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『乳神神話 正伝』
月乃宮 恋音jb1221)&風香院 涙羽jb9001)&琴ヶ瀬 調jc0944)&玉笹 優祢jc1751)&露園 繭佳jc0602)&賦 艶華jc1317)&雪篠 愛良耶jb7498)&花祀 美詩jb6160)&鳥辺 雨唯jb8999


 茨城県、某所。
 久遠ヶ原学園にほど近い海に、ひとつの島が浮かんでいる。
 名もなき無人島だったその島は、今ではその所有者にちなんで「乳島」と呼ばれていた。
 島の所有者とは、乳神こと月乃宮 恋音(jb1221)である。
 事務代行業業で成功を収めた恋音が真っ先に投資を行ったのが、この乳島だった。
 さほど広くもなく、何か観光の目玉にでもなるような特殊な自然環境があるわけでもないこの島は、普通に考えれば利用価値がないどころか所有しているだけで税金がかかるお荷物でしかない。
 しかし、恋音にとっては事情が違っていた。
 この島は金銭には代え難い特別な存在なのだ。

 現在、島には中型船の停泊が可能な桟橋と簡易宿泊所が整備されている。
 そしてもうひとつ、最も重要な施設がこの島には存在していた。
 島のほぼ中央に座す「乳の宮(チチノミヤ)神社」である。

 真新しい石造りの鳥居をくぐると、白い玉砂利が敷かれた広い境内には、注連縄を巻かれた大きなイチョウの古木が聳え立っている。
 それが御神体「チチノキサマ」だ。
 チチノキサマの幹には、至る所に気根が垂れ下がっている。
 長い歳月を生きたイチョウの雌株に気根が生じることは珍しくないが、それは干した大根のような細長く萎びたものであることが多い。
 しかしチチノキサマは違う。
 豊満なのだ。
 まぁるくふくよかなおっぱいが、ぼいんぼいーん、と。
 それがチチノキサマの御神木たる、そして恋音にとって特別な存在である所以なのだ。


 今、恋音は境内の中央に立っていた。
 そこに付き従うのは、花祀 美詩(jb6160)、雪篠 愛良耶(jb7498)、鳥辺 雨唯(jb8999)、風香院 涙羽(jb9001)、露園 繭佳(jc0602)、琴ヶ瀬 調(jc0944)、賦 艶華(jc1317)、玉笹 優祢(jc1751)――いずれも【内務室】で学生時代から苦楽を共にしてきた、気心の知れた八人の仲間たちだ。
 この場所に、異界への出入り口である「転移門」を開く。
 恋音が持つ「豊乳女神の霊杖」と件のオーパーツのセットがあれば、それが可能だった。

「他の場所でも色々と試してみたのですが、やはりここ以外では門を開くことは出来ませんでした」
 バハムートテイマーである優祢が、その召喚に関わる門の知識とスフィアリンカーの資質を生かして調べ上げた結果を報告する。
 以前は引っ込み思案で会話が苦手だった彼女も、ここ数年で目覚ましい成長を遂げていた。
 今ではおどおどとした面は影を潜め、真面目で優しい頼れる部下となっている。
 いや、成長したのは精神面ばかりではない。
 元々発育の良かった身体面は、更に驚くべき変化を遂げていた。
 身長が伸びたのはもちろんだが、特筆すべきはその脅威……いや、驚異……でもない、胸囲だ。
 その発達度合いはまさに驚異――と言っても乳神たる恋音には及ぶべくもないが、それでも常人と比べれば圧倒的な質量を誇る。
 圧倒的すぎて、特徴を訊かれても「おっぱい」としか答えられないレベルだ。
 その「チチデカ傾向」は他の七人も同様だが、優祢の場合は特にそれが顕著に現れていた。
 これは彼女らが常に乳神たる恋音の近くにいるせいなのか、それともこの乳島に足繁く通ううちに、この土地から何らかの影響を受けたものであろうか――

