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『戦場に舞う白い羽根 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001

●今回のあらすじ
 北米の冷涼とした険しい山脈に、一体の愚神が陣取った。それは次に己の下僕を召喚し、山脈を堅固な要塞へと造り変えて行く。このままでは付近の都市が大軍によって襲われてしまうだろう。
 ニューヨーク支部のエルヴィス・ランスローは、早急に対処すべくエージェントを招集した。砦を陥落させるに足る実力を持つエージェント達を。

●山に聳える黒の城
「見ろ、あの通りだ」
 天幕の外に立ち、オペレーターは彼方を指差す。日暮仙寿(aa4519)もその指先を視線で追った。万年雪が降り積もる山脈には、今や禍々しいライヴスが雲となって空に漂っている。堅牢な岩肌からせり出すように築かれた城壁と城門。その周囲は、槍をぶら下げた蜥蜴のような容貌の従魔達が囲っていた。
「城だな。これを数日で作り上げたなんて驚きだ」
『何だか映画のワンシーンみたい』
 不知火あけび(aa4519hero001)は息を呑む。最近ようやくクリアしたゲームでも、最後はこんな城を攻略したのを、ちらりとあけびは思い出した。
「個々の従魔の能力そのものは大した事がないんだが、ああして陣を構えられると厄介でな。倒しても倒しても、奥に隠れた本体が次々と下僕を召喚してしまうのだ。このままではキリがない」
「なら、本体を倒せばその増援を止ませられるんじゃないか?」
 天幕へと戻るオペレーターの傍らに付きながら、仙寿は尋ねた。眉根に深く皺を刻んだまま、彼は静かに頷いた。
「当然それについては考えている。だが、内部にも相当数の従魔がいる事は確認済みなんでな……考えも無しに突っ込めば損害を生むだけだ」
『それなら……そうだなあ。こんなふうにさ、表門に囮の部隊を置いて気を引いているうちに、誰かが本丸に忍び込んで暗殺、とか?』
 地形図に目を落としたあけびは、大きな青い駒を門の前に立たせ、小さな赤い駒をごっそりとその周囲に集めていく。単純明快にしていかにも有効そうな戦術だったが、それを聞くと仙寿はどうしても突っ込みたくなる。
「やり方が完全に忍者だな」
『サムライガールだってば! もう、最近わざと言ってるよね?』
「“忍び込んで”なんてさらりと言うからだ」
 お約束の恋人漫才。周囲の誰かが悔しさのあまり歯噛みしたが、当人達は至って真面目、やっかみ交じりの視線には気付かない。オペレーターは咳払いしつつ、駒をさらに動かした。
「まあ、此方としてもそんな作戦を提示するつもりでいた。囮組、潜入組共に少々危険の伴う作戦ではあるが、それをこなせるだけの実力を持ったエージェントがいるからな」
 彼は周囲を見渡す。
「潜入は誰が行く」
「俺達が行きましょう」
 真っ先に一人が手を挙げる。仙寿達は振り返り、その男を見つめた。普段は公務員を務めながらも、リンカーとしては最強のシャドウルーカー候補として数えられている男だ。
 仙寿は小さく彼に目配せし、オペレーターに向き直る。
「確かに、潜入役は彼が適任だと俺も思う」
 仙寿にとって、彼は好敵手の一人だ。適性も分属も丸被りだからだ。追いつけぬ背中に地団駄踏みそうになった時期もあったが、それも最早過去の事。今なお立ち入れぬ高みに彼はいるが、彼もまた仙寿の高みには踏み入れないのだ。
「俺達が囮役の先鋒を務めよう。敵陣中央で攪乱を試みるつもりだ。本丸に潜入して敵将の首を取るまでの時間は楽々と稼いでみせる」
『どーんと、任せといてくださいね!』
 それを聞いたオペレーターは、僅かに愁眉を開いた。
「ああ。そのポジションは君達こそが適任だと考えていた。宜しく頼む。他はヒグラシの援護射撃に回ってくれ」
「了解!」
 仙寿達と“彼ら”は互いに肩を並べ、一斉に天幕から駆け出した。

