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『春の苺祭り!』
和紗・S・ルフトハイトjb6970)&不知火あけびjc1857)&春都jb2291


 2019年、春。
 とある郊外の静かな駅前に、三人のうら若き女性たちが所在無げに佇んでいた。
「……盲点でした」
 ひっそりと静まり返ったゴーストタウンのような駅前広場に視線を漂わせながら、和紗・S・ルフトハイト(jb6970)が呟く。
「うん、まさかこれほど何もないところだったなんて……」
 半分笑いながら、春都(jb2291)がこくこくと頷いた。
「交通案内に、そんなこと一言も書いてありませんでしたよね!」
 不知火あけび(jc1857)が、詐欺だと言わんばかりに口を尖らせる。
 この日、久しぶりに会った三人は苺狩りを楽しもうと、この小さな駅で待ち合わせをしていたのだ。
 実際に合流したのは待ち合わせ場所の駅ではなく、二両しかない電車の中だったのだが――
 その時点で、いや目的の駅に停まる電車が一日に数本しかないとわかった時点で気付くべきだったのだ。
 苺農園の案内に書かれていた「路線バスで10分程度」というその路線バスが、朝夕の二本しかないという事実に。
「やはり車を出すべきでしたか」
 予定を話した時に、夫のリーゼ・ルフトハイト(jz0289)に言われていたのだ。
 しかし普段は子連れの移動に車が不可欠であるだけに、たまの女子会くらいは公共交通機関を使ってみたかった。
「田舎の交通事情、舐めてましたね」
 駅前には客待ちのタクシーもない。
 タクシー乗り場の看板はあるが、そこに書かれたタクシー会社の電話番号は風雨にさらされ掠れて読めなくなっていた。
 ここの利用客は自前で交通手段を用意するか、家族に迎えに来てもらうのが常なのだろう。
「まさかこれほど過疎化が進んでいるとは思いませんでした」
「仮にも観光地なんですよね、ここ」
 春都がロータリー出口のアーチに書かれた「ようこそ、苺狩りの里へ」という色褪せた文字を見やる。
 確か地元の自治体には、苺怪獣「いっちゴン」というゆるキャラもいたはずだ。
「全然やる気が感じられませんよね」
 まだ憤慨しているあけびが言う。
 スマートフォンで再度確認した農園のサイトには「無料送迎あり」の文字もあったが、利用できるのは5人以上から。
 他に自分達と同じように途方に暮れている客はいないかと探しても、猫の子一匹見当たらない。
「春休みといっても平日ですからね」
 そう言ったあけびが何かを決意したように拳を握った。
「こうなったら、私が分身の術で……!」
 いや無理だから、って言うかスキルは正しく使いましょう。
「じゃ、歩きましょうか!」
 沈みかけた気分を吹っ飛ばすように、春都が言った。
「バスで10分なら歩いてもそんな距離じゃなさそうだし、ここでカロリー消費しておけば……ね?」
「苺がお腹いっぱい食べられますね!」
 あけびが目を輝かせる。
 苺スキーの恋人に感化されたのか、あけびも今では立派な苺スキーだった。
「「和紗さんは大丈夫ですか?」」
 二人にハモられ、和紗は羽毛で頬をくすぐられたような笑みを浮かべた。
「俺はそんな年寄りに見えますか?」
「や、なんかほら、お母さんだし! 人生の先輩っぽいなって、つい!」
「そうそう、お店とかお子さんのお世話とかで疲れてるんじゃないかな、って!」
 春都とあけびの言葉に、和紗は笑いながら首を振る。
「リーゼも子育てには協力してくれますし、疲れてはいませんよ。今日は子供を抱っこしていない分、身体は軽いですし」
 むしろ少しくらいウォーキングで汗を流した方が心身の健康には良さそうだと、和紗は先に立って歩き出した。
「良い天気ですし、絶好の散歩日和ですね」
 鮮やかなターコイズブルーのスカートが、風にふわりとひるがえる。
 頭上には、それに負けないくらい鮮やかな青空が広がっていた。


