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『エフィスの街の光 』
鬼塚 陸ka0038)&シャロン=フェアトラークスka5343

 キヅカ・リク(ka0038)はグリフォンに乗って酒都『エフィス』を目指していた。
 ハンターとしての依頼?
 否、今日は完全なるオフだ。しかし、キヅカは依頼の時以上に緊張していた。
「だ、大丈夫?」
 一瞬、舌を噛みかけた。
 それでも平静を装いながらキヅカは後方を振り返る。
 キヅカが緊張する原因――それは、キヅカの腰にそっとしがみつくシャロン=フェアトラークス(ka5343)の存在であった。
「ええ。ところでこれが本当に、仕事なのですか?」
「そうだよ。他領地の視察は立派な仕事。他領地の良い所を持ち帰って、自領で実践する。それは領地に住む民の生活向上にきっと繋がるから」
 空気の塊がシャロンの顔に吹き付ける中、大きな声でキヅカに問いかける。
 実はキヅカがシャロンをグリフォンの背に乗せてエフィスを目指すのには理由があった。
 偶々シャロンの領地近くを通りかかったキヅカは、シャロンの自宅へ立ち寄る事にした。
 シャロンは王国でも有力貴族であったが歪虚の被害を受けてから、楽な日常は訪れていない。独学で医学の勉強をする傍ら、仕事に忙殺されていた。
 仕事続きで遊びにもいかず、ベッドで横になる事もほとんどない。
 それがキヅカの知っているシャロンの日常だ。
 シャロンはこの生活パターンを問題視していないが、キヅカや屋敷の執事はそう考えていない。このまま仕事に振り回され続ければ、体以上に心が悲鳴を上げる。
 せめて、年相応の楽しみを思い出して欲しい。
 そう考えたキヅカは、シャロンを無理矢理屋敷から引っ張り出してグリフォンに乗せたという訳だ。
 他領地視察は方便。重要な事はシャロンに息抜きをさせる事だ。
「……あ。風が」
 突然の突風。
 シャロンは反射的にキヅカに回した手に力を込める。
 キヅカの腰に回される細く白い腕。
 自然と密着度が向上する。
「ちょ、ちょっと!」
「何か?」
 シャロンからすればグリフォンから落ちないようにキヅカの腰を掴んでいるだけだ。
 だが、異性に密着をされて意識しない男は、そうはいない。
「い、いや。何でもない。もうすぐエフィスだ。急ごう」
 キヅカのグリフォンは上昇気流に乗って、さらに空へ舞い上がる。
 不安そうな顔をするシャロンを――乗せたまま。


 酒都『エフィス』。
 正式名称はトーネ・ノモ・エフィス。元々は良質なぶどうが栽培されていた事から有力なワイナリーが立ち並ぶ事で有名な街だった。
 だが、酒ある所に往来あり。
 有名な酒を求めて人が訪れ、いつしか酒場が生まれる。さらにこの街の特異な場所は、酒以外の文化が入り込んだ事である。
「これは、とても大きな劇場ですね」
 シャロンの前に現れたのはエフィスで一番大きな劇場『ティンカーベル』。外見からはややレトロで古い建物に見える。しかし、劇場としては有名な部類に入る。事実、先程劇が終わったのだろう。建物から次々と人々が流れ出ている。
「エフィスは劇場の街としても有名なんだ。周辺には大小様々な劇場があり、舞台人として明日を夢見る若者が多く訪れるんだ」
「明日を夢見る? つまり、俳優志望の方々でしょうか」
「そう。だけど、俳優だけじゃない。裏方や劇作家、演出家に監督。舞台を支えるスタッフを目指す人もこの地を訪れるんだ。街自体は大きくないんだけど、多くの人がこの街に住んでいるよ」
 エフィスは売れない役者を多く抱えると揶揄される事もあるが、その多くは日々の生活に困窮しながらでも明日の自分を信じて必死になる者達である。
 明日の為に今日を必死に生きる。
 その姿をキヅカはシャロンにも見て欲しかったのだ。
「そうですか。では、早速聞き込みを始めましょう」
「え?」
 雑踏の中、キヅカは思わず声をもらした。
「何を聞き込みするの?」
「決まってます。この地の調査です。この街の発展について皆様から意見を聴取するのです」
 そう、シャロンにとってエフィスへ来たのは仕事である。
 仕事である以上、少しでも情報を入手して自領の発展に役立てたい。
 その為ならば、多少の恥も関係ない。
 シンプルなワンピースとカーディガンを風に靡かせながら、シャロンは行動を開始する。
「ま、待って……!」
 そう呼び掛けるキヅカをよそに、シャロンは周辺の人々へ話し掛ける。
 上品で淑女そのもののシャロンではあるが、世間知らずな所は相変わらずのようだ。