 いや、そんなことはどうでもいい……とりあえず今は。
 閑話休題。

「開通する場所はいつも同じですから、恐らく杖かオーパーツのどちらかが……あるいはその両方が、目的地を限定しているのでしょう」
「……ということは……他の鍵を見つければ、また別の場所に通じる門が開ける……ということでしょうかぁ……?」
「そうだと思います」
 頷いて、優祢は説明を続けた。
「でも、それに関してはまだ情報も少ないので、実現はかなり先のことになると思います」
 まずは現状で開くことの出来る門について、もう少し利便性を高める必要がある。
 門の動作は不安定で、開いている時間も短く、しかも杖を持った本人でなければ通ることが出来ないのだ。
 一度に一人しか送り込めないのでは満足な調査も出来ないし、物資の補給もままならない。
「……なんとかして、もっと多くの人や物資が通れるようにしたいものですねぇ……」
「人だけなら、方法はあるんです」
 優祢は自分の持つアクセサリを手のひらに乗せて見せた。
 それは八人の仲間たちが持つ八色の勾玉を、それぞれに加工したものだ。
「この勾玉は、杖の先端にある八色の環玉と対になっているでしょう?」
 つまりマスターキーから作られた合鍵のようなものだ。
「杖だけじゃなく、これでも通れるんです」
 各自で持ち運べる範囲であれば、荷物も一緒に通ることが出来る。
 恋音と合わせて九人、全員が持てる限りの物資を運び込めば、現地にベースキャンプを置いて調査に専念することも可能になるだろう。

「すごいんだよ、これにそんなチカラがあるなんて知らなかったんだよ」
 繭佳が黄色い勾玉を弄びながら言った。
「理屈もわかったし、ちゃちゃっと調べに行くんだよ! わかんなくても行くつもりだったけど、だよ!」
 全員そのためにここに集まったのだ。
「では、門を開きますね」
 優祢はチチノキサマの幹に手を触れる。
 そこには、ちょうどオーパーツがぴったり収まりそうな丸い窪みがあった。
 オーパーツを近付けると、それは吸い寄せられるように窪みに収まり、淡い光を放ちながら形を変える。
 円盤が隆起し、その膨らみの真ん中に小さな突起が現れたのだ。
 豊乳女神の霊杖を持つ恋音がその突起に触れると、杖の先端にある環玉が八色の光を放つ。
 その光は、それぞれの色の勾玉に向けて放射状に進んで行った。

 青い光は青の勾玉を持つ美詩の元へ。
 紫の光は紫の勾玉を持つ愛良耶の元へ。
 赤の光は赤の勾玉を持つ雨唯の元へ。
 緑の光は緑の勾玉を持つ涙羽の元へ。
 黄の光は黄の勾玉を持つ繭佳の元へ。
 橙の光は橙の勾玉を持つ調の元へ。
 黒の光は黒の勾玉を持つ艶華の元へ。
 桃の光は桃の勾玉を持つ優祢の元へ。

 それぞれの光は勾玉を通して再び放射されると、ひとつの白い光となってチチノキサマの幹を照らす。
「……行きましょう……」
 恋音の言葉に反応するように、幹に人ひとりが通れる程度の細長い洞が口を開けた。


 恋音を先頭に、一行は洞を潜り抜ける――と言うよりも、洞から溢れ出る光の中に一歩足を踏み出した途端、そこはもう異世界だった。
 足元には鮮やかな緑色をした丈の低い草がびっしりと生い茂り、頭上には緑の木漏れ日と眩いまでに青い空。
 耳には鳥か獣か判然としない様々な鳴き声が響く。
 そして、風。
 濃密な大気を運ぶ風の流れには、それ以外の何かが含まれているように感じられた。

