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『向日葵のきみ 』
アーク・フォーサイスka6568


 約束の時刻、アーク・フォーサイス(ka6568)はいつものように龍騎士隊の詰所を訪れた。
 前に来た時は門前払いをされかけたが、今日は以前のように顔を見ただけで執務室へ通される。ホッとしながら執務室前へやって来ると、ちょうど中から慌てた様子のシャンカラ(kz0226)が飛び出してきた。

「アークさん! 今転移門までお迎えにあがろうとしてたんですが……すみません、間に合わなくて」

 彼はすまなさそうに詫びたが、アークは彼が龍騎士隊の鎧姿ではなく普段着だったことに安堵していた。

「気にしないで? 隊長の仕事が忙しいのは、知ってるから。こうして会う時間を作ってもらえるだけで……嬉しい。今日の仕事は終えられたみたいだね」
「勿論です。アークさんと会うために、朝から頑張って終わらせたんですよ」

 のっけから醸される甘い空気。案内役の龍騎士は、邪魔せぬようそろりと廊下を戻っていった。




 最早馴染みの執務室で、アークが二人がけのソファへ座ると、シャンカラは当然のように隣に腰を下ろしてきた。肩や腕が触れてしまうが、彼は少しも気にしていない。

「ち、近い……」
「何です?」
「ううん……ええと、これを。街でちょうど見つけたんだ。よかったらと思って」

 アークは後ろ手に隠してきた向日葵を差し出した。北方では咲くことのない、西方の盛夏を象徴する花。

「わあ、すごく鮮やかな花ですね!」
「向日葵だよ。向日葵って、花が太陽を追っていくんだって。すごいよね」
「余程太陽が好きなんですね。何だか親近感が……」
「え?」
「いえ、別に」

 シャンカラは花弁へ顔を寄せると、何の香りもしないことに首を傾げた。

「あ、それ造花なんだ」
「ああ」

 花から顔を上げ照れ笑いした彼だったが、ふと思い出したように言う。

「以前いただいた桜も、生花ではなく押し花でしたよね」
「ん……造花や押し花は『枯れない』から」

 首肯したアークを、碧い目がじっと見下ろす。まるで、短すぎた答えの奥の真意を探すかのように。そうして造花独特のツヤツヤした葉を撫でながら、考え考え口を開く。

「確かに、枯れてしまったらそれっきり……もう傍に置いておけませんもんね」

 アークは不思議に思い彼を見つめ返す。どうしてシャンカラは、自分の些細な一言にそこまで考え込むのだろう。言葉足らず過ぎただろうか。
 考えていると、彼の腕が伸びてきて力強く抱きすくめられた。

「僕はずっと一緒に居ますから……アークさんが望んでくださる限り、ずっと」

(――ああ、そういうことか)

 シャンカラは、アークが不慮の事故で敬愛する師と死に別れたことを知っている。それが原因で喪失を恐れていることも、それ故常に帯刀していることも。現に今日も彼に逢いに来ただけなのに、邪気祓いの白銀刀を佩いてきていた。
 だから彼は、アークが喪失を彷彿させる"枯れる"ものを忌避しているのではと思い巡らせ、こうも気遣ってくれるのだろう。

(……相変わらず過保護……嬉しくないわけじゃ、ないけれど)

 アークは早まる鼓動を彼に気取られぬよう、懸命に胸を鎮めようとする。けれど詰所内とはいえ、彼の部屋にふたりきり。お互い夏らしく薄着のせいで、いつもよりしっかり伝わってくる体温をどうしても意識してしまう。アークはおずおずとシャンカラを仰いだ。

「あの、さ。なんというか、このことなんだけど」
「どれです?」
「えっと、これ……」

 アークが自身に回された彼の腕を目で示すと、彼は慌てて腕を解く。

「すみません、この間言われたばかりなのに」
「いや、謝られるとその……前にも言ったけど、シャンカラに触れられるのは……好き、だし。急に来られると戸惑うけど」

 アークは目を伏せ、躊躇いがちに口にする。

「なんというか、ええと、今後というか……『そういうこと』とか、したくないわけじゃない、し」
「『そういうこと』?」

 シャンカラは耳まで赤くなり片手で口許を覆うと、ごにょごにょと早口に捲し立てる。

「アークさん、意外と大胆なんですね……嫌いじゃないですよ? ですが物事には順序というものがっ……それでもアークさんが望まれるのなら僕もやぶさかでは、」
「えっ?」
「えっ?」