 歩き始めていくらもしないうちに、道の両側から建物の影が消える。
 今が盛りのソメイヨシノの並木の向こうには、三階建ての白い校舎が見えた。
「滑り台とか登り棒があるから、きっと小学校ですね」
 春都が並木の間からグラウンドを覗き込むが、休み中とあって遊んでいる子供の姿はない。
「誰もいない学校って、ちょっと寂しいね」
「もうすぐ新学期になれば賑やかになりますよ、新入生も入って来ますしね!」
 あけびの言葉に頷いた春都は、若草色の森ガール系コーデを春風に揺らしながら、両手を空に突き上げるように伸びをする。
「新入生かぁ、私も去年はピカピカの一年生だったなー」
 春都は救急救命医を目指す医大生。
「今はどんなこと勉強してるんですか?」
「一年の時は高校の復習みたいな一般科目がメインで、あとは基礎医学が少しですね」
 その比率が二年生では逆転し、三年生からは医学関連がメインになる。
「なんだか目まぐるしくて、一年があっという間に過ぎた感じです」
「あ、それわかります! 私も経営学を勉強してるんですけど、新しいことばかりで頭がパンクしそうーって思ってるうちに一年過ぎちゃいました!」
「俺もそんな感じですね。出産も子育ても初めてのことばかりで……」
 三人三様、それぞれに夢中で駆け抜けた一年。
 その中で、今日という日は久々の骨休めであり、気心の知れた友人同士で集まる貴重な一日だ。
 今日だけは勉強からも子育てからも、どんな縛りからも解放されて、気楽なモラトリアムを楽しもう。
「春都さん、そのワンピース良い色ですね! 春らしくて素敵です!」
「あけびさんも可愛いですよ。藤色がとても似合ってますし」
「でも少し驚きました。いつも和装を見慣れていましたので」
 今日のあけびは淡い藤色のワンピース。高いウェスト位置と五分丈のパフスリーブが、柔らかく優しいラインを作り出していた。
「……何と言うか、今日のあけびはとても女の子に見えます。いえ、普段は女の子に見えないという意味ではなく」
「出がけに仙寿様にも言われました、いつも刀を振り回してるサムライガールとは思えないって」
 ひどいと思いませんか、と言いつつ、あけびは嬉しそうに頬を染めて笑っている。
 春の日差しを浴びて、左手の薬指に宿る想いが煌めいた。

 桜並木は学校の敷地を過ぎても、農業用水の細い流れに沿って続いている。
 道の両脇には広々とした畑が続き、タンポポやスミレの仲間、オオイヌノフグリの小さな青い花や、名前もわからない黄色やピンクの花が路肩を埋め尽くしていた。
「上も下もこんなに綺麗に咲いてるのに、誰も見てないなんて、ちょっと勿体ないなあ」
「俺達だけの貸切ですね」
 満開の枝に向かって手を伸ばすあけびに、和紗が応える。
「貸切……!」
「今度は弁当を持って、家族で来ても良いかもしれません」
 用水路には魚やザリガニもいそうだし、子供が少し大きくなったら水遊びも楽しめそうだ。
「あっ、無人の販売所もありますよ!」
 春都が指差した屋根付きの台の上には、野菜と一緒に猫が丸まっていた。
「あの子も売り物かな?」
 片目だけで三人をじろりと見た猫は、「んなわけあるかい」と言っているように見えた。


 花々を愛でつつ、あちらこちらと気ままに寄り道しつつ、三人はようやく目的の苺農園に辿り着いた。
 その名もストロベリーハウスという直球な農園は、赤とピンクの可愛らしい建物が目印だった。
 まだ新しいその建物にはショップやカフェなどの他に休憩所や足湯まで備えてあり、ちょっとした道の駅のような役割も果たしているようだ。
 入り口前の広い駐車場には、どこから集まったのかと思うほどの車が停まっていた。
 ここに来るまで殆ど車に出会わなかったが、駅とは反対方向にある幹線道路はそれなりの通行量があるようだ。
「やはりここは、車で来るべき場所だったのですね」
 和紗は学習した。
「でも散歩も楽しかったですよね!」
「うんうん」
 それはそれとして、苺狩りだ。
 歩いたおかげで良い具合にお腹も空いている、と言うよりもうペッコペコだ。
 今にも鳴り出しそうなお腹を宥めつつ、三人はエントランスをくぐる。
 受付を済ませて、いざ苺狩り60分一本勝負!

