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『女の子達の時間 』
エステル・ソルka3983)&鬼塚 小毬ka5959)&雲雀ka6084

「ここが私の家です。むさ苦しいところで恐縮ですが……」
 恐縮しながら言う三条 真美に、目を輝かせるエステル・ソルと金鹿、雲雀。
 今日は待ちに待ったお泊り会。
 お友達の招待を受けて、詩天の首都、若峰にやってきた3人。
 来て早々、彼女達はその『お友達のおうち』のスケールが半端なく大きい事実を思い知ることとなった。
 ――その、肝心のお友達は九代目詩天。いわばこの国の王様である。
 彼女はそのほぼ中央にある黒狗城と呼ばれる場所に住んでいて……ある程度広いことは覚悟していたし、どんな場所か見てみたかったのは事実だったし。
 息込んで進んでみたまでは良かったが、正門をくぐってからが長かった。
 くねくねと曲がりくねった道を下り続けて――本丸と呼ばれる場所に辿りつく頃には、エステルは肩で息をしていた。
「上から見たら近いと思ったのに沢山歩いたです……!」
「ここのお城って、門より本丸が低いくないですか?」
「普通のお城は本丸の方が高い位置にありますわよね」
 首を傾げる雲雀と金鹿。それに真美がこくりと頷く。
「はい。黒狗城は穴城と呼ばれる形状なんです。登城道を屈折させることによって、進軍を遅くして敵が防御しづらい横からの攻撃を仕掛けることができるんだそうです」
「へえ……! すごいです! 真美ちゃん物知りです!」
「考えて作られてるんですねー」
「武徳からの受け売りですけどね。詩天は歪虚だけでなく、人同士の争いもありましたから……」
 感心するエステルと雲雀。
 ――この城は、詩天の楽しい歴史も悲しい歴史も見続けて来たのだろう。
 そんな会話をしながら本丸の玄関をくぐる彼女達。
 ずらりと和服の女性たちが傅いているのに気が付いて、真美以外の全員が固まった。
「真美様、おかえりなさいませ」
「ようこそお越しくださいました」
「あ、あの! お、お邪魔しますです」
「えっと、お招き戴いてありがとうございます」
「これはこれはご丁寧に。お世話になりますわね」
 一瞬驚いたものの、きちんと挨拶を返すエステルと雲雀、金鹿。
 無意識にこういう動きが出るのは、礼節が身に染み渡っている証拠ともいえる。
 真美はというと、困り顔でため息をついていた。
「だから正門から入るのは嫌だったんですよ……。出迎えは要らないと言ったでしょう? 案内は私がしますから、皆下がってください」
「仰せのままに、真美様」
「その前に1つだけ……本当に客間じゃなくてよろしいのですか? 真美様の私室ではお狭いのでは……」
「構いません。それに客間にご案内して、庭に見張りなど立てられたらゆっくりできないでしょう?」
「それは……真美様の大事なお客様に何かあっては困りますから……」
「皆さん腕の立つハンターさんですから、大丈夫ですよ。とにかく見張りは不要ですから!」
 断言する真美に心配そうな顔をしつつも下がっていく女中達。
 ――立場のある者というのは、こういう場面でも不便を強いられるのだな……と3人は思う。


