▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『蒼天 』
不知火藤忠jc2194)&不知火あけびjc1857


 一人でいることで得られる平穏がある。
 しかし、一人でいるが故に孤独を感じることがある

 出会いは何時だって平凡で、
 出逢いは何時だって非凡だ。

 蝶の羽ばたきがもたらすように、縁の繋がりを深くして――



「また、此処で会えるさ。そうだろう?」



**



 ――西鎌倉。

 何日か続いた雨の雫が、山肌に鮮やかな青みを湛えていた。皐月らしい爽やかな風が、木々の間を移ろう鳥のように吹き抜けていく。

 鎌倉の時代から建つ風格ある屋敷へとやって来た不知火家の三人は、立派な門構えをくぐり、飛び石を道形に行く。すると、門口の横で腕組みをして佇んでいた彼――

「おっ、足労さん。久しぶりだな」

 ダイナマ 伊藤(jz0126)が、ニッと白い歯を零しながら片手を振ってきた。

「壮健そうだな、ダイナマ。会えて嬉しいぞ。いや……今はアレクシスと呼んだ方がいいのか?」

 不知火家当主の補佐という重責を担う不知火藤忠(jc2194)が、相好を崩しながら頬を傾けた。「別に、好きに呼んでくれてえーのよ」と、ダイナマは軽やかに応えると、身体を斜めにして、藤忠の背中に隠れている“兎姫”を覗き見る。

「……なによ」

 無遠慮な眼差しに息を詰まらせたのか、彼女は渋々と睫毛を上げる。藤忠の妻であり、御子神家の血筋を引く、不知火(旧姓:御子神)凛月(jz0373)だ。

「おけーりさん」
「五月蠅い」
「お前の家だろーが。変な遠慮してんじゃねーよ」
「あんたは少し遠慮しなさいよ」

 何時もの調子を取り戻したのか、凛月は高飛車な構えで藤忠とダイナマの横を通り抜けると、敷居を跨いでいく。しれっとしたその態度に、

「変わらないな」「変わんねぇな」

 と、二人は声を合わせたのであった。















 ダイナマの案内で一同は表座敷に通された。
 たわいも無い話をぽつぽつと交わしながら廻遊式の庭園を眺めていると、不意に――

「よく来たね」

 と、気配も感じさせず、桜舞う花弁のように現れたのは、御子神の“隠桜”。
 彼が上座に座すると、

「不知火の当主を拝命致しました、不知火あけびです。当主就任にあたり、ご挨拶申し上げます」

 不知火家の長――不知火あけび(jc1857)は両手を前に重ねて、恭しく頭を下げた。不知火一族の当主として、礼節を欠くことは許されない。
 そんな彼女の感情面での繋がり、そして、絆の深い補佐役の藤忠が、指先を膝に添えて深々とお辞儀をした。

「まだまだ若輩者の当主だか、不知火も御子神と同様、武の一族。今後とも末永く、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げる」

 そんな夫の姿を横目遣いに見ていた凛月は、神妙な面差しで一息詰めると、彼に倣い、御子神の当主――嘗ての保護者である御子神 流架(jz0111)へ、慎み深く頭を下げる。

 流架は敬虔な表情のまま、

「此方こそ、よろしく頼む。御子神家四十四代目当主の責務に懸けて、良き模範となるよう努めよう」

 そう物言うと、丸味を帯びた声音が三人の神経を慰撫するように、

「さあ、堅苦しいやり取りは仕舞いにして、次は俺よりも“厳しい”方にご挨拶してきなさい」

 三人を仏間へと促した。















 仏壇には、橙の金盞花と金糸雀色の菊が供えられていた。

 蝋燭に火を灯し、その火で線香に火を灯す。
 お鈴で邪念を払い、不知火一同で手を合わせた。

 生前は当主不在の御子神家を統括する立場を担い、又、凛月の実の祖母であった、御子神 菊乃。
 心半ば命を落とした彼女は、訪れた現在(いま)を見て、何を思うのだろうか。

 そして、彼は――

「(……これは、俺の自惚れかもしれん。だが、聞いてくれ)」

 語るが如く、祈るが如く、心の中で告げた。

「(貴女の孫は、独りではない。これからも決して、独りにはさせない。俺が……そうはさせない)」

 菊乃の孫の、凛月の夫として。

「(俺の心を唯一、動かしたやつなんだ。一生を懸けて護る――そう、決意させてくれた……俺の、可愛らしくて我儘な、愛すべき月なんだ)」

 だから、どうか――

「(安心して欲しい。凛月は、きっと……幸せで在る。そう、貴女に誓おう)」

 静かに息を吸い込み、静かに息を吐く。

「(俺とあけび、俺の親友、あけびの親友、そして――凛月。五人で不知火を纏めていくつもりだ。御子神が流架と流架を信頼する者達で護られていくように。……貴女は唯、これからも凛月を見守っていてやって欲しい)」

