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『撒き餌、裏腹、好奇心 』
石神・アリス7348

 ひとまず競売は滞りなく終了した。ずっと注意して見ていたが特に引っ掛かるような邪魔も監視も入ったとは思えないし、競売自体の成り行きも落札者についても、ややこしそうな気配は取り敢えず無い。

 本宮なる謎の男――と言ってもどうやら以前諸事情で概要だけなら調べた事のある「本宮秀隆」と同一人物らしいと後に判明したのだが――から先日受け取らされてしまった「贈り物」の処遇。
 暫しの思案の後、石神アリスとしては――結局いつも通りのルートでその「贈り物」を素材に作った「石像」を売り捌く事にした。…と言っても勿論厳重に警戒を重ねた上で、本宮狙いの「撒き餌」として使う為にである。

 石像は「彫刻」では無く「石化」ではないのか、そんな力を持つ何かを飼い慣らして作らせているのでは――そんな疑いを向けて来る輩を相手に回すとなれば、このくらいの仕掛けは必要である。



 当の「撒き餌」である石像を競り落とした落札者の連絡先を、予定通りに「使用」する。…自分がアドバンテージを取る為の仕切り直し。携帯に残したままの「本宮から掛かって来た電話番号」へとリダイヤル――予想通りに、番号はまだ生きていた。

(…あ、掛けて来てくれたんだ)
「ええ。待っている、と伺ったので」

 石像が出回るのを。

(わ、それでわざわざ?)
「ええ。今、何処にあるのかがわかったので」
(えー、白々しいなあ。君が売ったんでしょ)
「さて。細かいお話は電話では少々憚りますね」

 それでも詳細を知りたいと言う事でしたら、直にお会いしてならお話しする事も吝かではありませんが…。



 と、そんな感じで話を持って行き。
 結果から言えば、意外と素直に本宮はこちらの誘いに応じて来た。待ち合わせの場所はとあるカフェ――アリスが把握する領域内の、落ち着いた静かな場所である。
 店に入って来た時点で、それが本宮だとすぐにわかった。と言うか、何かと縁があるダリアの姿を目印にさせて貰ったとも言う。…詳しいところは敢えて触れなかったが、この二人は一緒に行動している可能性が高いと話に聞いていたので、護衛として一緒に来る気は無いかと鎌掛けがてら電話口の本宮経由で振ってみたのだ。「どちらの護衛」かまでは敢えてはっきりさせなかったが――まぁ、彼と知り合いだと示すだけで、同席するだけで手頃な緊張の楔にはなるし、ダリアもダリアで興が乗ってくれたようでもある。
 そうでも無ければ、そもそもダリアは今ここに居ない。
 また、更に言うならダリアにまで話を振ってみたのは――確かめたかった事もあったから、である。即ち、ダリア経由で本宮がアリスの事を知った可能性はあるか――もしそうならこちらの知られたくない秘密を既にして全て知っている可能性も出て来る訳で、石化売却コース確定である。
 が、一連の様子を見るに、取り敢えずその懸念だけは無さそうだと確かめられて、少しほっとした。
 面倒事はなるべく避けたい。

「…で、こちらが件の石像の――今の持ち主さんの連絡先です」

 と言っても、石像を確かめさせてくれる可能性は著しく低いですが。

「ありゃりゃ、そりゃ残念。ってまぁそこはあんまり拘らないけど」
「拘りませんか」
「そりゃあね。「あの子」は君に伝手を付ける道具にさせて貰ったようなものだから」
「…。…何故わたくしに伝手を付けたいと? 貴方はわたくしの事をどうやって知ったのです?」

 わたくしは基本的に表では目立つ事をしていません。

「うーん。存在自体が目立つとは思わないかな? どれだけ仲介を挟んで動いたとしても、その大本を辿ればどうやら「まだ学生らしい女の子」…となれば、それだけで他者からの気を惹くよ。行動が周到であればある程、余計にね。いったい、何者なんだろうって」
「そういうものですか」
「むしろ何処か抜けてる感じだったら、ここまでの興味は惹かないと思うけどね」
「…」

