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『闇に躍りし暗殺剣 』
迫間 央aa1445)&マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001

●今回のあらすじ
 北米の冷涼とした険しい山脈に、一体の愚神が陣取った。巨大な蜥蜴を思わせる醜悪な容姿の愚神は、山脈内部に作り上げた小規模なドロップゾーンから次々に下僕を召喚している。このままでは付近の都市が大軍によって襲われてしまうだろう。
 ニューヨーク支部のエルヴィス・ランスローは、早急に対処すべくエージェントを招集した。愚神を討ち果たすに足る実力を持つエージェント達を。

●急募:暗殺者
「見ろ、あの通りだ」
 オペレーターが彼方の山脈を指差している。迫間 央(aa1445)は腕組みしたまま、遠巻きに山肌を見つめていた。傍にはいつものようにマイヤ サーア(aa1445hero001)も寄り添っている。
『完全にお城になってしまっているわね』
 岩壁からせり出すように、漆黒の石で城壁が築かれていた。二人は有名なファンタジー映画のワンシーンに迷い込んだかのように錯覚させられる。
「一週間前は只の山だと聞いていたが……」
『城壁の上にも弓兵が陣取っているわね。真正面から攻めると面倒な事になりそう』
 二人がやり取りしていると、傍の職員が頷きながら話しかけてくる。
「そうなんです。発生が確認できた時点で一度討伐部隊を送り込んだのですが……あの堅固な守りの為に攻めあぐねてしまって。倒しても倒しても、本体が増援を召喚してしまって、キリが無いんです」
「そういう事なら、さっさと本体を仕留めてしまうのが一番でしょう」
 引き返してきたオペレーターの背中を追って、央達も天幕へと引っ込む。中には広いテーブルが置かれ、上にはこの場の地形図が広げられていた。
『それなら……そうだなあ。こんなふうにさ、表門に囮の部隊を置いて気を引いているうちに、誰かが本丸に忍び込んで暗殺、とか?』
 駒を取って作戦のアイディアを出しているのは、央もよく知るエージェントだった。同じ回避適性のシャドウルーカー、考える事はおんなじのようだ。そうでなくても考える事は同じのようだが。オペレーターも迷わず駒を動かしている。
「まあ、此方としてもそんな作戦を提示するつもりでいた。囮組、潜入組共に少々危険の伴う作戦ではあるが、それをこなせるだけの実力を持ったエージェントがいるからな」
 オペレーターはエージェントの顔を見渡す。
「潜入は誰が行く」
 問われた瞬間、央は静かに手を挙げる。誰もが彼に視線を注いだ。央は自信ありげに口端を持ち上げ、堂々と言い放つ。
「俺達が行きましょう」
 普段は公務員も務めている、有り体に言えば二足の草鞋を履くスタイル。しかしシャドウルーカーとしての仕事は誰にも負けるつもりが無かった。
 央はオペレーターのそばに立つ青年に眼を向ける。“彼”は、そんな央の数少ない好敵手の一人であり、互いに実力を知る者の一人だった。
「確かに、潜入役は彼が適任だと俺も思う。……俺達が囮役の先鋒を務めよう。敵陣中央で攪乱を試みるつもりだ」
 自信に満ちた青年の言葉には、ずっしりとした安定感があった。マイヤはそっと央に耳打ちする。
『これなら前線の心配はいらなさそうね』
「ああ。俺達は俺達の仕事に専念するとしよう」
 人目を憚らない二人の密着ぶりに、誰かが歯噛みした気がする。しかし二人は知らないふりをしたまま気を引き締めるのだった。

●電撃作戦
 央とマイヤは共鳴する。幻想蝶から天叢雲剣のレプリカを取り出す。常に苦楽を共にしてきた刃だ。更に銀色の籠手を取り出すと、静かに右手に嵌める。最近になって使い始めた愛用の品物だ。メカテクター型に改造を施し、AGWドライブを切るだけでそのまま叢雲にアクセスできるようにしている。全ては彼のスタイルを極めるためだ。
『準備は万端ね』
「それじゃあ行くとするか」
 央は仲間達の下を離れて駆け出し、素早く岩の陰に隠れる。耳の感覚を研ぎ澄ませ、周囲を無造作に歩き回る蜥蜴達の足音を聞き分けた。
『どれも遠ざかっているわね』
「あいつらも出撃したからな。目がそっちに行ってるんだろう」
 腰を屈めたまま、傍の岩陰へと飛び移る。猫のように足音を立てないその動きに、従魔達は一切気付かない。僅かに身を乗り出し、城の壁を見上げた。
「……やはり最短経路はこれだな」
 独り言ちると、足元に霊力を集め、一気に駆け出す。50度を超える急勾配も、地不知を発動した彼にとっては平らな道路と同じ。城門へと集まる従魔達を尻目に、彼は一気に城壁の上へと登った。同時に喧騒が始まり、上にいる従魔達も弓を構えて走り出す。
『どうやら始まったみたいね?』
 そっと壁から身を乗り出し、央は“彼ら”の様子を窺う。白い翼を広げた侍が、敵集団のど真ん中で悠々と切った張ったを繰り広げている。注目を集めて仲間を守る華やかな戦いぶりは、隠密からの一撃を信条とする央には中々真似できない。
「傾奇者、と言ったところか」
『ああいうヒーロー然とした戦い方をさせたら、中々右に出る人はいないわね』
「さっさと済ませよう。だらだら引き延ばしてもやってはくれるだろうが、あいつに悪い」
 言うと、央は城壁に再びぶら下がり、窓に飛び込んで中へと進入する。そのまま柱の陰へと転がり込むと、慎重に廊下の角を窺う。
(廊下の真ん中に一体か)
(下手に隠れて進むより、排除したほうが楽ね)
 籠手のスイッチに触れ、AGWドライブを起動する。ライヴスを集めて輝く掌を握り込んで隠し、崩れた瓦礫の陰に隠れて機を窺う。従魔は槍をぶら下げたまま、のろのろと央の方へと歩いてきた。5m、4、3、2……
 出し抜けに央は飛び出した。掌の発射光から刃を生み出し、蜥蜴の眼窩から脳天に向けてその刃を突き立てる。一瞬びくりと震えた蜥蜴は、そのままだらりと脱力して動かなくなる。央はその亡骸を抱えると、無造作に陰へと転がす。まるで何事も無かったかのように、城内は静かなままだった。
『上出来ね。このまま敵の頭を切り落としましょうか』
「任せておけ。直ぐに片付く」
 さらに城の中を進むと、今度は廊下の入り口を固める二体の従魔がいた。壁の罅割れを伝って天井近くまで登った央は、そのまま従魔の頭上に向かって飛び出す。
 銀の掌が再び輝く。央は片方の脳天を踏みつけ倒し、もう片方の首筋を刃で切り裂いた。足元の従魔がもがき苦しんでいる間に、その脳天を光でじっくり焼き潰す。鮮やかな仕留めっぷりだ。
「……他愛もない」

