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『Splendid finale 』
Spica=Virgia=Azlightja8786)&橋場 アイリスja1078

 曇天の空の下、剣戟の音が鳴り響く。
 戦場を彩るのは三つの影。
 一つ、赤黒い血色の錐状のオーラを纏った少女――橋場 アイリス(ja1078)。
 一つ、金糸にて紋様の描かれた白いローブに身を包んだ少女――Spica=Virgia=Azlight(ja8786)。
 二人に共通しているのは、細かなルーツは違えどそれぞれに悪魔と人間の血を引いていること。
 そして、アイリスは赤い瞳で、スピカは光纏により変化した琥珀の瞳で、最後の一つの影――受けた依頼の討伐対象である天使を見据えていることだった。

 アイリスは外套の中から一本の剣を抜き放つと、それをそのまま数メートル先の天使へと投擲する。その名を知る者に言わせれば紛うことなき名剣だったが、今のアイリスにはそれを飛び道具として扱うことに何の躊躇もなかった。
 普通であれば直撃まではいかなくとも、態勢を崩すくらいの動揺は誘えたろう。だが天使は片手に携えた直剣を振り上げ、投擲された剣を下からいとも容易く打ち払ってみせた。
 その頃にはスピカは後衛で飛行している。空中から射撃して削る構えに入るべくスナイパーライフルXG1の引き金を絞ろうとするも、その前に天使から撃ち放たれた光弾が襲いかかってきた。
 いち早くその攻撃に気づいたためなんとか躱すことには成功し、仕方なく後方に着地しながらスピカは思考する。
 戦闘が始まってからそう長い時間が経ったわけではない。しかし同時に、天使が二人よりも一回り大きな体躯を誇る割には動きが機敏であることを理解するには十分な時間だった。
 また、攻撃力も高いはずだ。二人は天使に未だ一撃すらまともに入れることが出来ていない一方で、天使の側は何度か手にした直剣や光弾でダメージを与えている。不幸中の幸いなのはそれらを受けたのは今のところアイリス、ということだが、これがつい先程のようにスピカが標的とされ、かつ命中したと慣ればカオスレートの問題で大ダメージは必至だろう。
 とはいえ、アイリスだからまだ大丈夫、といえるような状況でもない。現にアイリスが外套の中から新たに剣を取り出そうとするその腕では流れた彼女の血が道を作っており、時折大地へと滴っていた。
(どうやっても、勝ち筋見えない……なら……!)
 他に仲間が居ればまた話は違ったかもしれないが、そんなたらればの話をしている場合ではない。
 スピカは一つ息を吐くと、
「お姉」
 前方のアイリスに声をかけた。すぐさま視線が返ってくる。
 短期決戦に臨む。
 その為に――天使が痺れを切らすであろうまでのごく短い時間で行われた作戦会議を経て、
「行って……!」
 スピカの掛け声とともに、敵が動き出すよりも前にアイリスが駆け出した。身体ひとつ分遅れる形で、スピカもついていく。
 アイリスの最初の一撃が天使に届くまでの僅かな間、スピカは集中を研ぎ澄ませる。
「今まで、全弾いけなかったけど……やるしかない……!」
 久遠ヶ原学園の撃退士としての『現役時代』には、ついに成し得ることが出来なかった連撃。
 この場で勝利を掴むには、その業をここで果たすしかないという気がしていた。
 その決意を果たす合図となるかのように、アイリスの外套から巨大な刀身が赤く染まった魔剣が抜き放たれる。
 アイリスは今度は投擲せず、そのまま両手で柄を握り横薙ぎに払った。
 刹那、スピカの声が響く。
「……顕現せよ、"破壊者"ミョルニル……砕け……っ!」
 光纏時に周囲に出現していた剣のオブジェクトが彼女の持つ槍に憑依し、次の瞬間にはその姿を巨大な槌へと変えていた。
 ミョルニル――その名を示すかのようにアウルの雷を纏った槌の一撃が天使の右脇腹あたりに入ると、天使の動きが止まる。
 しかし、撃退士の攻勢は当然ながら止むことはない。
 最初に払った魔剣を打ち捨てたアイリスが次に取り出したのは、それぞれ赤と白の刀身を持つ双剣。
 それらもやはり薙ぎ払ったところでアイリスの攻撃は一度止んだ、が、
「お姉、やっぱり強い……これなら……!!」
 完璧に天使の動きを止めたアイリスに感嘆の声を漏らしながら、スピカは自分の番とばかりに未だ巨大な槌の姿を持つ魔具を振るう。
 最初は、先程同様に雷を纏った一撃。
 天使の頭部を側面から強打した槌が流れた勢いでスピカがバランスを崩しそうになる前に、その形状は僅かに変わった。打撃面にやや鋭利な突起が生まれ、対象を砕くことにより特化した形状となる。
 スピカはといえばしっかりと踏ん張って態勢を保つと、腕を返してその槌を今度は下から掬い上げるような形で天使の身体に叩きつけた。
「―――ッ!!」
 まるで彫刻のように身体の一部を砕かれた天使がここに来て声にならない悲鳴を上げるも、相変わらず身動きは取れないまま。
 だから撃退士は止まらない。止まれない。
 アイリスが今度は白い大剣で薙ぎ払うと、先程のスピカの一閃で砕かれた天使の身体の一部に更にひび割れが入った。とはいえ感触としては生々しいものもある為、完全に無機物というわけではないのだろう。
 その間にスピカは槌を再び最初のミョルニルの形状に戻すと、今度は先程とは逆側から肩と首の付け根あたりを狙って槌を振り下ろす。
 スタンを伴った一撃が入り再び天使の動きが止まったのを確認し、返す刀でまたしても打ち砕く。
 スピカが態勢を整える間に、アイリスが牽制と呼ぶにはやたらと重い一閃を繰り出す。
 何度もともに戦い、模擬戦を繰り返した仲。互いの戦い方も呼吸もよく理解っているから、隙のない連携を生み出すことが出来ていた。

