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『竜像を彩るは氷の女王 』
ファルス・ティレイラ3733)&アリア・ジェラーティ(8537)

 辺りに広がっている色は、白だ。まるで神様が色を塗り忘れてしまったかのように、一面の白色。普段は観光客で賑わっているはずのこの雪山だが、今はシーズンが過ぎたのかあまり人けはない。だから、周囲に響くのは冷気を孕んだ風の音と、アリア・ジェラーティが雪原を歩くサクサクとした小気味の良い音くらいだった。
 ファーのついた温かな帽子に揃いの色のケープを身にまとった少女は、寒さをものともせずに歩いて行く。雪山に相応しい衣装ではあるが、別に訪れようとしてこの場所を訪れたわけではない。たまたま、迷い込んでしまっただけだ。
 けれど、アリアとってはそんな事はいつもの事なので、さして困った事ではない。だから、少女はぼーっとした常の表情で、慌てる事もなく雪山に小さな足跡を刻んでいた。

 不意に、吹雪に混ざって遠くから誰かの声が聞こえてきた。騒がしいその声はどこか楽しげで、まるでアリアの事を誘っているかのようだ。
 音に導かれるままに、少女は歩を進めて行く。そしてしばらくして何かの気配を感じたのか、不意に彼女は立ち止まった。
「騒がしかったのは、ここ……?」
 問いかけに、答える声はない。けれど、代わりとばかりに吹きすさぶ風の音が少女の耳元で唸った。
 眼前に佇む氷像を、アリアはゆっくりと見上げる。樹氷が有名なこの雪山の一番の目玉であるその氷像は、美しくもどこか悲しげな竜の姿をしていた。

 ◆

「くすくす、あら、またおきゃくさん?」
「こんどはだぁれ? くすくす、いっしょにあそびましょうよ」
 ぼんやりとその氷像に見とれていたアリアの周りを、羽をはやした何かが飛び交う。吐く息は冷気を纏い、その身体は氷のように冷たい彼女達の姿を見て、アリアはその正体が何であるのか気付くと小さな声で口ずさんだ。
「氷の……妖精ちゃん達?」
 数えきれない程の数の妖精が、楽しげに笑いながら雪山を飛び交っている。どうやら、先程から騒がしかったのは彼女達だったらしい。
「そうよ、ねぇあそびましょう、おじょうさん」
「くすくす、きれいなこおりのオブジェにしてあげる」
「りゅうのとなりにならべましょうよ」
 妖精達は無邪気で、だからこそ残酷だ。アリアを凍らせて遊ぼうと思い、その事を躊躇なく楽しげに口にする。しかし、アリアはさして怯む事なく、懐から何かを取り出し彼女達に差し出した。
「アイス……いる?」
 それは、色とりどりのアイスキャンディー。アイス屋さんである彼女が作った、自慢の甘味だ。
 妖精達は予想外な言葉に、しばしきょとんとした顔をする。そして仲間達と顔を見合わせ思案し、声を揃えて叫ぶのだった。
「……いる!」

 ◆

「アリア、つぎはミルクのあじのやつにして!」
「まってよ、わたしのほうがさきよ!」
 氷を操るアリアの作り出したアイスは、氷の妖精をも唸らせる絶品だった。すっかり彼女達の人気者になったアリアは、妖精達に次々とアイスを振る舞う。竜の氷像の前は、今やアイスパーティの会場と化していた。
(それにしても、すごい、綺麗……)
 アイスを作りながらも、竜の氷像をアリアは見やる。雪原の中に佇むその氷像は、まるで冬眠中の竜をそのまま氷漬けにしたようだった。
「ねぇ、アリア、つぎは、もっとおおきいアイスをつくってよ!」
「くすくす、そうだ、わたし、いいことをおもいついたわ」
 とっておきの悪戯を思いついた子供のように、楽しげに笑いながら妖精はアリアにある提案をする。
「ねぇ、アリア。"あのこ"のことも、アイスにできないかな?」
 問われたアリアは、妖精達が指し示す方にある"あの子"の方を見た。そこにあったのは、件の竜の氷像だ。
「……できる」
 アリアに嘘を吐く理由はない。だから、少女は素直に頷いてみせた。
 それに、もしもあれが、アイスキャンディーだったら……。それはきっと、今よりも更に素敵な像になるに違いないのだ。

