▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『鼓動』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 出かけ前、アレスディア・ヴォルフリートは丁寧に髪を梳いていた。
 そう何故か、いつもよりとても丁寧にゆっくりと、鏡の前で銀色の髪を梳いていた。
 服装は普段着――いつ、いかなる時でも護れる格好、いつも通りの黒装束。
 そしてこれから向かう先は、仕事の現場ではなくて、ディラ・ビラジスの部屋だった。

 先日。東京と異界を繋ぐゲートの側で、アレスディアはウイルスに侵されたディラを助けるために、強引に彼に自分の血を飲ませた。
 ディラを転ばせて組み敷しき、自らの手を貫き血を口に含んで……口移しで。
 その時の事が想い巡り、アレスディアは思わず眉間に皺を寄せた。そうして、得体のしれない感情を抑えようとする。
「私は矛と盾を振るうばかりで、誰かを癒す術は持っていない」
 簡単な応急処置くらいはできるのだが、あの場には処置に必要な器具はなかった。なにより、時間がなかった。
「だから、そう、あれは、私があの場で出来る唯一最善の処置、だったのだ」
 その後で。ディラがアレスディアを求めて、奪うように口を重ねてきたことも。
「ディラが私を求めたことも、抗体を求めてのことに過ぎない」
 あれから何度、そう自分に言い聞かせただろうか。
 寝て起きて、数十時間の時も流れたというのに。まだ、あの時の熱さが、感触が、残っていて。息苦しさを感じていた。
 酸素が足りない。
 胸の高鳴りがいつになっても治まらない。
 今までも高鳴りを覚えることはあった。
 そう最初は――1年と少し前。彼の初めての誕生日。
 ディラにアレスディアは彼が選んだエプロンドレスを纏うよう、求められた。
 プレゼントの一つとして、求めに応じたアレスディアに向けられた眼。
 彼がアレスディアに向けた真剣な眼差しを見た時。アレスディアの心臓は意図せず、大きな音を立てていた。
 その後も、ディラの言動に高鳴りを覚えることがあった。
「たが、その都度自分に言い聞かせ、落ち着かせてきた」
 はずなのに。
 手で胸に触れずとも分かる、心臓の音が喉に響いてきている。
 何度自分に言い聞かせても、治まらない音。
「今回ばかりは、それができない」
 アレスディアは頭を振って、大きく息をつく。
 他の人物との交わりで、このような状態になったことはない。
(彼にだけ覚えるこの高鳴りは一体、何なのだろう)
 何度も大きく息をつきながら、アレスディアは考える。
(彼もまた、同じ高鳴りを覚えるのだろうか)
 彼に会えば、その正体がわかるだろうか?
 アレスディアが感じ取っていた、彼が胸に抱いているものの正体も、わかるのだろうか――。
(けど、会うのが怖い)
 彼がアレスディアに言わずに、秘めている感情が。
(……拒絶、だとしたら)
 息苦しさが増す。
 まぎれもなく、アレスディアは恐怖の感情を抱いていた。
 凶刃を前にした時も、巨大な力に立ち向かう時にも、感じたことのない恐れの感情。
 彼を見舞いたい、会って安心したい。
 だけれど、怖い。震えそうに怖いのだ。

『大丈夫だ、行かない。治療薬はここにある、から』
 そう言って、あの時、確かにディラはアレスディアを求めた。
 抗体を求めてのことに過ぎない、と。
 アレスディアが自分を言い聞かせようとしても、出来ないくらい強く。
『けど、たまに発作を起こすかもしれねーから、その時はまた、頼む』
 そして、自分の唇に触れた彼の指の感触もまだ、残っていた。
 また求められたとしても、それは発作を鎮めるため、だけのこと。
 そう言い聞かせようとしても、多分その時、自分の心臓は激しく高鳴るのだろう。

 約束の時間が近づく……。
 症状は落ち着いているとのことだが、治療具を持っていった方がいいだろうか。
 ちらりとそう思うが、何故か、持っていく気にはなれなかった。
 アレスディアは櫛を置いて深呼吸をすると、軽く胸のコインを握ってから、外へと向かう。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

お世話になっております、ライターの川岸満里亜です。
アレスディアさんの心の状態に、1ノベル割いてくださりありがとうございます。
続きのお話しも、近日中にお届け出来ると思います!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月03日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.