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『 血の雨がふる 』
煤原 燃衣aa2271)&アイリスaa0124hero001)&世良 杏奈aa3447)&エミル・ハイドレンジアaa0425)&藤咲 仁菜aa3237)&楪 アルトaa4349)&火蛾魅 塵aa5095)&阪須賀 槇aa4862

プロローグ

 抵抗……。
 したのだろうか。
 暁隊舎エントランスには暁メンバーが全員集まっていた。
 普段はここが彼女の職場で、言葉は発せなくとも彼女は華の咲いたような笑顔を向けてくれていた。
 それが日常で、決して変わらないものだと信じ込んでいた。
 しかし彼女の姿はなく、代わりに血痕が残っていた。ごくわずかな血痕が乾くことなくデスクの上に点々と伝っている。
「ラグ・ストーカー」
 鎖繰は茫然とつぶやいた。刀の柄に手を置く。
「けど、手口がやつらっぽくねぇお」
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』が白衣を脱ぎ捨てて告げる。
 研究にこもっていたのだ。目の下にはくまが目立つ。
「すぐに奪還に向かいましょう」
『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』が告げた。
「しかし隊長、こちらの今の戦力でラグストーカーとまともに渡り合えるかな?」
 アイリスが告げた。
「やれないんじゃない、やるんです」
 燃衣が鋭く叫んだ。
「冷静さを欠いているね。そんな状況で犠牲無く……」
「今僕たちが手をこまねいていれば彼女がどうなるか分かったものじゃないんです!!」
 燃衣は階段の手すりを叩く、その手は震えている。
「私は、賛成だ」
 燃衣の言葉に答えを返したのは『月奏 鎖繰(NPC)』。
「仲間の命には代えられない、今は危険を冒すべき時だ」
「もっと多くの仲間の命を失うかもしれないよ」
「いいや、それは違う」
 鎖繰はアイリスを見て首を振る。
「私たちはここで出向かなければ、仲間を見殺しにしたと『心』が死ぬ。それは隊員の命すべてを失うに等しい行為だ」
 全員が顔をあげて鎖繰を見すえた。
「私に誇りなき生は死だと。教えてくれたのはあなた達だろう?」
 その瞳を一つ一つ見返す鎖繰。
「行きます」
 燃衣の背中が怒りに燃えている。
「かならず、ぶち殺す」
 その瞳が黒く染まっていく。
 そのまま燃衣は手すりを握りつぶした。
「清君、僕はもうあなたを、許すことはできなさそうです」
「さぁ、準備するお。アンチマリスウェポンも完成したから配布するお、使い方は……」
「やれやれ、こうなることはわかっていたがね」
 そんな仲間たちの背中を黙って『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』は見つめていた。その表情、言葉、行動を思い。
 仲間が攫われて、皆は苛立ったり、悲しんだり不安がったりしていた。
 けれど自分にはそんな感情微塵も湧き上がってこなかった、微塵もである。
 何か言わなければ、そう強迫観念にさらされた。
 口を開こうとした。けれど何の言葉も湧き上がってこなかった。
 ただあった想いは、次はだれを殺せばいい?
 そんな破壊衝動……に似たなにか。
 だからエミルは身をひそめているしかなかった。
 仲間なんだから。仲間のために、仲間らしい言葉をかけなければ、発言権はない。そんな気がして。
 暁に加わって長いことやってきた。
 彼女は仲間のはずだ。彼女が攫われたことに危機感を覚えなければ……でなければ自分は何のためにここにいるのだろうか。
 自分は何のためにここに。
 その時だ、エミルは自分の右側に暖かみを感じた。
 ふと視線を逸らせばそこにはウサギ耳の少女がいる。
 仁菜が顔をあげ、祈る両手を拳に変え。凛とした眼差しでもって燃衣を射抜き、そして真っ直ぐ告げたのだ。
「うん、隊長いこう。もう誰も失わない。失わせない」
 その眩しさにエミルは視線を逸らした。
 彼女のように温かく、感情豊かに。
 そんな風に自分はなれない。
 そうエミルは思った。

