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『『素直な自分を出せる場所』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 ハロウィンの夜。
 沢山のお菓子を貰って、とてもうれしそうに過ごす子どもたち。
 可愛い仮装と悪戯で楽しく過ごした夜。
 子どもたちの寝顔を見ながら、大人たちは思い出す。
 かつて自分も、無邪気に生きていた頃があると。
 親の愛に包まれていた時代があったことを。

「今日こそ、おまえに完全に勝つ!」
「いじめをするヤツになんて、まけないッ!」
 からかわれていた気弱な女の子を庇いながら、体の大きな男の子と勝負をしているのは、アレスディア・ヴォルフリートだ。
 腕相撲では、体格的にアレスディアは男の子に敵わず、木登りではアレスディアが勝利した。
「よし、つぎは、かけっこで勝負だ! ぼうがいありだぞ」
「ぼうがいはしない! ぜったいかつ!」
「あの木まで先についた方が勝ちな!」
 山の天辺にある大きな木を指差すと、男の子は走り出した。
「アレスちゃん、危ないよ」
「だいじょうぶだ、ぜったいかつからな!」
 そう言って、気弱な女の子を帰らせて、アレスディアは山を駆け登る。

 山の中に入ると、頂上の木は見えなくなった。
 頂上へは2人とも大人と一緒に行ったことがある。歩いて数時間ほどかかるはずだ。
「ぐるっと回るより、こっちの方が早いはずだ!」
 男の子は大人たちが作った道ではなく、獣が通る斜面を登っていく。
 男の子より体の小さなアレスディアにはかなり厳しい道だったが、急な斜面では手で木や岩を掴んで、這うようによじ登りついていき、追い越そうとする。
 互いに意地っ張りで負けん気が強く、毎日こんな風に競い合っていた。
「お前にこの道はむりだっての」
 男の子が、大地を蹴って、土砂をアレスディアの顔にかける。
「う……っ、ひきょうものには、まけん!」
 目を瞑り、歯を食いしばってアレスディアは登っていく。

 獣の道は途中でなくなっていて、2人は木々を掴みながら、ただひたすら上の方をめざして互いより先に行くことだけを目指して登っていた。
 じきに、太陽は山の裏側に隠れてしまい、薄暗くなっていき、足下が見えなくなった。
 荒い呼吸だけを繰り返し、無言で競っていた2人だが……周りが見えなくなって、どちらからでもなく足を止めていた。
「どっちがうえか、わからないな」
「どっちから来たのかもわかんねー……」
 辺りは不気味に暗く、虫たちの声しか聞こえない。
「今日はもう帰るか」
「そうだな」
 そう言って、2人は家に帰ろうとしたけれど、方向がよく分からない。
 降りれそうな斜面はなく、手探りで木々を掴みながら歩ける場所を歩いていく。
「あっ」
「だいじょうぶか……っ」
 男の子が滑って転び、助けようとしたアレスディアも一緒に転んでしまった。
 座り込んだ男の子の目に、じわりと涙が浮かんでいく。
「けがをしたのか?」
 アレスディアの言葉に、男の子は首をぶんぶん横に振った。
 辺りはどんどん暗くなっていき、男の子は不安で仕方なくなっていた。
「わたしがまもるからだいじょうぶだ」
 アレスディアは男の子の体についた土や落ち葉を払いながら励ます。
 男の子は何も言わずに、涙をぬぐった。
 そんな時。
 下の方から自分たちの名前を呼ぶ、大人たちの声が響いてきた。
「ここにいるよー!」
 男の子が声をあげる。
「いこう、あるけるか?」
 男の子は頷いて立ち上がり、アレスディアが前に立って、声をあげながらゆっくりゆっくり、大人たちの声の方へと歩いていった……。

 そして、大人たちに連れられての下山後。2人はそれぞれの親にこってりと怒られた。
 アレスディアは「ごめんなさい」と父に謝るも、決して涙は見せずに家に戻った。
 夜も遅いこともあり、夕食は抜きだった。口を引き結んだままお風呂を済ませて、寝ようとしたところでアレスディアは母の寝室へと招かれた。
 病弱で、一日の大半をベッドで過ごしている母。
 アレスディアが帰ってくると、温かく迎えてくれて、髪を梳いてくれる母。
 夜遅い時間だったけれど、母はまだ起きていて、咎めることも、諌めることもなく、いつものようにアレスディアを傍らに座らせると、優しく髪を梳いてくれた。
 髪の絡まりと共に、アレスディアの心もほぐれていき。髪を梳き、撫でてくれる母に、ゆるゆると抱き着いて。
 結んでいた口を開き、固めていた顔をゆがめて、アレスディアは泣きべそをかくのだった。
 小さく声をあげて泣くアレスディアを、母はずっと撫でていてくれた。
 一緒にベッドに横になって。アレスディアが泣きつかれて眠るまで、母はそうして抱きしめて、撫でて、温かな愛情でくるんでくれていた。
 母の腕の中は、子供の頃のアレスディアが唯一、素直でいられる場所だった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
子供のころのアレスディアさん、興味深く書かせていただきました。
ご依頼ありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月10日

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