「じゃ、とりあえずコレでざっと調べてみるね」
 雨唯が取り出したのは、ライブカメラ付きのドローンだった。
「機器の動作は順調……機械類に悪影響を与えるような電磁波の類は存在しないみたいだ」
 映像を受診する小型のモニタにも異常は見られない。
 雨唯がドローンを発進させると、全員がモニタに注目した。
 ドローンはまず高度を上げ、彼女らが今いる場所の全体像を映し出す。
「周り全部が海だね。ボクらの海と同じものかは成分とか調べないとわからないけど」
 あるいは湖かもしれないが、この場所はその中に浮かんだ陸地、つまり島であることは間違いない。
 島の全景を見るに、それほどの広さはないようだ。
「……乳島と同じくらいでしょうかぁ……」
 恋音が映像と実際の風景を見比べてみる。
 遥か北、原生林の向こうに、映像に映ったものと同じ二つの山があった。
 標高は千メートル程度だろうか。
「……ずいぶん特徴的な形なのですねぇ……」
 恋音の言う通り、並んだ二つの山はまるで双子のようにそっくり同じ、お椀を伏せたような……いや、お椀よりも更に大きく深い丼を伏せたような形をしていた。
 要するに、きょぬーがどーんと横たわっている。
「おっぱい山だね」
「……そうですねぇ……とは言え、それを正式名称にするのは、少々……」
 雨唯のネーミングセンスに待ったがかかり、結局それは「双子山」という無難な名称に落ち着いた。
 名付けられたばかりの双子山の中腹と山頂近くには平らな台地が存在し、その裾野は平原となっていた。
 平原には湖があり、そこから何本かの川が流れ出ている。
 そこから南下するにつれて緑が濃くなり、そこから先は南端の海岸まで、島全体の三分の二程度までを原生林が覆っていた。
 恋音たちがいるのは、原生林の中に開けた小さな野原のような場所だ。
「ねえ、この地形どこかで見たことある気がするんだけど、気のせいかしら?」
「気のせいじゃないと思うよ」
 美詩の問いに、雨唯が皆の顔を見ながら答える。
「多分全員が同じこと考えてるんじゃないかな」
 そう、この島の地形は見慣れた乳島と殆ど同じなのだ。
 それが何を意味するのか、この時点でそれを考えるのは早計だろう。
「大体の地形がわかったところで、ボクは実地調査に行って来るね」
「それなら、あたしも一緒に行きたいんだよ。この辺の資源とか調べるから、あたしもあちこち歩き回ることになると思うんだよ」
 繭佳の提案に雨唯が答える前に、恋音が言った。
「……そうですねぇ……未知の危険もあるかもしれませんし、単独行動は避けた方が良いでしょう……」
 通い慣れた乳島に似ているとは言え、ここは異世界。
 自分たちの常識が通用しない事態も考慮して、慎重に行動する必要がある。

 雨唯と繭佳が地形及び資源の調査。
 調と愛良耶、艶華の三人が気脈と波長の調査。
 恋音は優祢、涙羽、美詩の三人に同行し、その調査に協力する。

 通信機器が正常に動作することを確認し、三つのグループはそれぞれの目的に向かって歩き始めた。


「まずは海岸線を一周してみようか」
「賛成なんだよ!」
 雨唯と繭佳は原生林を突っ切って海岸に辿り着いた。
 一周と言っても、ドローンの調査で島の北側が双子山から続く険しい岩場になっていることはわかっている。
 歩けるのはそこを除いた、砂浜が続く部分だけだ。
 繭佳の調査によれば、周囲の水が海水であることは間違いないらしい。
「水が綺麗なんだよ、思わず泳ぎたくなるくらいなんだよ」
 地球の乳島は今、草木も枯れた真冬に相応しい装いとなっている。
 しかし、よく似たこの島の気候は春か初夏、裸足で水に入っても寒くないどころか気持ち良さそうではあった。
「気持ちはわかるけど、遊びに来たんじゃないんだから」
「わかってるんだよ、あたしだってもう子供じゃないんだよ」
「どうだかな……」
 確かに昔に比べれば落ち着きは出て来たようだ。
 が、楽しいことの誘惑に弱いところは相変わらず、今も足取り軽くあっちにフラフラこっちにフラフラ――
「あれ? 何か変なものが落ちてるんだよ?」
「変なもの?」
 繭佳の声に近付いてみると、そこには確かに変なものが落ちていた。
「何だろうな、これ……」
 雨唯はそれを拾い上げてみる。
 直感を頼りに言うなら、それは多分ゴミだ。
 と言うかゴミにしか見えない。
 辺りに目を転じれば、種類は違えど似たような「ゴミにしか見えない何か」は砂浜のあちこちに落ちていた。
「いや、打ち上げられた……漂着物かな」
 よく見れば、表面に何か文字か記号のようなものが刻まれているようにも見えた。
「人工物か?」
 そう思って見ると、確かにそれらのゴミには加工の跡が見受けられる。
「自然に出来たものじゃない……ということは、この海の向こうに人類に近い何かが存在するのか……」
 それを確認するためには、今回持ち込んだドローンでは飛行距離が足りない。
 詳しい調査はまた後日ということになるだろう。

