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『秋、希う 』
不知火藤忠jc2194)&不知火あけびjc1857


 とあるレシピに必要なもの。

 朝摘みの苺。
 卵。
 薄力粉。
 砂糖。
 バター。
 生クリーム。

 ポイントは、ストロベリーパウダーと、隠し味に少量の勇気を。



 とあるレシピに必要なもの。

 旬の南瓜。
 薄力粉。
 砂糖。
 バター。
 バニラオイル。

 ポイントは、刻んだ南瓜の皮と、隠し味に少量の素直さを。



 何より、苺と南瓜に必要なものは、とっておきの愛情。たっぷりと籠めて、大好きな“あなた”に――。



**



 姓は不知火。処は本家の敷地内。
 陽射しと月光が寄り添うように、その家々は隣り合っていた。

 “暮れる日”を主人とする、不知火あけび(jc1857)が住まう屋敷。そして、“朧”を主人とする、不知火(旧姓:御子神)凛月(jz0373)が住まう屋敷だ。

 本日の天気予報は雨。しかし、空模様は晴天なり。嬉しい予報外れで、秋の茶会日和となった。然れば、主人の居ぬ間の互いの寄り辺、陽と月の若妻二人、話に華を咲かせよう。

「えへへ、恋バナのお供と言ったら、やっぱりお菓子ですよね!」

 あけびが持ち寄ってきたのは、自作のお菓子だ。

「私の自信作なんです。凛月さんのお口に合うといいな」

 あけびは胸を膨らませながら、鮮やかな朱を帯びる目線を手許に落とした。苺の甘酸っぱい美味しさをぎゅっと閉じ込めたロールケーキを、ナイフで丁寧に切り分ける。

「はい、どうぞ!」

 漆塗りの黒小皿に据えた、薄紅の春色。

「ありがとう。ほんのりと品の良い香りがするわね。色もとても綺麗だわ」
「生地にストロベリーパウダーを混ぜて、クリームだけじゃなくスポンジも苺色にしてみたんです」

 学生時代からお菓子作りに精を出していた甲斐もあり、あけびの腕はかなり上達していた。原動力は勿論、苺好きの夫の為。

「……ん、美味しい。軽い口溶けで、優しい味ね」
「よかったぁー! 実は作ってる途中で、苺尽くし過ぎかなぁ、とも思ったんですが、中途半端に作るなら全力で苺に染めちゃえーって。えへへ、思い込んだら突っ走る癖は変わりませんね」
「いいじゃない。それがあけびの美徳なんだから」
「美徳……ふふ、ありがとうございます!」

 あけびはフォークでぷすりと天面の飾りの苺を刺すと、口許へ運んだ。はにかんでいた表情が、「んー!」と、目を瞑って酸っぱい顔になる。不知火の当主とはいえ、幼さが残るその横顔に、凛月は切れ長の眦を柔和に緩ませた。

 艶やかな桔梗が咲く縁側に、爽やかな秋風が吹き抜ける。

「秋の風物詩ですね。星形の花弁が可愛いなぁ」
「瑠璃唐草とは又違った青い色合いで、清々しいでしょ?」
「はい。凛月さんの好きなお花なんですよね?」
「ええ。私が不知火に嫁いでくる前に、藤忠が植えてくれたものなの」
「ふふ、姫叔父らしいなぁ。凛月さん達の家の庭は、何時の季節も華やかでいいですね」

 細い腰を縁側に据えたまま、あけびは視界に広がる和庭を見渡す。砂利を敷き詰め、飛び石を打った風情ある空間には、アクセントの石灯籠。今の時期は、八重咲きのパンジーやビオラ、秋の深まりを感じさせる金木犀などが咲き誇る。

「ん……春に咲く桃も、“あの時”の想い出だからって……本家の人に話を付けて、庭に花桃の木を植えてもらったの。あけびも口添えをしてくれたのでしょう?」
「気にしないで下さい! 大好きな姫叔父と大切な凛月さんの為ですから。当主になっても、その気持ちは変わりません!」
「あ、ありがと……。……あなた、未だに“姫叔父”呼びなのね」
「はい! もう、身に染み付いてるみたいです。姫叔父、今も美人ですしね!」
「まあ……そうね。彼が使っている化粧水に何か秘密でもあるのかしら……? それとも、南瓜の摂取量が関係していたりするのかしら……」

 凛月は口先に指を添えながら、独り言を呟く。

「? 凛月さんも美人ですよね!」

 そう言うあけびは自覚をしているのだろうか。自らも、咲いたばかりの花のような美しさを帯びていることに。

「わ、私のことはいいのよ。そういうあなたの旦那様も美丈夫じゃない」
「えへへ……はい! 旦那様が美人だと、私達も頑張るしかないですよね……!」
「そうね。女として負けられないわ」

