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『 それは蠱毒か、それとも 』
煤原 燃衣aa2271)&世良 杏奈aa3447)&阪須賀 槇aa4862)&アイリスaa0124hero001)&無明 威月aa3532)&火蛾魅 塵aa5095)&エミル・ハイドレンジアaa0425)&藤咲 仁菜aa3237)&楪 アルトaa4349

プロローグ

 それは唐突に現れた。
 再生と暴虐を司る魔王。
『玄武公(NPC)』と呼ばれるラグ・ストーカーの幹部。
 そしてかつて落陽を壊滅に陥れた張本人。
「玄武!!」
 誰よりも先に反応したのは『月奏 鎖繰(NPC)』
 鎖繰は刀を引き抜くと上段に構えて切りかかった。
「まずい! 鎖繰さん。だめだ!」
 『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』の叫び声が木霊する。その心配に反して鎖繰の刃は玄武の脳天を割りその脳漿を血をぶちまけた。
 普通であれば絶命しているだろう。
 しかし、玄武は絶命していない。
「断生!」
 玄武は動いた。
 首の根元までキノコのように縦に裂かれているのにも関わらず。
 その脳漿が不自然に伸びる腕が鎖繰を捕えようと蠢き。取り囲む。
 それを燃衣はありったけの霊力で爆破した。
「無様に! 死ね」
 踏込ざまに玄武を蹴りつけ。その爆風を利用して鎖繰を抱えて後ろに飛ぶ。
「何をする燃衣! 放せ」
「鎖繰さん落ち着いてください。あいつこの前と違う」
「ふひひひひひ、ひとつになろうよぉ」
 そう腕を、足を水あめのように伸ばしながらのたうつ玄武は引き裂かれた頭すら二つに分かたれたまま細く伸ばし、まるでスライムのような外見となる。
 それを眺めながら槇は分析していた。
(無限の再生力)
 この玄武の腹の中で、地獄が繰り返されている限り、玄武は再生を繰り返すという。
 無限ではない。
「もしかすると、行けるかもしれないお。けど」
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』は自身の幻想蝶を撫でる。対抗できる武器はある。
 玄武の手は見えていたのだ。対策は怠っていない。けれど。
「んんんふぉぉぉぉぉぉ、可愛い女の子も沢山、ひとつになろう、ひとつに、心臓にしてあげる。腕にしてあげる。僕のお腹の中で新しい命にしてあげるよおおおおお」
 この白虎。青龍とは違う脅威。目をそらさず対抗できるかがカギだ。
「ぶちぶちひきちぎって灰にしてやるよ。かかってこい」
 燃衣は静かな炎を瞳に宿す。