「ねえ、この川さっき映像で見た湖に続いてるのかな、だよ?」
 島の周囲を調べ終えた二人は、最も大きな川に沿って上流に向かって歩き出した。
 原生林の間を縫って走る川の流れは澄み渡り、木漏れ日に魚の鱗がキラリと光って見えるほど魚影が濃い。
 時折それを狙う鳥や獣の姿も見受けられた。
「でも、なんかみんなすごく大きい気がするんだよ」
「気のせいじゃないと思うよ」
 雨唯は本日二度目の台詞を返す。
 鳥や獣、魚もそうだが、ここでは植物までもが地球のものよりも成長が著しい。
「重力の低い場所だと何でも大きく育つって聞くけど、ここの重力は地球と変わらないのに……」
「謎なんだよ!」
 やがて原生林は終わり、二人の前に広々とした平原が姿を現した。
 川の流れはやはり、そこにある湖から始まって――
「あれ? 湖に誰かいるんだよ?」
 それは主に食料や飲料の確保について調べていた涙羽の姿だった。


「あらあら、お二人ともお疲れ様ですぅ」
 のんびりとした声と共に涙羽が顔を上げる。
「涙羽さんもお疲れ様なんだよ!」
「調査は順調?」
 繭佳と雨唯の言葉におっとりと微笑むと、涙羽は手にした試験管を軽く振ってみせた。
「ええ、今ちょうど水質検査の結果が出たところですぅ」
 それによると、この湖の水はそのままでも飲めるほどに良好だという。
「もちろん、多少の濾過や煮沸などを行うに越したことはありませんが……下手な水道水よりも美味しいくらいですねぇ」
「それじゃ、裏乳島の美味しい水として売り出せちゃうレベルかもだよ!」
「ウラチチジマ、ですかぁ」
「そういえば島の名前、考えてなかったね」
「せっかくですし、何か良い名前を考えたいものですねぇ」
「裏乳島、良い名前だと思うんだよ?」
 と、それはまた全員が揃ってから決めることにして。
「先ほど原生林の中を歩いてみましたが、果樹性の樹木がとても多かったですねぇ」
「果樹性っていうと、バナナとかリンゴとかミカンとか、だよ?」
「繭佳君、それは確かにそうだけど、どれも同じ土地では育たないんじゃないかな?」
「それがですねぇ、なんとこの島では一緒に育つんですよぉ」
 熱帯性のバナナも温暖な気候が好みのミカンも、寒いところで育つリンゴも。
 これがその証拠だと、涙羽は大きなバスケットを二人の前に置いた。
「調べたところ、毒素のようなものはありませんでしたぁ。地球の果物と同じで、美味しくいただけますよぉ」
 山盛りにされた果物は、モモにカキ、ナシ、ブドウ、ベリーやナッツ類など、季節も土地柄も無視したものばかり。
 いくつか見慣れないものもあったが、それはこの世界独特のものなのだろう。
「確かに、こんなものを持ち込んだ記憶はないね」
「それに、やっぱりどれも大きいんだよ!」
 土地のせいだろうかと繭佳は考えた。
「ここに来る途中、何箇所かで土壌も調べたけど、どこも栄養豊富で良い土だったんだよ。林の中なんて、腐葉土いっぱいでふっかふかだったんだよ」
 土地が良ければ作物は栄養満点で大きく育ち、それを食べた動物もすくすく育つ……だからこの島では何もかも成長が著しいのだろうか。
「それはともかく、食べ物と水には不自由しないから、拠点を作るならここが良いと思うんだよ」
「そうですねぇ、ここなら十分な広さもありますし、地盤もしっかりしていますからぁ」
 ひとまずテントを設置して様子を見る程度なら問題はなさそうだ。
 ただ、雨が降ったらどうなるかまではわからない。
「洪水の跡のようなものは見受けられませんしぃ、大丈夫だとは思うのですがぁ……」
「ボクもそれは考えてた。島の大きさに比べて川が少し多い気もするしね」
 雨唯は湖から流れ出る幾つかの川を指差した。
「川の水量がある程度豊富でしかも一定だとすると、水源は雨じゃなくて地下水なんじゃないかな」
「なるほどぉ、地下水は雨の量に関係なく常に一定だと聞きますねぇ」
「地下水って山に降った雨が地下に染み込んで溜まるんだよ」
 繭佳はその現場を調べてみようと双子山を指差した。
 さあ、次は山登りだ。


