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『嗚呼、我が青春よ 』
ギィネシアヌja5565

 今年の西暦がなんだったか。
 深く注意せねば、正月ぐらいにしか意識しなくなっていた。

 仕事を早々に終わらせたギィネシアヌ(ja5565)は、溜息と共にパンツスーツの脚を組み替える。
 タクシーの窓から見えるのは町の景色だ。流れていく風景、学生時代から何年か経ったけど、あの時と比べて別段未来的になったという訳でもない。車も空を飛んでいない。
 夕暮れ時の空の下、歩道を何とはなしに見ていれば、学校帰りなのだろうどこかの学校の生徒が歩いているのが目に留まった。時間にすれば放課後だ。であらば、遥かの母校、久遠ヶ原学園もまた、例に漏れず放課後時なのだろう。

 久遠ヶ原学園の放課後と言えば……
 部活、任務の作戦会議、授業中に居眠りをぶっかました生徒への居残り課題、他愛もない生徒同士の雑談、あるいはバイトへ急ぐ者の姿、それから……戦闘技術向上の為の修行とか。

(……懐かしいものだな)
 思い返せば、あれやこれやと心の中に蘇る。たくさんの友達、色んな先生、様々な任務……。
 そういえば……印象的な教師がいる。ピンクの髪に、あんまり高くはない身長。ガハハと笑う顔と声をよく覚えている。







「――であるからして、その対処法としては――」

 その日は割と土砂降り雨で、運動場が使えないから、戦闘実技の授業は教室での座学になった。
 棄棄がちょっと読みにくい字で、黒板にチョークでカツカツと文字を書いている。ギィネシアヌはそれをノートに写しながら――あーあ、晴れだったら良かったのに、と雨に濡れた窓をチラと見た。先生の実戦における体験談やノウハウはもちろん勉強になるけれど、やっぱり実技として体を動かす方が好きだ。
(う、それにしても……)
 眠い。ギィネシアヌは自分の眠気を吹き飛ばさんと気を引き締めるけれど、目蓋がとろんと落ちてくる。
 昨日は夜に任務があった。ベッドに入れたのは“今日”になってからで、つまるところ寝不足というやつなのだ。しかも今は五時間目。お昼ご飯の後とかいう、人生において最も眠い時間の一つである。
(くッ……駄目だ、寝ては駄目なのぜ……こういう時は羊を数え……いやッ、羊数えたら眠くなるんじゃ……!? くおお! 魔族であり蛇の眷属の末裔は眠気になど絶対に屈しない!)

 と、まあ。
 フラグを立てたせいで(?)ギィネシアヌは見事に寝落ちた。

「山田くぅん……」
 ギィネシアヌは、耳元でねっとりと囁かれる声で飛び起きた。気付けば授業は終わっていて、教室は退室を始めた生徒達で賑わっていて、そして目の前には先生がいた。ニッコリと菩薩のように微笑んだ先生が。
 やべえ。
「はぁわわわわわ! せ、センセ! いや! あの! これは! その!」
「放課後……校舎裏な……」
「はわーーー!!!」

 ヤベェことになるのは目に見えていた。
 そして予想は的中して、ヤベェことになった。
 具体的に言うと、雨の中の戦闘訓練。先生とのタイマン組手。しかも今回の座学授業内容をずっと言い聞かされ、そのことを質問され、三秒以内に正しく回答せねばブン投げられるという地獄絵図だった。それはもう密度の濃い地獄絵図だった。