 二人は視線を固く交わしながら頷き合うと、どちらとも無く微笑んだのであった。





 凛月がお勝手から豊かな香りを引き連れて、飲み物のお代わりを持ってきた。珈琲好きのあけびの為にと、用意していたものだ。それとは別に、ワインボトルに入った完全無添加の高級茶(旦那様には内緒で買いマシタ)も引っ張り出して、二つの琉球グラスに注ぐ。

「クッキーに合う飲み物がわからなかったから、好きな方を飲んで頂戴」

 そう言いながら、凛月はビスケットトレイに並べたクッキーをあけびの前に差し出した。

「わあ! 南瓜のクッキーですね! この黒っぽいのはチョコレートですか?」
「いいえ、南瓜の皮を刻んで入れてみたの。身よりも栄養があるんですって」
「なるほどー、凛月さんは姫叔父の栄養管理もきちんとされているんですね。ふふ、愛されてるなぁ」
「Σち、ちがっ……」
「姫叔父が惚気てましたよ。『俺が仕事の時は何時も摘まみやすい菓子を作って、持たせてくれる』って」
「それ、は……だってあの人、忙しさにかまけて食事が疎かになるんですもの。少しでも食べやすいものを、って……」

 目許を朱に染め、伏し目気味に独り言ちる凛月を見ながら、あけびはクッキーに舌鼓。

「姫叔父の南瓜好きも変わらずみたいですね」
「ええ。一生食べ続けるでしょうね、あの人」

 その内、パンプキン・キングに化けたりして。

「あけびの旦那様は食事に何か拘りとかあったりするの?」
「拘り……と言うか、食事は和食派なんですけど、お菓子は洋食派なんですよね。一番喜んでくれるのはやっぱり苺のお菓子です」
「あら、あけびが作るお菓子だから一番喜ぶんじゃない?」
「Σえ、ええ!? わ、えーと……そうだといいん、ですけど……」

 あけびははにかみながら俯いた途端、顔をみるみると赤くした。その色はまるで、秋の紅葉のようだ。

 愛する人の妻になっても、身は一人の女であり、心は何時だって乙女。
 恋する話は尽きないが、ふと――

「あ。そう言えばこの前、蔵の掃除をしていたら面白いものを見つけたんです。ちょっと一緒に行ってみませんか?」

 あけびは爪先を草履に引っ掛け、ぴょん、と、庭に下りると、にこやかな笑顔で凛月の掌を掬い上げたのであった。










 あけびの思いつきで蔵の扉を開け放つ。
 舞い上がった薄い埃を手で払いながら、目当ての桐箪笥へ。「これこれ、これです!」と、胸を弾ませたあけびが引き出しを引くと、中には――

「これ……藤忠達の、昔の衣……?」

 凛月は不意を衝かれたように目を丸くしながら、指先は彼の衣類を摘まみ上げ、無意識に腕へ取っていた。

「懐かしいわね……この狩衣、久遠ヶ原の学園で彼がよく着ていたものだわ」

 浮かんだ微笑みから、偲ぶ吐息が漏れる。彼女のその姿を見て満足そうに口角を上げたあけびは、引き出しで眠っていた“お師匠さま”の羽織を手に取り、「えへへ……!」と、胸にぎゅっと引き寄せた。

「これを見つけた時、色んな想い出が溢れてきて……心があたたかくなったんです。愛しい人の“想い”を、ずっと傍で見ていた“形”だから……何だか嬉しくて。だから、凛月さんにも見せたかったんです」
「ん……ありがとう、あけび」
「あ! 折角ですし、着てみませんか?」
「えっ!? こ、これを?」
「はい! ふふっ、彼シャツならぬ彼衣装ですね!」

 そう言いながら、あけびは上品な白地の羽織を小さな肩に掛ける。赤みのある菫色の髪が、肩に凜と咲く菊模様をそっと撫でた。

「ど、どんな感じ……?」
「はい! お師匠さまの匂いがします!」

 聞いた此方が空恥ずかしくなってしまった。

「……」

 凛月は藤模様の狩衣をひととき見つめた後、「す、少しだけ……」と、上機嫌なあけびに釣られて、彼の衣に袖を通した。

「……だぼだぼね。当たり前だけど」

 肌触りのいい布地に指を滑らせる。
 彼に似合う雅な色合い。この色に、この感触を通した体温に、何度抱き締められたことだろう。

「(藤忠の……香りがする……)」

 心が火照るのを感じて、目を伏せた時――



「此処にいたのか」



 蔵の入口で、落ち着きのある低い声が二人の意識を引っ張った。耳慣れたその声音に、凛月の面差しがふっと緩む。

「姫叔父、おかえり! って……姫叔父が此処に居るってことは――」
「ああ。あいつも出張から帰っているぞ」

 そう応えた彼――不知火藤忠(jc2194)は、あけびの姿に焦点を合わせると、「あいつに見せて来い。間違いなく喜ぶ」と、懐旧の情を双眸に浮かべながら、自宅で待つ旦那の元へ促す。

