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『ありふれた毎日 』
亀山 淳紅ja2261)&RehniNamja5283

 目を覚ますと同時に片肘をついて半身で起きあがり、枕横のスマホを手に取ると、目覚まし用のアラームが鳴る一瞬前に解除する亀山 淳紅。

 止めてから今日のスケジュールを頭に思い浮かべたが――

(今日は久しぶりの一日オフやん……)

 習慣は恐ろしいと思いつつ、スマホを枕横に戻して再び枕に頭を乗せる。

(もう少し寝よか)

 ゴロリと横を向き、固まってしまう。

 淳紅のまさしく目と鼻の先、寝息のかかる距離に亀山・N・レフニーの寝顔があった。

 結婚し、こうやって毎朝、目を覚ませば隣にいるのが普通だと言えるくらいの年数は経っている。だがそれでも、淳紅は不意をつかれて固まっていた。

(ここしばらく、ホテルばっかやったもんな。こうしてうちで寝るのなんて、いつぶりやろ……)

 ようやく硬直が解けて1、2と指折り数えていたが、だんだん、数え方が適当になり、そのうち数えるのすら止めてしまった。10日やらそこらではなく、もう、はっきりとわからない。とにかく久しぶりだった。

 そして改めてレフニーの寝顔を眺めると、淳紅がふにゃっと顔を崩す。

 レフニーは淳紅の方を向いてまるまっていて、前髪の隙間からおでこが見えていた。身を乗り出してつい、そのおでこに軽いキスをする。

 パチッと、レフニーの目が開いた。

 レフニーと目を合わせて、淳紅は「おはようさん」と微笑みかける――と、レフニーは目を閉じてしまった。

 二度寝するのかと油断した淳紅が「あひゃっ」と悲鳴を上げ、毛布の下でわき腹を押さえる。目を閉じたままクスクス笑うレフニーが今度は、「にゃんっ」と目を開けて仰け反る番だった。

「まだ終わらんで!」

 レフニーの脇を、生き物のように蠢く指が縦横無尽に動き回る。レフニーは笑いながら身をよじり後ろへ逃れようとするが、前に攻める淳紅が逃さない。上のガードを固めれば下を狙い、下を固めれば上を狙いと、巧みに攻める淳紅。

 だが、攻めすぎたのか。

「死なば諸共です!」

 逃げを諦め、一転して攻勢に打って出るレフニー。腕をたたんでガードを固めつつ淳紅の脇を指先でつっつく。淳紅が脇を締めればその隙間へ指をねじり込んで、攻め続ける。

 それまで優勢だった淳紅だが、甘い防御を攻められた途端に攻撃も甘くなり、さすがのアストラルヴァンガード、レフニーの強固な絶壁、いや鉄壁の前には為す術もない。

 攻めは強いが守りも耐久も低い。今度は淳紅が後退する番だった。

 しかしすぐにベッドの端へと追い詰められ、逃げ場を失う。退く事もできず、攻める事もままならない淳紅はもはや一方的にやられる側である。そしてレフニーの指がクリティカルを出したのか、淳紅の身体に電気が走ったかのような耐えがたい衝撃が突き抜け、反射的に身体をくの字に曲げた。

 その瞬間、ごつんと鈍い音。淳紅とレフニーの目に火花が飛んだ。

「あてっ」

「いったぁっ」

 おでこ同士が衝突していた。

 2人は痛いと言いつつも、おでこをくっつけたまま。目と目の距離も近い。楽しい雰囲気から一転し、2人の表情がすっと真剣なものへと変わる。

 顔の距離がさらに近づき、唇と唇が触れようとした瞬間、ぐぅぅぅと腹の叫び声が響く。

 ハッとする2人。どちらからともなく笑いがこぼれる。

「……ごはんにしましょうか」




 ミルクパンの中でふつふつと沸騰を始める牛乳。その隣で漬け込まれ、しっとりとした食パンがフライパンの中でバターの海の中でじゅうじゅうと焼け、ほんのり甘くて香ばしい香りを立てていた。レフニーがそれをひっくり返す。

