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『 世界が消えるなら 』
小鳥遊・沙羅aa1188hero001


月曜日

 昨日は仕事があったから。今日はお休みの日。
 と言ってもしばらく家を空けていたからほとんど生活必需品の買い揃えで終わってしまった。
 明日はH.O.P.E.に顔を出さないといけない。めんどくさい。

火曜日
 
 先週うけた依頼のメンバーがそろったからミーティングをした。
 また子供たちが食い物にされる事件だ。
 許せない。気を張って仕事に臨むことにする。
 と言っても出発は日曜日の朝だから。まだ先の事だけど。

水曜日
 今日は映画を見に連れて行ってもらった。
 でも私の見たい映画じゃなかった。
 男女が運命に分かたれて、最終的には遠く離れたところで暮す話。
 内容はまぁ、よかったとして。
 後半からは不運だった。
 件の発作が襲ってきてしまい、吐血と戦ってしきりに嗚咽をかみ殺していたのだけど。
 それが泣いていたと勘違いされて笑われた。
 そもそもよく考えてほしいのだけど。
 泣けるシーンなんてあったのかしら。
 だって、別れなんてだれにでも訪れるものだし。私は別れを悲しいだなんて思わない。

木曜日

 友人がアルバイトしているカフェに行った。
 不思議と何を頼んでも出てくるお店なのだけどチーズケーキは品切れだった。
 少し残念だけど、チョコレートの美味しいケーキと紅茶が出たから私は満足。
 今日も喫茶店は騒がしかった。
 何度来ても同じような盛り上がり方をして、同じような話をするのだけど。
 私はここが大好き。ずっとここにいたいくらい。

金曜日
 ECCOからもらった彼女のチケットでライブにいった。
 すごくいい席で、最前列から三番目の席。ECCOの顔がよく見えた。
 ライブが終わってから楽屋に挨拶に行った。
 ECCOもすごく沢山お酒をのむのね。楽屋に入るなり差し入れられたワインとか日本酒の山が目に入ったわ。
 その後ECCOのおうちで打ち上げをした。
 楽しかった。

土曜日
 
 任務のために家を空けるその前日はなんだか忙しい。
 旅行に行く前日の準備が慌ただしいのに似ているのかしら。
 私は旅行をしたことが無いからわからない。
 そう言えば。この世界は広大だけど、旅行という名目でどこかに行ったことはなかったわ。
 香港。ロシア。南アメリカ。インド周辺のアジアにもいったし。
 日本各地もいろいろ行ったけど。
 思い出は戦いの事ばかり。
 それでも私は不満に思ったりしなかった。
 旅行でいくのも魅力的だけど、旅行じゃ決して立ち入れない場所にも入れたし。
 大自然の厳しさというか。脅威というか。
 寒かったり、冷たかったり、熱かったり、危なかったり。
 そんな生の感覚を得られることなんてかつての私にはそう……なかったから。
 だから少し、恐ろしい。
 私が。
 あの世界に戻った時。
 私は元の完全な化け物に戻る。
 そうなったとき。
 私はこの思い出をどう思うだろうか。
 消したいって思わないことを未来の私に願う。
 こんな素敵な日々。宝物にはなっても。
 痛みには、変えたくない。




 その人物はその文章を読み終えると、茫然と文机の一点を凝視した。
 何か考えているわけではない。
 ただ、ただ最後の一文が悲しかった。
 なぜ、彼女がこんな痛みを抱えなければならないのか。それがわからなかった。
 やがて女性の指から力が抜ける。
 ことりと分厚い表紙の日記帳が床に転がり、暗い部屋の闇に飲まれる。
 その日記の書き手。
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001@WTZEROHERO)』は今家出中である。
 それはなぜか。
 能力者と喧嘩したからだ。
 理由は簡単。
 ちょっとした擦れ違いからである。
 発端は沙羅から。
 そう、それは何気ないたった一言のせい。

「私がいなくなったときのことも考えて、一人で生活できるようにしないとダメよ」

 なぜ、あの時かっとなってしまったかはわからない。
 ただ、その一言に冷静ではいられなくなって何かを言ったことを覚えている。
 それに沙羅は反論して。
 あとは売り言葉に買い言葉だった。
 何を言ったかは具体的に覚えていない。
 だけど。ひどいことを言ったのは覚えている。それを口に出した時、しまったと思ったのを覚えている。
 彼女は後に続けようとした言葉を飲み込んで、傷ついたように目を見開いて、涙一つこぼして。
 そして駆けだした。
 走り去っていく小さな背中を呼び止めることもできずに。ただ見送った。

 女性は手探りで日記を手に取る。
 ページを一枚めくるとまた、彼女の日常が刻んである。
 そこにはまっさらなページの中、見落としそうな小さな文字でこう書いてあった。

「だれか、私を助けて」

 足が勝手に動き出す。扉に体当たりするように押し開け、その小さな背中を探そうとあたりを見渡した。
 しかし、その探し求めていた少女はすぐ見つかることになる。
 目の前にいたのだ。
「私がいなくても元から大丈夫だったなんて言わないでよ」
 泣きじゃくる沙羅が扉の前に座り込んでいた。
「私、何のためにいたのよって、思っちゃうじゃない」
「あなたは、あなたのためにここにいたのよぉ」
 女性は告げる。
「だからこそ、あなたはここにいるべきだと思ってるわぁ。誰のためでもない。あなたのために。だって」
 この一週間、沙羅はずっと笑っていたから。
 日本に帰ってきて、その街並みの平穏さに笑い。
 H.O.P.E.にて会う変わらない仲間たちと笑い合い。
 映画を見て。くだらないと感想を述べて笑って。
 友達と笑って。
 だからこそ思う。ここにいるべきだ。彼女は彼女の意志でもって、ここに、この世界にとどまるべきで。
 自分はそのために力を貸すことは惜しまない。
 そう思っていたのに。
「いなくなるだなんていわないで」
 告げると沙羅を温もりが覆った。
 この世界でしか感じることができない体温を沙羅は今しっかり噛みしめる。
「よく……きいて」
 沙羅は口を重たく開く。
「私は、英雄は、この世界じゃイレギュラーな存在よ。本来存在してはいけないの」
 そもそも英雄には実態が無い。実体である肉体がこの世界にない以上。この世界への召喚もまた夢、幻のようなものなのだろう。それを沙羅はずっと考えていた。
「この戦いが終わったら私たちは元の世界に戻ることになるわ」
 沙羅は自分を抱く力が強くなったことを感じた。
「この世界を救えば、私は元の世界に、誰からも忌み嫌われる化物に戻る。
 誰とも関わらず、永遠に孤独に生き続けるのだろう」
「そんなの…………」
 そんなのこの世界を救う英雄にはふさわしくない仕打ちだ。そう女性は首を振る。
「それでも、この世界を救いたいと思う」
 告げる沙羅の声はもう泣きじゃくってはいなかった。
 その思いにだけは、迷いがないのだろう。
「私は昔、大好きな人を助けようとして。逆に溶かしてしまったことがあるわ」
 あの少女の笑顔。忘れたことはない。
「でも、今はこの手で世界が救える。それだけで私にとっては上等なのよ」



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『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001@WTZEROHERO)』


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております、鳴海でございます。
 今回は外側から沙羅さんの内面を描けるように頑張ってみました。
 メインの物語は佳境でございます。残り少ない期間ですけどもよろしくお願いします。
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2018年09月26日

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