 建物から続く苺のハウスに足を踏み入れると、苺の甘酸っぱい香りと聞き覚えのあるクラシック音楽が三人を包んだ。
「モーツァルトですね」
 和紗が耳をそばだてる。
「和紗さんすごい! 私なんか、何となくクラシックっぽいなーっていう感じしかわかりませんよ! 雅楽ならバッチリですけどね!」
 あけびは旧家のお嬢様、その手の教育は万全だし、その気になれば琴の演奏だってお手の物だ――滅多にその気にはならないけれど。
「あ、ここに何か書いてありますよ」
 春都がポスターを指差す。
「クラシック音楽が人をリラックスさせるように、クラシックを聴かせた苺も甘く美味しくなります……だって」
「この音楽って、BGMじゃなくて苺に聞かせてるの!?」
「ひところ流行りましたね、そんな説が」
 その影響かどうかは不明だが、豊かに実った真っ赤な苺はどれも甘くて瑞々しかった。
 水耕栽培の棚から溢れるように実った苺は大きくて、ツヤツヤと光沢を放っている。
 口に含むとまずは甘酸っぱい香りが鼻に抜け、その後すぐに甘い果汁が口全体に広がった。
 暫くは三人とも「甘い」と「美味しい」以外の語彙を失った状態で、機械仕掛けのようにひたすら苺をついばんでいた。
 やがて胃袋が落ち着くと、苺そのものだけではなく「狩り」を楽しむ余裕が生まれたようだ。
「春都さん春都さん、はい、あーん?」
 満面の笑顔で春都に苺を差し出すあけび。
「んーっ、あっまーい♪」
 春都は身悶えしつつ、両手で頬を押さえる。
「はい、次は和紗さんにも! あーん!」
「おや、俺にもですか」
 微笑しつつ、和紗は素直に口を開けた。
 普段は食が細い彼女も、これなら多めに食べられそうだった。
「コンデンスミルクが不要なほど甘いですね」
「ほんとですよね! でも仙寿様が作る苺の方が百倍甘くて美味しいですけど!」
「はいはい、ご馳走さまです」
 あけびの盛大な惚気に、苺を差し出した春都が笑う。
「じゃあこれはいらないかな?」
「いります食べます!」
 ばくん!
「あけびさんが釣れたー♪」
 勢いよく食い付いたあけびの口元から垂れた苺の茎を、春都がくいくいと引っ張る。
 ハウスの中に、三人の元気な笑い声が響いた。
「それにしても、ここはずいぶん規模が大きいんですね」
「外にはあんなに車が停まってたのに、ハウスひとつ丸ごと貸切状態ですもんね」
「栽培面積は関東一だとか」
 喋りながら、三人はせっせと手と口を動かす。
 間もなく制限時間いっぱい――
「これが最後のひとつかな?」
 春都が手を伸ばした真っ赤な苺の影から、ひょっこり顔を出した虫さんがにょろりとコンニチハ。
「きゃあぁっ!?」
 不意打ちを食らった春都の悲鳴で、食べ放題は幕を閉じた。

「虫がいるのは無農薬の証拠ですね」
「それはそうですけど、いきなり出てくるのは反則ですよ」
 まだ飛び跳ねている心臓を宥めつつ、春都は和紗の声に答える。
 その直後、今度は別の意味で春都の心臓は跳ね上がった。
「あっ! 見てください、あれ! 顔ハメ看板ですよ!」
 指差した先には、観光地には必ずあると言ってもいい、顔の部分が丸く切り取られた看板。
 ここの看板は、苺怪獣「いっちゴン」の三兄弟……ピンクの怪獣が長男のいっちゴン、水色が次男のニゴン、黄色が三男のサンゴーンという設定らしい。
 ここには専属の撮影スタッフもいるようで、「撮りますよ」と言われれば、お言葉に甘えてカメラを預けるしかない。
 三人でハマって、写真をパチリ。
 ついでに「こちらもどうですか」などと勧められれば、苺の被り物だって被っちゃう。
 はい、キラーン!
「苺三人娘♪」
 なお撮影一回につき被り物のレンタル料500久遠でした。

