▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夜宵幻魔郷』
松本・太一8504


 戦場全域に、大輪の花が咲いた。
 色とりどりの魔法弾が無数、優雅に渦を巻きながら全方向に広がってゆく。
 触れたもの全てを破壊する、死の花弁であった。
「数打ちゃ当たるにも程があります!」
 花火のような弾幕の中を、松本太一は悲鳴を上げながら泳ぎ回っている。
 豊麗な胸の膨らみが慌ただしく揺れ、むっちりと形良い左右の太股が、あられもなく躍動する。
 魔法弾が、股の間を高速で通過した。
 綺麗にくびれた胴が、柔らかく捻転する。美しい曲線となった脇腹を、魔法弾がかすめて行く。
 とてつもない熱さを、太一は内股と脇腹に感じた。カラフルな魔法弾の1発1発が、鉄をも蒸発させるプラズマの塊なのだ。
 この『夜宵の魔女』たる自分でなければ、とうの昔に原形を失っている。
 直撃を受ければ『夜宵の魔女』であろうと消滅する。
『さすが、トラブル慣れしているだけあって避け方は上手くなったわね』
 太一の中にいる女性が、言った。
『大丈夫。貴女、見た目より当たり判定が小さいから。その胸、以外はね』
「好きで大きくなったわけじゃありません! まあ小さ過ぎるよりは、きゃあああっ!」
 色とりどりの弾幕を切り裂くように、極太のレーザーが夜宵の魔女を襲う。太一は、辛うじてかわした。
 艶やかな黒髪が、レーザーに煽られて舞う。
「ちょっと、髪の毛焦げちゃったらどうしてくれるんですかっ!」
「うるさい、うるさい! あたしに聞こえるように胸の話なんかしやがって!」
 死の花弁をばら撒きながら、その少女は叫んでいる。
 生来のものではなく、自身を生体改造した結果であろう。華奢な背中から6枚の翼を生やし、落ち着きなく羽ばたかせている。
 その羽ばたきから無数の魔法弾が発生し、渦を巻き、大輪の花を成しているのだ。
 灼熱の花を咲かせる熾天使、といったところであろうか。
 その身体は、3対の翼で完全に覆い隠してしまえるほど小柄である。胸にも、尻と太股にも、まだ大いに発達の余地がある。
 天使の翼を生やした、幼い少女……外見は、だ。
『若作りは魔女の必修科目……とは言え、これはやり過ぎね』
 太一の中の女性が、呆れている。
『何万年、鯖を読んでいるのかしら』
「胸が大きくなるまで、あたしは何万回だって成長リセットしてやる! 文句あるかあ!」
 少女が、愛らしい両手で印を結ぶ。その印から、またしても極太レーザーが迸る。
 かわしながら、太一は言った。
「それはまあ、お気の済むまで……ただ1つだけ、やめていただきたい事がありまして」
 言いつつ、ちらりと見回す。
 自身を、天使のような少女に造り替えてしまった、この魔女の工房である。
 その巨大さは、城郭あるいは要塞と言ってもいい。
 門前から、この最奥部に至るまで、いくつかの区画に分かれており、その全てを突破して来なければならなかった。
 広大な最奥部の中央で、6枚翼の天使少女が、花を咲かせるが如く魔法弾幕をばらまいている。
 他にも、天使がいた。ハーピィがいた。猛禽の翼を持つ鳥人の少女がいた。
 数十名もの翼ある娘たちが、あちこちで飛翔しながら歌い踊り、ラッパやトランペットを吹いている。
 その歌声が、楽の音が、魔法弾となって同じく花の形に拡散し、前後左右上下あらゆる方向から夜宵の魔女を襲う。
 広大な空間あらゆる場所で、死をもたらす弾幕の花が咲き乱れているのだ。
 小刻みに飛翔し、全てを回避しながら、太一は悲鳴じみた声を張り上げた。
「人間の女の子を! 誘拐したり拉致したりして飛行系モンスターっ娘に造り替えるのは! やめてくださぁあああああいッ!」
「人聞き悪い事言うな! あたしは誘拐も拉致もしていない、空を飛びたがっている子を集めただけだ!」
 成長し直し中の魔女が、叫びながら激しく羽ばたいた。
 羽根が舞い散り、そして魔力が6方向に拡散した。
「どいつもこいつも、あたしよりキャリアないくせに好き勝手やりやがって! あたしも負けてらんない、だからこの子たちを集めたの」
 それら魔力が、拡散した先で6色の魔法陣となった。
「えー……と。どいつもこいつも、というのは」
『ほら、貴女を使って水族館やら植物園やらのPVを作っていた連中よ』
「ああ、テレビでもやってましたね。いくらかは客足が伸びたとか」
『貴女のおかげね』
「そうなんでしょうか……いや、それよりも」
 6方向で渦を巻く、6つの魔法陣。
 それらが、魔力の波動を発生させる。
「連中は人魚を、アルラウネを作った。水を泳ぐ美しいもの、地に咲く美しいものを作り上げた! だからあたしは空を飛ぶ美しいものを作るんだ、邪魔はさせない!」
 熾天使の叫びに応じて、6色の魔力の波動が激しくうねる。そして空間全域に美しい紋様を描きながら、夜宵の魔女を襲う。
 弾幕の花は相変わらず咲き乱れており、逃げ場はない。
『さあ、もう逃げるのは終わりよ。覚悟を決めて、攻撃なさい』
「うう……あの、思い上がりかも知れませんが」
 太一は、魔力を集中させた。
「殺しちゃったり、しませんよねえええええええ!」
『それも含めての覚悟よ。さあ』
 集束した魔力が、一直線に迸って熾天使を直撃する。
「ば、馬鹿な……これほどの魔力……あたしが、一撃で……お前まさか」
「……はい。ここまで、ひたすら逃げ回って来ました。1発も攻撃していません、ノーショット&ノーミスプレイです」
 迸る魔力の光に呑まれゆく熾天使を見据えながら、太一はさらなる魔力を放っていった。
「1発の弾も撃っていませんから……私の魔力、溜まりまくってますよ。とっておきのスペシャルショットです」
「お前、1匹のザコも殺さずにここまで来たのかぁああああああ!」
 成長し直し中の魔女が、力尽きて吹っ飛んで行く。
 全方向から太一を直撃する寸前だった魔法弾が、魔力の波動が、キラキラと消えて失せた。
「人道主義、ではないですよ? ひたすら魔力を溜めて、貴女を一撃で倒すためです」
 太一は苦笑した。
「こんな弾幕……長時間かわし続けるの、しんどいですからね」