第一章 戦うことは簡単で。

「うわぁ。気持ち悪いなぁ」
 素でそう囁いてしまう『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
 その穏やかな表情は見たことが無いような引きつった笑みに変わっている。
 さすがの杏奈も許容範囲外があるらしい。
 ただ、その発言は玄武に聞こえていたようで。
「おおお。ぼくぅのこと、きもいっていった?」
「え? いえ、きもいじゃなくて気持ち悪いって」
「お前殺す!」
 杏奈は振り上げられた触手を回避するために前に飛んだ。地面を強く揺らす触手の一撃。
 杏奈はそれに対抗するために魔本から触手を召喚。玄武の触手をからめ捕り、動きを封じるためにくねらせ、からませた。
「腹減った? その前に、おしょくじだぁ」
 継いで玄武の触手がさらに体から生えた。
 それは攻撃用ではないらしく、先に口が出現するそれらがそこらに転がる地獄の住人たちを掬い取ると玄武はそれをバリバリと音を立てて咀嚼し始めた。
 その光景を唖然と見送る『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』。
「な、なんで、だって。私たちが助けたのに」
 軋む体に鞭打ちながら立ち上がろうとする仁菜。それを英雄がいさめると、仁菜は血でぐずぐずにぬめる地面を叩く。
「結局守っても守っても奪われてしまうの? 私のやっている事は無駄なのかな」
「VVたん、下がるんだお」
 玄武が動いた。その触手を打ち落とすように槇は前に出てその背にVVを庇う。
『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』は目を見開いた。
「エミルたんも、なにがあったかよくわかんねぇけどお。あいつに食われちまったからどうにもならんお」
「…………ん。ヴァレリア。話があるから、逃げないで」
『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』がその大剣を地面に叩きつける。苛立ちか、疲労のためか少し素行が悪い。
「あれに触れるな。肌ではな。あいつはもはや群体にして個だ」
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』が鋭く叫ぶと玄武の触手が地面を割って上に弾かれた。
 いつの間にか足元のタイル、その中を潜航していたのだ、網のように広がったそれは見ただけでもわかるくらいに鋭く鋭利に研ぎ澄まされていた。
 アイリスはそれに盾でのり。エミルは力で粉砕した。
 槇はVVを抱えて離脱。
 後退しながら玄武に銃弾を放つ。
 それが目を打ち抜くと玄武は悲鳴をあげてのた打ち回った。
「アルトたん!」
「わーってる……よ!」
 首を左右に振る玄武の顔面に特大のミサイルを叩きつける『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
 背後をとって槇と挟み込むように弾丸を撃ち込む。
「再生より早く、ころしゃいいんだろ!」
「あああ、痛い、いたい。俺は単純にイきたいだけだったのに。なんで。なんでいたい。しねない。死ねないのいたいよ」
「っうっせーんだよ! こっんの出刃亀変態やろーがぁ!」
 アルトはガトリングを構えて撃ちまくる。上空から叩きつけられるような鞭攻撃。 それをロールして回避。右手にガトリングを構えて。横なぎの攻撃を受け止める。
 体が宙に浮くが、そのアルトめがけてアイリスが盾を構えた。
「飛ぶかい? 妖精流は生易しくないよ」
「あたしがノーマル選ぶと思うかよ。ハードだハード!」 
 アルトは矢のようにはなたれ玄武の上空をとる。
「そんなにもやられてぇーってんなら…あたしがすきなだけくわせてやるってんだぁああ! だから、あたし以外の…隊長らに手出しすんじゃねええぇぇえええ!!」
 放たれるガトリング。カチューシャ、ミサイル。
 火蓋を切るかの如く、怒号と爆発音の嵐。全ての武器を解放。
