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『Fake mind 』
藤咲 仁菜aa3237)&リオン クロフォードaa3237hero001

「な ん で ! これなのーっ!?」
 藤咲 仁菜、ロップイヤーを振り乱しての絶叫。
「戦闘依頼に行けないんだから、こういう俺たちでも行けるのに行くしかないよ」
 やわらかな薄茶の髪を左右へ振り振り、リオン クロフォードが彼女をなだめる。
 ちなみにここはH.O.P.E.東京海上支部の依頼斡旋窓口、その真ん前だ。
 当然、まわり中からエージェントに見られていたし、受付嬢役のオペレーターたる礼元堂深澪にも見られている。
 それでもリオンが指摘しないのは、自分が仁菜へまあまあ難題を押しつけていることを知っているからだし、もうひとつ、
「俺たちはあと3日以内に依頼受けなくちゃいけない約束だ」
 現実を突きつけなければならなかったから。
「それは……わかってる、けど」

 仁菜には契約がある。
 彼女を守るために瀕死の重傷を負い、今もなお意識を取り戻すことなく眠り続ける妹――彼女の命を繋ぐ莫大な医療費の肩代わりを条件に、エージェントとなって活躍すること。
『ですから、生きるも死ぬも戦場でお願いします』
 契約相手である万来不動産社長、アラン・ブロイズは穏やかな笑みを浮かべて言った。さらには仁菜が斃れた後の妹の処遇は、その時点での彼女の価値によると。
 仁菜は強くならなければならなかった。エージェントとして名を馳せ、その死を悼まれるまでに。
 アランの言葉がどれほど信用できるかは知れないが、今現在、彼は契約を正しく履行してくれている。だから。
『そろそろ環境にも慣れたころでしょうし、一週間以内にひとつ依頼をこなしていただけますか? いえ、難易度や種別は問いません。経験さえ積んでいただければね』
 彼の要求を断れるはずはないのだった。

「だって、だからって、ホラーって」
 縮み上がったロップイヤーを指先で引っぱり下ろし、なお抵抗する。
「戦闘がないから危険も(少)ないし、危険なことも(多分)ない。クリア条件だってわかってる。俺たちみたいな新人でも問題ない。だろ?」
 一部言葉を濁しつつ、リオンは言い聞かせた。
「ボクもリオくんに賛成かなぁ〜。エージェントって場数だからさぁ。まずは現場出てかないとだよぉ〜」
 のんびり口を挟む深澪。
 そういえば彼女はアランの契約主だ。仁菜たちの境遇も、もしかすれば知っているのかもしれない。
 リオンは「とりあえずよろしく!」、かろやかな笑顔で言って、仁菜の背を押した。
「押忍押忍、(仮)にしとくのぜぇ〜。明日中にどうするか決めてねぇ〜」
 手を振る深澪から充分に遠ざかったことを確かめ、リオンは表情を引き締める。
 深澪のスタンスが知れるまでは、こちらから与える情報は極力絞っておきたい。アランへ付け込ませる隙を与えないために。
 忘れ果てたはずの記憶がささやくのだ。損ないたくなければ誰も信じるな――
「ホラーはやめようって言ったじゃない! 苦手だって言ったでしょ!? テーブルトークRPGって冒険とか、そういう感じだって聞いてたのに……なんでリアルホラー映画みたいなとこ!?」
 キーキーならぬシーシーと、無声音で言い募る仁菜。
 苦手だって、どこかで言ったっけ? 思いながらもリオンは「じゃ、やめる?」。
「行く――予定」
 仁菜は目の端に涙を浮かべながらも音にして言った。
「リオンが意地悪でそれ選んだんじゃないって、知ってるから」
 胸を突かれた。
 俺なんかのこと、そんなに信用していいのか? だって、会ったばっかりなんだぞ。もしかしたら俺だってニーナのこと騙して、なにか奪ってやろうって思ってるかもしれないのに。
 と、リオンの喉元へ苦い笑みがこみ上げる。
 なんにも持ってないニーナから、これ以上なにを奪えるっていうんだよ。
 それに、俺だって同じじゃないか。なんにも持ってない俺からニーナが奪えるものなんてないんだ。
 そうか。俺もニーナも、そうなんだ。
 ふたりともなにも持ってないから、騙せないし奪えない。ライヴスっていうよくわかんない力で結びついてるだけの縁を頼りにして、信じ合うしかない。
 そう思うと、不思議なほど腑に落ちた。
 この縁だけは裏切れない。
 この絆だけは裏切らない。
 なにもない俺たちは、これ以上損なわないために支え合っていくんだ。
 ああ。これって多分、いい関係じゃないんだよな。
 でも。今はこれでいいよ。二人三脚の最初の一歩なんて、不格好に決まってる。
 それでも進むほうが先だ。進んだ後のことは、そのとき決めればいい。