   *   *

 40分で支度しな、そう言われた矢先アルトは自宅に走った。
 今回も大仰な装備が必要となるだろう。
 なので自宅の火薬庫。もといAGWの保管庫から武装をチョイスしているとふとアルトは扉の空く音を聞いた気がした。
 そんなはずはない、自分の家には自分だけ。
 そう冷や汗を流した直後背後に人の気配を感じた。
「救いが必要だよ」
 その人物はアルトの瞳を射抜くと告げた。
 金色の髪の毛は長く地面についている、小柄な少女、髪の毛で人相がほぼわからない。
 ただその声には聴き覚えがあった。
「誰だお前……」
 それは流れる髪をかき分けて力のある左目でアルトを射抜くその少女。
「あなたにならそれができる。全部壊してしまいなさないな。構わない。それがあのロボットには備わってる」
「お前VVか?」
 アルトの言葉に少女は反応を返さない。
「破壊は救い、そうでしょう?」
「なんだかわからねぇけどよ。今はふざけてる時間は……」
「あなたは今日、ひとつの地獄と対面する。その地獄を救うためには、破壊をもたらすしかない」
「お前何言って」
 次の瞬間である。アルトの目の前から少女の姿が掻き消えた。
 煙のように、金色の光と金木犀の香りを残して、消えてしまった。
 不穏さを感じながらアルトは愛用のガトリングを手に取る。
 不思議と、その銃を持つと誰かの悲鳴が聞こえた。

第一章

 作戦開始から30分、暁は敵潜伏地帯から数キロ離れた場所で車両をかくし、そのまま全身。
 敵が待ち受けているとされる研究施設は山の中に存在した。
 全ての場所はエントランスに残されていた血文字の紙切れにかいてあり。
 全ては罠だと思われた。
 それに対して暁は班を二つに分けることで対応。
 燃衣率いる本体は囮もかねて真正面から挑むつもりだった。
「私は彼がいなくてよかったと思ってる」 
 誰にでもなく『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』は告げた。
「彼は仲間のピンチに自分を切り捨ててしまう人だから」
 その言葉に燃衣が返事を返す。
「そうですね、僕もあまり戦わせたくはないんです」
 燃衣が告げた。
「隊長、あの人、私とおなじになっていませんか?」
「同じ、とは?
「英雄化…………」
「…………なんですかそれは?」
 その言葉に燃衣は笑顔を披露してみせた。だが仁菜の確信めいた思いは変わらない。
「たぶん、私と同じ」
 そう進軍する暁一同の背中を誰かが見下ろしていた。
 木の隙間、細い枝に腰を下ろしてどこから調達したのか木の実をかじっている。
 その者はラグストーカーではない。だが暁でもなかった。
 月が雲を裂いて光を届けた。浮かび上がる横顔は『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』。
 依頼された仕事を終え帰投してみれば何やら騒がしい、巻き込まれないように様子を見ていたが、さてどうしたものか。
「まさか俺ちゃんへの仕返し?」
 塵はそう大げさに両手を口の前に持っていき、よく言えば茶目っ気のある……悪く言えばむかつく動作をする。
 塵は有力者の暗殺と施設破壊、様々な悪行をラグストーカーのせいにしてここに戻ってきた。腹を立てていても仕方ないだろう。
「まぁ、せいぜい俺ちゃんの動きやすいようにしてくれよ」
 再び月を雲が覆う、闇が訪れた。
「俺ちゃん、次にやんねぇとなんねぇのがよ。暗殺なんだわ」
 暗闇に塵の煙草の光だけ灯る。
 それが顔をわずかに照らす。
「たとえばお前らと仲良さそうにしてる、裏切り者とかのよ」
 一気に煙草を吸うとフィルターまで差し掛かり火は消えた。
 暗闇に悪魔が一人放たれた。