「信じてもらえないかも知れませんけど私、貴女を説得するために来たんですよ? 説得かっこ物理かっことじではなく、本当に平和的なお話です」
 ぼろ雑巾のようになった熾天使に、太一は語りかけた。
「まさかね、こんな弾幕系シューティングをやらされるとは思いませんでしたけど」
「お前……お前だな、あいつらのPVに出てたのは」
 成長し直し中の魔女が、涙目で呻く。
「畜生、お前1人をさらって天使にでも造り替えれば良かったかな……」
「造り替えは駄目。生体改造は反則です」
 言いつつ太一は手を伸ばし、ハーピィの1体の首根っこを掴んだ。
 空を飛ぶものに造り替えられていた少女たちは、あらかた元に戻したところである。情報改変を駆使してだ。
 掴まれたハーピィが、じたばたと暴れる。
「あたし、このままがいいー! せっかく飛べるようになったのー!」
『……と言っているけれど、どうするの? 無理に元に戻す事も』
「駄目ですよ。変身っていうのはね、元に戻れるのが大前提なんです」
 太一は言った。
「必ず元に戻れる、安全な最新技術をアピールする。そのためなら私、人魚にだって花姫にだって、天使にだってなりますから」



登場人物一覧
【8504/松本・太一/男/48歳/会社員(魔女)】
東京怪談ノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年09月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.