 エントランスへ至るころには、仁菜の気持ちもある程度落ち着いていた。
 言葉にしたとおり、リオンが意地悪でホラーな依頼を選んだわけじゃないことはわかっている。深澪が言った「エージェントは場数」も納得できるし。
 そう、現場へ出なくてはいけないのだ。報酬金を得てより強い装備を整え、マナを得てリオンに力をつけてもらって……そこを軽んじれば戦いに散る。妹が目覚めるまでその命を繋ぐという目的を果たせぬままに。
 正直、そうしてしまいたいと思ってもしまう。
 なにもかも放り出して、楽になりたい。
 きっと両親は怒らないだろう。仁菜にばかり辛いことを押しつけてごめん。そう言ってくれる。すぐに追いかけてくるだろう妹も、きっと笑って――
 だから私も笑うの?
『俺はあきらめないから。逃げないから。いつかニーナがニーナでいられるようになるまで、ここにいるから』
 そう言ってくれたリオンを突き飛ばして、私だけあきらめて逃げて、笑えるの?
 笑えるわけ、ないよ。
 仁菜は自分の骨張った手を見下ろした。あの日からずいぶんと痩せてしまった。食べることが……自分が少しでも楽しんでしまうことが赦せなくて。
 それでも生きてここに在るのはリオンがいてくれて、不器用ながらあたたかな手で支えてくれたから。もっとも料理だけは、少しどころじゃないくらい、アレだったけれども。
 甘えてばっかりだね、私。
 息を大きく吸い込んで、「あーっ!」、大きな声といっしょに吐き出した。
 私はお姉ちゃんだから、逃げない。
 私はニーナだから、あきらめない。
「リオン、遊園地行こ!」
「え!?」


 というわけで。
 メガフロートの一角にある遊園地、そのお化け屋敷に仁菜とリオンはいた。
「あああああああ」
 がっくんがっくんリオンの背中を揺さぶりながら、仁菜は高い声を上げる。
 当然のごとくリオンは思う。だから言ったのに。
 いや、本当は言っていないのだが、仁菜だって「ホラーが苦手」だということをはっきり言っていなかったのだからお相子だ。まあ、仁菜の場合は口にすることすら怖ろしくて言えなかっただけだろうけど。
 それでも仁菜はここへ来た。
 目を逸らさないために。耳を塞がないために。足を踏み出すために。
 ニーナがんばってるよな。うん、がんばってる。
 などと思うからこそ、リオンもおとなしく揺さぶられているわけだ。
「ぁぁぁぁぁぁ」
 横合いから飛び出してきた悪霊におののく仁菜だが、声のボリュームが上がらない。あれだけ叫んでいれば声だって枯れ果てようというもの。
 一方のリオンは、自分でも引くくらいに平静だった。
 死人も化物もそれだけのものだから。俺が怖いのは生きてる人間だ。どんな手を使ってでも誰かを陥れたがる、大人だ。
 アランの笑顔を思い浮かべて、かき消した。
 守るんだ。なにも守り抜けなかった俺が、今度こそ、ニーナを。
「――――――」
 ついに音すら出せなくなった仁菜の手を握り、リオンは踏み出した。
「ニーナには俺がいるから!」
 今は狡い大人にぜんぜんかなわないけど、このままじゃ終わんない!

 遊園地内のファンシーなフードコートの片隅。
 仁菜は兎よろしくチュロスを前歯で少しずつかじりとっていく。
 甘い。おいしい。その甘さが、おいしさが、すごく気持ち悪い。でも食べる。噛み締めて、飲み下す。
 この痩せ細った体を急かす力が必要だから。
 もっと食べて飲んで、ほんの少しでも早く、ほんの少しでも強くなるために。
「ニーナ、オレンジジュースでよかった?」
 リオンが買ってきてくれたのは、安っぽい紙コップに満たされたオレンジジュースだ。
 果汁100パーセントを謳いながらその実、濃縮還元という“魔法”で精製されたまがい物。今の私といっしょだね。リオンっていう“魔法”のおかげでエージェントになれた、ほんとはそうなれる資格なんてないはずの私と。
「うん、ありがと」
 精いっぱい顔を笑ませて、コップを手に取った。
 だめだ。だめだだめだだめだ。決心したはずなのにまた揺れている。
 心を据えなければ。
 たとえまがい物でもオレンジジュースはオレンジジュースで、エージェントはエージェントなのだから。
 仁菜は思いっきりコップを呷って、当然のごとくにむせた。
「ニーナ! なにしてんだよもーっ!」
 すぐにリオンが助けてくれる。
 リオンは仁菜を守るんだと、それだけを考えてくれているから。
 仁菜の無茶は、結局のところ演技だ。リオンの思いがわかっているから、やらかしてみせただけのこと。
 ほんとに私、甘えてばっかりだ。
 わかっている。わかっているのに、でも。
 その手があたたかくて、うれしくて――拒むことなんて、できなくて。
 このままじゃだめなんだよね。
 気づきかけた思いを、胸の隅へと蹴り込んだ。