 その中弾丸のカーテンをかいくぐって燃衣は玄武に接近。
「あえ?」
「ぶっとべ」
 額の血をぬぐって燃衣はその拳をマシンガンのように放った。
 斧で玄武の足を穿ち地面に固定して、貫通連拳を。
「隊長! 離れろ」
 次いでアルトから特大のミサイルが放たれる。
「調生」
 そのミサイルを飲み込もうと玄武が大きな口を生成。臭い息がアルトに吐きかけられるが。空中のアルトは仁菜がキャッチ。
 ミサイルは飲み込まれるがその首を鎖繰が跳ねた。
 玄武の細胞がぼろぼろ崩れてミサイルが露わになる。ジェット燃料はきれたのだろう、あとは衝撃を与えて爆破するのみ。
「しね!」
 燃衣はそれを空中でキャッチするとダンクスマッシュの要領で玄武に叩きつけた。
「隊長!」
 仁菜がはじかれたように炎の中へ燃衣を救出する。
「仁菜さん放して。離せ仁菜!」
 鋭く叫ぶ燃衣を地面に叩きつけて仁菜は叫ぶ。
「私が! どれだけ助けても死にたがりなんて助けられるわけないんですよ!」
「死んでもあいつらを殺す! そう決めたんだ。僕は!」
「私は違います。死んでも生かす。隊長をみんなを」
「だったら邪魔です! どれだけ救っても無駄なんだから。僕のことは放っておいてください」
 立ち上がる燃衣。そのすれ違いざまに仁菜はか細い声で鳴いた。
「無駄。なのかな」
 燃衣は振り返る。その時恐ろしい物を見てしまった。
 仁菜の体から何か生えている。いや、正確には何かが埋め込まれているのだ、触手のような。蟲のような何か。ただそれらは手のひら大ほどに大きく仁菜の左半身に複数巣食っている。
「僕のせいで」
「……前にも無駄だと言われたことがあった。
 私はその時どうしたの。
 こんな事で無駄だと諦めるなら。
 とっくの昔に諦めてるよ」
「仁菜さん。僕は」
 燃衣の炎がくすぶった。だがそれも一瞬のこと。
 次いで燃衣が宿す炎がどす黒く染まる。
「僕は今からここにいる人たちを全員殺します」
「え?」
 信じられない、そう呆けた表情を見せる仁菜。
「気付いているんでしょう? この地獄そのものを破壊しない限り玄武は倒せない。 僕らがやるべきことは、地獄をすくうことではなく、破壊することだったんですよ」
「だめ、だめだよ、そんなのダメ。ダメダメダメ」
「御免なさい、仁菜さん、あなただけは綺麗でいてください。僕が全てせおいます。僕が」
 燃衣は地面に転がっていた少年を見すえる。少年は周囲の大人たちに内臓をむさぼられ続けていた。その少年の首に斧の刃を当てる。
「僕はごめんなさい。誰も救えない」
 当然だ。だって自分は最初から誰かをすくえたことなど、なかった。
 弟の顔がちらつく。
「ごめん、ごめんなさい!」
 泣きじゃくりながら刃を振り下ろそうとする燃衣。
 その横っ面をアルトが飛び込んできて殴った。燃衣の体が木端のように空中でくるくると舞って。
 そして墜落した燃衣は身を竦めたくなるような音を鳴らした。
「てめぇ! いまさら甘えたこと言ってんじゃねぇ」
 そんな暁メンバーを背に杏奈が告げた。
「あの? もうちょっと時間かかる?」
 杏奈はその魔術で玄武の巨体を縛り上げているのだが、もう持ちそうにない。
 心なしか魔本が悲鳴をあげている。
 笑う玄武。その横っ面をブルームフレアでふっとばし、杏奈は膝をついた。
「手間をかけさせた、少し休んでいたまえ」
 そうアイリスが杏奈の肩に手をかける。
「やれやれ、私たちがしばらく気張るしかないようだね」
 そうエミルに言葉をむけた。するとエミルも茫然とした様子でアイリスを見返す。
「…………ん、感情って、本当に邪魔だね」
 冷たい表情をするエミルに、アイリスはいつもの軽快な笑いを持って返す。
「それが力になるのさ。けど全員がそうである必要はない。適材適所さ。そしてその適材適所のおかげで活躍の場が増える」
 アイリスは玄武を見返す。玄武は食事を終え。まるでできそこないのドラゴンのように膨れ上がっていた。
 翼のように見える触手の束。四本の足は異常に短く。でっぷり太った腹が地面に接してる。
 首はない。
「おれもいるお」