 一方、同じ平原では調たち三人が気脈の調査を行っていた。
「この土地に流れる地脈……いえ、気が空中を流れる風となって現れているようですから、やはり気脈と呼ぶのが正しいでしょうか」
 愛良耶がまるで天に祈りを捧げるように両腕を広げ、その風を全身に感じながら呟く。
 それはただの空気の流れではなく、多量のエネルギーを内包していた。
「とても強力な、けれど……どこか異質なエネルギー……このままでは、私たちが利用することは難しいでしょう」
「どんなふうに異質なんですの?」
 調の問いに、愛良耶は暫し考えてから答えた。
「そうですね……エネルギーとしては非常に強力ですが、波長が違う、と申しましょうか……その影響から、通常のアウルとは多少異なる性質を持つようです……」
 何がどう、という具体的なことはわからないが、とにかく違う。
「私、なんとなくわかる気がします」
 艶華が言った。
「このままでは天魔のエネルギー源としての利用は難しいのではないでしょうか」
 艶華はハーフ天使。純粋な天魔には及ばないにしても、人間である調や愛良耶とは異なる感受性を持ち合わせていた。
「なるほど、そういうことですのね」
「天魔がこれを狙わなかったのは、それが原因……でしょうか」
 頷いて、艶華は言葉を継ぐ。
「でも、これだけエネルギーに満ち溢れたものをただ流しっぱなしにするのも勿体無い話ですよね」
「確かに、この島の動物も植物も、地球のそれとほぼ同種と認定して問題ありませんわ。にもかかわらず、全体的により大きく豊かであることは、この気脈の影響を抜きには考えられませんわね」
 この気脈と、その独特の波長。
 地球とこの世界との違いは、それ以外には見付かっていない。
「だとすると、この島で農業を行えばより収量も上がり品質も良いものが採れるということでしょうか」
 艶華の言葉に、調は首を傾げた。
「それは……わかりませんわ。この世界に自生する植物ならそれも可能……と言うより元々旺盛に育ちますが、地球から持ち込むとなると――」
「やはり、何か特殊な処理が必要になるでしょう」
 愛良耶が言葉を引き取って結ぶ。
「特殊な処理、ですか」
 石油のように精製したりするのだろうかと、艶華の脳裏に巨大な工場のイメージが浮かぶ――が、多分ソレジャナイ。
 気やアウルの力などというものは、科学的な処理でどうにかなるようなものではないのだ。
「となると……」
 その耳に、愛良耶の呟きが聞こえた。
「感じます……これは、きっと……ええ、見えます……わかります……!」
 愛良耶にはわかってしまった、らしい。
 その神がかり的なパワーによって、気脈の波長が霊杖や勾玉から発せられるエネルギーに近いということが。
「全ては、信仰の指し示すままに。霊杖を使用して処理すれば、私たち……【内務室】での利用は可能となるでしょう」

 というわけで、さっそく実験開始。
 恋音から豊乳女神の霊杖を借り受け、それを気の流れにかざしてみる。
 すると、霊杖が作り出す力場のようなものを通した気の流れは、三人の身体を柔らかく包み込み――
「ああ、溜まった疲労が溶けていくようですわ……!」
 調が感嘆の声を上げる。
 アウルの性質に寄せて変換された気は、三人の体の隅々まで染み渡っていった。
 それはまるで、身も心も洗い流すデトックス。
「内務室メンバーの疲れをとるには最適かもしれませんわね」
 乳島の門から短時間で往来可能であることを考え、ここに専用の保養施設を設置しても良さそうだ。
 ただし。
「……何故か、こう……胸のあたりがゾワゾワとしますわね」
 もしかして、発育に影響が出るのではないだろうか。
 主に胸部装甲に関して。
 と、艶華がいきなり素っ頓狂な声を上げた。
「私、ヒラメキました!」
 アウル仕様に処理された気が脳細胞を活性化したのだろうか。
 天啓とも言える何かが降って来たようだ。
「勾玉を動力に利用すれば、機械やスーツ等での補助が可能となるはずです……そう、この特殊スーツ【黒無垢】によって!」
 普段は物静かで大人しい印象の彼女がここまでテンション高くアゲアゲなのは、やはり気の影響が多分にあるのだろう。
 それとも愛良耶の信仰パワーが乗り移ったのだろうか。
 黒無垢とは、元々彼女ら内務室のメンバーが着用している、勾玉を利用するための機構を有した衣装のことだ。
「これを改良して、この異界のエネルギー供給を補佐するように出来れば……」
 勾玉の性質上、乳島限定なら効果は得やすいだろう。
 限定利用の形で乳島にエネルギー供給装置を設置することも出来そうだった。