 キッチンの隅っこでは蒸気を吹き出すコーヒーメーカーの前で膝立ちになった淳紅が、ガラスポッドに落ちていくコーヒーの滴を眺めていた。一滴一滴、落ちるたびに淳紅が「ポツン」と言ってくれるので、フライパンと向き合うレフニーでもコーヒーの進捗を知る事ができた。

 やがてあまり落ちなくなったあたりで淳紅はさっと動きだし、大きいマグカップ2つにコーヒーを分けて注ぎいれていく。だが分けてみると、コーヒーはマグカップの半分くらいまでしかない。

「1人前やったんやろか」

 そう言って、打ち合わせの時によくブラックで出されるので最近少しは慣れ始めたかと油断して、ブラックで一口。淳紅の顔が真顔というか、まさしく苦い笑いを浮かべて固まっていると、レフニーが笑っていた。

「カフォオレ用に濃くしてあるんですよ、ジュンちゃん。この温めたミルクを混ぜちゃってください」

 レフニーが砂糖を少量投下してスプーンで混ぜているミルクパンを、淳紅は頷きながら取りにいく。その時ふと、髪を揺らすレフニーを後ろからギュッと一度抱きしめてから、ミルクパンに手を伸ばす。

「どうしたんです、ジュンちゃん」

「ちょっとくっつきたかっただけや」

 照れくさそうにするレフニーへミルクパン片手に素っ気なくする淳紅だが、首や耳が赤いのをレフニーは見逃さない。

 焼けたフレンチトーストと、マイルドで適度な濃さになったカフェオレだけの朝食。2人だからこそ朝っぱらからこのテンションだが、立派な低血圧。淳紅は職業柄、朝に少し慣れてきたが、食べる時間が惜しくて食べなかったり、ゼリー飲料で済ませたりする事が多いので、朝はこのくらいで十分だった。

 フォークでフレンチトーストを刻み口の中に運び入れると、カリッとした食感の後、肉汁の様に甘みがじわっと溢れんばかりに滲み出てくるのが美味しく、それをカフェオレのわずかな苦みで流し込むと、すぐに次のひと口が欲しくなる。

 しばらく会話もなく、淳紅の「美味い美味い」だけがBGMとなっていたが、時間を見たレフニーがおもむろにテレビを付けた。

『いま、注目の新人アーティストは、こちら!』

 その謳い文句の後に響くのは、淳紅の歌声だった。

 自分の歌声に驚いてむせる淳紅がテレビに目を向けると、ついこの前撮り終えたばかりのプロモーションムービーの中で歌う自分の姿があった。

 色々と勉強しながら細々とインディーズで小さなライブ活動をして数年、ようやく大手レーベルの元でメジャーデビューが決まった期待の新人。その幼い顔もウリになると、デビューシングルにPVまでついてくる――そんな事が朝のニュース番組で取り上げられていた。

(センセのおかげも大きいんやけど、ようやっとここまできたなぁ……)

 しみじみとしている淳紅のスマホに、姉や妹に限らず、友人達からのテレビ見たという祝辞とPVへの茶化しがどんどん届く。

「ジュンちゃんもこれで有名人ですね」

 そう言って笑うレフニーの言葉の後、テレビは次の情報を流していた。

『そしてなんと、世界からも注目されているあのヴァイオリンソリスト、亀山・N・レフニーさんの旦那さんなんです』

 レフニーの演奏している姿までもがテレビに映し出される。

 現役の音大生でありながら、すでにプロのヴァイオリニストとして何度も公演している美女という扱いは、気持ち、淳紅よりも取り扱いが大きくも見えた。

(まあ、レフニーのおかげでもあるんよな……)

 歌を純粋に評価されたのではなく、きっと話題性があるからこうやってとりあげられたんだろうと邪推はしてしまう。だがきっかけはどうであれ、デビューできたのだ。あとはそんな邪推も自分の歌で吹き飛ばせばいいだけだと、フレンチトーストにフョークを突き立てて誓うのだった。




 朝ごはんの後また少し寝て、昼前に起きてからあとはずっと、2人してソファーに座り借りてきた映画を流す。

 淳紅が少し寝ている間にレフニーが用意していたざく切りのフライドポテトは大小も切り口も不揃いだが、店のものと違って練って成形したものではない分、詰まり方とホクホク具合が全然違う。むしろレストランのそれに近い、贅沢な一品。

