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『『静まらない鼓動』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 初めて訪れたディラ・ビラジスの部屋には、余計なものは何もなかった。
 家具付きの寮ともいえる単身用のワンルームで、彼の個性が感じられるものは特にない。
「多少熱は出たが、大したことはない。わざわさありがとな」
 椅子にアレスディア・ヴォルフリートを座らせて、ディラはベッドに腰かけた。
「発熱以外の、体調の変化は? 騎士団から接触はないか」
 太腿の上で手を組み、テーブルを眺めながらアレスディアは問う。
「変わりないし、接触もない。俺はあそこにとって、そこまで必要な道具じゃねーから、大丈夫だ」
「そうか。それなら、よかった」
 アレスディアはちらりとディラを見た後、また視線をテーブルへと戻す。
「……それで、何で目、逸らすんだよ」
 不機嫌そうなディラの声が響いた。
 顔を上げると、ディラはアレスディアを真っ直ぐ見詰めている。アレスディアも彼の目を見ようと思うのだけれど、その視線は彷徨い、手を組み直したり、離したり。
 座り直してみたり、と、そわそわ身体を動かしてしまう。
「言いたいことがあるんなら、言ってくれ」
「う、むぅ……苦情は、後から聞いてやる、と言っただろ……」
「……」
「その……それ以外に、思いつかなかった、とはいえ……ディラに、断りなく……口……移し……した、から……あの、つまり……」
 ディラの視線を感じながら、アレスディアは声を落として、消え入りそうなほど小さな声で、続けた。
「嫌、だったら……すまない……」
「嫌なわけ、ないだろ。こっちこそ、嫌な思いをさせたな。すまない」
 彼の言葉を聞き、アレスディアの顔が熱に支配される。赤く染まっていることを自覚し、アレスディアは顔を背けた。
「ディラを……失いたく、なかった……その一心で、それ以外のことは、何も考えて、いなかったが……でも、そういうの、抜きにしても……」
 途切れ途切れそこまで言い、苦しげにアレスディアは呼吸を繰り返し、小さな、小さな声で言葉を紡いだ。
「……嫌じゃ……ない……」
 苦しくて、とても苦しくなり、アレスディアは何度も大きく呼吸を繰り返す。
「今まで……こんなこと、なかったのに……苦しいほど、胸が高鳴る……」
 そして、背けていた顔を、彼に、ディラに向けた。
「なぁ、ディラ……これは、私だけなのか……? ディラの胸の内にも……同じ高鳴りは、あるのか……?」
 彼は真剣な表情をしていた。あの時、エプロンドレス姿のアレスディアを見たときと同じような。
 鋭さのない、ただ、真剣な表情。
 ディラの手がアレスディアに伸びた。
 反射的に、アレスディアは立ち上がろうとする。
 肘掛けについた彼女の右腕を、ディラは掴んで強く引き寄せた。
 ドン、と。身体の表面に衝撃を受けた。
 そして、締め付けられるような感覚。
 抱きしめられているのだと気づくまで、さほど時間はかからなかった。
「感じるか?」
「な、何を」
「俺の心臓の音」
 自分以外の、鼓動の音が互いの身体に響いていた。
「俺の方がずっと長い間、こんな状態」
「……ずっと?」
 ディラの鼓動は、強くて早かった。
 そして、彼の身体は熱いほどに温かい。
「ずっと、ずっとこうしたかったんだ」
 ディラの切なげな声が、アレスディアの耳に届き、彼の大きな手がアレスディアの頭を撫でた。
 かつて、アレスディアを抱きしめてくれる人がいた。黒かった髪を、頭を撫でてくれる人がいた。
 その時、確かに感じていた温かな愛情。それと同じような、だけれどそれとは違う、激しい何か。熱さを伴う感情が、ディラからは流れてくる。
 そして自分も。
 彼を、抱きしめたいと思った。
 このまま抱きしめていて欲しいとも、思った。
 鼓動が鎮まらなくても。苦しさから抜け出せなくても。
「好き、だった。……嫌なら、振り切って帰れ」
「……嫌、じゃ、ない……」
 アレスディアは、ディラの背に腕を回した。
 腕を緩めて、自分の身体の中で俯いている彼女の顔を上げさせると。
 ディラは彼女の唇の上に、自らの唇を落とした。
 それはあの時の、奪うような口づけではなくて、激しくとも優しい愛の溢れるキスだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
とても感慨深いノベルとなりました……。
ディラの告白への返事、この続きでも、別の日でも構いませんので、お知らせいただけましたら幸いです。
この度もご依頼、ありがとうございました。
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月04日

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