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『船上のハロウィンパーティ 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001)&藤咲 仁菜aa3237)&迫間 央aa1445)&リオン クロフォードaa3237hero001)&墓場鳥aa4840hero001)&マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001)&ナイチンゲールaa4840)&真壁 久朗aa0032


『豪華客船でハロウィンパーティをやるんだって!』
 と不知火あけび(aa4519hero001)が持ってきたチラシが今回の発端だった。H.O.P.Eとグロリア社がエージェントの慰労の為に企画したハロウィンパーティ。開始は午後七時から。人工灯から遠く離れた海に出た故だろうか、顔を上げれば満天の星が漆黒の中で煌めいており、視線を戻せば着飾ったエージェント達が会話に花を咲かせている。
「皆、似合ってるな」
 友人達の礼装姿を新鮮に思いつつ、日暮仙寿(aa4519)は目元を緩め彼らの様子を眺めていた。ドレスコードは準礼装とされており、仙寿も今日は黒タキシードを着用で参加している。
『仙寿様もよく似合ってるよ』
 言ってあけびは仙寿の間近でにこっと笑みを投げ掛けてきた。あけびの服は古典的なオフショルダーの、Aラインカクテルドレスで、ウェーブをかけた髪は左肩に流し、イヤリングは蝶のラインストーン。髪留めとアンクレットはあけびの花を模した白銀。
 恋仲の普段とは違う一面を、美しく着飾った姿を見て嬉しくならない男はいない。仙寿も勿論その例に漏れはしなかったが、あけびの大人びたドレス姿に、自分が年下だったと実感する事になる。
 少し悔しいと思ってしまい、「お前も似合ってる」と言い損ねた。それがまた悔しさに拍車を掛けた。「ありがとう」と呟きながら顔をわずかに逸らす仙寿に、あけびは意味が分からずに『?』を飛ばして首を傾げた。

「ねぇ、リオン私変じゃない?」
 藤咲 仁菜(aa3237)はそわそわした様子でリオン クロフォード(aa3237hero001)に問い掛けた。シンデレラをイメージした、大人っぽすぎず可愛らしい青のカクテルドレスを選んだが、周囲の女の子は皆大人っぽく、浮いてないかな? と心配になる。
『ニーナが一番可愛い』
 リオンは仁菜の耳元に唇をそっと近付けると、甘いとも評せる声音でそう囁いた。仁菜はぼっと頬を赤らめ、白いロップイヤーの兎耳を両手で守るように押さえる。
「もーまたリオンはそうやってからかって……!」
『からかってないよ。本気だよ』
「……もー」

「準礼装……ダークスーツで良かったか」
 迫間 央(aa1445)は己の姿を見下ろした後、参加者達に視線を向けた。俺達の目指す“リンカーと英雄が真に自由に生きる為の社会地位向上”の為に、どういう人がリンカーの世界を動かしているのか見ておきたい。そのような意図もあって「H.O.P.Eとグロリア社主催」のパーティに参加する事にした。
 ただ気掛かりな事もある。知人も集まるようだし、年長者としてそれっぽく振る舞えるようにしておきたいというのもあるのだが、一番の懸念は英雄であり、婚約者のマイヤ サーア(aa1445hero001)である。彼女を気安く人に晒すのもちょっと抵抗が……。
『それを悪いと思うなら、央のパートナーとしてちゃんと紹介してくれればいいのよ』
 央が一人問答していると、白菫色のドレスに身を包んだマイヤが姿を現した。普段はあまり幻想蝶から出てこない彼女の、いつにない積極的な台詞に、央は目を瞬かせた後笑み混じりに問い掛ける。
「じゃあ、今夜はずっと隣にいてくれるかい?」
『当然でしょう? それとも、他にあてが居たのかしら?』
 婚約者から放たれた挑発的な物言いに、央は笑いながらかぶりを振った。それから、改めてマイヤのドレス姿を眺める。
「今日はいつものドレスじゃないんだな」
『さすがにいつものドレスだと、少し主張し過ぎかしらと思って』
 とは言え三着しかそれっぽいのは持っていないので選択の余地はなかったのだが。胸元も腰も足下も大胆に開いた、扇情的かつ艶やかな己の姿を一度見返し、それから央に瞳を向ける。
『変かしら』
「まさか。とても綺麗だよ」
 躊躇いなく口にした央にマイヤは腕を絡ませた。普段幻想蝶の中からそうするように、央に万一がないようにと警戒の意もあるが、同時に央の隣の自分をアピールする目的もある。
『ダメかしら』
 並び立つマイヤの声に口元が緩むのを止められない。浮かれている自覚はあるが、今は婚約期。一番浮かれてていい時期だ。マイヤが第一思考になるのも、思わず口元が緩むのも、仕方のないことだろう。
「言っただろう。今夜はずっと隣にいてくれるかい? って」


