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『奇跡の石』
月乃宮 恋音jb1221


 2019年、晩夏。
 月乃宮 恋音(jb1221)のもとに、一通のメールが届いた。
「……あ……門木先生……」
 差出人を見ただけで、何の要件かは見当が付く。
 今年の春先に調査を依頼しておいた、あの「石」のことだろう。

 その石は、恋音と仲間達が異界のとある島から持ち帰ったものだ。
 この世界の「乳島」に対応するらしい、言わば「裏乳島」とも言うべきその島は、今では正式に「乳姫の宮島(ちきのみやじま)」と名付けられている。
 冬から春にかけて探検と調査を繰り返すこと数度、その中で発見された不思議なもののひとつが、その石だった。

「何だ、これは?」
 その石を見た門木章治((jz0029)の、それが第一声だった。
 素人目に見ても、明らかに「この世界」のものではない材質のそれが何処から来たものか、それを伏せたままで調査を依頼することは出来ない。
 不可能ではないにしても、伏せることで解明が遅れる等の不都合が生じることは明らかだった。
「……それは、ですねぇ……」
 だから恋音は、その石の来歴を話して聞かせた。
 話せることだけを、必要最低限に少しだけ色を付けた程度に。
「……というわけなのですぅ……」
 ピンポン球ほどの大きさの不思議な光沢を持つ石を、手の上で転がしたり光にかざしてみたりと弄りながら話を聞いていた門木は、完全に納得がいったわけではないし、まだ隠していることがありそうだとは思うものの、とりあえず追求はしないことに決めたようだ。
「それで、こいつの扱いは? 調べるためには色々と手を加える必要があるが……」
「……はい、サンプルは他にもたくさんありますのでぇ……」
 砕くなり磨り潰すなり、削るなり溶かすなり、何でもお好きなように。
 気の済むまで調べ尽くしてほしいと、恋音は言った。
「……それで足りなければ、またお持ちしますのでぇ……」
「発見された、その現場を調べるわけには……いかないんだろうな」
「……はい、それは……申し訳ありませんがぁ……」
 必要なら水でも空気でも土壌のサンプルでも何でも採って来るが、現地に足を踏み入れるのはご遠慮いただきたいところ。
 それに、実はあの世界に男性を送り込んだことは一度もないのだ。
 無事に帰れる保証はないし、もしかしたら強制女体化などというハプニングも……?
「わかった。まあ、出来る範囲で調べてみるさ」
 恋音の表情から何かを察した門木は素直に引き下がり、調査を約束した。

 そして今日、いよいよその正体が恋音に知らされることとなったのだ。
 随分と時間がかかったようだが、それも仕方がない。
 門木はもう科学室の設備を自由に使える立場ではないのだから。
 とは言え稼働日以外なら――つまり学校が休みの日には勝手に使い放題だった。
「鍵もまだ持ってるしな」
 そう言って、門木は科学室の扉を開けた。
 以前は実質年中無休だった久遠ヶ原学園も、今では休日には休日らしく生徒の姿が消える。
 しんと静まり返った部屋には、機械の低く微かな稼働音だけが満ちていた。
「お邪魔します!」
 恋音の後ろから、元気な女の子が入って来る。
 彼女は中等部の生徒で、恋音が率いる事務代行業で働く職員でもある。
 今はまだ年齢的にも学業優先ではあるが、将来は役員として業務を支えるべく経験を積んでいる、幹部候補生のひとりでもある。
 電子工学や機械工学を得意とする天才少女にして、機械弄りを趣味とする彼女にとって、門木は同好の士――しかも非常にハイレベルな。
 その門木から何か学べることもあるだろうと、今回は記録係として同行させていたのだ。
 彼が在任中に作った機械類や、拾い集めた部品などのガラクタは、まだ準備室のどこかに置いてあるはずだ。
「見たかったら勝手に見ていいぞ」
 ついでに弄ってもいいと言われ、少女は目を輝かせる。
 が、まずは記録係としての任務を全うしなければと思い直した。
「さっさと片付けてしまいましょう! 趣味の話はそれからゆっくりと!」