●絢爛たる白き侍
 仙寿とあけびは共鳴する。白地に金糸の刺繍を施した羽織を着込み、腰には白拵えの刀。吹き込む寒風に白く艶やかな後ろ髪を流して、幻影の羽根をはらりと舞わせる。悠々たる侍と化した仙寿は、静かに城に続く道へ踏み込んでいく。
《さて、我等の戦いをとくと御覧じよ、と言ったところか》
 刀の鯉口を切り、彼方の城壁へと眼を向ける。険しい城壁を好敵手が神速で駆け登っていた。彼の任務の成功は、仙寿達の腕前にかかっている。あけびは奮った。
『サムライの本領発揮だね!』
《そうだな。では行こうか、あけび》
 身を沈めると、力強く地面を踏み込み仙寿は駆け出す。幻翼を風に靡かせながら、単身城門へと突っ込んだ。
 真正面から攻めかかる一人のサムライに、城門を固める兵士達はすぐさま気が付いた。槍を掲げてそれらは叫び、首級を挙げんと押し寄せてきた。
《来るがいい。俺の刀の錆になりたければな》
 頭上から飛び込んでくる一匹の蜥蜴。突き出された槍を半身になって躱すと、刀を抜きざまその首筋を断つ。断末魔も無しに、うぞうぞもがいて蜥蜴は倒れた。
『仙寿様、左から三体来てるよ!』
《まずは肩慣らしといこうか》
 左袖の隙間に手を差し入れたかと思うと、仙寿は迫る従魔に向かってライヴスの網を擲った。宙で花開くように広がった網は、纏めて三体に覆い被さる。槍を振り回したり、腕を突き出したりしているが、網の目は硬く、容赦なく彼らの鱗を切り裂いた。
「――!」
 甲高い叫びと共に、右手から新手が剣を振り下ろす。刀の反りを使って器用に受け流すと、そのまま柄尻で従魔の横っ面をぶん殴り、どてっぱらに横蹴りを叩き込む。バランスを崩した従魔は背後の仲間を巻き込みながら倒れる。その隙に叩き込まれた銃弾が、彼らを容赦なく消し去った。
『仙寿様! 城壁の上!』
 咄嗟に仙寿は飛び退く。従魔達が小賢しく矢を放っている。迫る従魔を往なしつつ、仙寿は刀を納めた。
《ならばこうだ》
 幻想蝶から弓矢を取り出すと、素早く引いて射ち放つ。美しい放物線を描き、寸分の狂いなくその矢は従魔の眼に突き刺さった。武器を取り落として喚き、従魔は城壁の外へと落ちていく。
『ビューティフォー! 刀だけじゃなくて弓も出来てこそ侍だよね!』
《本当はもっと銃を使ってみたいんだがな。グレムリンとか、良く馴染んだんだが》
『だめですー。私が何だか気乗りしなくなっちゃうし』
 二人が余裕綽々とやり取りを交わしている間に、城門が鈍い音を立てて開く。槍を抱えた蜥蜴の軍団が、続々と押し寄せてきた。
『うっわぁー……まだまだいっぱいいるね』
《望むところだ》
 再び刀を抜き放った仙寿は、群れの中心に向かって一気に踏み込む。白い翼を一杯に広げる。その瞬間、荒れ野に無数の白い羽根が舞い散った。
 舞い散る羽根を見上げて、兵士達は呆然と立ち尽くす。戦地に舞い降りた天使に魅入られてしまったのだ。腰を落とした仙寿は、刀を振り抜きそんな敵を纏めて薙ぎ払う。首筋を切り裂かれた従魔は、次々と力無く崩れ落ちていく。
《敵の前で隙を見せるなよ――》
 はらりと落ちた羽根をその手に収めると、仙寿は金色の瞳を輝かせて敵を睥睨する。
《命取りになるぞ》
 従魔も本能で仙寿の強さを悟ったか、槍を構えるその背中が及び腰になった。意気の弱まりを見逃さず、仙寿はさらに踏み込んだ。従魔は必死に槍を突き出すが、穂先を弾かれ、頭を踏まれ、肩を蹴られと簡単にあしらわれていく。
『仙寿様、増援来てるよ』
《構わん。来れば来るほど、あいつが楽になる》
 荒れた息を整えると、刀を下段に構えて城から押してくる増援を迎え撃つ。目一杯に引き付けて女郎蜘蛛の網で正面の敵を捕らえ、挟み撃ちにしようとする敵を切り上げと袈裟斬りで叩き落とす。
『仙寿様後ろ!』
《わかっている》
 死角から飛び掛かった従魔。その穂先が届くよりも先に、振り返った仙寿は片手突きでその心臓を穿った。
《その程度では、俺の首は取れん》
 痙攣する従魔を蹴っ飛ばし、八相に構えて再び城門へと向き直る。彼の気迫に負けて後退りする兵士達だったが、やがてその場で息を詰まらせ、もがき苦しみながらバタバタと倒れ始める。
『おっと……?』
《どうやら、あいつがやってくれたようだな》
 血を払うと、仙寿は刀を納める。幻影の翼を畳むと、面を上げて城壁に立つ“彼”と目を合わせる。

