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『魔法のガラスの花と華 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

●魔法の薬
 シリューナ・リュクテイアは仕事の依頼の魔法薬を作った。道具を使ってシャボン玉のような膜を作り、そこにモノを入れるとガラス細工になるというものだった。
「危険なもの、と言えばそうだけど、使う人がティレと私か依頼主。依頼主は思想的にも問題ない人」
 そのあたりは調査済みだし、付き合いは長い。まっとうな魔法薬屋としては依頼主を選ぶのは当然だ。
「それに、もしもの解呪薬の準備も万端。そもそも、魔法は切れるのよね。でも悪用するような人に渡るとは思わないし、本当はいらないかもしれないわね」
 請求書など書類はこれから作るが、届けるのは先にしておいた方がいいと考えた。そのため、妹のように可愛がり、魔法の指導をしているファルス・ティレイラを呼んだ。
「お姉さま、お呼びですか?」
 そわそわ、わくわくと入ってくる。
「これを、ここに届けて、作業をしてきてくれるかしら? これから先方への請求書を書くのよ。それだけだからすぐに追いつくわ」
 行先をメモした紙と魔法薬の入ったやや大きめの瓶、相当古いラジオを改良したような機械を渡される。
「はい、お仕事ですね! 届けるのとお手伝いは任せてください」
 配達屋という名の何でも屋であるティレイラにとっては仕事である。その上で、シリューナに頼まれるならば、嬉しいことであり、どこか誇らしくもなる。
「あ、どのように使うのですか?」
 シリューナは説明した。液体を入れる場所、シャボン玉の調整法、包むための物をどこに置くかなどである。
「注意事項は、巻き込まれないようにすること、よ。花だからそんなに大きくはないからいいけれど、もし、大きくしすぎると、スイッチ押した瞬間、巻き込まれることもあるから」
 シリューナの注意に、ティレイラは嫌な予感がよぎる。まるで未来の予言のようで恐ろしかったが、丁寧に、手順を間違わなければ防げるため、その嫌な予感は余計なことだと、脳の片隅に追いやった。
「お姉さま、注意をありがとうございます」
「では、気を付けていってらしゃい」
「はい、お姉さま」
 ティレイラを見送って、シリューナは書類作成に移った。