 食事はビュッフェ形式で、ハロウィンモチーフの豪華な料理やお菓子がずらりと並んでいた。南瓜と鴨のサラダ、南瓜とベーコンのキッシュ、スモークサーモンとレッドオニオンのサンドイッチ、赤葡萄酒のビーフシチュー、南瓜パリブレスト、アップルパイ等。アルコールもジュースも色々揃って飲み放題で、妖精やジャック・オ・ランタンに仮葬したスタッフ達が、あちらこちらを動き回って給仕に励み勤しんでいる。
『この度二十歳になりました。なのでお酒解禁です!』
 高らかに宣言した後、あけびはさっそくとばかりに央とマイヤに突撃した。『央さんとマイヤさんに美味しいお酒を教えてもらい楽しく飲もう!』という算段だったが、そこで央から衝撃の一言が放たれた。
「実はあまり酒はやらないんだ」
『え、そうなんですか?』
「まるで飲めない訳じゃないんだけど、お金、殆どこの仕事に注ぎ込んじゃってるから。酒に酔うより、素面で取り組みたい事の方が多くて、酔ってる時間が勿体無くて……それに、今は酔いたい時は酔わせてくれるパートナーがいつも隣に居てくれるからね」
 と言って、央は隣のマイヤの腰をさりげなく抱き寄せた。まさに大人の世界である。マイヤは央の台詞に少し浮かれたのか……いやこの場合はマイヤも央に『酔わされた』と評した方がいいだろう……いつものクールさが少しだけ鳴りを潜め、「お酒なら、多分マイヤの方が……」と振られて上ずった声を出す。
『そ、そうね。今日が初めてならカクテルはどうかしら。でも最初だから、あまり強くない方がいいかしら……』
『私、多分お酒には強いと思います!』
『そ、そう? でも最初は軽めのからいきましょう。せっかく夜は長いのだし』
『はい! よろしくお願いします!』
「それじゃあ俺も付き合おうかな。ついでに俺も、マイヤにカクテルなんかを見繕ってもらうとしよう」
 そう言ってマイヤに悪戯っぽく笑みかけると、マイヤは頬を赤らめたまま若干視線を逸らして見せた。酒はあまりやらないというのは本当だが、今日は、珍しく照れている婚約者を肴に楽しい酒が飲めそうだ。