「はい! 終わりです!」
 そしてギィネシアヌがもう立てなくなったぐらいに、ようやっと“居残り授業”は終わった。
「ありがどう……ございまじだ……」
 泥の中で大の字のギィネシアヌは、グッタリしたままそう答えた。もう指先一つ動かせない。仰向けで見上げる空は、いつのまにか雨が止んでいた。
「立てる?」
 言いながら、棄棄が手を伸ばす。生徒はその手を取って、フラフラしながら立ち上がった。全身泥まみれだった……。教師はガハハと笑って、その背をばすばすと叩く。
「頑張ったじゃねーか! えらいえらい! 次はもう居眠りすんなよ!」
「ふぁい……もう居眠りしまひぇん……」
「うんうん。それじゃ、シャワー浴びて着替えてといで。あ、この後ヒマ? ヒマなら学食に集合な。先生ちょっと小腹すいたからさ、なんか奢って差し上げよう」
「!! い、いいのかセンセッ!?」
「いいですとも! じゃあ駆け足!」
「はーい!」







 制服がビショビショになってしまったので、体操服に着替えて。
 駆け足――なれど廊下は走らず学食へ向かった。
「テラス席に行こう」と教師が言うので、それについて行く。
「ホラ見てみ」と彼が空を指差すので、指先を見上げると。

「あ。虹!」

 ギィネシアヌは目を丸くした。色鮮やかな七色が雨上がりの空にある。
 とはいえテンプレートで完全な形ではなく、半円の断片ではあるが。でも、虹は虹だ。そう言えば久々に見た気がする――きつねうどんの乗ったトレイを置いて席に座りながら、ギィネシアヌは虹を見詰めた。
「へへ。なんだかついてるのぜ」
 くしゃりと笑う。居残り授業でこそあるけれど、敬愛する教師と二人きりで念願の実技訓練ができた訳だし、ご飯まで奢って貰った訳だし、こうして虹も偶然に見れた訳だし。全身が早くも筋肉痛の悲鳴を上げているけし疲労感でクタクタだけれど、まあ、修行の成果と捉えよう。
「ギィネシアヌが今日も一日頑張ったからだな!」
 お天道様空のご褒美だ、と教師は微笑む。ギィネシアヌは魔族であり蛇の眷属の末裔(自称)だが、褒められるのはやっぱり嬉しい。はにかみながら、照れ隠しにきつねうどんを見下ろした。熱い湯気で顔が火照る。
「……それじゃあ、いただきます」
 嬉しさと照れ臭さの中で、ギィネシアヌは手を合わせた。教師も手を合わせ、学食のラーメンをズゾーと食べ始める。生徒はうどんをふうふうと冷ましながら、甘いお揚げと一緒にうどんに舌鼓を打つのだった。

 それから、依頼とか学園生活とか、他愛もない話をしつつ……。

「なあ、センセ」
 セルフサービスの氷水を一口、ふとギィネシアヌは教師を呼ぶ。
「……また今度、暇な時でいいからさ、放課後に稽古つけて貰っても良いか?」
 強くなりたい。それから、この人から色んなことを教えて貰いたい。
「んじゃ、次の授業は寝るなよー」
 即答気味に教師がズバリと言う。ウッ、ご尤もである。ギィネシアヌは「ハイ」と身を小さくした。棄棄は快活に笑って、言葉を続ける。
「依頼頑張るのも大事だけど、体に負担にならない程度にほどほどにな! 成長期なんだし、睡眠は夜にシッカリとれよー」
「了解だ!」







 思い返せば他愛もない日常風景だ。でも、いずれもがかけがえのないものだと思う。
 あの先生には厳しくも優しく、導いて貰った。いつだって彼は“センセ”だった。
 彼を最後に見たのは、あの学校。今、彼はどこで何をしているんだろう?
 でも、きっと元気でやってるさ。だって俺のセンセなんだから。

 ――タクシーが停まる。流れていた風景と一緒に。
 目的地に着いたのだ。今日は久遠ヶ原学園の元生徒達による同窓会である。
「ありがとう」
 運転手に運賃を渡し、礼を述べて、ギィネシアヌはタクシーから降りる。
 ふとサイドミラーに映ったのは自分だ。“生徒”だった時より、うんと大人びた自分。
「……――」
 ギィネシアヌは薄く微笑み、踵を返した。



『了』




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ギィネシアヌ(ja5565)/女/14歳/インフィルトレイター
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エリュシオン
2018年10月18日

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