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『異界実験 』
松本・太一8504

●情報と実験
 彼女もしくは彼の動きを見ていた。
「情報って何でしょうね? 夜宵さん」
 ぽつり、その人物は呟いた。その口元は楽しそうである。
「楽しむべきもの。楽しむべき現状。誰が願い、誰が設けた世界か、はてさて……」

●求めるモノ
 松本・太一はゲームらしい世界で現在、ラミアのやよいだった。
 一時、本人の意識は消えていたが、しばらくしてやよいとして行動できるようになっていた。
(まず、ここはどういうところだろうか、ということ)
 やよいの中にここの知識があるためか、太一にも違和感が少ない。景色が太一の知っている街並みであるも影響はあるだろう。違和感はゲーム上必要な武器防具屋や魔法屋があったり、店名もパロディになってはいることだろう。
 パロディな世界なのは、現代を舞台にした、陣取りゲームだからだろう。陣取りゲームで争うのは、人間と魔というカテゴリーのもと、プレイヤー同士のようだった。
 太一はラミアがやっていることを分析する。
 男を誘惑するだけでなく、一般的なゲームでは否定されることをしてきた形跡がある。
(……人間を殺してきた。それは、魔の陣営という趣旨からそれないし、ゲームとしてもありだ)
 誘惑した男性たちと遊んだ後に殺した。遊ぶうちに自然と生気を吸い取り、死に追いやっている。
(それが同じ陣営でもできるのか否か……できるのか!? カオスなゲームというか、実際的というか)
 町で得られた情報だと、同族にでも一般的な禁止事項はできるようだ。つまり参加者は現実世界で言うところの犯罪さえできる。
(太一としての意識……ラミアで魔女やよいの意識……どちらも自分。つまり、この状況を理解し、今は世界に合わせてやよいとして行動をしている)
 太一はやよいの意識と行動も自分のものとして認識していることに対して、どう考えるか悩む。
(落ち着こう。カフェで一服……しよう)
 外にもテーブルがあるカフェに入る。外で風にあたり、情報を得ながら考える。
(異能者がいるぽい。どういう経緯でここにいるのかによって私は敵となる)
 ゲーム上の陣営の違いだけでなく、ここへのかかわり方も関係する。
(ここから脱出する方法はあるのか? むしろ、何等かで分岐した世界? 世界が変わったということを認識できていいのだろうか?)
 やよいは溜息を洩らした。その姿は物憂げで見るものの心を動かす。やよいはそれを狙っておらず、無意識だ。
「お嬢さん、どうかしたのかな?」
 突然、前に男が座った。
「すまない、驚かせたなら……。でも、顔を曇らせているお嬢さんんがいて、何かあったのかと気になってしまって」
 男はしどろもどろになりながら答える。
(飛んで火にいる夏の虫……これは楽しいことかつ食料)
 やよいは舌なめずりをする。
(いや、太一には必要はない。いや、情報を得るには虎穴に入らないといけない)
 太一は考える。
「気になることがあって……」
 やよいは伏目がちに問う。
「おれで良ければ話を聞くぜ! まあ、じっくりと話を聞くくらいしかできないけどよ」
「ううん、いいの。話を聞いてくれることが重要だから」
 やよいは紫の目を妖しく光らせた。
(……なんで私はこんなにスムーズに次から次に喋れるんだ?)
 太一は疑問を浮かべる。
(この後、個室に……いや、どこでもいいか……そして、生気を……って私、何を考えているんだ!)
 太一は頭を抱えたくなるが、それでも、男を誘惑する行動は止まらない。引き出せる情報がないか誘導しつつ、色々と話をする。
(楽しいかもしれない……いや、そんな、はずはない……)
 恐怖を抱かない自分に太一は驚愕した。

●糸をつむぐ
 太一は男と話しつつ、周囲の情報を得て結論を少しずつ出していた。
(ここは分岐した一つの可能性の未来……あの時点で異界、今は現実)
 分岐した世界が多数あるとしても、それを認識できる場合、どのようなことが起こるのか想像ができなかった。
(異界ならば脱出可能だけれども、現実となってしまっては……)
 時間の流れが過去から未来に流れるとして、そこに存在していたら流れていくしかない。
 分岐した世界がその人物が流れるべき世界ならば、脱出ということはあり得ない。そこが世界だから。
 それに、世界の分岐を受け入れるしかない住民ならば、分岐が起こっていることを理解はしないはずだ。
(分岐は故意に起こされている? 異能者たちは、誰も止められなかったのか? それとも……全員グルか?)
 考えをめぐらすが決定打がない。情報を多角的に得る為、魔の領域に戻る。
 門の中をくぐると、人の陣営と同じく街並みが連なっている。音や匂い、光の加減が異なる。
 こちらにくるとやよいは人型を解き、ラミアの蛇体になる。痛みも何も違和感もなくただ変わる。
(そういえば陛下って誰だ?)
 ここの世界で最初に話した【執事】を名乗る悪魔らしい青年はそう言っていた。
 やよい自体が上層に食い込む実力を持つが、陛下の情報はない。なお、街にいて気づいたが、人間側は幾つか陣営があるようだった。
「おや? 魔女殿御戻りですか?」
 ふと気配が湧く。【執事】を名乗るノワールがいた。
(悪魔って本当に幅広いし、イケメンすぎるのが一番胡散臭い)
 太一はノワールの様子をうかがう。たまたま出会った青年。陣営としては敵ではないはずだが、もやもやしたものを押し付けてくる。
「食あたりでもしましたか?」
 黙っているやよいにノワールは困ったと小首をかしげる。
「あなたは……どこの人?」
「どこの人とは? 難しい質問ですねぇ」
 ノワールは目を細める。
「ここはあたしにとっては現実でも、私にとっては異界です」
 やよいの言葉にノワールはニッと笑う。
「おやおや? それは、どうでしょうかねぇ?」
 太一はノワールに危険な兆候を嗅ぎ取る。
「あなたは、楽しければいいのでしょう?」
「そうよ?」
「ならば、そのようなことを考えることは楽しいことですか?」
 情報を知ることは太一としては楽しいが、ラミアの【魔女】やよいにとってあれこれ考えるのは趣味ではない。
(つまり、こいつは私を知っている? これは、何か実験か?)
「どうかしましたか? それよりもっと楽しいことをすればいいではないですか?」
 やよいは肩にノワールの手を感じ、耳元でささやかれた。意識していたが、背後を取られるまで動きを終えなかった。
 太一は腹の底から冷える何かを感じる。反射的に振り返りざま魔法を放つ。
「おやおや? わたくしは何か嫌なことをいたしましたか?」
 避けてノワールは笑う。
「あたしの後ろに立たないことね!」
「その通りでございますねぇ。ですが、世の中の女性でささやきは重要ですが、あなたには不要でしたか」
 残念と告げる。
「どこに行きますか? どこまで行きますか?」
 ノワールはふわりと後方に飛ぶ。
「ちょっと! 何、それ……どこに行く?」
 情報にとらわれず、今を楽しむか。
 情報にとらわれて、今を放棄し出口を探すのか。
 太一は二択を突き付けられ、うめいた。現実と異界、夢と現、境界があいまいになっていく。
 やよいは妖艶に微笑む、悩むことはないから。
 一人たたずみ――。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
8504/松本・太一/男/48/会社員・魔女
???/ノワール/男/25/執事?

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 登場人物、やよいさん……やよいさんの方が実はしっくりくるのでしょうか?
 境界があいまいな感じでじわじわと殺されるような世界に生かされているような感じになってしまいました。
 ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年09月18日

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