●ガラスの花
 ティレイラは目的地に到着した。ショーウインドウにはガラス細工の花が飾ってある。木製の棚と大きめの花瓶に花束というデザイン。花瓶はカットが複雑であり、花束は透明な色合いとガラスという組み合わせである。どちらも光による反射が美しい。
「光の角度によって、表情が違うのかしら……見てみたいかも」
 ティレイラは思わずつぶやく程、美しいデザインのものだった。
 手で扉を押し開ける。扉につけられたベルが澄んだ音を立てた。扉もガラス、ベルもガラス製。ティレイラは思わず見上げる。ベルは切子細工のような表面で音だけでなく、見た目も美しかった。
「いらっしゃいませ」
 小柄な女性が出てくる。年齢は二十代後半に見える。
「お届けに上がりました」
「まあ、シリューナさんのところの方ね?」
「はい」
 女性はおっとりとした口調で言い、ティレイラを招く。
「作業もするように言われています」
「助かります。私は細工をするのに手が一杯で」
 ティレイラを店の奥に導く。ティレイラは荷物がガラス製品に当たらないように細心の注意を払って移動する。通路の幅はゆったりととってあるため通常ならばひっかけないはずだが、ちょっとしたミスが大惨事を招く品物ばかりなのだ。
 その雰囲気が伝わったのか、店主は柔らかに微笑み「もう少しリラックスしてくださいな」という。
「いえいえ。注意してしすぎることはありません! こんなに素敵な作品を無残に壊すなど考えたくありません」
 首を横に振ったときにカバンが机に当たり、ガチャンと音がする。
「ひい」
「あらあら」
 緊張すればするほど動きが硬くなる。ティレイラがぶつけたといっても注意をしているために、軽く当てただけであり、ガラスが音を立てただけ。
「その程度では壊れませんから、安心してくださいね。それに、通常のガラスよりは丈夫ですわよ?」
「……あ」
 ティレイラは緊張しすぎで忘れていたが、魔法の力が加わっている作品なのだ。花の見た目をそのままガラス化するだけでなく、一定の強度もつけているのだ。そうでないと、この店主が魔法ガラスの細工を人に貸す仕事などできない。
 それでもティレイラは作業場に入ってほっとした。次に目に入ったのは大量の花々で、花の香にくらくらするほどだ。カスミソウやバラなど年中比較的見られる花だけでなく、季節の花やグリーンもある。花屋かと見まごうほどだ。
 そこには花束もある。ガラス細工にするのだろうけれども、それだけでも十分美しいとティレイラは思う。
「お手伝いはどうすればいいですか?」
 ティレイラは作業台の開いているところに荷物を置き、機械と薬を取り出し置いた。鞄を床に置き、作業場を確保する。
「ここにあるもの全部をお願いしますね。こちらは試しに形を作った上でガラス化してみようと思ったの。こちらは植物のままなので、一つずつガラス化お願いしますね」
 ガラス化した物も店主は形を変えていける技術を持っていた。細工が先か、ガラス化が先かでどう違いがあるのか気になるところでもある。
「分かりました! 任せてください」
「私はここで作業をしていますから、質問があれば声をかけてくださいね?」
「はい!」
 ティレイラは早速作業に移る。薬を機械に入れ、シャボン玉ができる部分に薬の影響が広がらないように特殊なマットを敷いた。試しにゴミになる茎の一片で試した。試運転はうまく行き徐々に作業に移ることにした。
 植物一つ一つの物をガラスに変える。
「大きさはこのくらい……」
 ダイヤルを動かし、高さ、最大の幅などを入力する。
「そして、ボタンを押す」
 ゴゴゴゴと機械が動き、植物の大きさにあったシャボン玉ができた。
「慌てず、騒がず、手早くガラス化したいものを入れる」
 小ぶりの植物を押し入れる。
 シャボン玉が台に接し、じわじわ小さくなっていく。縮んだ膜が植物に接するとそこからガラス化が始まる。そして、シャボン玉が消え、台の上に倒れる。
 薄い花びらが壊れるかとハラハラするが、魔法薬の力が効いており、全く壊れない。敷いているものに倒れ、ガラスがこすれるカシャンと小さな音を立てるだけだった。
「これで完了で、触ってよしです」
 指紋を付けたりしないように、布の手袋で花を回収し、指定されている箱に置いた。
「このペースだと終わらなくなりますので、大きさを見て……」
 丁寧すぎると問題だが、慎重さは忘れないようにしつつ効率をあげようとティレイラは試行錯誤する。
 店の入り口で音がして、店主が席を立つ。その時声をかけられたが、気づかないほど熱中していた。

 しばらくたって、ティレイラは一人だと気づく。声をかけられたような気もするので、気づかなかっただけだと分かった。
 作業は大詰めであった。
「……これで、こう……おしまいです!」
 最後の作品を棚に置いて、ほっと息を吐いた。
「請求書を持ってくるとお姉さま、言っていたから、ひょっとして!」
 急いで片づけて合流したいと考えた。機械に触ったとき、足が滑った。その拍子にダイヤルを最大にし、ボタンを押してしまっていた。
「……えっ! あ、ちょっと」
 悲鳴を上げどうにか逃げようとあがく。本来の姿、竜の角と翼、尻尾がある姿になり、飛んで部屋の隅を目指そうとした。尾にひやりとした感触があった。びくっと身を震わせ、動きが止まる。
「あ、逃げ……きゃああ!」
 逃げないといけないと思い出した時には、シャボン玉の中にティレイラはいた。
「ど、どうすればいいの? お、お姉さまぁぁぁ!」
 扉が開いた音を聞いたが、膜はしぼみ、ティレイラの意識は途切れた。