 真壁 久朗(aa0032)は船の端で一人佇んでいた。タキシードの顔とも言えるラペルには、羽をモチーフにしたビジュー刺繍をあしらっており、しっとりとした艶のある生地は深海を思わせるシャドウブルー。右側の髪は耳の横でかきあげている。英雄のチョイスでかなりの男前に仕上がっているが、当の本人に壁の花を卒業する気がまるでない。
「久朗、この格好おかしくないか?」
 そこに仙寿が黒マントを優雅に羽織り、白く鋭く尖った牙を生やした姿で訪れた。言うまでもなく吸血鬼の仮装である。「大丈夫だ」と言った久朗に、仙寿が悪戯っぽい顔で笑む。
「飲まないのか」
「分かってて言ってるな」
 久朗の返事に仙寿は一層笑みを深めた。久朗は酒に弱い。そして仙寿も酒に弱い。もっとも仙寿は未成年なので酒はまだ飲めないが(そしてそれが、あけびより年下だと思い知らされて少し悔しい要因の一つだが)、ウイスキーボンボンでも酔ってしまうので、酒に弱い事は既に自覚済みである。故に同じく酒に弱い久朗に親近感がある。
 久朗も仙寿に同様のシンパシーを感じつつ、“とある方向”を見てこんな事を呟いた。
「弱いのにも色々種類があるから、身近な奴の傾向は把握しておいた方がいい」
「何か言ったか?」
「ちょっとした体験談による忠告だ。所で、何かするのか」
「ああ、有志パフォーマンスがあるらしいから、ヴァイオリンで参加しようと思って」
「必要があれば手伝うぞ。準備だけだが」
「それじゃあ頼む」
 かくして久朗は壁から剥がれた。有志パフォーマンスは今回のパーティの目玉の一つで、エージェントやグロリア社社員が張り切る企画の一つでもある。仙寿はそれに演奏者として参加するということだ。
 久朗が準備を手伝いながら、もうそろそろ年の瀬も近い事を思い起こしていると、そこに墓場鳥(aa4840hero001)と共鳴したナイチンゲール(aa4840)が訪れた。パールグレイにバイオレットのフリルを合わせたゴシックデザインのドレスを纏い、赤と黒を増した髪には白薔薇のコサージュが。ナイチンゲールは久朗を認め、特に慌てた様子も見せず挨拶の言葉を口にする。
「こんばんは」
「……ああ、久しぶりだな」
 話す事がないではないが、「また後で」とだけ言ってナイチンゲールも準備に掛かる。パフォーマンスに参加するのは仮装している団体が多く、今はゾンビに扮したグロリア社社員がゾンビマジックを披露している。同じくヴァイオリンで参加の央もやってきて、「それではどうぞステージへ!」の声と共に三人は壇上へと上がる。
「皆さんこんばんは。私達は歌曲を披露させて頂こうと思います」
 ナイチンゲールがマイクを握り、堂々とした面持ちで観客達にそう告げた。今回歌う曲はとある連続殺人事件を解決するべく、仲間達と共に作成した歌の、アコースティックバージョンである。あの時は悲劇を食い止めるために歌った。
 今回は。
「H.O.P.Eとして見てきたこと。
 大切な友達や同僚。
 ……もう居なくなってしまった人達。
 みんな、歌に詰め込みました。
 どうか聴いてください……“勇敢に”」
 二つのヴァイオリンが鳴った。速くもなく、遅くもなく、程よく、心地いいテンポ。仙寿達演奏陣には予め、デモ音源を預けてすり合わせを行っている。夜の海に相応しい優麗な音色が響く。音を走らせるためにナイチンゲールが息を吸う。


 徒花咲き乱る夜を駆け抜け
 背負って羽搏いて光を目指せ

 なぜ目を逸らすの? “彼ら”はもう居ない
 胸を張りなさい あなたは生きている
 大切な幻を糧に偲んで
 剣戟に明け暮れて胸を焼いて

 思えば血煙の青春時代
 慚愧も未練さえも今は尊い

 徒花咲き乱る夜を駆け抜け
 二つと無い苑守れ 諸手穢して
 軽やかに散る命 まるで翅のよう
 背負って羽搏いて光を目指せ


 しっとりとした歌声は、『小夜啼鳥』の名に相応しいものだった。童話に描かれた彼の鳥の歌声は、死神をさえ追い払う程美しいとされている。
 仙寿はその歌声に耳を傾けつつ弦を動かす。歌は小夜啼鳥に任せて、今は弾く事を楽しむ。