 そんなことがありながら、ようやく真美の私室に案内された3人。
 到着したのが割と遅い時間だったからか、部屋に荷物を置くとすぐに風呂を薦められ、風呂から上がったら食事が用意されていて――部屋に落ち着いたのはもう夜遅くなってからだった。
「真美ちゃんちのお風呂広かったです!」
「エステル、ちゃんと身体は洗いました? ほらほら、髪の毛がちゃんと拭けてないです」
「むー! ひばりちゃん、わたくしもう子供じゃないです!」
「分かってるですよー。ほら、髪の毛梳いてあげますから静かにしてください」
 ぷうっと頬を膨らませるエステルの髪を丁寧に拭いて、手慣れた手つきで櫛を通す雲雀。
 何だかんだでおとなしくしているエステルが愛らしくて目を細めた金鹿は、真美の私室に西方の小物が多く進んでいることに気が付く。
 真美の部屋の丁度品は渋い色のものが多いが、置かれた小物は淡い色が多く、女の子らしい雰囲気で……大分和洋折衷が進んでいた。
「真美さんのお部屋は随分西方の小物が多いですのね」
「はい! 西方に遊びに行った時に、つい買い込んでしまって……。皆さんからも色々お土産戴きましたし、全部飾ったら何だかまとまりのない部屋になってしまいました。でも、私はこの雰囲気大好きです」
「はい。とても真美ちゃんらしい良いお部屋ですわ。そういうことでしたら私も何か小物をお持ちすれば良かったですわね」
「いえ! とんでもない。あ、でも……実は、西方の魔導ライトのスタンドが欲しいんです。傘の部分がガラスになっていて、キレイなものがあると聞いて……」
「あら。それじゃあ今度一緒にお買い物に行きましょうか」
 微笑む金鹿に嬉しそうに頷く真美。エステル同様、彼女の髪が濡れていることに気付いて、金鹿は手にした手拭いで真美の髪を包みこむ。
「……金鹿さん?」
「髪の毛がまだしっとりされているから……ちょっとはお姉さんらしいことさせてくださいな」
 最初は気恥ずかしそうにしていたものの、にこにこしながら髪の毛を拭かれている真美。金鹿は自然と頬が緩む。
 ――ああ、私の妹達はどうしてこんなに可愛いんでしょう!
 もう、目に入れても痛くないというのはまさにこういうことを言うんですのね……!!
 ちょっとだけ、故郷のお兄様の気持ちが分かった気がしますわ……!
 一人静かに感動に打ち震える金鹿。それに気づく様子もなく、エステルはベビーブルーのネグリジェをひらめかせて布団に座る。
「……今日はもう遅いので、これから花火するのは皆さんにご迷惑ですね。明日の夕方は浴衣を着て、皆で花火をするです!」
「あらまあ。楽しそうですわね」
「夏と言えば花火ですよね」
 エステルの提案に嬉しそうに頷く金鹿と真美。雲雀だけがアワアワと慌てる。
「えっ。エステル。浴衣持ってきてって言ってましたっけ?」
「言ったですよー。ひばりちゃん、ドジっ子さんです?」
「ち、違いますけど……」
 口ごもる雲雀。
 そう。普段の彼女であればこんな失敗はしない。
 ――だけど。エステルや、お友達とのお泊り会が楽しみ過ぎて浮かれて忘れていたなんて、そんなこと言えるはずもない。
 真美はくすりと笑うと雲雀の手を取る。
「雲雀さんには私の浴衣をお貸ししますよ。亡き父があれもこれもと仕立てて寄越して、選んで戴けるくらい色々ありますから。明日一緒に選びましょう」
「本当ですか? ありがとうございます……!」
 思わぬ助け舟にぱあっと顔を明るくする雲雀。エステルがまじまじと見てかくりと首を傾げる。
「真美ちゃん、西方風のパジャマを着ているのは意外だったです」
「西方風の寝間着は機能的で素晴らしいです。何といってもお腹が出ませんし」
「……まーちゃん、もしかして寝相悪いですか……?」
 水色の水玉模様のパジャマ姿で胸を張る真美。雲雀のツッコミに、目が泳ぐ。
 反論しないところを見ると図星だったのだろう。金鹿はこほんと咳ばらいをすると誤魔化すように笑顔を作った。
「……何だかこんな風に皆さまでお泊りだなんてドキドキしますわね」
「はい。楽しいです。そういえば金鹿さんの寝間着もステキですね」
「そう言って戴けると嬉しいですわ。これ、今日のお泊り会の為に新調したんですのよ」
「わあ……! そうだったです? 夕焼けみたいな地色に黒い蝶柄はとってもお洒落ですー! ね、ひばりちゃん!」
「はい! ワンピースですし普段着にしてもいいくらいです!」
「ありがとうございます。そういえば、雲雀ちゃんはエステルちゃんとお揃いのネグリジェなんですのね」
「はいです! わたくしが青で、ひばりちゃんがピンクです!」
 わいわいとパジャマの話で盛り上がる4人。
 ふと枕を抱っこしていたエステルが思い出したように挙手をする。
「はーい! お泊り会といえば恋バナです! 皆で恋のお話するです!!」
 突然の彼女の宣誓に顔を見合わせる3人。エステルは気にする様子もなくいそいそと写真を差し出す。
「はい! この人がわたくしの特別に好きなひとです!」
 どれどれと写真を覗き込む真美と金鹿。
 その、お世辞にも目つきが良いとは言えない仏頂面で傷だらけの男に、暫し沈黙する。
「えっと……この背の高い男性、ですよね」
