▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『美味しい食べ物には裏がある? 』
月乃宮 恋音jb1221

「よいしょっ……と。ふう……。とりあえず、これだけあれば十分でしょう」
 白衣を羽織った恋音は、テーブルの上に置いた籠の中を覗き込む。籠の中には桃と、大量のバライチゴが入っていた。
「前回は『一人で試食をすれば、どんな効果が出ても大丈夫』と思っていたのは少々軽い考えでした……。確かに他の人には見てもらいたくはないほどの、とんでもない姿になりましたが、外で変身すると一人では対処できないこともありますからね」
 恋音はキョロっと周囲を見回す。
 今回は特別に、研究施設の一室を借りての実験だ。特殊な畑で収穫した野菜や果物を研究する為にと、知り合いに頼んだら快く貸してくれた。
「前回はバライチゴ一粒のみの試食でしたから、あの程度で済んだのかもしれません……。大量に食べるとどうなるのか、そして改めて変化した身体がどんなふうになるのか……。今回は落ち着いて、冷静になりながら実験をしましょう」
 施設の中であれば、万が一のことがあっても助けを呼べる。
 身体が巨大化する物もあったので、広い部屋を借りることにした。なので、少しばかり無茶ができる。
「まずは『食欲増進』効果がある桃から食べましょう」
 部屋の隅には調理セットが置かれており、畑の時と同じく桃から食べ始めた。
「んっ〜♪ 今回は冷やしてあったので、冷たくて美味しいですねぇ」
 あっと言う間に桃一個分を食べ終えた恋音は、すぐにバライチゴを片手いっぱいに取る。しかしその表情は、とても険しい。
「つっ次は『体重増加』のバライチゴっ……! 味は女性受けすること間違いなしですが、効果は受けないこと間違いなしです……! ――しかしコレも実験の為です! えいっ!」
 覚悟を決めて、バライチゴをパクっと頬張る。口の中いっぱいに広がる甘酸っぱさと甘い匂いに一瞬、恋音の表情が緩む。
 しかしバライチゴが喉を通り過ぎると、身体の変化はすぐに起きた。
「ぐうっ……! やっぱり……一粒だけとは……、効果の……現れ方が、違い……ます……ね」
 身体に重くかかる重力は、恋音の表情を歪ませる。
 それでも踏ん張りながら、近くに置いてあるデジタル台はかりに乗った。本来は工場などで使われる業務用のはかりだが、特別に借りてきたのだ。
 恋音がはかりに乗ると、とんでもない数字が出た。その数字を見た恋音は、一瞬気を失いかける。
「……はっ!? いっいけません……、ちょっと気絶しちゃいました。……しかし、ちょっとおかしいですね。この数字は明らかに人間が出せるものではありません……。なのに私、動けていますよね……?」
 見た目は全く変わらないものの、体重だけは大きく変化をしていた。それでも恋音は動けている。
「私が普通の人間ではないから……というのもあるでしょうが、興味深い変化です」
 前回の試食会の後、いろいろと収穫物を検査してみて分かったことがある。
 一般人が食べても、効果が全くでなかった。普通に美味しく頂けるだけで、身体の変化は一切起きない。
 つまり恋音と同じような普通の人間ではないモノが口にすると、効果が発揮するのだ。
「普通の人間が食べたら、この体重で潰れてしまうでしょう……。もしかして、私の今の肉体は重みに耐えられるほど、身体が強化しているのでしょうか? 副作用の効果……になりますかね。この重さを感じる部分を改良できれば、身体の重みのみ効果を出させることに成功すれば……」
 ブツブツと呟いている間に、数字は見慣れたものに戻った。
「……やはり継続時間はそれほど長くはないようですね。コレもある意味、使える結果です。まずはバライチゴの改良を進めましょう」
 真面目な顔付きで頷いた恋音は、はかりから降りる。
 この時の恋音はバライチゴの改良が、まさか『改悪』になることなど全く考えていなかった……。
 