 黄金の暁が訪れたなら
 此岸と彼岸とが重なり遊ぶ
 交わせど語れど落日に消ゆ
 夜露に泣き濡れた剣を慰め

 饒舌な風は問う ただ咎を裁く為
 救えぬ魂を想うは月ばかり

 徒花も散り逝く夜に独り凍え
 優しき輩の思い出が寄り添う
 瞬く星の唄をせめて伴い
 闇路の果てに兆す光を目指せ

 明日さえ葬られ尚戦う者よ
 どうか忘れないで 孤独は泡沫


『どこか切ないけど、綺麗で、力強い歌だね』
 あけびが小さく呟いた。楽器は出来ないので皆の演奏と、ナイチンゲールの歌声に静かに聞き入る。
 仁菜もまたパフォーマンスは出来ないので、あけび達と並び立って舞台の上を見守っていた。ヴァイオリンを弾く仙寿さんや迫間さんは凄くかっこいいし、なっちゃんの歌も凄く綺麗。
「(なっちゃんの今日の歌はたった一人に向けたものなのかな?)」

 美しい間奏が入る。落ち着いて息を整える。改めてマイクを握り締める。これが最後のメッセージ。

 
 徒花咲き乱る夜を駆け抜け
 二つと無い苑守れ 諸手穢して
 軽やかに散る命 まるで翅のよう
 背負って羽搏いて光を目指せ

 徒花も散り逝く夜に独り凍え
 優しき輩の思い出が寄り添う
 瞬く星の唄をせめて伴い
 闇路の果てに兆す光を目指せ

 帰途の無い旅路を異形(神)が蝕んでも
 あなた(私)と共に私(あなた)は光になる

 勇敢に……

 
 ヴァイオリンの余韻も黒に溶け、一瞬の静寂が訪れた。直後、割れんばかりの拍手喝采が一帯を埋め尽くした。三人は頭を下げた後仲間達の下へと戻り、マイヤは央へと歩み寄る。
「どうだった」
『素敵だったわ。ところでちょっと気になったんだけど……真壁さんと小夜啼ちゃんの関係、どうなのかしら』
 耳元にそっと囁かれ、央はナイチンゲールの方を見た。久朗はいつのまにか壁の花に戻っている。
『彼女、色んな意味でガードが硬いから、ちょっとお節介もしてみたいなって思ってて』
「うん……いや、もう少し様子を見ていてもいいんじゃないかな」
 央が示した先を見ると、リオンがカクテルグラスを持ってナイチンゲールに近付いていた。そしてライムグリーンが美しいカクテルをにこりと微笑みながら差し出す。
『お疲れ様。一杯どうかな。ナイチンゲールさんは普段我慢しすぎだから、たまには弾けてもいいんじゃない?』
 リオンもまた久朗とナイチンゲールとの仲を案じている一人であった。真壁さんとナイチンゲールさんの距離が縮まればいいけど。どう見ても両思いなのに奥手すぎる。
 ナイチンゲールは「ありがとう」と言った後、カクテルをごくりと飲んだ。なお共鳴中のリンカーでも酔える強そうなヤツをチョイスした。ナイチンゲールがあまりお酒に強くないのを知っていての、計画的犯……もとい強行である。
『(このまま放っておくと伝えられなさそうだしなぁ)』