 その頃、恋音は美詩の調査――と言うより実験を、そっと見守っていた。
 美詩に託されたのは、恋音が祖父との対応の際に手に入れた、いくつかの奇妙な品。
 発見された場所や時代が全くそぐわない、用途も不明な「場違いな工芸品」……つまりはオーパーツだ。
 あの丸いものがこの世界へ通じる門を開くための鍵だったように、それらの品もまたこの世界に関わりがあるに違いない。
 そう考えて持ち込まれた、一見するとただのガラクタのような品々。
 結果、そのうちのいくつかについて、その用途が判明した。
 それぞれの調査を終えて合流した仲間たちの前で、美詩はその結果を報告する。

「まずは、この材質不明の謎の壺ね」
 どう見ても怪しげな業者に言葉巧みに丸め込まれて、高値で買わされた安物にしか見えない。
 しかし、それはなんと――
「該当する特殊な波長の気脈に接する位置に置くことで、気脈のエネルギーを蓄積出来るの」
 つまり、電気にたとえるなら蓄電池。
「ただし関西と関東みたいに周波数が違うと使えない的な、ちょっとワガママで汎用性に欠ける感じのアレよね」
 しかし、その問題は次なるオーパーツを利用することで解決する。
「これは不思議な材質の振り子。これは該当する特殊な波長の気脈の流れを読み取ることが出来るの」
 その「該当する特殊な波長」が壺と振り子で共通であることは言うまでもない。
「これで違ってたりしたら、何の役にも立たないものね」
 振り子で気脈の通り道を探し、判明したその場所に壺を置けば、あとは放っておいてもエネルギーが溜まっていく。
「便利でしょ? もっとも、私たちが使えるように変換できないと宝の持ち腐れだけど」
 そこは愛良耶が調べているはず――ということで以上、報告終わり!

「……実際に試してみるのは、ひととおり皆さんの報告を伺ってからということでぇ……」
「はい! あたしはこんなの見付けたんだよ!」
 恋音の言葉に手を挙げた繭佳は、ポケットからいくつもの石ころを取り出して見せた。
 双子山の中腹にある台地にあったものだ。
「材質とか見覚えないし全然わからないんだよ。こんな不思議な石がたくさんあったんだよ」
 どうやらアウルに近い何かを含有していることは確かなようだが、詳しいことはまだわからない。
「持ち帰って調べてみるんだよ」
 その他、今回の調査で判明したことは次の通り。
「この壺や振り子は気脈の利用法と組み合わせることで、色々と応用が利くんじゃないかしら」
「平原や台地なら自然破壊も最小限で済みそうだし、そういった土地なら拠点を作ることも出来そうだね」
「ひとまず平原には、拠点としてテントを設置してみましたぁ。ゆくゆくは小屋のようなものを建てることが出来ればと考えていますぅ」
「拠点の近くでは農業を始めると良いかもしれないんだよ。あと台地には研究所と保養所を兼ねた施設を置くと良さそうなんだよ」
「あそこなら展望も開けていますし、保養所には最適ですわね。あとは山登りの手間さえ省ければ、休暇で訪れるにも便利ですわ」
「そのことなら、他の鍵を用意することでピンポイントな移動が出来るようになると思います。物資の輸送も可能になるはずですが、ただ肝心の鍵がまだ見つかっていませんので……」
「……そこは、もっと時間をかけて調査する必要があるでしょうねぇ……」
 今ある門からの移動が最も楽な場所は平原だ。
 そこに拠点が整備されれば、以降の調査は格段に進むことだろう。
「……ひとまず、現時点ではそんなところでしょうかぁ……」
「それじゃいよいよ、さっきから私たちをどこかに連れて行きたくてウズウズしてるらしい、この振り子さんの出番ね」
 美詩が例のオーパーツを掲げてみせる。
 それが指し示すのは気脈の流れ、それを遡って辿り着いた場所がすなわちエネルギーの源ということになる。