「うっ、く。ひ、うぅっ」
 4DXの大画面から迫り来るゾンビの顔にすくみ上がりながら、なんとか声を殺す仁菜。
 廃墟の埃を演出する薄煙を扇ぎながら、リオンは仁菜の奮闘をやれやれと見守っていた。
「手、握ってようか?」
 定期的に声かけするのはせめてもの気づかいというやつだが、仁菜はその都度かぶりを振って。
「ダイジョウブ」
 うん、ぜんぜん大丈夫じゃないな。言葉とは裏腹、しっかりと彼の服の袖を握り締めた仁菜の手を見下ろして、息をついた。
 言葉にしなかったのは、それでも仁菜が挑んでいるからだ。
 このままじゃいけないんだと、きっとそう思って――
 唐突にヘッドセットをむしり外した仁菜がリオンをにらみつけた。
「なんで私がやだって言ってるのにやなもの見なくちゃいけないの!?」
「え? いや、その、ニーナががんばるって決めたとか、そういう」
「なんであの愚神、ホラーなドロップゾーンばっかり作るの!? イジワルなの!?」
「いや、まあ、敵だし? 優しくはないだ」
「ゾンビ映画だってゾンビがこんなに怖いのおかしいでしょ!? イジワルなの!?」
「って、怖くなきゃホラーじゃな」
「もうやだ! かわいいの見る!」
「ちょ、ニーナ!?」
 このときのリオンはまだ思い至らない。
 あんなに物わかりがよくて自分に強いてしまう仁菜が、こんな理不尽な我儘を言ってしまえる相手が彼だけなのだと。そして。
 自分が、ある意味で仁菜にそうあることを強いているのだと。


「ううー! うー!」
 言葉ならぬ唸りで抵抗する仁菜の襟首を引っつかみ、リオンは依頼斡旋所の窓口を目ざす。
 ちなみに仁菜が唸っているのは、さすがに往来で依頼に行きたくないとかネガティブなことは叫べなかったからだ。良識をベースにしての抗議行動なわけだが、それ自体が恥ずかしいことだという現実にまでは、残念ながら目が行き届いていなかった。
 ともあれ、それを知りながらなにも言わずに引きずり続けるリオンは、輝く笑顔を窓口担当の深澪へと向けた。
「おはよう礼元堂さん! 昨日の依頼だけど確定で!」
 それを聞いた仁菜はびくぅっ!
「ガチで? 相方それどこじゃねぇ〜みてぇだけど?」
「大丈夫だって昨日言ってたし! 特訓もしてきたから! そうだよな、ニーナ?」
「うう」
 ロップイヤーがしんなりうなだれた後、数秒遅れて頭が前へかくり。
「今のはリオくんの言うとおりでぇ〜すってことでオゲ?」
「昨日の私は特訓しましたけど今日の私は特訓してないですのでぜんぜん大丈夫ですとか言えなくてほんとにごめんなさいでも」
「大丈夫大丈夫! どんなに駄々こねたって受けた依頼はきっちりこなす子だから!」
 深澪は延々となにかを垂れ流し続ける仁菜と、迷いなく言い切るリオンとを見比べて……参加手続きを実行した。エージェントにはいろいろあるもので、それをいちいち気にしていたらH.O.P.E.は成り立たないんである。
 ホント、依頼は地獄だぜぇ〜。

 かくてふたりはドロップゾーンへと挑む。
『リオン、大丈夫? 怖くない?』
 少女は震えながら問い。
「大丈夫、ニーナを怖い目になんか合わせない」
 少年は力強く応えた。
 互いに“相手にとってかくあるべき自分”を演じていることに気づかぬまま、今はただ先を目ざして。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【藤咲 仁菜(aa3237) / 女性 / 14歳 / 我ら闇濃き刻を越え】
【リオン クロフォード(aa3237hero001) / 男性 / 14歳 / 未明の夜に歩み止めず】
【礼元堂深澪(az0016) / 女性 / 15歳 / この頃はただのボクっ娘でしたのぜ】
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2018年10月18日

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