 有志パフォーマンスが終わった後、料理は壁際に移動され、ホールはダンスパーティの舞台へと早変わりした。生演奏に乗せてのゆったりとしたワルツ。サンドイッチを口にしつつ久朗が場を眺めていると、ナイチンゲールが勇ましい足取りで久朗の元へ直行してきた。
「踊らないの?」
 おもむろに仁王立ちして言い放ったナイチンゲールに、久朗は飲み会の事を思い出してやや後ずさりした。微妙に酒の臭いがするし。警戒するには十分である。
 後ずさられた心当たりにバツが悪そうに頬を掻きつつ、ナイチンゲールは装いを眺め回した。それからアピールにコサージュの……「鴉」から「小夜啼鳥」へ贈られた白薔薇のコサージュの、濡羽色の羽をぴんと弾く。
「……人には“分”ってモノがあってさ。あなたの場合、壁の花にしちゃキマり過ぎなの。分かるよね? ほら!」
 唐突な誘い文句に「分からない」と首を傾げる暇もなく、久朗は手を掴まれてホールへと引っ張り出された。事態に困惑していると、仙寿がすれ違い様に久朗の肩をぽんと叩く。
「久朗は小夜と踊るんだよな? 頑張れよ」
「あ、いや、俺は」
 拒否も否定も許されず、いつのまにか肩にはナイチンゲールの左手があった。久朗はダンスは依頼でほんの少し経験した程度。無論、人前で自信を持って踊れるようなレベルではない。
「心配しないで。私がリードするわ」
 だから私の背中に右手を置いて、と言われた所で演奏が始まった。動かなければ邪魔になる、とぎこちなく足を動かしたが、ナイチンゲールの足を踏みかけたり、他のペアと衝突したり。ナイチンゲールは踏まれても顔色ひとつ変えず、他とぶつかった際は「失礼」と笑顔でやり過ごすが、久朗にそんな余裕はない。現代人にワルツを学ぶ機会なんてあるか? などと言い訳がましい事が脳裏をよぎる。
「他の奴と踊れ」
 ぶっきらぼうにそう言ってホールドを解こうとするが、久朗の肩に置かれた手は動こうとはしなかった。久朗の気持ちが乗っていないのを見て取って、ナイチンゲールは半ば強引に更に広い場所へと引っ張り出した。そしてすっと距離を縮め、間近で優しく微笑する。
「ね、落ち着いて。“私を見て”ご覧」
 出来ないのは相手を見ていないから、ちゃんと向き合えば手足は勝手について来てくれる、そう促され、久朗は息の触れそうな距離からナイチンゲールの顔を見つめた。
 自信に満ちた真っ直ぐな青の瞳は、かつて自分の傍にいた幼馴染ととてもよく似ていて。
 アレの無茶振りに応えていた時のように。時々図々しくて我の強い、けれどなぜか確かな存在感を残していく。
 今目の前にいる、そんな彼女のこころに、己は応えればいいのだろう。
 露わにしている右の眼にも、隠している機械の眼にもナイチンゲールを映し出し、久朗は促されるままにステップを刻み始めた。自然に、所作を先んじて穏やかに促しつつ、ナイチンゲールは微笑む。
「そうそう」

「なかなか上手く行きそうなんじゃないか」
 久朗達を遠巻きに見守りつつ央は隣のマイヤに囁き、グラスを軽く傾けた。そして一曲目が終わり、白いタキシードに着替えたリオンが仁菜にそっと手を差し出す。
『俺と踊って貰える? 可愛いお姫様』
「はい。私の王子様」
 優しく向けられる微笑みに仁菜は嬉しそうに微笑み返し、左手と右手を重ね合ってホールの中央へ躍り出た。ダンスはこの日のためにリオンと共に練習してきた。だから不安は一切ない。リオンの橙色の瞳に自分の姿を映し出し、自分の空色の瞳にはリオンの姿を映し込む。
 奏でられる曲に合わせ、二人は躊躇いなく同じ方向に一歩を刻んだ。また一歩を踏み出して、ターンして、ドレスをふわりと翻す。ふと、リオンが仁菜の耳に口を寄せた。囁かれた言葉に仁菜もまた囁き返す。
『大丈夫? ニーナ』
「大丈夫だよ、だってリオンが一緒だもの」
 そして同時に微笑みあった。白いタキシードと青のドレスが、ぴったりと寄り添いながらくるりくるりと優美に回る。ピアノと弦楽器の音色に合わせ、心の底から楽しそうに、踊る姿は舞踏会のシンデレラと王子のよう。
「流石王子だな」
『(リオン、王子様だ……!)』
 リオンが優雅に仁菜をエスコートするのを見て仙寿が感心の声を漏らし、あけびも頬に手を当てて二人の姿に見入っていた。央も二人のダンスを見て感嘆を口にする。
「へぇ、絵になるもんだ」
『……私達も踊る?』
 マイヤの台詞に央は「えっ?」という顔をした。あまりに素直な反応に、先程の意趣返しのようにマイヤは楽し気にクスクス笑う。
『大丈夫よ、私が央に合わせるから。何度共鳴して同じ身体を共有したと思ってるの? わかるわよ、央の事なら、ね』

