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『ドール X モデル X ホムンクルス 』
ラクス・コスミオン1963

 転生したらホムンクルスになっていた件について。

 こう書くと今時流行のライトノベルのタイトルみたいである。
 そういったものを好んで読む知人もいれば、蛇蝎の如く嫌う友人もいた。両極端な意見に触れるにつけ、なるほどこれが育った環境の違いで好き嫌いは否めない的なアレか、なんてことを思っていたものだ。
 ちなみに僕はどちらでもない。読書家というほどでもないが、本を読まないというわけでもない。たまに起こる論争を、フラットな立ち位置で眺めていた手合いだった。

「よかった、上手くいきました」
 だからだろうか。
 望む者にほどやってこないというか、中立だからこそ巻き込まれるというか、それとも単なる運の問題なのか。

「魂はうまく定着してくれたみたいですね。良かった……ええと、聞こえていますか?」
 目、耳、鼻、触覚、全て違和感なし。おそらくは味覚も。『生前』と同じように、身体の感覚に違和感は無い。
 だからこれが現実であることを把握は出来た。理解はまだ及んでいない。
 だって目の前にあるものが、積み重ねてきた常識から外れている。
「女性の肉体ですから、違和感があるかもしれませんが……出来そうなら反応してくれますか?」
 ぱっと見、美人の女性。
 背中から、でっかい鳥の翼。
 腰から下、ライオンとかあんな感じ。
 そんな存在が、僕の目の前に鎮座ましましていた。

 つまるところ、転生したらホムンクルスにされていた。ガチで。
 目の前のスフィンクスの手によって、見事な三次元美少女として蘇生したのであった。マジでか。



「ええ……」
 あ、声が出た。記憶している自分の声より、いくらかキーが高い。
「よかった。発声も問題ないみたいですね」
 そんな僕を見て、無邪気に喜ぶスフィンクス女史。腰から上は好みの部類だ。いい匂いがするし、たわわと実ったブドウを連想する。
「身体は追々慣らすとして……どうですか。変な感じとかしませんか?」
「まず、この状況が何なのか教えてください」
 思いの外、自分の肝が据わっていることに感心する。キャパを超えると却って冷静になれるものかもしれない。もちろん適当言った。
「あれ……。記憶が少し飛んでしまっていますか? ちゃんとお互い了承の上、素材にさせていただいたんですけど……」
「素材」
 素材。素材か。いわゆるひとつのマテリアル。
 そんな軽い調子で言われてもなあ。
「死亡したあなたの魂を、魔法人形の少女に定着させて蘇生する。そういう契約を持ちかけ、同意したはずですよ」
「そうなんですか」
 言われていることは理解できるし、何故か特に忌避感もなく受け入れていた。すとんと腑に落ちる、みたいな。奇妙なすっきり感があって、なんとも変な感じ。
「しかし、どうして女性の体なんです。僕は男ですよ?」
 世の中には地の文の一人称が僕な女性もいるだろうが、僕はそこまでひねくれた設定というわけではない。それなりに男性という自認はあった。
「はい。女性の体で、中身は男性という存在が欲しかったものですから……」
「なんて業が深い……」
 しまった。反射的に言ってしまった。
「え?」
 しかし首を傾げられるだけで終わった。どうやらサブカルチャーに精通はしていなかったようである。
「もとい、またなんでそんなものが入り用に……」
 僕が尋ねると、彼女は恥じ入るようにうつむいた。
「……その。私、男の人が苦手でして……」
 しかしいつまでもそれではいけないと一念発起。さりとていきなり男性にぶつかる勇気はない。なので折衷案として、まずは女性の体で中身は男性、という存在を作って慣らしていこうと考えたらしい。
 めっちゃ私的な都合だった。
「もちろん、魔術の研究というのが第一ですけど……」
 うーん、どうにもマッドサイエンティスト、この場合はマッドなメイガス?。
 そんなぽんぽん蘇生術とかやって(主に倫理的に)大丈夫なのかという心配はあったが、
「大丈夫です。エジプト系の魔術は、そもそもそういう流派ですから」
 左様ですか。

「でも、不思議です。あなたの魂の適応率、とても高いですね」
 なんでも、いくつか他の男性の魂で試したがうまく行かなかったらしい。肉体の性差がどれほど影響を与えるのか、専門家でない僕にはわかりようもない。
「お話もしやすいですし……何か心当たりはありますか?」
 さて、どうだろう。
 僕の特殊性。一般的な男性と違うであろう何か。女性の体に適応できる何か。
「うーん……。もしかしたらですが……」
 直近の記憶を探り、生前の記憶を思い出す。
 命を落とす直前までの記録。おそらくは僕が蘇生を望んだ理由であろうモチベーションの正体。

 その話をすると、「なるほど」とどうやら得心いったらしかった。



 画面の中で彼女が動く。それに合わせて僕は話す。
 おっさんの声がする美少女を見て、観客達は安堵と歓喜する。そして今日の放送も大成功だった。

 ポリゴンで出来た仮想アイドル。それを演じる僕。やるのは他愛もないゲームの話。
 趣味で始めたそんな活動が、何故か人気に繋がって、あっという間にネットアイドルへ。
 とても楽しかったけれど、少し自分の内面が女性に寄っているような、そんな錯覚を覚えていた。

 そして「男のくせに」と過激な団体にぶっ刺された。
 あまりに理不尽すぎて、もう一度の生を願ってもバチは当たらないだろう。そんな気分だった。

「ええと、生き返ってみたくありませんか?」
 渡りに船とは、こういうことだったのだろう。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1963/ラクス・コスミオン/女/240/スフィンクス】
東京怪談ノベル(シングル) -
むらさきぐりこ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月17日

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