「うん! じゃあ凛月さん、また後で!」

 あけびは白地の羽織を天使の羽のようにはためかせ、駆けていった。
 彼女の嬉しそうな背中を見送ると、凛月は藤忠へ視線を移す。

「おかえりなさい、藤忠。出迎えを粗末にしてごめんなさい」
「いや、それは構わないのだが……」

 藤忠は目を細めて凛月を眺め入ると、恍惚な微笑みを零した。彼の意図を解せずに凛月が小首を傾げていると、藤忠が桃染の瞳を覗き込むように顔を寄せてきて――

「随分と可愛らしい事をしているな?」

 楽しげに白い歯を見せた。
 その時、凛月は改めて自分の姿に視線を落とした。

「こっ、これはっ……! その……」

 まるで悪戯を見つけられた少女のように赤面する。その可憐極まる彼女の顔に、藤忠の心悸がどうしようもなく高鳴った。「(全く……こうも愛らしいと、理性の居場所に困る。多分、あいつらも同じだろうな)」と、思いつつ、藤忠は凛月のくびれた胴を引き寄せると、深く抱き締めた。

 藤忠の耳に、ほう、と、温んだ吐息が触れる。藤忠は安堵に揺れるような微笑みを浮かべながら、凛月の黒髪に頬を寄せた。――だが、直ぐにばつの悪そうな表情で頭を起こす。

「……なに?」
「いや……凛月、すまないが脱いでくれないか?」



 ――ぱあぁんッ!!!



 藤忠の左頬に真っ赤な紅葉が咲く。

「なっ、なん……!! 帰宅早々、欲求不満とか……いい加減にしなさいよ!!」
「む……仕方が無いだろう。凛月が魅力的過ぎるんだ。俺が常日頃、どれ程お前に飢えているか――……いや、待て。俺は何を言っているんだ」

 話を元に戻そう。いや、じっくり聞きたいんだけど字数がね?

「……狩衣を脱いでほしいのなら、はっきりそう言いなさいよ」
「すまない。抱き締めるとどうも調子がな……」
「なによ。自分自身でも抱いてる気分になった? 私は“姫叔父”ほど美しくはないけれど」
「馬鹿を言うな。凛月よりも美しい者を、俺は知らん。まあ……俺の奥さんには何時も驚かされるがな。これからもずっとそうなんだろう」

 脱いだ狩衣を丁寧に畳み、桐箪笥に収めた凛月が此方へ振り返った。



 朧を見つめる、清い月――。



 藤忠は指の背で彼女の髪を撫でながら、「ああ……困るな、本当に」と、声にならない慕情で呟くと、その掌で凛月の頬を包む。

「今度、俺好みの服を買ってくるから是非着て欲しい」

 愛しい温もりに頬を傾けて、凛月が視線で問うてきた。

「そうだな……色は赤が良い。お前には赤がよく似合うからな」
「そう?」
「ああ。“あの時”もそうだっただろう?」
「“あの時”?」

 凛月が空惚けたように上目を遣う。

「何だ、言わせるのか?」
「いいえ。……黙って」

 その言葉を合図に、二人は互いの吐息と唇を重ねた。

 引き寄せる熱。
 密な愛を確かめ、徐に睫毛を上げる。

「茶会に戻るか?」
「……今すぐ?」

 睫毛の影に潤みを湛え、そんな甘えた声を出されては――どうしようも無い。

「待たせておくか。頬の赤みが引くまで、な」










 秋風が蔵の扉を閉じるように吹き付け、一葉の紅葉がはらり――鍵をかけたのであった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【不知火藤忠(jc2194) / 男性 / 外見年齢:26歳 / 未来のパンプキン・キング】
【不知火あけび(jc1857) / 女性 / 外見年齢:16歳 / すとろべりぃさむらいがーる】
【御子神 凛月(jz0373) / 女性 / 外見年齢:19歳 / ぱんぷきんむーん】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、ライターの愁水です。
先ず始めに、ノベルの称号がギャグですみません(平伏)

前半はサムライガール様との仲睦まじいシーン、そして、後半はS忠様とのあっちっちシーンを意識して書かせて頂きました。
サムライガール様と凛月の絡みはゲーム本編では殆どありませんでしたので、会話内容を考えるのはとても楽しかったです。縁側から見える秋の情景を感じながら、大好きな人のことを語り合う……そんなひとときを当方も過ごしてみたいです(遠い目)
S忠様との絡みは、書いていて安定と言いますか……ネタが次々と湧いてきて困りますね。字数の壁さえ無ければ……!
多少アレンジを加えさせて頂いた点や、アドリブも多いノベルとなりましたが、お楽しみ頂けましたら幸いです。

過去の“あの時”のシーンも、凛月の中では美しく色付いている記憶です。時々でいいので、思い出して下さると嬉しい限りです。
引き続き、もう一つのノベルも誠心誠意執筆させて頂きますので、到着までもう少々お待ち下さい。
此度も貴いご縁とご依頼、誠にありがとうございました!
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エリュシオン
2018年09月25日

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