   *   *

「VVたん、情報は確かだお?」
 槇が扉の前でアイコンタクトだけで話をすると『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』も槇に言葉を返す。
「はいっす! ここから先は玄武のプラント。玄武の力の源がある場所っす」
 いつの間にか二人だけで繋がる暗号を作っていたらしい、右と左の瞼の動きと瞬き回数で言葉を伝えるらしい。
「おそらく罠をはっているのも玄武。四天王で一番気持ち悪いやつっす、油断すると危ないっすよ」
 そう全員に告げるVV。
 そのVVの姿を『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』と『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』はいぶかしんでみている。
「玄武かぁ」
 仁菜は心底嫌そうにする。
「彼女がここに……」
 燃衣の言葉にVVが小さく言葉を返す。
「確証は、あちら側からのリークのみっすけど」
 どうする? そう問う視線が燃衣に集まる。
「突入します。すでにあちらの準備も整ってるでしょう」
 燃衣はその幻想蝶から斧の柄を伸ばす。
「その準備ごと食い破る」
 引き抜いた斧で燃衣が扉を吹き飛ばし先陣を切ると、敵側は混乱した様子もなく迎撃態勢に入った。
 暗がりから伸ばされたのは腕、腕、腕、腕。
 無数の腕が信じられないほど長く伸びて燃衣の体をがんじがらめにする。
 しかし。
「やってください」
 杏奈の瞳がギラリと光る、その腕の魔本から闇があふれだしその腕を刈り取った、燃衣は首元に伸びる腕を腕力だけで引きはがし思い切り引くと、その先には蜘蛛のように足の長い何者かがのたうっている。
 逃げ出そうともがき、もう片方の腕を伸ばす。
 それを燃衣は手の平で受け止め爆破し、掴んだ腕を綱のように引いた。
「これは……なんです?」
 体勢の崩れた敵にエミルが斧で切りかかる。
 そのエミルを捕えようと八方から伸ばされる腕をエミルはその体の小柄さを生かしてすり抜け。全ての腕を大斧で両断した。
 エミルは暗闇の中に突貫する。
「玄武の失敗作、なりそこないだ」
 鎖繰が告げる、納刀すると時が動き出したかのように腕が空中でバラバラに裂ける。
 だが、まだくる。まだ暗闇から腕が。
「私が照らそう」
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』が走る、灯りとなって暗闇に潜む虫のような何かを浮き彫りにする。
 その光に化物たちは恐れおののいた。
「失敗作だぁ?」
 アルトが代わりにVVに問いかけるとVVは重々しく告げる。
「その、玄武は、自分を増やそうとするんす。無限の回復力、その正体は無限のたんぱく質の保有。つまり、そのなんていうか」
 その歯切れの悪さにアルトは首をひねるが、アイリスは眉をひそめて懐のあれを思う。
(まさか。全な毒薬を使う時が来るか? いや、まだ早すぎるだろう)
 アイリスは翼を羽ばたかせ飛翔。距離をとりつつ部屋全体を明るく照らす、妖精パワーフル放射である。
 その視線の先、照らしきれない暗闇で何かが蠢く気配を感じた。
「右側だ! 警戒したまえ」
 VVとアルトに殺到する腕、波のような腕の群にアルトはガトリングを打ち放つ。
「VVたん、まさか」
 槇はすでに何事かに気が付いている。それが何なのか追及している暇はない。
「こっちだお」
 アルトが食い止めている間に槇は、VVの手をとって奥の部屋へと走る。
 魂の突撃銃「SKSG?01」を召喚。低反動で有効射程と連射速度に優れたそれは片手でも難なく扱うことができ、制度も高い。
 暗闇の中に蠢く音、反響音だけで槇は敵の位置を補足して、腕や足を射抜いて敵の動きを止めた。
「隊長! 取り残されるぞ!」
 アルトが銃を撃ちながらじりじり後退するも燃衣だけは化物の中心にいる。
「お前たちが、お前たちがいるから」
「ダメっす、あんまり敵を追い詰めちゃ!」
 VVが叫んだその時、燃衣が倒した骸の残骸が寄せ集まって巨大な人間の顔を作り出した。
 まるで骸骨のようなそれ。それの懐に雲のような改造人間たちは集まって体を形成していく。
 腕が肩が、背骨が生える。
 その人間の塊は口を開くと、そこから腕の束が伸び、燃衣を捕えて巻きあげた。
 そのうねりは空中で燃衣を揺さぶるとその勢いのままに燃衣を壁に叩きつける。
「がはっ……」
 それでもなお腕は燃衣に押し寄せ、それは壁を掘削するような勢いで燃衣の体に拳が浴びせられる。
 エミルがその腕の群を断ち切った。次いで仁菜が燃衣を救出、そのまま大扉へ走る。
 VVと槇は全員が突入したのを確認すると扉を閉める。直後巨大な衝撃が扉を叩くもそれ以上は何もなかった。
「逃げられたお」
「助かったッス」
 そうへたり込むVVに手をさしだす槇。その手をVVがとり立ち上がると槇は電気を探して壁をまさぐった。
「それにしても、隊長どういうことだお」
 先日から燃衣の戦闘はめちゃくちゃだ。なんというか、パワーに頼るというか、感情のままに戦っているというか。
「隊長どうしたんだお。何があったんだお」
 そう槇が問いかけるもその言葉はメンバーの息をのむ音で遮られた。
 電気のボタンを発見しそれをおすと赤くぼんやりした灯りが世界を満たす。 
 次の瞬間にはVV表情が引きつり、強張った。
「………………なんですか、これ」
 仁菜の声。
「へ?」
「なにが、目的なんだ、清君!!」
 その時やっと槇の耳に、ねちゃりとした粘液質な音が届いた。
 振り返る槇。
 そこに広がっていたのは地獄だった。


