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『今回は「お仕事抜き」で。 』
アリア・ジェラーティ8537

 夏真っ盛り、真夏の夏休みともなればアイス屋さんの稼ぎ時である。

 即ち、アイス屋さんを生業とするアリア・ジェラーティとしては、この時期氷菓の類をお求めになりそうなお客様を探して東奔西走専用の台車を引きつつあちこち駆け巡るのが常である。…いや、駆け巡るまでもなく台車を引いて歩き出せばすぐさま通りすがりのお客様に自分が捉まる方が先かもしれない。つまり、夏の暑い盛りともなればそのくらい氷菓の類の需要が高いのが常である。
 いやいや、今年は猛暑を通り越し酷暑…を更に通り越して命に関わるレベルの暑さになっている訳だから、これまた商売繁盛通り越し――気が付くと肝心の商品が品切れになってしまう事すら多々あった、とも言えるかもしれない。

 つまり、とてつもなく忙しい。
 …忙しいが。

 それでも、アリアは――まだ、十三歳の女の子、なのである。
 何だかんだで自分は特に義務教育を受けていないとは言え、周りの同じ年頃の子が夏休みを満喫しているのを見掛けてしまうと、ちょっと複雑な気分にもなる。自分だけ毎日お仕事、と言うのも何だか気が滅入る――いや、決してお仕事が嫌な訳では無いのだが、自分もああやって遊びたいなあとつい思ってしまうのは、幾ら氷の女王の末裔だと言っても、人情である。仕方無い。

 そんな訳で繁忙期ながらもちょっとくらいはお休みもらって――たまには「休日」らしくやりたい事をやってみる事にする。そう、いつも引いている台車を置いて身軽になって、何か、やりたいと思える事を。
 さぁ、何をしようか――お仕事を離れたところで、考えてみる。





 雪姫ちゃんはどうしてるかな…、と何となく頭に浮かんだ。





 頭に浮かんだら、それでもうこの休みに「何をする」かは決定した。
 …雪姫ちゃんのところに遊びに行こう。
 こないだ「おうち」の雪山も教えてもらえたし、おみやげにたくさんアイスを持って、遊びに行ってみよう。
 そう、今回は「お仕事抜き」で。



 びゅおおおおお、と吹き荒ぶ豪雪は真夏の今でも変わらない。
 雪姫ちゃんの「おうち」な雪山へ赴くともなれば、いつでもがっつり氷河期の雪山行軍になる。

 …とは言えアリアにしてみれば「寒い」事だけは特に問題無い。実際、完全に夏服な薄着――白いキャミソール姿のままで来てしまっているし。と言うか氷の女王の血を色濃く引く末裔ともなればこのくらいの寒さはむしろ過ごし易ささえ感じるものでもあるが、その足許の積雪の厚さや強過ぎる風の方は――物理的に色々大変だったりする場合もある。…例えば、雪に足を取られてうっかり身動き取れなくなったり、逆に風に煽られて吹き飛ばされかかったりとか。そういう事はままある。
 まぁ、ある程度覚悟の上で対策を立てて行くならそれなりに何とかなる話ではあるのだが、今の場合「お仕事」と言う頭が無い為――その辺の覚悟が、ちょっとばかり緩かったりもする。
 そうなると。

「…っと、わっ…!」

 折角持参したおみやげアイスがごっそり入った保冷バッグが吹き飛ばされかかる――慌てて引き留めようと保冷バッグの持ち手部分を咄嗟に押さえ込むが、その力より風の勢いの方が強かった。却って風を受け保冷バッグごとぶわっと膨らみ、そのまま――今度こそ凧のように飛ばされてしまった。

 あ…、と思うが、遅い。
 折角のアイスが暴風に飛ばされて行くのを、アリアはそのまま見送ってしまう。





 と。





 アリアが見ているそこで、飛ばされている保冷バッグが不意に方向を変えた。と言うか、何故か風に煽られ飛んでいく流れに逆らい中空で停止、それどころか――そのまま意志持つように一直線に地上に降って来た。まるで、誰かが空中に飛ばされている保冷バッグを捕まえ、飛び下りて来たかのような動き――…