 ◆

「……え?」
 不意に引き戻された意識に、ファルス・ティレイラの唇からは自然と驚きの声がこぼれ落ちた。
「いったい何があったんだっけ? ――ぐっ!?」
 ――しかし、次いで彼女の身体を襲った衝撃に、その声はすぐに苦悶のそれへと変わる。
 氷で出来た棒が、ティレイラの尻尾の辺りから彼女の身体を巻き込んで突き刺さったのだ。その冷たさは、ティレイラに身体を凍らされる恐怖を瞬時に思い出させた。……そうだ、自分は氷の妖精達に負け、氷漬けにされていたのだった。
「いやっ! 何? 何なの!?」
 しかし、その氷がようやく溶けたというのに、どうして自分の身体はまた冷たく固まっていっているのだろう。
 わけがわからないまま、ティレイラは喚く。状況を理解する時間すら与えられず、ティレイラの身体は再び冷気へと包まれていってしまう。慌てて翼で飛翔し逃げようとしたティレイラだが、その大きな翼はすでに白色の氷と化してしまっていた。
「嘘でしょ!? また!?」
 翼だけではない。その頭の角も、四肢も、身体も。徐々に彼女の身体は冷たくなっていく。先程までの氷とは違い、今度は色がついているものの、状況はさして変わらない。動けず逃れられぬティレイラに抵抗する術はなく、自由を奪われ氷のオブジェになるだけだ。
(せ、せっかく戻ったのに〜!)
 そう紡ごうとした舌先までもを氷が覆い尽くし、騒ぐティレイラの身体は遂に氷像へと逆戻りしてしまった。
 しかも、今度はただの氷ではない。周囲を満たすのは、甘い香り。氷の妖精達は歓喜の声をあげ、ティレイラの身体へと群がる。今のティレイラの身体は、妖精達を魅了してやまない甘い氷菓……等身大のアイスキャンディになってしまっていた。
「うん、上手に出来た……。竜の形のアイス……」
 氷雪の力を使いティレイラをアイスにした少女……アリアはその出来栄えに満足気に頷く。アリアは妖精達に頼まれ、一度解凍したティレイラを氷雪を司る力を使いアイスに変えたのだった。
(やめて! やめてってば! く、くすぐったい〜!)
 不思議と意識だけがはっきりとしているティレイラの嘆きの声は、妖精達には届かない。故に、妖精達は止まらない。甘い香りを楽しみ、造形の美しさに見とれ、舐めてはその味に歓喜した。
 ひんやりとした竜の身体を、彼女達は好き勝手に弄ぶ。中には、登って遊び始める者や、愛でるように抱きしめる者、感触を楽しむ者までいる始末だった。
 ミルクにバニラ、ソーダにコーヒー、妖精達の望むままにアリアはその巨大なアイスキャンディへと味をつけていく。そのどれもが、頬が落っこちそうになる程に美味しいのだから、妖精達の歓喜の声は止む事はない。
「じゃあ、アイスパーティの続き……しよ」
 アリアの言葉に、無邪気な妖精達の笑い声が応えた。
 甘い甘い、パーティは終わらない。雪山を、楽しげにはしゃぐ声が包み込む。笑顔に溢れるこのパーティを楽しめていないのは、主役である竜の形のアイスキャンディだけだろう。
(誰か、助けて……。助けてよぉ……)
 竜の瞳から、ミルクの雫がぽたりと一滴垂れ落ちた。けれども、奇しくも涙のように流れるそれもまた、すぐに妖精達により舐め取られてしまうのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】
【8537/アリア・ジェラーティ/女/13/アイス屋さん】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
再び氷漬けされてしまったティレイラさん、そして大きくも美味しそうなアイスを作るアリアさんのお話……このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。
お二方のお気に召すお話になっていましたら幸いです。何か不備等ございましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
今回も楽しく執筆させていだたきました。ありがとうございました。またいつか機会がございましたら、その時も是非よろしくお願いいたします。
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東京怪談
2018年10月05日

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