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『悪の遊戯 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&紫の花嫁・アリサ(8884)

「少し遊びましょうか」

 紅潮する肌はそのままに黒の貴婦人・アルテミシア(8883)はそう紫の花嫁・アリサ(8884)へ微笑みかけた。

「遊び……ですか?」

 不思議そうに小首を傾げるアリサの前に鏡と2本の蝋燭が置かれる。

 アリサが鏡を覗き込むとそこに見知った顔が映し出される。

「あら、知り合いかしら?」

 いつの間にか置かれていた美酒を勧めアルテミシアはクスリと微笑む。

「はい。信者の方です。食べ物を差し入れて下さったりよく……して……」

 そう言いながらアリサは勧められるままに足の高いワイングラスに口をつける。

 花のような香りが鼻を抜け、蜜のように甘い味が口に広がる。

 ふわふわとした心地のまま男をもう一度見る。

『違う。そう思わされていただけだわ』

「遊びといっても簡単なものよ。アリサに気に入ってもらえると良いのだけれど」

 そう言いながらふっと右の蝋燭を吹き消した。

「あら、ハズレね」

「ハズレ?」

「ええ」

 そう言って左の蝋燭を吹き消すと、鏡の中の男性が事故に遭うところが映し出される。

 幸い怪我はなかったが、相手が悪かったのか慰謝料という名目で彼は大金を失った。

「アタリの蝋燭を吹き消すと彼に不幸が訪れるのですか?」

 アリサが少し考えてから口を開く。

「ええ、でもそれだけじゃないわ」

 そういうのと同時に、彼が失った大金がそのままアルテミシアの前へ現れたではないか。

 大金にふっと蝋燭を吹き消したのと同じ様に息を吹きかける。

 そして、魔法でもかかった様に綺麗な宝飾品へ姿を変えた大金を身につけ、アルテミシアはにっこりと微笑む。

「こういうことよ」

 蝋燭に目を戻すとそこには再び灯が点っている。

「……楽しそうですね」

 少し思索してから微笑み返すアリサの瞳が暗く光ったのは灯のせいだろうか。

「よかったわ。じゃあどちらにする?」

「では、私は右を」

「じゃあ私は左ね」

 確認してから同時に吹き消す。

 するとアリサの前に彼の財が現れた。

「勝ちました」

 恐る恐るといった様子で、財に手を触れるアリサはそのままそれをすくい上げるとそっと息を吹きかける。

 すると財がかき消える様に消え、手の上には美しい腕輪が現れた。

 そっと腕を通しアリサは飾られた腕を眺める。

「もうひと勝負しない?」

「はい」

 もう迷いはなかった。

「あぁ、負けてしまいました」

 次はアルテミシアの勝ち。

 アルテミシアが財を豪奢なドレスに変え袖を通す様子を酒を楽しみながら見ていたアリサが声を上げる。

「もうひと勝負して下さい」

「ええ。喜んで」

  ***

 暗い遊びにはまるまで時間はかからなかった。

 勝てば歓喜の声をあげ、変えたドレスや宝飾品はその場で身につける。

 白に深い赤の薔薇が咲くウェディングドレスには小さな宝石をちりばめたヴェールを。富国の姫君の様なドレスには豪奢なティアラを。

 仮想を楽しむ様に財を変えては着飾り笑うその姿に聖職者の清廉さはない。

 真綿で首を絞めるように、生かさず殺さず男は大切なものをその手から失っていく。

 ゆっくりと不幸になっていく姿を滑稽な見世物でも見るように酒を楽しみながら楽しんでは手を叩く。

 鏡の中では男が苦悶の表情を浮かべながら神に救いを求める。

「神など何の役にも立たないのに……馬鹿な人」

 聖職者とは思えない言葉にもアリサはもう驚かなかった。

『神など信じるに値しない。そんなことにも気が付かないなんてなんて愚かなのでしょう』

 それが真理。

 少なくともアリサの中では目の前の黒髪の女性こそが信じ崇拝するにふさわしい存在であり、彼女に比べれば神さえも愚者にしか見えなくなっていた。

 必死にもがき苦しむその姿を見ているだけで黒い笑いがこみ上げてくる。

『もっと、もっと苦しめばいい』

 毒に染まったアリサの心には彼に対する憐憫すら浮かばない。

 侮蔑と嘲りの言葉を投げかけ心から楽しそうに笑う。

 そこに一切の罪悪感は見えない。

 羽を奪い、足を奪いもがく虫を眺めながら次はどうしてやろうかと考える子供のような残酷さがそこにはあった。

  ***

 アリサが楽しむ様子をアルテミシアは美酒とともに味わう。

 この酒にもアルテミシアの毒がたっぷりと含まれている。

 そのため、このゲームにのめりこむのは必定。
 だが、こんなにもあっという間に心を奪われるとまでは予想していなかった。

『相当鬱屈していたのね』

 アルテミシアは考える。

 幼いころから、いろいろなものを抑えつけていたのだろう。

「アリサ」

 その声に微笑む彼女の腰をアルテミシアはそっと抱き、その唇に自分の唇を重ね口移しで美酒を呑ませた。

 口中の酒がなくなっても終わらない口づけと触れ合う肌にアリサの表情がとろけていく。

 数センチ離れるのも惜しいと言わんばかりにアリサは唇を重ねていた。

 その間もゲームは続いていく。

 積みあがる財は次々と宝飾品へと姿を変え2人の女性を彩り男は不幸になっていく。

 それでも欲は収まらない。


「どんな風に不幸になるかは決められないのですか?」

 財も何もかも奪いもう死んだ方がマシなほど不幸になっただろう男を見ながらアリサがそう言った。

 次の『勝負』に目を輝かせるその様子はまるで子供の様だ。

「勿論出来るわ」

 アルテミシアは目を細め微笑んだ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 財を与え 】

【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見) / 財を纏い 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年10月18日

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