 …――と言うか実際、当の保冷バッグを掴んでアリアの前に飛び下りて来た白い少女が居た。





「全く。何をしておるのか、うぬは」





 雪姫だった。



 そうなると、来訪の挨拶より何よりまず言うべき事がある。

「…ありがとう」
「うむ、苦しゅうない。…だがこれは商売道具とやらではないのか? それを黙って風に飛ばされるまま見送るなどとは、うぬらしくないなアリアよ」
「…それは…今日は…お仕事じゃなく…来たから」
「ふむ。ならば純粋に我と再び勝負でもする気で来たか。いい心掛けであるな」
「うん…それも、ある」
「それも、と言う事は他には何がある」
「…一緒に…何かして…遊べたらな、って…」

 それ、おみやげ。とアリアは雪姫が確保してくれた保冷バックをあっさり指し示す。そうされた雪姫の方は暫し停止。先日のあやかし荘の面子を巻き込んだ勝負の流れからすると、あんまりそういう緩い流れでの再会、とは行かなさそうな気がしていたのだが…アリアの方としては、あまり気にしている節は無い。と言うかまぁ「深く考えていない」のだろう、と雪姫の方でもそろそろ察しが付くくらいの付き合いはもう出来ている。
 が、それにしても暴風から取り返して来た業務用めいた保冷バッグが丸々おみやげと来られるとは…想定外だった。

「遊びか。だが我にとっては勝負も遊びもほぼ同義であるがの?」
「うん…私も…雪姫ちゃんとだと…そうなる気がする」

 だから。

「何して…遊ぼう」

 いきなり振られた。
 つまり、特に何をしようと言う具体的なプランがある訳で無く、アリアは雪姫の元にただ遊びに来た、と言う事らしい。遊び=勝負でよし、と言う辺りはどうやら共通認識になっているが、この状況でこう来られると、雪姫としては「どうしたものか」と言う気にもなる。
 …いや、だから、何と言うか、再会対面時の決め科白とか決めポーズとか位置取りとか、もうちょっと見栄えするように初めからやり直していい? みたいな。
 こうグダグダな再会になると、火花を散らして対決するにも何となく興が乗り難い。

 いきなり振られた雪姫は、さて、と軽く思案する。何をして遊ぶか――即ち、何で対決するか。不確定要素込みでの雪合戦――と言うか本気も本気の直接対決はこの間したから、今度は今現在の状況に合わせて少し緩い感じの文字通り「遊び」で行くのが妥当か、と思う。…勝負の手段は一つでは無い。本気で能力をぶつけ合い激突するものから日常の一端と言える他愛無いものまで、何で勝負したっていいのだ。むしろそうした方が、どちらが本当に上であるのか――より互いの総合的な実力を測れると言うものである。
 雪姫は何となく手に持ったままの保冷バッグを見下ろした。それからアリアを見、中を見てもいいかと訊く――うん。とアリアはあっさり肯定。受けて、雪姫は保冷バッグを開けて中を見た。

 中身は、予想通りに大量のアイス。…普段のアリアなら商売道具だろう品である。
 と言うかこれ、土産の量か?

「…土産と言っていたな」
「うん…おみやげ。だから…代金…要らないよ…」
「………………アイスの大食いだか早食い競争でもするか?」

 埒も無い思い付きである。
 この土産だと言う大量のアイスを効率良く、かつ楽しく消費する方法として。互いに氷雪の加護を篤く受けた者同士、ただの人間のように腹を壊したりはするまい、と思っただけの事でもある。
 そしてその、埒も無い思い付きを聞いたアリアの返答は――…

 言わずもがな、である。
 そう、雪姫からの折角の提案、否やがあろう筈も無い。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【8537/アリア・ジェラーティ/女/13歳/アイス屋さん】

■NPC
【-(公式イベント・雪姫の戯れNPC)/雪姫/女/外見10歳/雪女郎】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。御手紙までいつもわざわざ恐縮です。
 雪姫との再戦との事で、今回もまた発注有難う御座いました。
 そして今回もまた結局、期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。

 ところでお待たせしている間に台風や地震が…と言うか最早近頃全国各地で様々な災害が起きておりますが、もし何らかの被害に遭われていたとしたなら御見舞い申し上げます。影響の無い地域にお住まいでしたら見当違いの話ではありますが、こういった場では何処の何方なのかがわからないものなので、一応まで。

 内容ですが、御言葉に甘えて「続く」な感じになりました。
 と言うか実際の行動を起こす前、何をするか決まった?ところで終わっております。わざわざお休み貰って遊びに行く、となるとアイス持参でもこれは仕事に含まれないんだろうなと判断し、アイスは御土産扱いとしてそこから転がしてみました。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、ひとまず次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年09月25日

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