 玄武を眺めながら疲れ切った声を滲ませ、槇が二人に歩み寄る。
「ところで二人に頼みたいことがあるお」
 槇が告げる。
「援護しながら部屋の真ん中にあいつを誘導したいお、できるかお」
 次の瞬間、体全体の瞼が開いてアイリスを見た。
「可愛い。おかし抜いてあげる。まず食堂と心臓の連結手術からだね」
「そうされるとはちみつが食べられなくなるからね。遠慮しよう」
 アイリスは飛びずさった。
「私だってまだいける」
 杏奈はその両手の中で冒涜的で暗い灯りを錬成。
 その矛は犠牲を求める亡者のごとく、ひとたび放たれれば玄武の体を貫いで食い破った。
 あたりに飛び散る玄武の肉片。その場所を地面から触手が貫く。
「断生」
 触手の束が四方に散ってエミルとアイリスにそして暁メンバーに襲い掛かるがエミルが一撃、根元から触手を断ち切った。
「その触手に触れるな。取りつかれる」
 杏奈の首根っこを引っ張ってアイリスは杏奈を後方に投げた。
 投げられつつ杏奈は魔本の背表紙を撫でると地面から触手が生え、それに体を掬ってもらう。
「解ってる」
 大剣の腹をかさにして触手をやり過ごすエミルは地面に刃を突き刺してコンクリートを引っぺがし、絨毯のように敷き詰めれた触手をどかす。
 迫る玄武の鞭のような攻撃を切り払い、切り払い進む。
 この程度の攻撃苦ではない。
 問題はこの触手や空間に放たれている種子。
 微細すぎて皆には見えないだろうがエミルには見えていた。
 いや感じられたという方が正しいか。
 なぜ自分だけが感じられるか、その答えをエミルはすでに持っている。
「玄武……私と同じ、ちから?」
 異常な再生能力、抗体能力、玄武細胞に関してもエミルは全く影響を受けない。
 それはおそらく玄武細胞を自分の細胞が飲み込んでいるからだろう。
 だからこの空間ではこんなにも調子がいい。
 エミルは斬撃を飛ばす。大地と血の海がえぐれて玄武に直撃するとその体に大きな傷を生んだ。
「やるなら今だね」
 告げるアイリスはその手にいくつかの宝石を取り出す。
「すきを作るのね、まかせて」
 杏奈は黒い霧を召喚する。ゴーストウィンドウは玄武の全ての目を誘拐させ悲鳴をあげさせた。
 前後不覚に陥る玄武。その傷口が塞がる前にアイリスはそれを玄武の傷口に混ぜる。
「神話を背負うには人間の寿命は短すぎる…覚えておきたまえ、ボーヤ」
 次いで謳う歌はアイリスの黄金の祝福。
 それは自身に眠る古の力を呼び覚ますと共に。宝石を介して玄武の霊力を乱した。
「うあ? ああああ?」
「……だまってて」
 エミルが出現した首を刈り落す。
 体に飛び乗ってその背の翼を切り落とした。
 体が再生する。
「内側から焼かれたまえ」
 玄武の体に取り込まれた宝石が輝きを帯びる。
 それと同時に玄武は苦しみだした。
 光が玄武の細胞を滅する。再生の追いつかない勢いで。
「奪生」
 次いで玄武は目を口に変えて吐しゃ物をアイリスに吹きかけた。それは強烈な酸。
 しかしアイリスの三重結界、および宝石の加護はそれを通しはしない。
 レディケイオスも黒水晶、十種類の精霊石と隠しの精霊石と宝石尽くし、決して穢れず、染まらずの妖精の神秘の光がアイリスを守っている。
「玄武答えて」
 その玄武へエミルが小さく囁きかけた。
「あなたを作ったのはダレ?」
 その言葉に、意外なことに玄武はしっかりした答えを返す。
「まま」
「…………ママ?」
 ききたくなかった呼称だ。もうすでにその時点でエミルの疑念が確信に変わる。
「……あなたは、私の兄弟?」
「ねぇさま? ちがう、おまえ、別の力もってる」
「別の力?」
「だからうらやましい。一緒になろう、ひとつになろう」
 その瞬間、玄武の体がぐるりと大きな円になった。その中心にはエミルを捕えている。
「玄武……」
 しかしそれでエミルを捕えることはできない。
 斧と大剣、それを両手に持って器用に玄武を切り裂いた。
 黒い血で汚染されるエミル。しかし。やはり。
 エミルの体には寄生されない。
「エミル……それは」
「…………ん、問題ない。私は私」
 エミルは再生しつつある弟を眺めた。