第二章 浄土と輪廻
「何をしてるんだお」
「きみは見ない方がいい」
 そうアイリスが目を追おうと歩み寄るが槇はあえてその光景に歩み寄ってしまう。
 槇は震える手で口を押えて嗚咽をかみ殺す。
「しかし、そうだね君たちにみないという選択肢はないか」
 アイリスはいつもの調子でそう告げる。
 そこに広がっていたのは肉の宴。
 無数に転がされた人間たちは最低限の尊厳もなく扱われる家畜だった。
 服を着ていない。男性も女児も、年齢、性別人種。分け隔てなくそこに放り込まれていた。
 ただ、一番最悪だったのは、理性のないその空間。
 見れば女数人が群がって男のゾウモツを引きずり出して食らっていた。
 それだけじゃない。
 ゾウモツを食い散らかされている男は笑っている。謳っている。 
「死んでしまった君のため」
「僕が変わろう君のため」
「あなたに私を」
「私にあなたを」
「永久の命をここにみよう」
 異様な空間だ。見れば双子と思われる男女が頭蓋骨を取り外し、お互いの脳みそを切って入れ替えている。 
 あなたは私、私はあなた。
「……ん、それ、いみある?」
 エミルが歩み寄り、そう双子に問いかけると、双子は真ん丸に見開いた目でエミルを見あげた。
「アーコが死んでも僕の中にいるように」
「カークンが死んでも私の中にいるように」
 そして二人は涙を流し始めた。
「「もううしないたくない、もうしにたくない、もうしなせたくない」」
 だから一つになっていくんだ。
 見れば大人たちが少女の体に様々な物を突っ込んでいる。
 最後には自分が少女の体に入ろうとしてその皮を破裂させていた。
 その頭が吹き飛ぶと杏奈の足元に転がって。杏奈を見あげる。
「おかああさん、私をもう一度作り直して」
「……こんな」
 杏奈はその頭を抱え上げると臓物が絡みつくのも構わずに抱きしめた。
「ここでは死が存在しないのか」 
 燃衣が茫然とつぶやいた。
 その燃衣のそばでずるりと音が聞こえる。
 狼耳の男。 
 その男が槇にすがりついて声を漏らした。
「俺は、俺はどうなっちまったんだ。俺は何で死ねないんだ。殺してくれ。頼む、殺してくれ」
 誰かになってしまう前に早く。
 槇は理解した。
 玄武の力の源はこれだ。
「ここ、ドロップゾーンだお」
 現実の法則ではないルールに基づいた空間。
 個人という概念が失われ、ここではすべてが溶け合って一つになる。
「なんなんだお、これ!」
 槇は拳を地面に叩きつける。
 血がべっとりとこびりついた。
「……ねぇみんな。ここにいたら危ないんじゃ」
 そう声を発するエミル、その手をVVが取った。VVは全員の視線をかいくぐってエミルをこの部屋のすみっこ、大型のPCが置かれているスペースに誘導した。
「いやだ、いやだーーーー」
 直後空から何かが投下された、それは服を着たままの女性。
 助けるために地面を駆けたリンカーたちは地獄にひしめく亡者たちに絡め捕られ動きを封じられる。
「くそ、噛みついてくる」
 鎖繰が刀を抜こうか、抜くまいか迷っていると絹を裂くような女性の声が。響いた。
「血を分けてください」
「皮膚をわけてください」
「心臓を分けてください」
「脊髄をください、白血病なんです」
 様々な求める声が木霊して、投下された女性は骨も残さず亡者たちの餌食になった。
 残ったのはわずかな血。それすら亡者たちはむさぼろうと血だまりに頭を突っ込んだ。
「ここにいる人たちは生まれながらに何かがかけていたために、廃棄される人物だったっす」
 VVがそうつぶやいた。
「玄武もその一人」
 VVは語る。
「玄武は生まれながらにテロメアが限界まですり減った状態だったっす。玄武は12歳を迎えるころには右腕はしなびて、造血能力はなく、輸血に頼り、その輸血の影響でさらに体を壊すということを繰り返していたッス。」
 細胞分裂が正常に行われないのだ。やがて15歳の時には脳の萎縮が始まった。