 更にもう一周同じことを繰り返すと、流石に天使の身体もボロボロになり始めてきていた。
 が、何度も同じように行動不能を引き起こせるかというと、いつもうまくいくとは限らない。
 例によってミョルニルの一撃自体は綺麗にヒットしたものの、それまでと違い天使の双眸にはまだ動ける、目の前には倒すべき敵がいるという憎しみに近い意思が感じられた。
 一方でその表情こそ掴むことは出来たものの、スピカの態勢は若干崩れたまま。
 拙い。
 そう危機感に囚われたものの、すぐさまそれは一種の安堵へと変わった。
「私最後の一撃、です」
 アイリスが構えた刀を、一閃――否、瞬く間に幾重もの刃の軌跡を描き出し、天使の身体を両断する。
 それでもまだ天使の息はある。
 だが、ここが決着をつける瞬間でもあった。なぜなら、過去に果たすことが出来なかったスピカの連撃は――今ここに果たされるのだから。

 身体のリミッターが外れる。
 本来の槍の形状に戻った魔具を、誰の目にも留まらぬ速さで五度振るい――。
 そして四肢をほぼ失った敵の脳天に、最後の一突。

 天使の目が意思を失った直後、残った天使の身体は粉々になって消えていった。
 一足先に行動を止めていたアイリスは、風に乗って流れていく天使の残骸を見ることもなくスピカを支えるべく歩み寄り。
 彼女に肩を預けたスピカは、空を見上げるとともに「やりきった」と言わんばかりの満足げな溜息を一つついたのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【Spica=Virgia=Azlight/女/18歳/撃退士】
【橋場 アイリス(ja1078)/女/17歳/撃退士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 まずは大変お待たせし申し訳ありませんでした。津山佑弥です。
 
 エリュシオンの最後の最後でガッツリ戦闘を書くことになるとは……。
 ノベルで戦闘を書くのは初めてでしたし、そもそもリプレイも暫く書いていなかったのでめちゃくちゃ苦戦してしまいました。天使の気分です。
 ともあれ、お待たせしてしまった分ご満足頂ければ幸いです。
 ご発注ありがとうございました。
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エリュシオン
2018年10月10日

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