 深く閉ざされていた藤忠の瞼が、潔く割れた。

 三人が物静かに手を下ろすと、折りを見たあけびが「私、流架さん達と話があるから、姫叔父と凛月さんはお散歩でもしてきたらどうかな?」と、勧めてくる。

「何だ、流架達を独り占めするつもりか? 意外だな、あいつが泣くぞ」
「Σちょっ、ちょっと! やめてよそういうの!」
「久々に学生時代の友人達に会いに来たんだ。俺にも積もる話があるのだがな」
「例えば?」
「そうだな……凛月と花見に行ったこと、旅行のことや、凛月の手料理のこと……ああ、そう言えば先日、凛月が俺に着物を見立ててくれたのだが――」
「藤忠。あなた、私と行くの? 行かないの?」
「行く」

 正に、凛月(つる)の一声。
 忍び笑うあけびや流架を尻目に、凛月は仏壇へ寄ると、

「……また後でね、お祖母様」

 そよ風のように囁いて、手で蝋燭の火を扇ぎ消した。




「――と、言う訳で、お久しぶりです!」

 形式的な挨拶と仏壇のお参りを終え、あけびの顔は当主のそれから、陽の色へと花開く。

「流架さんもダイナマ先生もお元気そうで何よりです!」
「おう。つーか、オレぁもう先生じゃねぇんだけどな。ま、懐かしいわね、その呼ばれ方も」
「ふふっ。そう言えばお二人って、現役の頃からのお付き合いなんですよね?」
「あー、そういやそうだな。かれこれ十年……そろそろ十五年くれぇか?」
「十五年……ふふっ、お二人は水魚之交ですね。血の繋がりがなくても、流架さんとダイナマ先生は家族なんだろうなぁ」
「あら、良いこと言うじゃねーの」
「えへへ。お二人は何時までもお似合いです!」
「あけび君。言い方」
「オレ達らぶらぶだってよ」
「舌抜くぞ」
「お前、鬼じゃなくて閻魔だったん?」

 笑い声(閻魔を除いて)の響く茶の間に、百千代が玉露と桜餅を運んできた。あけびが挨拶と礼を告げると、彼女の能面のような表情が僅かに緩む。茶の間を後にする百千代の背を見送りながら、あけびは屈託の無い声で双眸を細めた。

「立場が変わっても、皆全然変わってなくて安心しました」

 物事は様変わりしていく。
 季節が移り変わるように、世も、人も、環境が、心境が、そうさせる。

 だが、今は。紛れもない、この瞬間は――

「誰もが幸せを目指したからこその今、ですよね」

 掛け替えのない形だ。

「……ああ。揺るぎない繋がりが、俺や君達の未来を結んだのだと思うよ」
「はい! 私、不知火の当主としても、一人の友人としても、凛月さんを大事にしますから、これからもよろしくお願いします!」
「うむ。色々と世話をかける“妹”だが、仲良くしてあげておくれ」

 顎を引く流架の隣で、ダイナマが満足そうに顔を綻ばせた。

「勿論です! ――そうだ、流架さんと奥さんは相変わらずラブラブですか?」
「Σん?」

 突如、話が急カーブして、流架は素っ頓狂な声を上げた。

「この前、奥さんがメールで言ってましたよ。家族四人でお花見した後、流架さんがサプライズをしてくれたって」
「あー……」
「へえ? 粋なことやるじゃねぇか、ルカ。で、何やったんだ?」
「それはですねー」
「――あけび君の旦那さんは? 御壮健かい? 藤忠君と共に、君の補佐をされているんだよね」
「あ、はい! 今日は所用で来られなかったんですが、何時も支えてもらっています」
「ふふ、君の自慢の“守護天使”だね」
「Σえ、っと」