 その後、シャロンとキヅカはエフィスの街を回り続けた。
 庶民向けの商店街やレストランを巡った二人は、小さな喫茶店で腰を落ち着けていた。
「これ、見て下さい。白いクリームの上にとても大きなイチゴが乗っています」
「この喫茶店の名物だよ。古くて小さな店だけど、ケーキの美味しい店として有名なんだ」
 大きなパフェを前にシャロンのテンションは一気に急上昇。
 鼻の先にクリームをちょっと付けたシャロン。街を歩くにつれ、仕事を忘れて楽しみ始めたようだ。
(シャロンちゃんもこうしてみれば、僕とそう変わらないんだよな)
 屈託のない笑顔。
 自領の屋敷で仕事に忙殺されている時には見られない顔だ。
「ところで、この街は随分と道が狭いのですね」
 ふいにシャロンは街並みで気になった事をキヅカへ質問してみた。
 人工密度の割りに道幅が狭いのだ。場所によっては人がすれ違うだけでもギリギリな場所もあり、馬車で通ろうにも一苦労しようだ。
「ああ。元々酒場が多かった街だからね。これでも店は入れ替わったりしているんだ」
「ふふ、とても物知りなんですね。この街に沢山訪れているのでしょうね」
「は、ははは」
 キヅカは笑って誤魔化しているが、実はキズカもエフィスには数回訪れたのみだ。
 このような時を考えて知識だけは蓄えていたが、実際来るのは初めての店も多い。洋服店がノーマークだった為、次回からは洋服もしっかりチェックしようと考えていた。
「この街に連れてきていただいて良かったです。
 やはり、人が集まるから街ができる事を思い出させていただきました」
 シャロンは外の道を行き交う人々に視線を送った。
 大道具を抱えて歩く俳優のタマゴ達。
 その傍らを通り過ぎる酔っ払いの親父。
 ――人々の熱気。温もり。
 そうした物がこの街を形成している。
 人無くして、街は存在し得ない。
 貴族であるシャロンは決してこの事を忘れてはならない。
「喜んで貰えて良かった。でも、まだ紹介したい場所があるんだ」
「本当ですか? 次はどんな場所に連れて行って貰えるか、楽しみです」