 数日後。再び研究室を訪れた恋音は、改造済みの収穫物を籠いっぱいに入れて持ってきた。
「ふうっふうっ……。バライチゴの改造をもとに、他の収穫物の効果も変えてみました。今日の試食会は、効果のメリットとデメリットをはっきりさせなければなりませんね」
 『肉体年齢変化』の効果があるトマト、『巨乳』の効果がある小玉スイカ、『肉体膨張』の効果があるブルーベリー、『臀部膨張』の効果があるサツマイモ、『母乳噴出』の効果がある落花生。
 肉体の変化が起こる収穫物はたくさんあるものの、その中でも小玉スイカとブルーベリー、サツマイモはバライチゴと同じデメリットがある。
 それは共通して、動きづらくなることだ。
 『食欲増進』や『肉体年齢変化』は悪い効果ではないし、『母乳噴出』は食べる必要な場面を選べば良いこと。
 しかし他の四種類はどうしても動くのに不自由してしまう為に、この点の改造を重点的に行った。
「と言いましても、やはり副作用が問題です……。こればかりは実際に食べてみないと分からないことですし……」
 いくら成分を変えたところで、実際にどんな効果や副作用が出るかは食べてみないことには分からないのだ。
 恋音はあの畑の責任者として、とことんこの実験に付き合うことにした。
「まずは、結果が分かりやすいバライチゴを試食してみましょう」
 今回も、デジタル台はかりを研究室に用意している。恋音ははかりの前で、両手いっぱいに持ったバライチゴを口の中いっぱいに頬張った。
「んぐんぐっ……ごっくん! ……ふう。新鮮味は落ちちゃいましたが、熟成した美味しさがありますね。さて、はかりに乗って見ましょう」
 恋音は恐る恐るはかりに乗る。すると数字は以前より大きいものの、それでも肉体の負担はかなり減っていた。
「ほっ……。これなら実用化に向けて、バライチゴを栽培できますね」
 身体の重みはまだ少し残っているので、このまま改造を続ければいつかは全く重みを感じないまま体重増加のみの効果が出るだろう。
 普通の人間であれば体重増加の効果など何の意味も無いように思えるだろうが、恋音のような特別な存在にとってはとても重要な効果だ。
「バライチゴは食べる量が多ければ多いほど、体重が重くなるようですね。しかし継続時間は変わらず……」
 一粒だろうが大量だろうが、一定の時間が過ぎると体重の数字は元に戻る。
「効果持続の件も、研究しはじめた方が良さそうです……ね?」
 言い終える前に、ぐるるるぅ……と腹の音が鳴った。
「……今回の試食会の為に食事を抑えたせい、でしょうか?」
 声の力も弱くなっていき、強烈な空腹を感じる。
「えっと……、それでは他の収穫物の効果も調べましょう……」
 今回はちゃんと焼き芋にしたサツマイモをむんずっと掴み、恋音は皮ごとかぶりつく。
「はふっはふっ……。ん〜♪ やっぱりサツマイモは焼き芋が一番です」
 満面の笑みで焼き芋を頬張る恋音の尻は、どんどん巨大化していく。
 しかし本人は無自覚のままに、持ってきた収穫物を手当たり次第に食べていった。
 すると肉体年齢が次々と変化していき、胸が大きく膨らみ、全身まで膨張して、食欲は増すばかり。
 今の恋音は収穫物の効果や副作用など全く頭になく、ただ貪るばかりだ。
 研究の経過を知る為に設置してあった録画ビデオには、どんどん肉体変化を起こす恋音の幸せそうな顔が映っていた。


<終わり>



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【jb1221@WT09/月乃宮 恋音/女/19/ダアト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 再びご指名をしていただきまして、まことにありがとうございます(ぺこり)。
 前回に引き続き、楽しんで読んでいただければ幸いです。


シングルノベル この商品を注文する
hosimure クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年09月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.