 完璧過ぎるのも良くない、と言う事か。

「まぁ、確かにわたくし自身の存在を隠す事まではしていませんでしたか」
「そういう事」
「ですが、危険は感じませんでしたか?」
「?」
「わたくしに纏わる噂の方ですよ。もしそれが事実だとしたら…いえ、そうでなくとも「関わるのが危険」だと言う警告とは受け取れませんでしたか?」
「ああ、むしろだからこそ伝手を付けたかったんだけどね。僕の場合」
「何故です?」
「もし本当に「メドゥーサ」が居るなら会ってみたいと思っただけ」
「…」
「神話とかだと美人さんって言うじゃない」
「…それだけですか? 冗談ですよね?」
「本気だけど。視線だけで他者の生命活動を左右出来る程の力ある美人さんなんて言ったら…お近付きになってみたいと思わないかなぁ。虚無とかみたいな危ない組織だとその手の実験体とか結構居そうだけど、石神さんみたいな個人でそういう能力者や人外とお付き合いがあるとしたら、まずナチュラルボーンでしょ?」
「…付き合い切れませんね」
「良く言われる」
「…」

 どうやらこの本宮、虚無の事すら承知している類の人種らしい。
 そして言っている事も、声音や表情、眼の光からして――どうやら、本気である。

「まぁ、「メドゥーサ」に会うまでもなく、石神さんも石神さんで可愛らしいよね」
「…つまりただのストーカーだったんですか」
「え、それは心外だなぁ」
「そうは言いますが、わたくしの事をずっと見ていたのでしょうに。いつから見ていたのですか?」
「んー、いつからって言うか…直に見たのは今が初めてだよね」
「その割に。先日の電話は随分とタイミングの良過ぎるところで掛かって来たのですが?」
「それは偶然。嗾けたあの子が石神さんのところに行くタイミングとか考えて、そろそろ一段落着くかなってところで電話掛けてみただけ」
「…それを信じられると思いますか」
「でも本当なんだけど。色んな場面でタイミングいいってよく言われるし」
「…そこについては僕が保証してもいいですよ」

 ダリアが不意に、そう挟んで来た。
 曰くこの男、タイミングの計り方については殆ど異能力者らしい。

「…まぁいいでしょう」
「あ、信じてないよね」
「当然です。そこは信頼に足る回答が無かったものと認識しておきますので」
「そうなっちゃうか」
「はい」
「んー、じゃあそれはしょうがないとして。折角だからこっちも一つだけ確かめさせて貰っていい?」
「わたくしへの余計なちょっかいはこれきりにして下さるのなら」
「それは構わないけど。…じゃあ質問。石神さんが飼い慣らしている手下の中に、僕が言う「メドゥーサ」に該当する「何か」は居る? 居ない?」
「居ませんよ」

 事実である。
 該当しそうな知人の有無は問われていないし――自分自身、は手下では無い。

「そ」
「ええ」
「んじゃ聞きたい事は聞けたから、まぁいいや」
「ならもう、お話はここまでで構いませんね」

 先日の「贈り物」を一方的に送り付けるような真似も、二度としないで頂きたいものです。
 そう続けつつ、アリスは静かに席を立つ。

「あれ、もう行っちゃうんだ」
「ええ。わたくしも暇では無いので。こちらの煩いが解消したならわたくしはもう貴方に用はありません。本宮さんの方でもわたくしへの用が済んだのでしょうから、そろそろ失礼を――ああ、最後に一つだけ」
「?」

 好奇心は猫をも殺す、と。
 どうぞ、その事をお忘れなく。…貴方自身の為にも、余計な事は金輪際なさらないよう。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【7348/石神・アリス(いしがみ・-)/女/15歳/学生(裏社会の商人)】

■NPC
【NPC3020(旧登録NPC)/本宮・秀隆/男/35歳/ハッカー】
【NPC0532(旧登録NPC)/ダリア/男/10歳/破壊者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 今回は続きの発注、有難う御座いました。
 そしてやっぱりまたもお渡しが遅くなっている訳なのですが…大変お待たせしております。

 また、お預かりしている間に迷走台風やら北海道で地震やらとあちこちで災害が起きておりますが…もし被災されていたとしたならお見舞い申し上げます。
 って前回も似たような事を書きましたが、近頃いいかげん災害が多いようでむしろ御見舞挨拶が追い付けないような感じなのですよね…現時点で被災されていたとしてもいなかったとしても、今度ともどうぞお気を付け下さいまし。

 内容ですが…今回もまたプレイングの意図が確り汲めていたかが少々気になっております。「贈り物」の使い方もですが…以前参加頂いたノベル「piece.DG 黒崎の帰還」で本宮とダリア間の諸々は石神アリス様は恐らく御承知と見ていいかと思ったので、ダリアの護衛の件やら本宮の「危険を顧ない感」はNPCの設定に寄せる描写に濁させて頂いてみました。
 そして「好奇心は猫をも殺す」――最後にそんな言葉を残されてしまっては、釘刺しどころか次のちょっかいへのフラグになる気しかしないのですが、どうしましょう(笑)

 と、そんな感じなのですが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月01日

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