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『無人島奇譚・2 』
海原・みなも1252

●海の底
 コポリコポリ……海の中で空気が球になり、浮かんでいく。
 それに比例し、海原・みなもは沈んでいく。
 冷たい海の中、ただ沈む。
 手先の感覚がなくなり、肺の中の空気が抜ける。
 南方の人魚の末裔であり、その力も受け継いでいるため、海の中で恐怖を抱かないはずだった。しかし、感覚がなくなり、空気が減ることは恐怖の対象である。恐怖がないのは、これが夢だと認識しているためだった。
(夢です……だから苦しくはなりません。でも、怖いです。知りたいのです、海は何か告げようとしているのか)
 ここで得られる情報が正しいか不明だが、手掛かりがほしかった。
 海の底に足がつくところまでやってきた。
 みなもの背筋が凍る。
 ひしひしと伝わる冷気は深海の冷たさではない。そこにある何かの影響であり、確認したくはないが確認しないとならない。
 地面に足を着いた瞬間、地面の状況のおぞましさに悲鳴をあげた。地面が動いているが動いていない。黒く、髪のような触手のような、流動する形の有る物。みなもはその上にいるが地面に立つのと同じ感覚。
(……声がします? これは、知ってはいけない名前ですっ!)
 みなもは海の底に封じられた古の存在の名を聞き、夢で意識を失った。

●覚醒
「おい、大丈夫か」
 目を覚ましたみなもは、草間・武彦の狼狽に驚く。
 きょとんとするみなもに、武彦は大きく息を吐いた。ポットの飲み物をカップに注ぎ、体を起こしたみなもに渡した。
「ありがとうございます」
 カップを両手で包み込むように持つと、ぬくもりがみなもに浸透していく。
「まあ、無事だな」
「……何かあったんですか?」
「……まったく、朝になってもこのありさまだ」
 武彦は何か言いかかったようにも見えた。
(外は霧で、まさに五里霧中です。それより、草間さん、やつれています?)
 寝ている間に何かがあったのかと不安になる。
「どうした?」
 武彦の問いかけにみなもは「霧、すごいです」と告げる。
「だが、行かないとな。今日の調査は、街で手がかりを探す。文書の一片でもあればいい」
 無人島の調査。六十年も前の事件の調査だ。みなもを連れてくる指定もあり、不穏や違和感だらけの依頼だ。
 調査が終わって無事帰れるのか不安に思う空気が漂う。なんにせよ、調査を終える必要がある。
 みなもは来た日から黙っていたことを話したほうがいいと考えた。
「あの、草間さん。時々、海から声のようなものが聞こえているのです」
「声?」
 みなもは島に近づいたときから聞こえている声について語った。声か波の音などなのか分かっていないと素直に言う。
 武彦は表情を変えずに聞き終える。
「この霧が俺を招き、水はお前に何か告げる……」
「招く?」
「確信はない。霧に意思が紛れ込み、水という媒体で声が飛び交う」
 海の水だけでなく、霧も水と考えるとみなもに対して訴えるものが複数あるとも考えられた。
「すべてが干渉し合う。ここは外の神を招こうとした夢の跡」
「草間さん!? なぜ?」
 みなもは息を飲む。武彦が語ることをどこで知ったのかが疑問だ。
「ということを調べに行くぞ」
 武彦は答えないが、適当に言ったことではないだろう。
 みなもは目が覚めてから夢に何かがあると感じているため、状況との関係を疑う。
 忘れたほうがいいはずだが、調査のためには必要かもしれない。