 仙寿の白い衣には、傷一つついていなかった。

●侍の道と恋の路
 仙寿とあけびの目の前で、愚神の築いた城壁が崩れていく。城主が居なくなったことで力を失い、自壊したのだ。
『これでこの辺りは一安心、かな』
「……この情勢だ。また新しく愚神が押し寄せてくる可能性はあるけどな」
 彼らの気がかりならまだいくつもある。知人が調査していたテキサス州の洞窟が変異して異世界になったという話を聞いたし、ある愚神の忘れ形見の動静も気になるところだった。物憂げな横顔をじっと見つめていたあけびは、そっと彼の手を取る。
『大丈夫だよ。仙寿……なら、きっと何とか出来るから』
「……そうだな。そう信じて戦うしかないよな」
 仙寿は眉を開く。彼もあけびの手を握り返し、その温もりと共に戦いに臨む互いの絆を確かめた。
 これで一件落着――となるはずだったが。

「そう言えば、一回も呼ばなかったよな」
 歯を剥き出してニヤリと笑い、仙寿は手を振りほどいて腕組みする。その変わり身に、あけびは思わずきょとんとなった。
『へ?』
「さっきの戦いだ。ずうっと仙寿様だっただろうが。折角二人きりでの立ち回りになったんだろうに。まだ慣れないのか?」
『だ、だってぇー……』
「だって?」
 恥ずかしいし、というテンプレを返せば余計にいじめられてしまう。仙寿のサディスティックさ漂う笑みを見て悟ったあけびは、観念して俯いた。
『……努力します』
「よし。帰ったらかぼちゃのプディングでも仕込むか」
『ほんとに? やったぁ!』

 彼らの名前は東京海上支部の白き侍、日暮仙寿&不知火あけび。その白羽根で敵さえ魅了しながら、戦道も恋路も手を取り合って駆け抜けていくのだ。



 CASE:日暮仙寿 おわり





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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日暮仙寿(aa4519)
不知火あけび(aa4519hero001)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
おまかせなんて初めてなので、満足いただける出来になったかどうか……とりあえず、僕が知る仙寿くんの遍歴を出来る限り押し込めてみました。
折角なので、色々な方のノベルを読み比べていただけたらな……何て思ったり。
戦いのイメージは完全に無双系ですね。
何かありましたらリテイクを……

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年10月22日

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