『おかえりー。すごく素敵だったよ』
「ありがとう。上手に踊れたのはリオンのおかげだよ」
『そんなことない。ニーナが練習を頑張ったからさ』
 あけびに迎え入れられながら、仁菜とリオンは手を重ねたままそんな事を言い合った。完熟レベルに甘々だが、この二人、別に付き合っている訳ではない。
『私とも踊って頂けますか?』
 あけびはにっこり笑みながら仁菜に手を差し出した。無論ちょっと酔っているが、ちょっとしか酔っていない。風邪も引かない、酒にも酔わないという元の世界での『体質』と違い、この世界に来てから、英雄になってからいささか変わった模様はあるが、元々酒には強いタチである。とは言えちょっとは酔っているので、信頼する人相手にはややガードが甘くなっている。皆信頼してるので今回はとてもハイテンションになっている。ノリノリである。
「私と踊ってあけびさんの王子様は嫉妬しないです?」
『そしたら、私のことをエスコートしてくれるかもしれないじゃない?』
 仁菜に悪戯っぽく囁かれ、あけびも悪戯っぽく囁き返す。そしてくすくす笑い合った。一緒に踊りながら、久朗とナイチンゲールの様子を話し合って盛り上がる。
 一方、マイヤは見事央をリード仕切り、それっぽくワルツを踊り切った。ドレスのままカレー南蛮を食べても汁一滴飛ばさずに完食できる、超絶技巧がまたよくわからない形で活かされる。
 仙寿は央とマイヤの様子をこっそりと観察していた。あけびと恋仲になったとは言え、「恋人」というのをどうやればいいのか分からない。ので、央とマイヤを見て恋人らしさを学びたいと思っているのだが。
「(俺も……俺達も、いつかあんな風になれるだろうか)」
『ただいまー!』
 そうこうしている内にあけび達が帰ってきた。酒のためかダンスのためか、あけびの頬はいつもより少し上気しているように見える。友人はけしかけておいて、自分はだんまりというのでは格好がつかないだろう。リオン程スマートにはいかないかもしれないが、仙寿はあけびの前に進み出て、すっと左の手を差し出す。
「俺と踊ってくれるか、あけび」
『……はい、仙寿様』
 出された左手に右手を重ね、二人でホールへ歩いて行く。手を繋いで歩くだけなのに、少し照れてしまう。向かい合って、瞳を合わせた時はさらに。それでも、二人とも視線は逸らさずに、けれど口元は緩めて踊る。
 あけびは元の世界で、学園のイベント時にワルツを踊った事がある。仙寿は子供の頃に習った位だが、動きに特に淀みはなく、しっかりあけびをリードしている。自分をまっすぐに見つめてくる男の瞳に、あけびは照れのあまり思わず名を口にした。
『仙寿様』
「二人きりの時は?」
 間髪入れず、そう返した仙寿にあけびは目を丸くした。そして眉を少ししかめた。互いの声しか聞こえない程の小声とは言え、距離とは言え、それは意地悪ではないのかと。
 けれど眉をしかめたのは一瞬で、すぐに花のように笑った。こんなやり取りが出来るのも積み重ねてきた今があるから。そして仙寿と分かち合う全てが、こんなにも楽しいから。
 だから、仙寿にだけ聞こえるように、あけびはその名を口にする。
『仙寿』