 そうして導かれた先が、ここ――双子山のちょうど真ん中、谷間に当たる場所だった。
「……おぉ、これはぁ……」
 一行の目の前にそびえる一本の巨木。
 その姿は乳島にあるチチノキサマに似ている――が、大きさが桁違いだった。
 チチノキサマも地球上の植物としては巨大だが、この世界では「巨大」のスケールが違う。
 それは北欧神話の世界樹ユグドラシルを彷彿させた。
 周囲には並の巨木の幹ほどもあろうかという極太の根が盛り上がり、蛇のようにうねりながら四方八方に伸びている。
 その根に阻まれて、もうこれ以上は近付けないところまで来た時――恋音の持つ豊乳女神の霊杖が反応した。
 八色の光が心臓の鼓動のように明滅を繰り返す。
 直後、恋音の頭の中で何かの意思が弾けた。

『待ッテイタゾ、豊乳ノ女神ニシテ我ガ対ナル存在ガ認メシ主ヨ……』

 この巨木はチチノキサマの対となる、言わば姉妹樹。
 そして、この世界の中心。

 そう、この惑星を取り巻く気脈は、この巨木を中心に世界を巡っているのだ。
 ゆえにこの樹は神木であり、この島は世界の中心にして聖なる地である。

 その神木の対となる存在、チチノキサマが認め、自身から造り出した霊杖を与えし者。
 それが恋音だった。

『永イコト、待ッテイタ。ソナタラノ訪レヲ……』

 かくして、邂逅は果たされた。



 以後、この島は「乳姫の宮島(ちきのみやじま)」と、気脈は「乳脈(にゅうみゃく)」と呼ばれることとなる。
 そこに生える植物から鍵を形成し、自由な移動が可能になったことから本格的な拠点の整備が始まり、その周辺で営まれる農業が拠点を村へと発展させる原動力のひとつとなった。
 その村が、いずれは乳神教の宗教的聖地として発展を遂げることとなる。
 台地で発見された石は魔具や魔装の強化を安定させる物質であることが判明、以降の【内務室】の装備強化に役立つこととなった。
 また、オーパーツにも改良が加えられ、気脈のエネルギーを蓄積できる壺は量産化と軽量化に成功、それに伴いエネルギーの供給装置も範囲の限定はあるものの、より効率的な形での運用が可能となった。
 結果、【黒無垢】にも改良が加えられ、最終的には強化装置として活用されることとなる。
 霊杖や勾玉経由でエネルギーを受け取る方法も確立され、天魔のエネルギー供給と同様の形で気脈を利用することが可能となり、最終的には主力級の全員が高位天魔級の能力を持つに至る。
 アウルの育成にも好結果が出たが、発育度も総じてかなり上昇――

 そして遂に、彼女らはこの世界での信仰対象となるに至る。
 おそらくはその、聖地に聳える双子山にも匹敵する巨大なおっぱいのゆえに。


 されど、それは未だ成らざる未来の出来事。
 いずれ語られることもあろうが、ひとまずはこれにて幕とすべし。


 いつかまた、どこかの世界で――



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1221/月乃宮 恋音/女性/外見年齢二十代前半/超爆乳女神】
【jb6160/花祀 美詩/女性/外見年齢二十代前半/青の乳神の姫】
【jb7498/雪篠 愛良耶/女性/外見年齢二十代前半/紫の乳神の姫】
【jb8999/鳥辺 雨唯/女性/外見年齢二十代前半/赤の乳神の姫】
【jb9001/風香院 涙羽/女性/外見年齢二十代前半/緑の乳神の姫】
【jc0602/露園 繭佳/女性/外見年齢十代後半/黄の乳神の姫】
【jc0944/琴ヶ瀬 調/女性/外見年齢二十代前半/橙の乳神の姫】
【jc1317/賦 艶華/女性/外見年齢十代後半/黒の乳神の姫】
【jc1751/玉笹 優祢/女性/外見年齢二十代前半/桃の乳神の姫】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エリュシオン
2018年09月25日

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