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『 シルミルテの単独廃墟探索! 〜本日のゴーストグルメ〜 』
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 シルミルテ(aa0340hero001)はその日、郊外のさらに外れにある鉄筋マンションを訪れていた。午前十時。天気は晴れ。見上げれば残暑の青空に雲がぽっかり浮かんでおり、お弁当を持ってピクニックに行っても申し分ない日よりだった。だがシルミルテがその日いたのは無骨な鉄筋マンションの前で、しかもマンションの中に人の気配は微塵もない。
 それもそのはずシルミルテの前にそびえ立っているマンションは、かつてどこかの会社の社宅として使用され、会社が倒産後放置され数年が経過した廃マンション……れっきとした廃墟である。水落不動産が権利類を買い取った物件の霊的清掃をして欲しい、シルミルテはそんな依頼を受けてこのマンションを訪れた。各階十部屋。十二階建て。築十五年程らしいがその内の四年を廃墟として過ごしている。有人と無人とでは建物の寂れ方は全然違う。敷地内にあるこぢんまりした公園も、駐車場として使われていたであろう一角も雑草に半ば埋もれており、廃墟と呼ぶに相応しいモニュメントに成り果てていた。
『お邪魔しマース』
 誰もいないはずの建物に律儀にそう一声掛け、シルミルテは一階の一部屋目へと上がり込んだ。電気は当然止まっているため、全体を回るためには階段を上がっていかねばならない。一部屋ずつざっと見るだけでも、全部回り終えた頃には日が暮れているかもしれないが、あまり気にせずシルミルテは玄関のノブをガチャリと回す。
 部屋自体は至って普通の、ごくごく普通の庶民的なマンションの一室だった。玄関から入ってすぐ右側にトイレと浴室が向かい合わせで並んでおり、左側にまず一部屋。奥に進むと台所付きの居間があって、その右側にもう一部屋。依頼が「霊的清掃」なので、面倒臭がらず端折らずに一部屋一部屋調べていく。
 トイレから押入れまで漏れなくきちんと見てみたが、最初の部屋は何もなかった。二つ目の部屋も何もなかった。三つ目の部屋に入った所、最初の二部屋に比べると妙に空気が澱んでいた。あまり気にせず順番通りまずはトイレから覗いてみると、ちょっと離れた後ろの方から低い音が聞こえてきた。
――ううう。
 音に反応して頭上のうさ耳がぴくりと動く。このうさ耳、某ピンクのうさぎのように引っこ抜く事は出来ないが、帽子へ癒着しての離脱の方は可能らしい。聴力痛覚はないが無意識・意識的に動かす事は可能。しっとりもちもち感触だが握られるとやる気が抜ける。聴力はないはずなのに人耳では聴き取れない音を拾う説が有る、など、なんとも謎の多いうさ耳である。なおシルミルテの顔の横についている耳は至って普通の人耳である。
――あああ。
 などとうさ耳の紹介をしている間にも変わらず音は聞こえてきたが、シルミルテは順番は変えず順繰りに見て回っていった。トイレ。よし。お風呂場。よし。居間。よし。台所。よし。お部屋二つ。よし。最後は押入れ。特にためらう事もなく、人の顔のようなシミが浮いた押入れの襖をスパーンと開けると、予想に反してその中には特に何も見当たらなかった。
『アレ?』
 下に入って奥まで覗き、上に入って奥まで覗き。だが埃と蜘蛛の巣がある程度で特に何も見当たらない。この部屋には『居そう』だなと思ったんだけど、上の部屋かな、などと思いつつ押入れから出ようとした、その時、上の方から音がした。シルミルテは顔を上げた。
――あああ。
 視線の先の天井にはぽっかり穴が開いており、その穴にすっぽりぴったりと男の顔が挟まっていた。男は干からびた白目でぐりっとシルミルテを睨み付け、ここ一番と言わんばかりの咆哮を響かせる。
――ああああああっ!!!
『ワア』