●ガラスの……!?
 ティレイラが一人になったころ、店主はシリューナを迎える。
「作業はどうかしら?」
「はい、順調ですわ。ティレイラさんが手伝ってくださって本当に感謝です」
「その料金も込みで、請求書よ」
「ふふっ、そうですわね。それより、シリューナさん、新作なのだけれども、これはどうかしら?」
 店主は請求書を受け取った後、魔法ガラスのアクセサリーを見せる。薔薇を中心に、鳥や蝶などが図案化され、花びらで描かれている。
「これはレンタルより、販売にしたくなるものね。まあ、魔法薬の効果を考えるとレンタルで止めてもらう方がいいけどね」
「そうですわねぇ……ここの子たちもレンタルだから、借りた人は朽ちた姿を見ないで済む、のですもの。種明かしでもあるのですけどね」
 店主は残念だと溜息をもらす。
「永遠っていうのも考えによっては寂しいわよ。それに、花は成長し、開き、散るもの。花によってどこがいいかは別だし、どれも美しく、愛でるものよ」
「うふふ、そうですわね。魔法で一時期を、ちょっと長めに楽しませてもらえる、それが一番いいですわ」
 店主の言葉にシリューナはうなずいた。
 その時、作業場からティレイラの悲鳴が聞こえた。
 二人は素早く移動した。何があったのかわからないため、あらゆることを想定はした。
 扉を開け、中に入ろうとして、二人は足が止まる。目の前にシャボン玉の膜があったためだ。それは徐々に小さくなる。
 ティレイラは人型ではなく、角と尾と翼を持つ姿でガラスになっていた。
 周囲には生花はなく、ガラス細工となった植物しかない。そのため、ティレイラはガラスの花畑の中心にいるようにも見える。
「最後に気を緩めてしまったのね……」
「ティレイラさん……」
 しばらく、悲しみと同情と憐れみなど入り混じった顔で二人はティレイラのガラスの像を見ていた。
「……助けなくていいのですの?」
「その前に……じっくり見ない手はないわ!」
 シリューナの鼻息が荒い。ティレイラの動きと止まったところに現れる曲線、ガラスの透明度ときらめき、何もかもが美しい。最初は助けよう気もあったが、目の前にあるのは芸術品という考えになっていた。
「ティレなんて……ああ、でも、こうして私を楽しませてくれるなら……」
「あの、助けないでよろしいのですか?」
「それはいつでもできるわ。今は、この子のこの美しく愛らしい姿を目に焼き付けておくことが重要よ」
 シリューナはキラキラ輝く目でティレイラを見つめる。
 店主はうなずいた。ティレイラの様子は美しくはある。シリューナがそれでいいならばそれでいい。
「そうですの? 確かに、可愛らしいですし素敵ですわ。翼の形が大変良い方ですね」
 店主はシリューナにキッとにらみつけられた。店主はまずいことを言ったかと緊張する。
「そうなのよ! それに、この子の美的感覚! このガラスになる直前にこの角度で尾を止めるなんて!」
 むしろ喜ばれたのだった。
「シリューナさんがおっしゃる通り、この曲線の出し方は素晴らしいですわ」
「その上、この助けを求めるときの両手の位置、泣き出しそうなそれでも自力でどうにかしたいという表情」
「可愛いだけではない、意志の力を感じますわ」
「そうよね! ああ、もう、ティレは可愛いのに、こんな状況になっても……そうね、可愛いのよ」
 シリューナは慈しむ表情で、ティレイラの背を撫でる。両手を首に回し、抱き着くように背のラインを眺める。
「角の生え際と髪のあり方も素晴らしいですわね」
 一歩引いてみている店主の言葉に、シリューナはパッと離れる。
「いいところに気づいたわ! そうねぇ」
 シリューナは頭を撫で、角を撫でる。それから、また離れ、くるりとティレイラを一周してよいところ探しをする。
 探すまでもなくすべてが良い。
「ティレ、しばらくこのまま、美しくそして可愛いままでいてね」
 シリューナは店主を巻き込み、しばらくの間、ガラス細工ティレイラを鑑賞するのだった。

 ティレイラが目を覚ましたとき、カレンダーを見て悲鳴を上げることになる。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋
3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)
???/店主/女/27/魔法ガラス細工レンタル業


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 再びお会いできたことを嬉しく思います。
 ガラス細工、そのままでガラスになるなら、透明で色があるんだなと途中で気づきました。ガラスだとああだから、色があるとこうなのか、とブツブツ言いながら書いていました。
 ありがとうございました!
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2018年10月03日

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