 央はカクテルを味わいながらパーティの様子を眺めていた。エージェントの慰労の為に企画されたハロウィンパーティ。当然、能力者も英雄も入り乱れて楽しんでいる。美味しい食事に舌鼓を打ち、あちこちでグラスを交わし合い、喋りたい事を喋り、手に手を取って踊り、心の底から楽しそうに。
 この船を降りればまた戦いの日々が来る。今こうしている間にも、火種は世界各地に降り注いでいるのだろう。リンカーと英雄が真に自由に生きれる時代は、そう簡単に来てくれはしないだろう。
 それでも、今ここにある時間が、空間が、いつか当たり前のものになるように。
「頑張らないとな」
『ダンスを?』
 グラスを持ったまま苦い顔をする央に、マイヤはまたクスクス笑った。そんな彼女がとても可愛く見えるのも、また仕方のないことだろう。

『ダンスは男性から誘うのが基本だぞ! 行くなら今!』
 と、仁菜とのダンスを終えたリオンは久朗をけしかけに行っていた。何故か今日は妙な絡まれ方をされている気がする、と久朗は思ったが、朴念仁通常装備に確信を持つだけの器量はない。とりあえず、リオンの言う事も一理あるなとは思ったので、ナイチンゲールの下へ赴き、ぎこちなく手を差し出す。
「迷惑でなければでいいんだが、もう一度踊ってくれるか。……俺と」
 ナイチンゲールは目を瞬かせ、それからふっと笑みを漏らした。出された手に手を乗せて、ついと近付き久朗の顔を覗き込む。
「お受けするわ。だから今度は最初から、きちんと“私を見て”いてね」
 墓場鳥はナイチンゲールと共鳴している内から思う。自分の役割はささやかなものだ。【能】として【徴】の力となるのみ。
 あの男との行く末が好ましいものとなることを願って。

「ねぇねぇ、帆にプロジェクションマッピングやってるんだって。文面リクエストも出来るみたい」
 言って仁菜が文字の浮かぶ巨大な帆を指差した。あけびがほろ酔いの顔で仙寿の腕にすがりつく。
『リクエストかぁ。ねぇ仙寿様、何か書かない?』
「お前、あまり羽目を外すなよ」
 普段よりスキンシップの多いあけびに仙寿は一応釘を差した。なお仙寿は何時か南瓜の菓子を作ってみたいと、現在参考のためにかぼちゃプリンタルトを試食中。
『じゃあ踊りながら考えようかな。今日の私の目標は女性陣全員と踊る事! というわけで小夜、マイヤさん一緒に踊りましょう!』
『だったら俺も、俺のお姫様ともう一曲踊ろうかな。受けて貰えるかな? お姫様』
「喜んで、王子様」
 あけびは今度はナイチンゲールとマイヤに突撃し、仁菜とリオンも手を取り合ってホールへと進み出る。それを見て仙寿と久朗と央が、それぞれに軽く笑みを漏らした。
 夜の海は暗い。けれどそこに浮かぶ船の上はにぎやかで、空に輝く星のいくつかを一つ所に集めたようだ。奏でられる曲に合わせて彼らは踊る。今この時を楽しむ。明日の戦いに臨むために。
 そして今この時を、確かな未来とするために。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【日暮仙寿(aa4519)/外見性別:男性/外見年齢:18/能力者】
【不知火あけび(aa4519hero001)/外見性別:女性/外見年齢:19/英雄】
【藤咲 仁菜(aa3237)/外見性別:女性/外見年齢:14/能力者】
【リオン クロフォード(aa3237hero001)/外見性別:男性/外見年齢:14/英雄】
【迫間 央(aa1445)/外見性別:男性/外見年齢:25/能力者】
【マイヤ サーア(aa1445hero001)/外見性別:女性/外見年齢:26/英雄】
【ナイチンゲール(aa4840)/外見性別:女性/外見年齢:20/能力者】
【墓場鳥(aa4840hero001)/外見性別:女性/外見年齢:20/英雄】
【真壁 久朗(aa0032)/外見性別:男性/外見年齢:24/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。パーティの華やかで楽しい雰囲気をお届けするべく、頑張らせて頂きました。
 口調、雰囲気など齟齬がありました場合は、お手数ですがご連絡の程よろしくお願い致します。
 この度はご注文下さり誠にありがとうございました。ハッピーハロウィン!
イベントノベル(パーティ) -
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年10月12日

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