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『『過去への誘い 後編』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 アレスディア・ヴォルフリートは、ゲートを背に立ち上がる。
 ディラ・ビラジスをゲートの先に、1人で行かせてはならない。
 彼女は即、ディラを追い走り出す。
 平和な社会で生きることは、彼にとって幸せなことなのだろうか。
 未だ、社会に背を向けて生きる彼を見て、思ったこともある。
 護るべき人々の命を奪った自分が、平和な社会で生きる資格はない。
 そう思ったこともある。
 腹立たしいことに、アレスディアは異界から訪れたあの獣の言い分を完全に否定できなかった。
「だが、今はそんなことはどうでもいい」
 そんな理屈は後から考えればいい。ディラと二人で。
(……ああ。そうか)
 胸の奥に宿る熱の名前はまだわからない。
 でも、先のことを考えた時に、そこにはいつもディラがいる。
 今は、それだけで十分だった。

 結界の入口に彼の姿はなかった。
 しかし、僅かな気配、物音が聞こえる――。
「道を避けたか」
 アレスディアは耳を澄まし、気配と音を頼りに木々の中へと入っていく。
 手近な木や草を掴み、地を蹴って跳ぶように登っていくと、ほどなくしてディラの背が見えてきた。
「ディラ! ウイルスの話は聞いた」
 ビクッと彼の身体が震え、振り向いた。
 その顔に浮かんでいるのは、焦りの表情。自分に向けられる目は、決して冷たい眼ではなかった。今はまだ。
「悪い……血清もらってくるから、待っててくれ」
 苦しげに絞り出すように、彼はそう言った。
「待っていて、戻ってくるのか!?」
 アレスディアは彼に詰め寄り、腕を掴んだ。
「私には抗体があるらしい。私の血を飲め。何もせぬよりはマシだ」
 彼女の言葉に、ディラは目を見開いた。次の瞬間、大きく首を左右に振った。
「馬鹿な事を言うな! 聞いてるんなら知ってるだろ? 俺に近づくな」
「……時間が惜しい。苦情は、後から聞いてやる!」
 突如、アレスディアは振り切ろうとしたディラの足を払った。
 体勢を崩した彼に掴みかかり、そのまま2人は転がり落ちる。
 大木に体を打ち付け、落下が止まってすぐ、アレスディアはディラを組み敷き自由を奪い、彼の手から奪い取った小剣で自らの左の掌を貫いた。そして、血を自らの口に含む。
 顔を歪め、抗議するために開けられたディラの口に、アレスディアは自分の口を押し当てて血を流しこんだ。
「グッ、ゲホッ、ガホッ」
 一部、気管に入ったのか、ディラは咳き込みながら口から血を吐きだす。
「アレス……お前……」
 荒い呼吸を繰り返しながら、ディラがアレスディアを睨む。
 それは憎しみの目でもなければ、過去の彼の暗い眼でもないように見えた。
「……少しは、楽になったか?」
 押さえつける手を緩めたアレスディアの頬が、僅かに赤く染まっていた。
 複雑な感情を滲ませながら、自分を見詰めるディラにアレスディアは今度は穏やかに言う。
「ウイルスの話は聞いた。治療薬が必要で、それがあのゲートの向こうだというなら、私も共に行く」
 互いに起き上がり、真剣な瞳で見つめ合いながら、アレスディアは言葉を続ける。
「ディラ一人では、無理だ。私一人でも、無理だ」
 アレスディアは、右手をディラに差し出した。
「行くなら二人で、だ」
 ディラは……苦悩の表情を浮かべながら、アレスディアの手に触れた。
 包むように握りしめ、それからもう一方の手で彼女の左腕を強く掴んで、引き寄せた。
「大丈夫だ、行かない。治療薬はここにある、から」
 ディラの顔が間近に迫る。
 血に濡れた唇――端から僅かに、流れ出る鮮血。唇に怪我をしているようだ。
 口移しのために、口を重ねたあの時、歯で傷つけてしまったのだろうか。
 胸に熱を感じながら、そう考える彼女の唇に、突然ディラの唇が重ねられた。
 彼と自分の中に流れるものが、口の中で混ざり合う。
 それら全てを、ディラは吸い尽くそうとする。彼女の呼吸をも全て。
 これで彼が変わらずにいられるのなら。今の彼のままでいられるのなら。
 アレスディアはディラの求めに応じて、深い口づけを許した。

 顔を離したときには、2人は共に酷い酸欠状態に陥っていて、荒く息をつきながら恥ずかしげに微笑み合った。
「……大丈夫だ、ホントに。消えないうちに、増えたから」
 アレスディアを見詰めるディラの目は、最近のいつもの彼の眼で。
 そのかすれた声は、甘美な感覚を呼び起こす、不思議な響きがあった。
「それは良かった」
 自分の持つ抗体に、そんな効果があったのだろうかと。アレスディアは嬉しく思い、照れくささも感じていた。
「けど、たまに発作を起こすかもしれねーから、その時はまた、頼む」
 言って、ディラはアレスディアの顔に手を当てて、親指で彼女の唇に触れた。
「あ……う、うむ」
 思わず、アレスディアは目を逸らす。
 口移しが目的だったとはいえ。
 男性と口づけを交わしたのは、初めてだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
前後編ということで、ひとまずこちらの話は終わりとなります。
アレスディアさんの過去絡みの話も書きたいと思ったのですが、私の方でどの程度の設定をしても大丈夫か判断がつかず今回はディラの話にさせていただきました。
アレスディアさんの過去絡みの話をご依頼いただける場合は、若干指定をしていただけるとありがたいです。
引き続き、ディラの過去絡みの話をご依頼いただきましても、嬉しいです!
それではまた是非よろしくお願いいたします。
東京怪談ウェブゲーム(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年09月11日

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