 見つめ合いしばしの沈黙。シャンカラは真っ赤な顔に『猛省』の二文字を浮かべ縮こまり、話の続きを促した。

「えっと……だから、触れ合えるように練習したいなって。自分からならまだ大丈夫だと思うから……少しじっとしていてくれれば……ダメかな……?」
「アークさんから触れてくださるんですかっ?」

 アークの提案に、シャンカラはそれはもうにこにこして、背筋を正し座り直す。両手は向日葵を握りしめ、『僕からは決して触りません』の姿勢だ。

「じゃあ、」

 アークはそろそろと手を伸ばしかけたものの、期待に満ち満ちた目で見つめられ何ともやり辛い。立ち上がり、視線を振り切ろうと周りをうろうろしてみるも、向日葵を抱いた彼の眼差しはしっかりアークを追ってくる。
 そんな彼の姿に、花を買った時に聞いた向日葵の花言葉を思い出す。

(『わたしはあなただけを見つめる』――わざわざ言うのは恥ずかしくて、伝えなかったのに……これじゃあまるで……)

 ますます頬が紅潮していくのが分かる。反対に、触れる勇気がどんどん萎んでいきそうで。

「そんなに見つめられると緊張するから……目、閉じてくれる?」

 苦し紛れにお願いを重ねると、シャンカラは照れたように微笑む。

「やっぱり大胆ですね……良いですよ」

 また何を言い出したのかと首を傾げたが、瞼を閉ざした彼を見、アークは自分のやらかしに気付いた。

(何だ、これ。余計に緊張する……というかこれ、いわゆる『キス待ち顔』じゃ……)

 もしかしなくともそうだった。言い交わした相手に目を閉じるよう言われたら、それは勘違いするなという方が酷だろう。

(どうしよう……しなかったらシャンカラ、きっとがっかりする、よね……『待てもほどほどに』って言われてるし……)

 アークは無自覚だが、そもそもこの状況こそが『待て』そのものな状態なわけで。逡巡していると、彼の眉根が不安そうに寄った。

(〜〜っ! ……もう、こうなったら……!)

 意を決すると、アークは彼の肩に手を置きぎゅっと目を瞑る。そして一気に顔を寄せ、口付けを――
 けれど唇が触れるかと思った瞬間、鼻が思い切り何かにぶつかった。驚き目を開けると、彼も鼻を押さえ悶絶している。

「あ、あれ?」

 早々と目を瞑ってしまったアークは、目測を誤って鼻と鼻をぶつけてしまったのだ。

「ごめん! だいじょうぶ……?」

 ろくに触れられもせず、口付けまで失敗してしまい、嫌われてしまったかもしれない……そんな不安にかられていると、彼はくすくす笑いだし、その内に堪えきれなくなったように声をあげて笑いだした。

「あはは、可愛すぎますよアークさん! 鼻コツンって……! ああもう、アークさんが可愛すぎておかしくなりそうです」
「そ、そんなに笑わなくたって……!」

 意気消沈したアークは、もそもそと隣へ戻り膝を抱えた。そんなアークを、シャンカラはありったけの愛しさを込めて見つめる。

「もう……そんなところも大好きですよ、アークさん。ああは言いましたがゆっくりで良いんです。僕達ふたりのペースで……ね?」
「……、」

 アークは疲れた顔で何かを呟くと、火照った頬をぱたぱたと手で扇いだ。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568 / アーク・フォーサイス  /男性 / 17歳 / 誰が為に花は咲く】
ゲストNPC
【kz0226 / シャンカラ / 男性 / 25歳 / 龍騎士隊隊長】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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触れ合いたい気持ちはあるアークさんと、妄想先行しがちな隊長のお話、お届けします。
勢い言い交わし、何だかんだすれ違ったり遠ざかったりしたふたりなので、
初めての口付けが未遂で終わるのも彼ららしいかな、などと思いこのような形に収めました。
甘さ不足でしたらすみません。イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました!
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2018年10月05日

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