第二章 衝突

 不浄を浄化する力、どこまで続くか試してやろう。
 そう告げて彼は『無明 威月(aa3532@WTZERO)』をその部屋に閉じ込めた。
「乱暴をすると死んでしまうだろ? だから死にそうなことはしない、ただ心が壊れてしまう可能性はあるがな」
 次いで注ぎ込まれたのは液体。
 威月はすぐに察することになる。この部屋に隙間はない。つまりこの液体は部屋にたまり続け、いずれ威月の口や鼻の位置に達する。
 威月は鎖で縛り上げられた腕をみあげる。
 共鳴していたとしても容易にひきちぎれないそれは威月の頭上でじゃらりと揺れるのみ。
 足は微妙に爪先立ちにならなければたてない位置。
 足を楽させれば腕が、腕を楽させれば腕がつる。
 そうこうしている間に液体はくるぶしまであがってきた。その時感じたのがまるで皮膚の表面を溶かしていくようなじりじりとした感覚。
 それだけではない。
(何かはいってくる?)
 薄くなった皮膚から体に何かが侵入してくる。
 それはまさに悪意を伴ってじわりじわりと威月を蝕むがそれに威月は己の意志のみで抗う。
 闇には染まらない。
 暗闇に浮かぶ月がその姿を隠してもまたあらわれるように、決してこの胸の想いは消えることはない。
 ただ、それが長く持つことはないだろう。もうすでにへそあたりまで埋まってしまった。
 服が溶かされ、へその穴から何か体に充満してくる。
(隊長……)
 明るい思い出たちが砕かれるように沈んでいく。意識がもうろうとする。
 もう、だめかもしれない。
 そんな思いが威月の胸に一瞬よぎる。


