し出された手を取りシルヴィアは部屋を後にした。

  ***

 この薔薇園はいつも月に見守られている。

 悠里を待ちながらシルヴィアは空を見上げる。
 今夜は2人を祝福する拍手のように星もきらめいている。

「シルヴィア」

 耳に心地よい声に視線を戻すと純白のイブニングドレスに身を包んだ愛しい人がそこに立っていた。

「……」

「……」

 互いの姿に愛しさがこみ上げ言葉は失われた。

 どれ程の時間そうして見つめ合っていただろう。
 先に動いたのはシルヴィアだった。

「プロポーズを受けてくれてとても嬉しく思っています。ユウリ姫、ありがとうございます」

 優しく抱き寄せ瞳の奥を覗き込む。
 先程まで見上げいた星空を流し込んだ様にキラキラと輝く彼女の瞳に自分だけが写り込む。
 それが何より嬉しかった。

「愛しています。今までも、これからも。貴女だけのために私は生きていきたい」

「ええ。私も同じ気持ちですわ。ユウリ・エインズワースとして生きて生きたいの」

 自然に触れ合う唇。
 それは初めてこの店で交わしたチョコレート味の口づけよりもずっとずっと甘かった。
 こんな時間がずっと続くのだ、確信めいた気持ちを胸に2人は何度も唇を重ね、互いの熱を求めた。

  ***

 愛の夜をいくつか超えたある夜、砂時計の上部にあった砂は下部へと全て落ちきろうとしていた。

 店の前には悠里とシルヴィア、そして2人の少女が立っている。

 店の中にいた時と違い、シルヴィアは白いYシャツに黒いジャケットと細身の黒いパンツ、悠里は白いブラウスとレースのあしらわれた白いAラインのスカートに身を包んでいる。

 どちらもこれからの2人に、と少女達がプレゼントしてくれたものだ。

「お別れね」

 黒の少女の声には少しだけ寂しそうな色が滲んでいる。

「ええ。何とお礼を言っていいか分からないわ。色々ありがとう」

「本当にお二人には感謝しています。ありがとうございました」

 悠里が少女達をそれぞれ軽く抱きしめるとその額にキスを落とす。

「そう言って頂けると大変嬉しいです。こちらこそありがとうございました」

「これからもお幸せにね」

 微笑んで少女達は悠里とシルヴィアの頬へ唇を寄せると、シルヴィアも少女達の額へ唇を触れさせた。

「貴女達が望むならいつだって会えるわ。またいつか月夜の晩に会いましょう」

「ご来店本当にありがとうございました」

 手を振る黒い少女の横で白い少女が深々と頭を下げる。

 2人に見送られる様に店に背を向けると一陣の風が吹いて、振り返った時そこは空き地になっていた。

「行きましょうか」

「ええ」

 軽く口づけを交わし指を絡めると共に暮らし行きていく場所へと歩き出す。

 互いの左薬指には婚約指輪と結婚指輪が2人の愛を示す様に輝いていた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja0115 / 天谷 悠里 / 女性 / 18歳 / 貴女の名を刻んで 】

【 ja4157 / シルヴィア・エインズワース / 女性 / 23歳 / 生涯慕い護ると誓う 】

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龍川 那月 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年09月10日

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