●クモ
 大きな家と丈夫な建物を重点的に調査する。
「朽ちてる、か」
 武彦がうめく。一見無事な建物も、中は雨漏りなどでひどい有様だった。
「引き出しとか箱に入っている記録があるといいですよね」
「あっち行くぞ」
 みなもは慌てて武彦を追いかける。蔵の扉を開けようとして武彦の動きが止まる。
 武彦が蔵の前でたき火を始めたが、みなもは何か意図があるのだろうと手伝う。松明のような物も作り、たき火につっこんだ。
 松明を持つと、蔵の扉を開ける。
 その直後、みなもは武彦がその松明で何かを殴るのを見る。
 明かりに照らし出され、殴られ悲鳴を上げたのは巨大なクモだ。その顔は人面をしているようだった。それは武彦を捕らえようと動く。
「燃えろぉ!」
 武彦は再度、松明をたたきつけた。
 断末魔をまき散らし、それは消えた。まるで白い霧に巻き込まれたのが原因のように。
「草間さん、今の!?」
「トリックだ!」
「現実逃避です!」
「したくなるだろう!」
「……そうですね。クモの巣だらけですか?」
「消えたよ、それも、投げつけた松明も。霧もあの人面クモもお仲間とか、敵とか、関係するんだろうな」
 武彦は慎重に中に入っていく。蔵の二階に上がると何かのマークが壁に描かれている。手前には祭壇があるが、革の本があるだけだ。祭壇の下には巻物が一本あった。
「巻物はここの島の、神社の縁起だな」
「縁起?」
「どうやってできましたってやつだ。どうやら、夢でつながり、神と出会ったとある。猫は神の御使いであり、殺すことはできない」
「だから猫は生き延びたのですか?」
「その上、星の並びが正しいと夢とのつながりが強くなり、願いが叶うとある」
「ロマンチックですね」
「表面上はな。で、問題はこっちか。できれば読みたくはないが」
 武彦は深呼吸をした後、革の表紙の本を読みはじめた。
 みなもは武彦がなぜそこまで怯えるかわからなかったが、読み始めた武彦が震え、青ざめていくのが分かった。
「草間さん!」
「大丈夫だ、あと少し……何しでかしたんだこいつら」
「え?」
「星の並びが正しいと夢とつながるという話を、こいつらは外にいる神を呼び込むきっかけになると読んだ」
 みなもは外の神は自分が知る神と違うと理解している。神も様々いるということもわかっているが、武彦が言う神は知ってはいけないものだと感じる。
「海の底の島の封じられた神とか?」
 口から出た言葉にみなもは震えた。夢を思い出した。
「ま、な。あがめれれば神だ。で、そいつも蘇るには、お仲間の力を借りたいところだ」
「えっと……」
「外にいる神が一般に邪悪だと言われても、信じる人には大切な神だ。結果、この伝承から神をここに呼ぼうとした。いや、呼んだんだ」
「その結果は?」
「半ば成功、半ば失敗だ」
 武彦は説明した。成功はして神の一部を招いたところ住民の半分が消えた。そのあと、夢とのつながり濃くなり、島にいた住民が徐々に消えて行った。それと同時に霧が濃くなる。
 戸籍上、異様に多い時期があったのは、消えた人は死んだとせず、そのままにしてあったからだろう。
「霧は常時出ているわけではない。星の位置など条件によるんだろう」
 周囲の島々はこの島の存在を知っているし、地図にも一応ある。
「神を消す呪文はここにある。が、ここで使っても無意味だな」
「なんでですか?」
「神はいるかもしれないが、一部だ。呪文はその存在そのものがないと無意味だ」
「どうするんですか?」
「ここは現実と夢が入り乱れた状況で、俺たちにとって現実世界。俺が行けて、それがいるだろう場所、夢だ。そっちに行く」
 不意に猫の鳴き声がする。昨日より数がいるようだ。
「あの猫どもは行き来できる」
「出入口があるんですね?」
「地下だ。たぶん、神社を探してそこに行けば」
「夢の世界の入り口があるのですか?」
 みなもは不思議に思う。確信をもって告げる武彦を信じ、ついて行こうとした。
「ここに来ることより危険だ」
「ここにいても危険です」
 みなもは即答し、武彦は肩をすくめた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
A001/草間・武彦/30/草間興信所所長、探偵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ありがとうございました。
 草間さんも夢を見たかもしれませんが、そこは怪異お断りから適正に処理している感じです。
 TRPGやっていたときを思い出しながら書いていました。ハラハラドキドキしていただければ幸いです。
 いかがでしたでしょうか? 
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月04日

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