第三章 孤独

「隊長……」
 そんな声が聞えた気がして燃衣は血の海から体を起こす。
 しかし目の前に立っているのは拳を握ったアルト。
 状況をすぐに思い出した。自分はこの地獄を。焼き尽くさなければ ならないのに。
「そこを退いてください。アルトさんとはいえ容赦はしません」
「そうやってよ、全部壊してられたら楽だろうな! 隊長殿」
 アルトは歩み寄り燃衣の胸ぐらをつかみあげる。
「いいか! てめぇはてめぇ、あいつらはあいつらだ! あたしはてめぇのことなんざ知らねぇことのほーが多過ぎる」
 その背後ではアイリスとエミルが戦っていた。
 槇がなにやら走り回りながら、弾丸をばらまいている。
 ただ、そんな仲間の奮闘はもう燃衣の視界に映ってはいない。
「何でですか、壊すことこそ正解じゃないですか。全部全部いらないものを壊すんですよ、僕にはそれができる、それしかできない」
「みんな助かるのに?」
 仁菜が問いかけるも燃衣は首を振る。
「僕にはできない、手段が全く思いつかない」
「ねむてぇこと言ってんじゃねえぞ隊長!」
 アルトが仁王立ちして燃衣の真正面に立つ。
「けどよぉ……ここにいるのは変態でアイドルオタクな! 暁の隊長の! 煤原燃衣だろ!!」
「その無力な燃衣に何ができるっていうんですか!!」
 仁菜はこの時思った、隊長も自分とおなじなんだと。
 無力を自覚して、それでも悲しいことはなるべく抑えたくて。
 でもできない。
 ただそれでも、それでもアルトは走れと言う。
「踏みとどまんな! てめぇが出来ねぇってんで誰がやるんだ!!」
「僕はだって、僕だって嫌ですこんなことしたくない。もうやだ。もうやだよ、なんでこんなことに なってるんだよ」
「まだあきらめてねぇ奴もいる。あんたの復帰を待ってるやつもいるんだ。戦えよ! 燃衣」
「無駄だよ、誰も何もできない、大きな力の前には無力なんだ。僕も死の前には無力だった。けどけど、生きる力を くれた人がいた。あの人は神だ。神しか僕らをすくえない。そして神が命じてる。僕はすべてを同一になれって」
 その玄武の醸し出す異様な雰囲気に押される仁菜。アルト。純粋に気持ち悪い玄武だが。
 その玄武の視界を遮るように槇が間に入る。
「ふっざけんじゃねーおこのマゾ基地変態野郎!!」
 槇がマガジンを抜いて地面に投げ捨てて幻想蝶から何かを取り出す。
「もらった力で我が物顔で。その力があれば多くの人を救うこともできたはずだお。なのに何で、こんあ、こんなことになってるんだお」
「みんな僕の養分だ」
 槇は普通だ。普通の完成を持ち、普通に生きる普通の男だ。
 だから、正常だからこそ。
 玄武に対して物申すことができる。
「もまえがやむにやまれぬ事情だったのはわかったお!」
 復讐にも犯罪にも手を染めない。罪も背負わない。一般人だから。
 普通に恐怖を感じて、苦しんでいる仲間の気持ちがわかるから。
「だったら死ぬべきだったんだお。誰かを犠牲にする前に」
「俺に、私に、僕にしねって?」  
「俺は絶対お前みたいなやつ、許せないんだお!」
 次いで放たれるのはSKSGの銃弾。
「みんな頑張ってるんだお。俺なんかじゃ真似できないくらい苦しんで頑張って、それでもお前みたいな安易な手には走らなかったんだお。それは自分以外の誰かのためなんだお。それができるのはスゲー事なんだお」
 しかし普段と輝きが違う。
 それは黄金の輝きを持って玄武の眼球に突き刺さると悲鳴をあげさせた。
「なんで、何で再生しない!」
「俺は隊長をみんなを信じてる、絶対お前なんかにまけねぇお」
 放たれる銃弾に玄武は怯え後ずさる。そう玄武を牽制している間に槇は仲間たちに言葉をかけた。
「悪意の力を利用した再生、ビンゴだお。これで何とかできるかもしれないお」
 告げると仁菜に槇は聖釘を握らせた。
「これを体のどこかに打ち込むお。そしたらリンクがあいまいになるお」
「でも、そうしたら痛いよ?」
「そしたら仁菜たんが直してあげればいいんだお。得意だおね?」
 仁菜は涙を拭いて真っ直ぐ槇を見た。
「彼が言ってた『失ったものばかり見ないで、きちんと前を見て。目の前に守りたい人達がいるだろ』って。
 そうだね。
 目の前にいる大切な仲間を守るために。
 私は前を見て進まなきゃいけない」
 仁菜は弾かれたように部屋の隅へ、まず生存者を探す。
「ここで下を向いてたら誰も守れない!」
 次いで立ち上がると槇は燃衣に手をさしだす。
「いったん玄武の再生力をフル稼働させる必要があるお」
「任せてください」
 燃衣は涙をぬぐうとその背中の翼。外骨格式パワードユニット「阿修羅」のリミッターを外す。
「たぶん、一回しかチャンスないお」
 槇は部屋の中心に追い込んだ玄武へ周囲を回りながら聖釘を打ちこんでいく。
――1人で抱え込めば 周りが暗くなっていく。

