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『逃がせぬ熱は波にのせ 』
アーク・フォーサイスka6568)&クラン・クィールスka6605


 青い空は白い雲をぷかぷかと従えて、悠然と輝いている。その下に広がる海もまた、空に憧れているかのように青く、白い波を規則的なリズムで浜辺に打ち付けていた。波打ちぎわではしゃぐ、水着の男女。砂の城を作るのに夢中な子どもたち。そのまま絵はがきにでもなりそうな、完璧な光景である。が。
「海……だね。依頼ついでとはいえ、海に入りにくるとは思ってなかったな」
 アーク・フォーサイス(ka6568)がつぶやくように、ハンターの仕事とはあまり結びつかなそうなロケーションである。海を管理する組合からの依頼で、雑魔が出たときのために浜辺に控えていてほしい、との仕事内容だった。あらわれなかったときには、自由に遊んでいていい、という、なんともおおらかな依頼である。
「海か……。依頼でということなら、今まで無くはなかったが……、実際に水着を着たり泳いだり、は初めてだな。ひとりで遊びに来るような機会も欲もなかったし……」
 クラン・クィールス(ka6605)がアークの言葉に隣で頷いている。早々に、この海に雑魔は出なさそうであると判断できたため、ふたりともすっかり遊ぶつもりで水着姿だ。
「そうだね、ひとりで来ようという気になったことはないな。別に泳げないわけじゃないし、嫌いじゃないけど、わざわざ来なくても……と思っていたから。それに、最近は蒼界の件やらで忙しかったし」
 アークはそう話しつつ、クランがしげしげと自分のことを眺めていることに気がついた。どうしたのか、と首をかしげると。
「……見た目から華奢な印象、とはいえ。お前もある程度鍛えてあると思ったが……。意外と細身だな」
「そうしみじみと言われるとなあ……。俺はあまり筋肉質じゃないからね。身長もクランの方が高いし……、並ぶと余計に細く見えるかもな」
 アークは苦笑した。こうした点については、気にしているという程ではないにしろ、少しクランが羨ましいとは思うアークである。
「せっかく海へ来たんだから、ひとまず泳ごう!」
 ふたりは頷き合って、波打ちぎわへ駆けだした。



 浜辺は焼けるように暑いのに、海の水は驚くほど冷たい。ある程度の深さのあるところまで泳いできたアークは、海水に火照った体を冷やされて心地よく感じていた。だが、今は心地よくとも、この温度ではわりとすぐに寒くなってしまうのではないかと思った。
「クラン、適度に浜辺へ戻りつつ泳ぐことにしよう……、って、あれ? クラン?」
 すぐ近くを泳いでいたはずなのだけど、ときょろきょろすると、アークよりもずっと先を、ぐんぐん進んでいく姿が見えた。この先は入ってはいけないことを示すオレンジ色のブイまで、もう少し、という距離だ。
「もうあんなに遠くまで泳いだのか!」
 なんだか理由もなくおかしくなって、アークはくすくすと笑った。その拍子に海水がわずか、口に入ってくる。塩辛い、波の味だった。
「さて、どうしようかな」
 クランを追って泳いでいこうか、少し迷う。少し迷って……、アークは追うのをやめた。クランに追いつくほどの本気の泳ぎをする気にはならない。頭を海水にひたし、仰向けに波に浮かんだ。海水は淡水よりも浮力が強く、半身が苦もなくぽっかりと水面に出た。太陽の、強い日差しが、冷えた体をまた温める。
「うーん、気持ちいい。しばらく、こうして漂っていようかな……」
 太陽は、直視するには眩しすぎる存在だ。アークはそっと、瞼を閉じた。