 飲み物はもちろん、コーラ。

 それ以外だとどこからか怒りにきそうな友人を思い浮かべつつ、ゆっくりしていた。

 映画のジャンルは色々で、話題になっていたけど見ていなかった怪獣モノ、昔、2人で映画館へ見に行った恋愛感動モノ、それ以外にも種類はあったはずだった。

 だが夕方の淳紅は、それらのほとんどを覚えていなかった。

 最初、2人でソファーに座っていたが、淳紅は途中からレフニーに膝枕をしてもらって横になっていたら、いつの間にか眠っていたらしい。断片的に各映画の見所は覚えているが、流れている時にたまたま目を覚ましてまたすぐ眠ってしまっているので、実質、ほぼ見ていない。

 身を起こしてソファーに座り直し、横のレフニーへ頭を下げる。

「ごめんな、レフニー。せっかくの2人そろってなのに、映画もほとんど見ずに眠ってしまって」

「いいんですよ、ジュンちゃん。私はジュンちゃんと一緒に居られるだけで楽しいし、幸せなんですから」

(それにずっとジュンちゃんのかわいい寝顔も見てて、映画は私もよく見ていませんでしたし)

 言葉に怒りも感じられず、眠っている淳紅にあれこれしたレフニーがずっとニヤニヤしているので、顔をあげる淳紅。その顔には猫のヒゲとかニャーとか描かれているが、まだ知らない。

 明日もテレビの仕事があるので顔に落書きはNGのようなものだが、そこは時間さえ経てば消える、撃退士ならではの便利スキルがある。

「アウルって便利ですね、ジュンちゃん」

「うん? せやな?」

 何の事かわからない淳紅に、レフニーは笑いを押さえるのに必死だった。

 無事に落書きが消えたあたりで、共通の友人達への誘いもあって外へご飯を食べに行き、楽しく過ごした後に帰って来てみれば、もう間もなく日付が変わろうとしている。

 一緒にお風呂という時間もないので、1人ずつシャワーを浴びる事にした。

 レフニーが浴びている間に明日の打ち合わせなどを済ませ、猫柄のパジャマで出てきたレフニーの姿と香りにどきりとしつつ、平静を装って淳紅もシャワーへ。

 シャワーを浴びている間、ずっと背中に冷気を感じていて、風邪だろうかなどと思って早めに切り上げて振り向くと、脱衣への戸が少し開いていて、そこからレフニーがずっと覗いていた。

 火傷の痕も含め、いまさら見られる事に抵抗はないはずだが、こうして覗かれているとさすがに気恥ずかしくなって、「なんや」と聞いてしまう。

 レフニーはふっふっふと笑い、「ジュンちゃん、かわいいし、かっこいいです」と、淳紅にすれば首を傾げるしかない言葉が返ってくる。

「なんやそれ」

 照れ笑いを浮かべる淳紅へレフニーは深々と頷き、すすすと去っていった。

 淳紅もパジャマを着て寝室へと向かい、ベッドの上でヴァイオリンの気になる部分をおさらいしているレフニーの横へと潜りこむ。
そしてレフニーがヴァイオリンをわきに置いて、部屋の照明を切った。

 暗くなると、あれだけ眠ったにもかかわらず、淳紅はすぐに睡魔の訪れを感じていた。なんとかその睡魔に抗いつつ、横を向いてレフニーの手を取ると、おでこをくっつけ顔が見える距離まで近づく。

「愛してる、レフニー」

「私も愛していますよ、ジュンちゃん」

 いつも伝えたい言葉を口にして、重ねあわせる。

 僅かな時間の後、名残惜しそうに離れた。

「おやすみ」

「おやすみです」

 その言葉を最後に、2人は微睡んでいく。

 これが、これからも連綿と続く、2人のごくありふれた日常だった――……




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2261@WT09/亀山 淳紅/男/20代前半/童顔シンガーソングライター】
【ja5283@WT09/亀山・N・レフニー/女/20代前半/孤高の美女ヴァイオリニスト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたして申し訳ありません、楠原です。
おふたりだけだとどんな感じなのかもはや想像するしかありませんが、きっとこんな感じになるかなと書かせていただきました。
Eの依頼はこれで打ち止めですが、これからもまたよろしくお願いします。
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楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年10月15日

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