「玄武は生きるためにラグストに入らざるおえなかったんす」
 ラグストーカー。欲望を果てなく追い求める者達。満たそうとする者達。
 玄武の渇きは命だった。
 命という水が体から流れ出ていく、それを止める術が必要だった。
「それが、それが他人の命を奪うことだってのかお!」
 槇は地面に頭をこすり付けそうな勢いで屈みこんだ。錆臭さが鼻をつく。
「それにここにいる人間達も欲にまみれた人間っす。なぜならここにいる人間たちは他人から欲するパーツを食えば、健康なそのパーツが手に入ると言われてここに来ることを承諾した人たちっすから」
 だからカニバリズムは終わりを迎えないのだ。
「アイリスさん、霊薬持っていますか?」
 ただ、そんな状況に仁菜は光明を見出した。
「もっているが」
 アイリスは首をひねる。
「それを使ってください」
「いいのかい? 重要な戦力で、そしてこれを使い切ったとしても足りない」
「いいんです」
 燃衣が告げる。その言葉にため息をついてアイリスは言葉を返した。
「よくない、私の言葉の意味を理解していないようだな。一度手を貸せばそれは選択したという事と同義だ」
 選択は自分の責任となり肩にのしかかる、救えなかった命は自分の選択だ。
 誰かを救えない、救わない。その選択を下すというのは、誰かを殺すという事と同義であり、それは罪だ。
「私が! 私が何とかするから」
 仁菜が転がっていた血まみれの女性の手を取って、治療を開始する。
 その女性は心臓が無いと言っていた。だがいくら霊力と言っても心臓を再生するまでに至らない。
 だがアイリスの霊薬ならどうだ。
「わかったよ」
 霊薬の効果はすさまじく心臓を複製する。
 それを見て亡者たちが仁菜に殺到した。
「助けて」
「救って」
「命を」
「いたい」
「いたい」
「いたい」
 それを仁菜は次々と回復させていく。
 ただアイリスは首をひねる。
(霊薬の力だけではこれほどまでには再生能力は上がらないはずだが。まさか)
 仁菜は休まず力を行使し続けた。
 その再生の力、命の力は霊薬の力も合わさって、死んで蘇ってを繰り返す人々を正常な輪廻の輪のなかに戻していく。
 ただ。
(ごめん、ごめんなさい)
 英雄がやめるように頭の中で叫ぶ中、仁菜はその力を行使し続けた。
 全員は救えない。
 そんな気はしている。
 だって癒しても癒しても傷ついた人は列をなす。
 全員を癒し切るまで力は足りない。それも分かってる。
 だから治療できるまでの人数を決めている。
「私の命は私の物じゃなくて。
 あの子が目覚めるまで戦い続けなきゃいけなくて。
 それに私が消えたら回復を失った仲間が死んじゃう」
「仁菜たん、それ以上は」
 そう槇に肩を引かれる仁菜。
 その槇の表情を見て思い出したことがあった。
(お兄ちゃんに貰った切り札を使う?)
 英雄にそう問いかける仁菜。
「でも今使ったら玄武に会った時皆死んじゃう?
 でも……、仲間を守る為子供達を見捨てるの?」
 子供が二人、白人の子供、黒人の子供。共に体の重要な部位を欠損している。互いにそれを食い合いながら補てんしている。
 しかし救えるのは。
「薬の小瓶はもう一つだけ」
「仁菜、もうやめろ、その子たちを助けたとしてももう」
 アイリスが告げる。盾を構えて、これ以上力を使うなら殴って止めるつもりでもいた。
「なんで! 何でアイリスさんはそんなに冷静でいられるんですか。そんなに強大な力があるのに!」
 仁菜はそう訴えかける。
「ああ、強大だ。しかし、この世のすべては有限なんだ。君の力も私の力もね」
 場は混乱していた、仲間たちも冷静さを欠いてきた。
 そんな中、アルトは何もできない自分の無力を呪っていた。
 自分は壊すことしかできない。
 壊すことしか。
 その時、耳元で声がした。
「全部。壊してしまいなよ」
「だめだ!」
 そう叫んだ矢先。厳重に閉ざされていた大扉が吹き飛び、宙を舞った。
 