 その槇の耳に鋭いビートと歌声が聞こえてきた。

――ここは僕の監獄 抜け出せなかった。
  でも違う ほんとはそうじゃない。
  ただ僕は……自分から閉じこもっていたんだ。

 アルトが歌を謳いながら爆撃を。
「……っは、反吐が出ちまうよーな台詞が出ちまったぜ。自分で出来もしねーことをよぉ……」
 玄武の足元を崩してその体をその場に縫いとめる。
 スピーカーウィングを最大展開。
 空を滑空しながら共鳴鍵盤を展開して歌を振りまいた。

――この世界の明るさに 戸惑っていたんだ。
  弱さを曝け出すことが 怖かったんだ。
  温もりを感じるのが 届かないものなのだと。
  でもきっと……信じれるんだ。

 その歌に仲間たちは小さな笑みを作る。
「内部から爆散させる」
「……まかせて」
 アイリスの呼吸にエミルが合わせた。その刃を鋏のように玄武に突き立てて汚液が体に絡まるのも気にせず体を半分引き裂いた。
 次いで再生しようとその体がわずかな糸でつながれたのを見ると。
「レディケイオス起動:コード000」
 アイリスの盾に十字の輝きが集約する。
「グランドクロス!!」
 叩きつけられた一撃はその肉片を塵のレベルにまで分解し始める。
「僕は……死なない。生き続けるんだ」
 告げる玄武にアイリスは涼やかに言葉を投げる。
「そうかい、ではこれからの試練耐えられるかどうか、試してみるといい。頑張りたまえ」
 見上げる玄武。見ればその強大な肉の塊から血管が無数に走った。本体が露出している。その前に燃衣が立ち。その鎖骨……周辺の肉に指を突き刺して体を持ち上げた。
「火綯体……」
 ごうっと音がして霊力が集約される。お互いの悪意を食らいあうように玄武は燃衣を同化しようとし、燃衣は玄武を灰にしようとする。
 本来、火綯体には欠陥がある。
 出力に対し認識制御が追い付かず半分も性能を活かせずだった
 だが《火羅鬼志》を合わせる事で超出力を丁寧に制御可能となり結果10倍の戦闘力を得る奥技と化す。
「これが僕のたどり着いた境地。火羅鬼志」
 燃衣の反射神経はもはやコンマの世界を如実に映しだす。
 だからアルトから降り注がれる銃弾も避けることができる。
「私には破壊をもたらすしかないって言いやがったな。……そんなことはない!あたしは。……あたしのやることは、あたしが決めるんだ!!」
 次いで燃衣は叫んだ。
「僕ごと撃って、信用してください!」
 燃衣の炎が玄武を外界から断絶する。
 と同時に玄武の体に撃ち込まれた聖首が同調し始めその浄化の力で玄武の地獄へのリンクを打ち切った。
「いくお! ロンギヌス」
 それは銃と呼ぶにはばかばかしいサイズだった。
 その砲台にも似たそれを仰向けに寝そべって踵……そして展開する銃身のスパイクを地面に深く突き刺し、そして放つジャベリンガン。
 その槍ともいうべき杭は玄武、のみならず燃衣をまとめて吹き飛ばしかねない威力を誇っていたが。
 燃衣には全ての力学ベクトルが見えている。
 天才的な戦術脳と、反射神経。
 そして槇の計算によって。
 燃衣はそのロンギヌスの力を体にうけることなく、逆に自分の力に反転させて。そしてはじかれるように燃衣は玄武から距離をとる。
 玄武の細胞のいっぺんに至るまで浄化されていくのが見える。
「まだです」
 ロンギヌスの砲弾を燃衣は空中で掴み取る。そのロンギヌスを遠心力を使って軌道修正。地面を削りながら投げやりの要領で再度玄武に投擲した。
 爆発四散する玄武。
「いきたいいいいい、いきたかったああああ、でもいきるって、なにぃぃぃぃぃぃ」
 その光は天を貫く光となって地獄に影響を及ぼし天井を貫いた。
 地獄の煙があふれだす。
 それに気が付かず仁菜は顔をあげた。
「まって、まだ」
「みなさん、ダイジョブですか。ぐっ」
 燃衣はその場で腕を抑えて転がった。
「隊長!」
 駆け寄る仁菜。見れば燃衣の腕が石になったようにカサカサにひび割れている。
 まるで浄化された吸血鬼か何かだ。
「隊長の憎悪にも有効なんだお」
 槇が茫然とつぶやく。
 その時である。
 槇の膝が崩れた。
「え?」
「玄武は倒れました」
 振り返ろうとする槇。その槇の髪を引っ張ってあえて真上をむかせるとそこには髪を下ろした金髪の少女が立っていた。
「VVたん?」
「ヴァレリアです。もうその名前はやめてください」
 次いでVVは槇の両肩を打ち抜いた。
「この!」
 弾かれたように体を動かす仁菜。だがVVは槇の体を揺さぶって牽制する。
 全員が満身創痍、動けるのは仁菜のみ、しかし仁菜は。
「あなた程度で私に勝てるとおもったの?」
 ヴァレリアは一歩下がると仁菜と自分の間に槇を立たせた。
「もうやめて、また、罪を繰り返すことはないわ。ヴァレリア・ヴァーミリオン」
 告げたのは杏奈。
 杏奈は今父の記憶全ての継承がすんだ。
「あなたは一度。父に逮捕されているでしょう?」
 全員が驚き振り返る。それはVVでさえそう。
「あなた、銀二さんの……」
 VVは合点がいったように頷いた。そして一つ涙を流す。
「あなたは、ひどい過去を送った後。ご両親の遺体を食べて食いつないだあと。とある組織に発見された。その組織は小さく、名前もなかったけど。それは違ったのね。きっとラグ・ストーカーの関連組織だったんだわ」
 そしてそこで行われていた人体実験が他人の細胞を自分の物にするための研究。
 つまり。
「玄武を作り出す原因となった研究」
 その研究資料の多くは、杏奈の父親を中心とした捜査班が押収したが押収物にはまだ幼い少女がいた。
 それがVV。
「私、あなたを見たことがある。一日だけ。父がどうしてもって言って家に連れてきたことがあったわ。私と同じ年くらいのはずよね?」
「………………だったら、VVたん俺より年上!」
 槇が驚いて振り返ろうとするとVVは銃の底で槇を殴った。
「VVってよばないで」
「あなたは研究の結果、不死の力ではなく、不老の力を得たのよね」
 体が幼少期から成長しない呪い。それがヴァレリアの見た目を幼く見せている秘訣だ。
「けど、あなたは父の元でも更生することはなかった」
 なぜなら、VVは。
「父の拳銃を奪って。同僚を殺害。そのまま施設から逃走した」
 杏奈は聞いた、銀二が険しい表情で語るのを。
 昨日まで杏奈と同じように笑っていたヴァレリア。
 あの悪夢の中から心も救出できたと思っていた。
 けど少女は何の前触れもなく、豹変した。
 愚神もなく、体に何かおぞましい命令、機能が備わっていたわけでもなく。
 ただただ朝食のメニューを変えようとするみたいに、自然な動作で銀二の腰のホルスターに手をかけて。次の瞬間には周囲の人間を撃ち殺していた。
「あなたは何がしたいの?」
 杏奈が問いかける。その言葉に仁菜も言葉を重ねる。
「あなたがここで本性を現した理由は何?」
 仁菜が問いかけると、VVは素直に答えた。
「槇さんとエミルさんを交換しましょう」
 全員が言葉を失った。次いでエミルはVVに歩み寄る。
「我々は玄武を失った。けれど、玄武以上のものを手に入れる」
 次いで地獄に光がさす、強い光に一人のシルエットが浮かんでいる。それを見つめるとエミルは一言。
「ひさしぶり。母様」
 そうとだけ告げると、エミルはその腕の中に消える。
「槇お兄ちゃんをどうするの?」
 仁菜の言葉にVVは小さく言葉を返した。
「殺しはしません。施設の外に置いておきます」
「VVたん!」
「うるさいです! 黙ってください!」
 銃でVVはさらに槇を撃った。
「許さない! ヴァレリア! 私はあなたを許さない」
 仁菜が告げる中VVに引きずられて槇は外に連れ出された。
 状況は収拾がつかないままに次のステップへ。
 玄武陥落。しかしエミルは脱退。状況は一進一退を繰り返す。