 半分ほどに小さくなった例の石と、プリントアウトしたデータの山を机に置き、門木は説明を始めた。
 専門用語を交えたその話は難解で、まるで外国語のようにも聞こえたが――
「ざっくり結論を言うと、要するに祝福の石の上位互換ってとこだな」
 祝福の石とは、アイテム改造の成功率を上げ、ロスト率を下げる科学室の専用アイテムだ。
 ただし効果と信頼性はそれほどでもない。
「それに対して、この異界の石は成功率100%と変異率0%を両立させることも可能だ。安心と信頼の科学室を実現させてくれる、夢のようなアイテムだな」
 出来れば自分が現役の頃に手に入れたかったと思いつつ、門木はその石から作られた「奇跡の石」を二人の前に置いた。
「ただ、失敗や変異は錬成窯のご機嫌次第ってところもあるからな。窯の調子が悪ければ、いくらこれを使っても失敗は起こり得る」
 事故率が低ければ低いほど安定して作用し、理論上は事故率がゼロになれば変異率もゼロになる。
「……なるほどぉ……」
「万能ではないけれど、条件が合う時に使えば必ず成功するということですね!」
 恋音が石を手に取り、少女がその効用をノートに書き留める。
 電子工学が得意と言うからハイテクを駆使して記録するのかと思いきや、意外にもアナログだった。
「記録には確かにその方が便利ですけど、記憶するにはこの方法が一番なんですよ!」
 勉強にもなるしと、少女は鉛筆の尻で自分の頭をコツコツと叩いて見せた。
 ついでに、ナイフで鉛筆を削ると集中力も養われるらしい。
「で、この石はどうする?」
 仲間内だけで恩恵を受けられるように、門外不出とするのか。
 それとも学園や撃退庁などに提供し、皆が恩恵を受けられるようにするのか。
 無論、提供する場合はそれなりの代価を支払うし、安定した供給が可能なら優秀な財源ともなるはずだ。
 天魔との戦いは終わったが、強力な魔具や魔装の需要がなくなったわけではないのだから。
「……そうですねぇ……」
 暫し考え、恋音は言った。
「……まずは、この石が商品として信頼に足る安定した品質を持っているという、そのデータを集めることが必要になるでしょう……」
 それで信頼性が担保されれば、流通を視野に入れてもいいだろう。
「……その、データ集めのついでといいますか……次に錬成窯が安定期に入ったら、連絡をいただけないでしょうかぁ……」
 この石を入手した異界はまだわからないことが多いため、今後も継続した調査が必要だ。
 そのためにも皆の装備類は出来るだけ整えておきたいところだが、その強化とデータ収集が一緒に出来るなら一石二鳥ではないか。

 話は決まった。
「……また何か見付かりましたら、調査をお願いしに来るかもしれません……その時はまた、よろしくお願いしますねぇ……」
 深々と頭を下げ、恋音は科学室を辞そうとする。
「……あ……もし、何か探して欲しい品が有ったら仰ってください……できるだけ、お力になりますのでぇ……」
「そうだな、人の寿命を延ばす薬……とか」
 冗談とも本気ともつかない口調で呟いた言葉は、準備室からの派手な物音にかき消された。
 どうやら、ひとりで魔窟探検に出かけた少女が機械雪崩に巻き込まれたようだ。
「とりあえず必要なのは、物を片付ける才能かな」
 今度の声は、はっきりと聞こえた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1221/月乃宮 恋音/女性/外見年齢二十代前半/依頼主】
【jz0029/門木章治/男性/外見年齢36歳/元科学室の主】

【NPC/電子機械工学の天才少女/機械の海で遭難中】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エリュシオン
2018年10月15日

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