 ショップなどを一通り見て回った後、三人はカフェの一角に腰を落ち着けた。
 苺食べ放題は堪能したが、スイーツはまた別腹だ。
 苺尽くしのケーキバイキングでそれぞれ好きなケーキを選んで、ポットのお茶と共にテーブルへ。
「俺は苺ムースとレアチーズのケーキにしてみました」
「私はこれ、苺のフルーツタルトです♪」
「どれも美味しそうで迷ったけど、私はこれです! シンプルな方が苺の美味しさがよくわかるかなって」
 あけびの前には苺のショートケーキ。
 そしてお土産用の化粧箱に入った苺が重箱のように積まれている。
「だって仙寿様の大好物だもん!」
 他にジャム用の苺も買ったし、帰ったらこれでお菓子を作りまくるのだ。
「苺のお菓子には最近ちょっと自信があるよ!」
 愛こそものの上手なれって言うし?

 ケーキをつつきながら、女子会は続く。
「この農園は良いですね、苺も美味しいですが設備がしっかりしているので」
「そうそう、授乳室やオムツ換えシートもありましたよね」
 今度は子供も連れて来ようかと言う和紗に、春都が答える。
「でも授乳室はもういらないかな?」
「そうですね、もう一歳になりますし。離乳食も最近は自分で食べたがるのですよね……こぼしますけど」
 母性溢れる微笑を浮かべ、和紗はスマホに保存した写真を二人に見せた。
「わあ、ずいぶん大きくなりましたね……! 前に抱っこさせてもらった時には、ほんとに赤ちゃんって感じだったのに」
 もうそろそろ、赤ん坊は卒業だろうか。
「伝え歩きは出来るので、もう少ししたら手を離して歩けそうです」
「顔つきもしっかりしてきましたよね。和紗さんの方に似てるかな?」
「ええ、瞳はリーゼ似ですが」
 まだお腹の中にいた頃から知っている春都にとって、その成長ぶりは感慨ひとしおだ。
「うーん、ちょっと孫を見守るおばあちゃんの気分?」
「そこはせめて叔母あたりで……」
 そんな二人の会話を聞いて、何故か頬を染めるあけび。
 何を考えているのか、それはしっかり顔に書いてあった。
「あけびさんも、もうすぐですよ」
「えっ!? いや、私はあの、別に、私も早く子供が欲しいなぁ、なんて、そんな……っ」
「あけび、だだ漏れです」
「……っ!!」
 頭から湯気を立てて、テーブルに突っ伏すあけびさん。
 まだまだ、そうした話題が恥ずかしいお年頃だった。
「俺のところは、この子が落ち着いたらまた欲しいと思って。リーゼに子供は賑やかなくらい欲しいと言われていますので……あけびのところは、どうですか」
「えっ、あのっ、私は……仙寿様が寂しくないように……」
 できるだけ、たくさん。
「では、いずれ……野球は無理としてもフットサルくらいなら、家族対抗で出来るかもしれませんね」
「家族対抗……それ良いかも!」
「楽しそう! いつか私も混ざれたら良いな!」

 苺の香りに包まれて、女子会は続く。
 駅に向かう最後のバスが出て行ったことに気付くものは、誰もいなかった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6970/和紗・S・ルフトハイト/女性/外見年齢21歳/いっちゴン】
【jb2291/春都/女性/外見年齢20歳/ニゴン】
【jc1857/不知火あけび/女性/外見年齢20歳/サンゴーン】


ゲスト
【jz0289/リーゼ・ルフトハイト】
【NPC/不知火 仙寿之介】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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2018年10月22日

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