エピローグ

「おうおうおう、暁のあまちゃんどもよぉ。もうチョイうまくやってくれよ」
 一連の事件をモニター越しに眺めていたその男。
『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』は同時に外を映したモニターを見る。
 悪意の噴出。玄武のドロップゾーンが完全な解体のされないままに外に漏れだして世界を覆う。
 これが導き出す事態はわかりやすくパンデミック。
 死なない人間の量産。しかし知性は失せた人間の量産。
 つまり、死んだ人間が世界中で復活するようになっていた。
「こりゃ。他の四神も倒さねぇとおさまんねぇな」
 もしくはアイリス秘蔵のエリクサーを使うかだが。
 それも残りは少ない。
 そのモニターには女性二人の影が映る。
「あらまぁ、こないによごされはったら、うちらだけじゃどうにも」
「いいんじゃない? これはこれで、世界に混沌を望むものに欲望を、破滅をそれがうちらでしょ?」
 その女性たちを一瞥すると塵は椅子から立ち上がり、歩きだす。
「おれちゃんがうごくぞー。お前らの意見はしらね〜」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
『火蛾魅 塵(aa5095@WTZERO)』
『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』
『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』
『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『無明 威月(aa3532@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
『月奏 鎖繰(NPC)』
『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』
『玄武公(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さんこんにちは、鳴海でございます。
 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 今回玄武という日常の破壊者に対して槇さんをクローズアップして書かせていただきました。
 あとはキャラクターの個性がぶつかる瞬間を意識して書いてみました。
 そしてVVと銀二さんの接点が完全なるアドリブという。
 鳴海戦々恐々としておりますが気に入っていただけたら幸いです。
 次回に繋がる内容として。基本的に槇さんは外で約束通り解放される予定ですが。何かやりたいことがあればご指定ください。
 ちなみにVVの行動目的も『父と母の蘇生』を予定していますが。これも別の案があればご提示ください。
 それではお次の発注もお待ちしております。よろしくお願いします。
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2018年10月10日

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