 その後もそんなこんな色々あって、あと一時間程で日が暮れるという所で、ようやくシルミルテはマンションの屋上に到達した。今回の依頼はこの廃墟全般の霊的清掃であって、当然屋上も含まれている。特に屋上なんて綱なしバンジーの大定番みたいな場所だし、今回の依頼及びシルミルテの目的がいてもちっとも不思議な事はない。
『おオー、いい眺メ』
 屋上に立ったシルミルテの第一声がそれだった。あと一時間程で日が暮れる、つまり視界の先は夕焼け空という事だ。マンションは既に寂れた廃墟で、どの部屋も薄暗く埃まみれで閑散としていたが、時が経ち、人がいなくなり、建物が朽ち逝ったとしても、夕焼けの美しさが届かないという事はない。
 目を細めて夕陽に見入っていると、ふと、横に気配を感じた。顔を向けると白いワンピース姿の女が立っていた。びくっと一瞬うさ耳が揺れたが、次の瞬間にはふよふよ揺れるいつものうさ耳に戻っていた。
 女性はシルミルテにもうさ耳にも特に反応は示さず、そのまま黙って夕陽を眺め続けていた。下の階にいた「誰かさん達」のようにシルミルテに何かしよう、という気配は微塵もない。どこから来たヒトなのかは知らないが、ただここで夕陽を見ていたいだけなのかもしれない。
『綺麗ダねー』
 言葉が通じるかどうかは分からないが、シルミルテはそう言ってみた。聞こえているならそれでいいし、聞こえておらずただの独り言になっているとしてもそれでいい。
 シルミルテはその後もしばらく、謎の女性と並んで夕陽を見ていたが、はっと依頼を思い出し屋上全体を見て回った。特に気配は感じないが、屋上の縁や貯水槽の中からコンニチハ、なんて事もあり得る訳だし。
 とりあえず屋上にはもう誰もいないようなので、先程の女性の所に戻ってみると、女性は少し寂しそうな顔でシルミルテの事を見つめていた。
『ゴメンネ、お仕事終わッタからもうチョットダけ付き合うヨ』
 シルミルテがそう言うと女性は嬉し気に目元を緩め、再び夕陽に視線を向けた。シルミルテも同じく夕陽へと瞳を向ける。
 結局、夕陽が沈み切るまで見続けて、それからシルミルテは女性の方に視線を戻した。
 そこには誰もいなかった。暗くなりかけた屋上にはシルミルテだけが立っていた。


 シルミルテにとって、幽霊類は元の世界では主食の「ごはん」であった。
 怨み深いと苦味が増す等あるらしく、その苦味がまた旨いとかなんとか。
 なので今回のような依頼は、頻繁ではないもののH.O.P.E.の依頼料に次ぐメインお小遣い収入源、かつ料理以外の「ごはん」調達源となっている。ちなみに妖怪は「姉」の養布(兼養父)関係で、基本的には食べない。
『今日はまあまあッテ所ダッタかな』
 階段を十二階分降り切って、シルミルテは改めて廃墟マンションを見上げてみた。暗闇の中のマンションはいかにもという風情だが、もうこのマンションに「住人」はほとんどいない事をシルミルテは知っている。
『残しテきタのはまずかッタかナ?』
 今回の依頼は霊的清掃、「ほとんど」ではなく「完全に」いない方がいいのかもしれないが……でもあのヒトは悪いコトするヒトじゃないと思うし、気付いたらいなくなっちゃってたし、食べてもあんまり好みじゃなさそうっていうか……。
 とりあえず『ゴチそうサマでシタ』とマンションに向かって一礼する。そして帰ろうとした、所で、シルミルテは振り返ってふと屋上に瞳を向けた。何か白いものが、まるで手を振るようにひらひらと揺れている。
 シルミルテはそれに大きく手を振って、それから家へと帰っていった。月明りの照らす屋上には、誰の姿も見えなかった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【シルミルテ(aa0340hero001)/外見性別:?/外見年齢:9/魔女の子】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。今回は廃墟探索という素晴らしいリクエストをありがとうございました。もちろんどんなリクエストも大変嬉しいのですが廃墟! 大好きでございますので!
 「おまかせが難しい場合は中流家庭の一戸建て」とございましたが、雪虫の趣味で鉄筋マンションとさせて頂きました。本当は床も壁も天井も崩れかけの廃墟も大変捨て難かったのですが、シルミルテさんが怪我をされたらいけませんので(足場的な意味で)安全を重視させて頂きました。
 この度はご指名誠にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2018年09月21日

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