「その……エステルさんの趣味は随分渋くていらっしゃるのね」
「エステルより大分年上の人なので……」
 2人の微妙な反応を察してか、補足する雲雀。エステルはアワアワしつつ続ける。
「あ、あの。顔は怖いんですけど不器用でとっても優しい人なのです」
 いつも辺境の未来のことばかり考えていて、自分のことは後回しで……。
 過去に背負った一族の罪を全て自分で背負おうとして、笑うことを忘れてしまったひと。
 あの人自身の願いを思い出して欲しいし、心から笑って欲しい。
 そう願ってやまないのだけれど――。
「でもわたくし、子ども扱いされているのです。レディの魅力が足りないのです。どうしたら大人の女性に見られますかね」
「大人の女性って言うと、スタイルが良いとかですかね……?」
 雲雀の一言に思わず自分の身体を見下ろすエステル。少し女の子らしくなってきたものの、子供らしさの目立つ体形にため息を漏らす。
「確かにわたくし、凹凸が少ないです……。でも、胸の大きさで選ぶような男は蹴り飛ばせってお母さまは言ってました」
「ええ! 全くもってその通りですわ。私の妹たちはこんなに可愛いのに……外見で選ぶような男は殴り飛ばして差し上げましてよ?」
 ぽろりと本音を漏らす金鹿。こほんと咳ばらいをして誤魔化す。
「……ともあれ、私は、エステルさんは今のままで魅力的だと思いますわよ。殿方は無理して引き寄せるようなものでもございませんし……慌てず大人になれば宜しいかと思いますわ」
「うう。でも、あの人の周りステキな女の人沢山いるです。ゆっくり大人になってたら間に合わないかもです」
「まあ。それは困りましたわね……。身長もスタイルも適度な運動と食事がいいと聞きましたわよ」
「明日からお食事を見直しましょう! 私協力します!!」
「金鹿さん……! ひばりちゃんも協力ありがとうです……!」
 お友達の励ましに感動するエステル。ふと疑問に思っていたことを口にする。
「そう言えばひばりちゃんも真美ちゃんも金鹿さんも、好きな人はいるのですか?」
「「「えっ?」」」
 まさか自分達に振られるとは思わず慌てる3人。金鹿は少し考えて口を開く。
「そうですわね……。今はいないのですが、初恋の方ならおりますわよ」
「えっ。どなたです?」
「どんな人だったです?」
「どんな感じでした!?」
 食いついてくる3人に笑みを返す金鹿。少し遠い目をして続ける。
「符術のお師匠様ですの。兄の友人なのですけれけど、ステキな方なんですのよ」
 幼い金鹿に、優しく、時に厳しく指導してくれていたあの人。
 今にして思えば、年長に対する憧れを、恋だと勘違いしていたのかもしれない。
 兄以外の年長者に優しくして貰える、という特別感も手伝ったのだろうか。
 一緒にいたくて符術の勉強を口実にしてみたり、兄が邪魔者に思えたり――。
 ――実際、金鹿の淡い思いに気付いた心配性の兄が、こっそり邪魔をしていたというのは金鹿の預かり知らぬ話だし、また別の話になるのであるが。
「金鹿さんの好きな殿方ってどんな人なんです?」
「え? ええと……そうですわね。しいて言うならあまり立派ではない人でしょうか?」
 真美の問いに言葉を選ぶように話す金鹿。その返答に、雲雀はキョトンとする。
「えっ。立派な人の方が良くないですか?」
「誰の支えも必要としないような方ですと、私……何も出来なくてちょっぴり寂しい気が致しますわ」
「あー。分かるです! すごくよく分かるです! わたくしもそう思うです!」
 しきりに首を縦に振るエステル。金鹿は頬を染めて枕を抱きしめる。
「お、思った以上に気恥ずかしいですわね……。ほらほら、雲雀さんはいかがですの!?」
「えっ。私ですか? そういうのはない、ですね」
「ホントですー? 気になる人いるんじゃないですー?」
「ほ、本当ですよ!」
 金鹿とエステルに話を振られて慌てる雲雀。
 そうだ。私はまだ恋なんて――。
 ――って、何で今あいつの顔が頭を過るです!?
 あいつはただの幼馴染ですし、大体人たらしで、いーっつも女の子に声かけて歩いてるですし。
 ……何とも思ってないです。思ってないですったら!
 ――それに、『特別好き』な人が出来たら。
 エステルとはどうなってしまうんでしょう。
 彼女は親友ですし。大事な主です。ずっと一緒にいないといけません。
 ……こういう気持ちは、彼女に対して裏切りになるんじゃないですかね――。
「雲雀さん? 大丈夫ですか?」
「あっ。えっ。はい。大丈夫です。えっと、まーちゃんは好きな人いるんですか?」
 真美の声に我に返る雲雀。真美は首を傾げて考え込む。
「特別な好き、というのでしたら……やはり秋寿兄様になるんでしょうか」
 ぽつりと漏らす彼女。
 ――小さな頃から父に、将来は従兄である秋寿と結婚するように言われていた。
 出生の秘密を知っているのが彼だけであったし、立場的に考えてもそれが一番だと父は言っていた。
 真美自身もそれが自然なことだと思っていたし、特に疑問にも思わなかったし。
 将来秋寿兄さまのお嫁さんになる、というと、当の秋寿本人は酷く困った顔をしていたのを思い出す。
 大切な思い出だが、それはもう過去のこと。
 では、今は……?