 あけびは面映ゆい気持ちのまま耳まで真っ赤にすると、目の前の桜餅を摘まんで口を塞いだ。

「んっ!? わあ、美味しい!」
「あ、それ、ルカの嫁の手作りだぜ」

 あけびは頬をもちもちさせたまま流架をニヤけ見ると、彼は珍しく目許を染め、あけびから視線を逃がしたのであった。




「(全く……あけびのやつ、気を遣う間柄でもないだろうに)」

 そう思いつつ、藤忠の口許は如何せん緩みっぱなしだ。仕方が無い。目の前には瑠璃唐草の海が広がり、空と海に溶け合う青の中を――

「藤忠? 何してるのよ、早くいらっしゃい」

 彼の愛して止まない月が揺蕩うのだから。

「ああ。今行く」

 思い出の場所で、二人の時間を過ごす。これ以上の贅沢があるだろうか。

「どうかした?」
「いや、お前に見惚れていただけだ」
「……馬鹿」

 ぷい、と、そっぽを向いた凛月の横顔が、桃染の瞳のようにほんのりと染まっていく。拗ねたその様が堪らなく可愛くて、藤忠の悪戯心がつい擽られる。

「そう言えば、此処でお前が抱き着いてきたんだったな」
「!?」

 案の定、凛月は目を見張りながら、藤忠を見た。

「ん? 俺が抱き締めた? さて、どうだったか」
「……」
「凛月?」
「……私に嫌われても後悔しないのなら、一生思い出さなくていいわ」

 そして、二度目のぷいっ。
 藤忠は申し訳ないと思いつつ、白い歯が零れてしまった。温くついた息に、親愛の情が籠もる。

 凛月の背後から逞しい腕が回り、彼女の腰を引き寄せ、強く抱き締めた。凛月の背中に、藤忠の体温と鼓動が伝わってくる。

「勿論、憶えているに決まっているだろう」

 耳朶に囁かれる愛の吐息に、凛月は自分の居場所を感じた。

「凛月」
「……ん」
「お前は御子神の血や運命を嫌っていたな」
「……ええ」
「だが、今はどうだ?」
「今……?」
「俺は……お前と出逢えたのはお前が“御子神凛月”で、俺が“不知火藤忠”だったからだと思う」
「……なにが言いたいのよ」

 凛月の拗ねるような呟きは、既に“答え”を知っている響きであった。

「お前は、今の自分を愛しているか?」
「……煩い。自分より、貴方を愛する方がいい――とでも言わせたいの?」
「全く……口が減らない姫だ。俺は、お前を愛しているぞ」
「……わかっているわ。流架様と再会して、自分と向き合い、貴方と出会った。流れる血と、与えられた命に、心から感謝しているわ」

 凛月は藤忠の腕に据えていた視線を、青の彼方へやる。

「凛月。あの時から俺の想いは変わらない。お前をずっと大事にするし、ずっと護る。だから一緒に笑っていよう、凛月」

 ――。

 嗚呼、本当に。
 瑠璃唐草の花言葉と、この温もりに、救われる。

「……そうね。私も、貴方が傍にいてくれればそれでいいと思っていたわ。……でも、これからは……私だけじゃ、なくて……」

 語尾を濁した凛月は、腰を抱いていた藤忠の片手を取り、帯の下部分――下腹部へ添えさせた。そして、彼の面を振り仰ぐと、問うてくる眼差しに――

「あのね、藤忠……私――」

 その時、後ろの方から賑やかな呼び声が聞こえた。あけび達が来たのだろう。

「そう言えばあけびのやつ、皆で写真を撮りたいと言っていたな。……、……凛月。その、お前――」
「いいの。また後で、ゆっくり話しましょう」

 凛月が晴れやかな微笑みを浮かべて、藤忠の手を引いた。





 大切な者達との時間が、清々しい青に反射する。
 瑠璃唐草の花畑で撮った今日という日の写真のように、また何時か、思い出を遡ろう。





「えへへ! 大丈夫、また会えるから!」

 この、青の下――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【jc2194 / 不知火藤忠 /男性 / 外見年齢:26歳 / 紅簪の藤朧】
【jc1857 / 不知火あけび / 女性 / 外見年齢:16歳 / 陽溜の暮姫】
【jz0111 / 御子神 流架 / 男性 / 外見年齢:26歳 / 青鳥の隠桜】
【jz0126 / ダイナマ 伊藤 / 男性 / 外見年齢:30歳 / 縁下の太陽】
【jz0373 / 御子神 凛月 / 女性 / 外見年齢:19歳 / 月兎の桃姫】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、ライターの愁水です。
当方が執筆するエリュシオン最後のノベル、お届け致します。

毎度ながら一つ一つのシーンを掘り下げすぎて何度も書き直しました。
最後ということで、何とも感慨深く……書き終わらせたくない気持ちもあり、しかしお待たせするわけにもいかず(
誠心誠意、心を尽くして仕上げさせて頂きました次第です。
当方の登録NPCも勢揃いさせて頂き、ありがとうございました。相変わらずの掛け合いですが、少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。流架のサプライズは残された秘密ということで( そして、凛月のサプライズは果たして――。

明ける日のサムライガール様も、朧の姫叔父様も、どうか、どうか、愛する者達と幸福でありますように。
大変お世話になりました。また何時の日かお会い出来ることを祈って、此度のご縁のお礼とさせて頂きます。
パーティノベル この商品を注文する
愁水 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年10月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら







Beast’s Night Online アーカイブ





©Crowd Gate Co.,Ltd All Rights Reserved.