 クランは全力でブイまで泳いだ。そして、そこからくるりと引き返してまた全力で浜辺まで泳ぐ。これまで、そんなに好きだとも感じたことがなければ嫌いだと感じたこともなかった「泳ぐ」という運動が、今日は妙に気持ちの良いものに思われて、つい、夢中になってしまった。こころなし、息も上がっているような気がする。冷たい水から上がると、急に空腹をおぼえた。
「……何か、食べるか……」
 泳ぐことは思いのほかお腹がすくようだ、と奇妙な感動をおぼえつつ、クランは波打ちぎわを離れて海の家や売店が並ぶ方へと歩き出した。あらゆる店からソースや醤油のこげるいい匂いがただよっていて、かき氷機がしゃらしゃらと涼しげな音をたてていた。その様子に少し、クランが頬をゆるませる。と。
「あのー、ちょっといいですかぁ?」
 鼻にかかったような甘ったるい声に呼び止められた。見れば、水着姿の女性がふたり連れ立っている。ショートカットな金髪の女性と、黒髪をポニーテールにした女性。どちらも豊満な胸を強調するタイプのビキニを着て、クランを上目遣いに見上げている。
「……なにか?」
「お兄さん、おひとりですかぁ?」
「もしよかったらぁ、あたしたちと遊びません?」
「あー……、いや……」
 これはいわゆる「逆ナン」というやつだろうか。道でも訊かれるのかと思っていた自分の認識の甘さに、クランは戸惑いつつ内心で苦笑する。女性たちは、ボディラメでも使っているのだろうか、ほどよく焼けた健康的な肌をきらきらと輝かせていた。
「もしかしてぇ、照れてますー?」
「やっだ、可愛いー!」
 どう断ろうかと言葉を探している間に、女性ふたりは勝手に盛り上がってしまった。いつの間にか、金髪の女性の腕がクランの腕に絡みつけられている。
「いや、そういうことではなく……。すまない、今は友人と来てるんだが」
「えー、そうなんですかぁ? もしかしてカノジョとかですかぁ?」
 黒髪ポニーテールの女性が頬を膨らます。クランはアークの姿を探してきょろきょろしてみたが、目線を変えるたびにふたりの女性もそこへ回り込んでくるため、上手く探すことができなかった。
「……いや、女性ではないが……参ったな……」
 相手はハンターでもなんでもない一般の女性であるし、力ずくで振りほどくのはまずいだろう。どうしたものか、と思案していると。
「クラン。こんなところにいた。探したんだぞ」
 ひやりとした手が、クランの腕を取った。絡みついていた金髪の女性の腕が、まるで魔法にでもかけられたようにほどけ、遠くなる。クランがえ、と思う間もなく、当然のごとく隣にアークがいた。アークはそのままクランの腕を引いて、すらりと身を寄せた。海に入る前にクランが「細身だ」と言った体は今、水に濡れてしっとりと冷たい。
「っと……、アーク?」
 されるがままに腕を引かれ、クランが少しだけよろめきながらアークを見ると、アークはクランとは目を合わせず、ふたりの女性に向かってにっこりと笑顔をつくった。
「ごめんね。俺たちだけで十分楽しんでるから」
「えっ……」
 ふたりの女性は面食らっているらしく、大きく目を見開いて立ちつくしていた。アークの言葉に驚いたのは実はクランも同じだったのだが、この機会を逃してはならないとばかりに同調する。
「……そういうことで、今日はふたりなんでな。すまないが……」
 クランはアークと寄り添ったまま、ふたりの女性の前からそそくさと立ち去った。え、何どういうこと、と背後で騒ぐふたりの女性の声が聞こえてきたが、その声は特に憤慨した様子はなく、むしろ妙にはしゃいだものであるように思えた。



「まったく……面倒な目にあった。……あぁ、腹も減った。そもそも何か食べようとしていたんだった……」
「次にまた絡まれないうちに腹ごしらえでもしようか」
 クランは大きくため息をつき、アークはくすくす笑いながら寄り添わせたままだった体を離した。思い思いの食べ物を売店で購入する。
「暑いときってなぜか熱いものが美味しいんだよね。ほら、このトウモロコシ……」
アークは店主に金を払い、網の上に並べられているトウモロコシを選んで持ち上げた。と、思ったら。
「うわ熱っ。クラン、口、パス」
素手で焼きトウモロコシを持ちあげてしまい、あまりの熱さに驚きつつ、次にアークが取った行動は、相棒の口にそのアツアツのトウモロコシを押し込むことだった。
「この焼きそばも結構美味……、は? いや待っ、あっっっつ……!?」
クランは焼きそばを嬉しげに頬張っているところだった。つまり、皿と割り箸で両手がふさがっている。そんな、ふせぎようのない状態で焼きトウモロコシを口に押し込まれ、さしものクランも慌てふためく。
「あっははは!」
 取り落としそうになったトウモロコシをすんでのところでキャッチしながら、アークがけらけらと笑う。まるで砂の上で踊るような動きを見せたクランがおかしくて。
「お前な、突然何を……ふはは、ったく……」
 盛大に文句を言ってやろうと声を荒げたクランも、アークが本当に楽しそうに笑うのを見て一緒に笑ってしまった。
「何やってんだよ、クラン」
「それはこっちのセリフだぞ、アーク」
 ふたりとも、ふざけあってくすくすゲラゲラ笑いあう。太陽の熱を浴び続けて熱くなっている浜の砂の上を、ふたりの笑い声がすべってさらに熱をあげていくようで。
「はー、笑ってたらなんかまた暑くなってきた気がするよ」
 ようやく焼きトウモロコシを正しく齧って味わいながら、アークがそう言った。クランも焼きそばをおかわりして頷く。
「食べ終わったらもう一度泳ぐか」
「そうしよう」
 ふたりは再び笑いあってから、波打ちぎわを眺めた。また、駆け出すために。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568/アーク・フォーサイス/男性/17/舞刀士(ソードダンサー)】
【ka6605/クラン・クィールス/男性/18/闘狩人(エンフォーサー)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。
紺堂カヤでございます。この度はご用命を賜り、誠にありがとうございました。
なんとか暑さの残るうちにお届けしたかったのですが、ギリギリアウトな感じになってしまいましたでしょうか……。
夏の思い出をひとつ、彩ることが出来ていたなら幸いです。
どうぞ、楽しんでいただけますように。
イベントノベル(パーティ) -
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ファナティックブラッド
2018年09月12日

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