 ――ボクと婚約してくれないかな。
 ――キミに本当に好きな人が出来るまで、隠れ蓑になれる。
 ――ボクは、真美さんを護る手札になりたい。……キミが、頷いてくれるならだけど。

 ふと思い出す、いつも自分を助けてくれる、大切なお友達の言葉。
 誰かを救うために一生懸命な人。あの人の求婚だって自分を救う為で、深い意味なんてない。
 ――そのはずなのに。……恋の話と言われて、何故あの人の顔が思い浮かんだのだろう?

「真美ちゃん、どうかしたです?」
「あっ。いえ。何でもないです」
 顔を覗き込んで来るエステルに笑みを返す真美。
 その様子を、金鹿はまじまじと見つめる。
 ――やはり真美さんはあの方を……。そう思っていらっしゃるのなら応援したい気もしますけれど……。
 でも! やっぱり! お姉ちゃんは許しませんよ!!
「金鹿さん、許さないって何をです?」
「あら? 私何か言いまして?」
「今思いっきり口に出てましたけど……」
 にっこりとほほ笑む金鹿。その有無を言わさぬ笑みに、雲雀は笑顔で凍り付き――。

 尽きぬ乙女たちのお話。
 笑ったり、驚いたり、悲しんだり怒ったり――色々な話や感情を共有して、夜は深まっていく。


 その後、女子トークから枕投げに発展し、上へ下への大騒ぎになって、すわ敵襲かと黒狗城の武士たちが集まってきて平謝りする結果になったのも良い思い出となった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ka3983/エステル・ソル/女/15/恋に夢中の少女
ka5959/金鹿/女/18/お姉ちゃんは許しませんよ
ka6084/雲雀/女/15/恋に気付きたくない少女

kz0198/三条 真美/女/10/恋に気付き始めた少女

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

お届けまでお時間頂戴してしまい、申し訳ありませんでした。
詩天でのパジャマパーティのお話、いかがでしたでしょうか。少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
割と自分の恋心に気付いてない子が多い中、お姉ちゃんの鉄壁ガードが光る感じで先行きが心配になりました。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
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2018年10月19日

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