第三章 失敗作

 吹き飛ぶ扉。
 その鉄の塊は車輪となって降り注ぎ何人かを巻き込んで停止する。
 そこに立っていたのは、肌色の巨大な人間。
 先ほど見た失敗作の完成形だろう。
 その失敗作は腕を伸ばして、仁菜が癒した人々を掴みあげると次々と丸呑みにしていく。
 その行いにアルトが切れた。
「てめぇ!!」
 ミサイル全弾発射。プラズマカノンを充填しながらカチューシャを放つ。
 爆炎の向こうでも関係ない、あの巨体の動きなんて予想ができる。
 プラズマカノンを発射するとその衝撃で体が軋むのも構わず銃を抜いてうち放つ。
「ちくしょう……」
 前転。血を巻き上げながら体勢を立て直すと、今までアルトがいた場所を拳が通過した。
 その腕にガトリングを叩きつける、すると剥がれ落ちるように散らばったのは人間のパーツ。頭や口が散らばって笑い声をあげた。
「アルトさん」
 VVが叫ぶ。
「なんだよ!」
 ガトリングを投げ捨て距離を大幅にとるアルト。
 弓を構えて敵の眉間に放った。
「殺すのはこっちっす」
 振り返るアルト、VVがそこには立っていて、その背後では何が何だか分からず固まる肉塊たちがいた。
「何でそいつらを撃たなきゃなんでねぇんだ」
「失敗作も玄武も、この人たちがいる限り再生するッス。やるなら今っす」
「できるか!」
「破壊の力で、仲間を今、救うッス」
 アルトは自室に現れた少女の言葉を思い出す。
「ちくしょう!!」
 アルトは天上、壁、当たり一面を攻撃し始めた。
「ゾーン自体がなくなっちまえばいいんだろう?」
「……まって」
 アルトの銃撃に対してエミルが斬りこんできた。
「なんだよ!」
「研究データ吸い出してる」
 エミルが告げた。
「それは重要なものなのか?」
「ここにいる人たち、もどせる……かも」
 その背後でVVがエミルだけにつぶやいた。
「それにあなたのルーツも分かるかもしれないっすよ」
 エミルは振り返る。
「ルーツ? もしかして玄武……私の?」
 あの異常な回復力は自分に通じるものがあった。そうエミルは思う。
 そんな動きを止めていたリンカーたちを見逃すはずがなく、失敗作はその腕を伸ばして攻撃をする、先ほどからそうとう削っているはずが、攻撃しても傷がすぐさま再生されてしまう。
「皆さんは温存しておいてください」 
 そこで燃衣が前に出た。
「たぶんもうじき玄武が来る。こいつは、僕が抑えます」
 直後燃衣の前進を霊力が覆う。
「灯羅鬼志(ひらぎし)」
 放たれる炎のオーラは地面をなめて揺れる。
 その炎の揺らめきが停止した。
 いや、正しくはものすごくゆっくり動いているのだ。
 燃衣は思考を超加速。時の流れが違うなか、高速で敵に歩み寄った。
 そして。
「はああああああああ!」
 再生が間に合わないスピードで敵の頬を、頭蓋を削っていく。
 まるでその姿は敵を食らい尽くそうとする獣のよう。
 その燃衣の背後にアイリスが近付いた。
「これをうちこむ」
 燃衣は聞いていない。聞く耳を持たない、意識がもうろうとしているようだ。
 その様子にアイリスはやれやれと首を振るとその脇から体を滑り込ませ。むき出しになった敵の脳みそに腕をさしこんだ。
 それは完全なる毒薬。
 アイリスが短命の桜を元に作り出した再生を阻害する薬。再生力を上回る致死毒にて苦しむ事無く眠るように即死させるための薬だが、体内におけないのでは意味がなかった。
 だが燃衣の掘削にも似た連続攻撃でその隙ができたのだ。
 アイリスは燃衣の腹を抱えるようにいったん離脱、次いで。その失敗作は動きを止め。そして眠るようにその場に崩れた。
 その死体の山で蠢く何かがいた。
「玄武」
 体から膨大な熱量を陰炎として立ち上らせ。玄武が失敗作の巨大な心臓を食い破るように内側から現れた。
「僕の隊員を返せ!」
 獣のように吠える燃衣ににやりと笑みを見せる玄武。
 疑惑が深まる中、第二ラウンドが開始される。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』
『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
『月奏 鎖繰(NPC)』
『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 皆さんこんにちは、鳴海でございます。
 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 今回は玄武戦前編ということで、前哨戦とあとは疑惑が膨らむ会にしました。
 本当であればVVはこのお話しで正体が割れる予定だったのですが文字数の関係で、泣く泣く……。
 VVの事件に銀志さんが関わっていたという形で正体が明らかになる予定です。
 次回予告みたいなものですね。
 それではまた、お会いしましょう。それでは鳴海でした。ありがとうございました。
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2018年09月14日

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