 ディナーを終えた二人は、街から少し離れた丘へ場所を移していた。
 日も暮れて夜が訪れる時間。
 風に冷気が交じり、触れた肌をそっと撫でる。体に冷えを感じ始める中、シャロンはキヅカに連れられて丘を登っていく。
「あの、どちらへ? そろそろ戻らなければ、遅くなってしまいます」
「大丈夫。もう着いたよ。これを見て欲しかったんだ」
 キヅカとシャロンの眼前に広がるのは、宵闇の中に灯る光。
 魔導街灯に彩られた街並み。
 部屋にはランプの光が生まれ、周囲を優しく包み込む。
 シャロンの前には無数の光が星空の下で輝いていた。
「とても綺麗です」
「この街は夜景が美しい事で有名なんだ。遅くまで観劇する文化の為、街灯の設置が早くから行われていたからね。家庭にも魔導ランプのおかけで明るく、『眠らない街』なんて言われているんだ」
 酒場や劇場などで夜遅くまで楽しめる街を目指した結果、宝石のように輝く夜景が誕生した。
 この街の隠れたスポットとして二人が立つ丘も知られているようだ。
「この夜景を見せたかったのですね」
「そう。だけど、正解は半分だけ」
「半分だけ?」
 首を傾げるシャロン。
 その傍らでキヅカは、軽く笑みを浮かべる。
「あの光の一つ一つに、人々の暮らしがある。
 今日、道で見掛けたでしょう? 明日を夢見て必死に俳優達。彼らは希望ある明日を信じて、辛い今日を生きている」 
 キヅカは、今日の出来事を思い返すように語り出した。
 始めは仕事モードで真面目なシャロン。
 だが、この街の雰囲気で徐々に緊張がほぐれた。時折見える笑顔は、年相応のものに感じられた。
 息抜き。
 目標は既に達している。
 その上でキヅカは、ハンターとして伝えるべき事がある。
「みんな、いつもと変わらない明日が当然のように訪れると思ってるんだ」
「この国の貴族や騎士、そして私達ハンターがあの光を守っているからですね」
「そう。そして、僕は誰にでも平等で幸せな明日をみんなに迎えて欲しい」
 正直、キヅカにとって見ず知らずの人の生活を守ってるという自負がある訳では無い。
 ただ、この国を愛する貴族を知っている。
 この国を守る為に体を張る騎士を知っている。
 キヅカはこの国を愛するの人々の為に――自分は何ができるのか。
 人として、そして、ハンターとして考えてしまうのだ。
「誰かの明日を守る為に戦う。人でもハンターでも、それは変わらないのですね」
「その通り。僕は最後の希望がたった一欠片になったとしても、守り抜きたい。決して諦めたりはしない。
 この国の人に知られなくて、褒められなくてもいい。誰かの明日を守れるなら、僕も全力で戦って……」
 そう言い掛けたキヅカの頬に、シャロンの手が伸びる。
 ひんやりと冷たい手が、キヅカの頬から温もり奪う。
「誰も知らない? そんな事はありません。
 たとえ、この国の誰もあなたの活躍を知らなくても、私は傍らであなたを見守っていますから。
 それで最後の希望を守り抜いたら、ちゃんと私が褒めて差し上げますわ」
 シャロンの言葉でキヅカは意識を奪われた。
 突然の出来事だったが、頬を熱くするには十分であった。しかし、不思議と気恥ずかしさはない。
 何故か、それが当たり前の行動のようにも思えた。
「そうだったね。僕も一人じゃなかった。そうだな、邪神と戦う時に最後まで頑張れたら、思い切り褒めてもらおうかな」 


「寝ちゃった、か」
 シャロンの自宅へ到着する頃には、遊び疲れたシャロンはグリフォンの上で眠っていた。
 キヅカは静かにシャロンを抱きかかえ、自宅のソファーへそっと横たえる。
 寝息を立てるシャロンを起こさないようにパーカーを掛けた。
 このまま立ち去るつもりだが――。
「なんで起こさなかったんだ。せめて見送りしたかったのに、って言われるだろうな」
 優しいが真面目なシャロン。
 むくれる姿が目に浮かぶ。
 それでも、今日一日がシャロンにとって休暇になったならそれで良い。
「さて。次はどの街へ連れて行こうかな? 候補をいくつか挙げて調べておかないと……」
 シャロンの家の扉が、ゆっくりと閉まる。
 グリフォンの羽ばたきが周囲に響き、キヅカは満天の星空に向かって舞い上がった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0038/キヅカ・リク/男性/20/機導師】
【ka5343/シャロン=フェアトラークス/女性/18/舞刀士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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近藤豊です。
この度は発注ありがとうございました。
王国の都については詳しくない為、こちらで新規に街を興させていただきました。IFって便利ですね。一風変わった街ですが、イメージの街は実在しています。
少しでも雰囲気が伝われば幸いです。
それではまたご縁がありましたら宜しくお願い致します。
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ファナティックブラッド
2018年09月14日

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