 その頃、岩肌をくり抜いて作った玉座の間では、冠を被った蜥蜴が必死に王笏を振り回していた。部屋の中心に生み出された小型のドロップゾーンから、次々と蜥蜴の兵士が飛び出してくる。
「行け! 何者もこの部屋に通すな!」
 喚き散らす蜥蜴の王。しかし彼にもその兵士達にも、既に部屋に誰かが潜んでいた事には気付かない。
「全く、使えぬ兵士どもだ」
「……そういうお前はどうなんだ?」
 背後から、不意に低い声で尋ねられる。反射的に王が振り向いた瞬間、央は抜き放った叢雲で袈裟懸けに斬りつけた。
 央の必殺剣、ザ・キラー。振り向いた勢いも加わり、その刃は容赦なく王の片腕を切り落とし、脇腹さえも深々と切り裂く。
「あああああっ! 貴様ぁっ! 何故此処に!」
『警備がザル過ぎるのよ』
「おのれぇ……囲め、囲めぇっ!」
 腕を押さえながら叫ぶと、兵士達が一斉に央へと飛び掛かる。央は剣を振るいながら、その柔軟さを生かして敵の攻撃を次々と往なしていく。その間にも、広がり続ける白い霞。央はそのまま、刃に蒼いライヴスを込める。
「はっ」
 空に向かって刃を振り抜いた瞬間、青い薔薇の花弁が部屋中に舞う。その一片一片の動きに、一瞬兵士達は眼を奪われた。その隙に央は霞の中へと姿を消す。
「馬鹿な……どこに消えた!」
 王が叫んだのも束の間。再び背後から踏み込んだ央が、片手平突きで王の心臓を刺し貫く。
「余所見をしている場合じゃなかったな?」
『どんなに小さな隙も、私達は見逃さないわ』
 口から血を零し、王は何かをもごもごと話す。やがてそのまま力尽き、静かに闇へと紛れて消えていった。同時に、槍を構えていた従魔達も次々と崩れ落ちていく。
 央は剣を鞘に納めながら、ほっと息をついた。
「任務完了、と」
『ショートケーキを食べるようなものだったわね』
 胸ポケットからハンカチを取り出すと、手を拭いながら外へと向かう。“彼”が待ち構えている筈だった。

●想うがまま
「ご苦労だった。流石の手並みだな。“スサノオノミコト”の話は知らんが、神の名を通り名とするに相応しい実力だという事は今回でよく理解出来た」
 城から戻った央とマイヤは、オペレーターに労いの言葉を以て出迎えられた。眼鏡を掛け直し、央は穏やかに微笑んでみせる。
「この程度なら、どうという事はありませんよ」
「そうか。……では、もし可能ならば、後日“カイメラ”の調査へ向かって欲しい。君もかの洞窟の調査には関わっていたはずだからわかっていると思うが……今あの場は非常に不安定な事になっている。色んな意味でな」
「ええ。依頼が出れば正式に加わらせて頂くつもりでいます」
「頼んだ」
 やり取りを終えると、央はオペレーターに会釈して踵を返す。その腕に両腕を絡ませ、マイヤはこそりと呟いた。
『どうなっていくのかしらね、これから』
 噂があった。“王”との戦いに勝った時、英雄も消えてしまうのではないかという噂が。形見の品を探そうとしたり、遺書めいたものまで書く英雄まで出てきたという。央達の耳にも、それはしっかりと聞こえていた。
 央は立ち止まると、そっとマイヤの身体を引き寄せる。
「大丈夫だ。マイヤが俺のところに来た事、最後まで後悔させはしない」
『……ええ』

 彼らの名前は東京海上支部の蒼き電光、迫間央&マイヤ=サーア。影から影へと立ち出でて、一分の隙すら与えず止めを刺す。敵には回せない、余りに手強いカップルだ。



 CASE:迫間 央 おわり



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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迫間 央(aa1445)
マイヤ サーア(aa1445hero001)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
おまかせなんて初めてなので、満足いただける出来になったかどうか……央さんと言えば、ザ・キラーかなと勝手に思っていたので(ルナール、トール、その他もろもろ……)、それを魅せるための舞台をセッティングさせて頂きました。
折角なので、色々な方のノベルを読み比べていただけたらな……何て思ったり。
戦いのイメージは完全に某暗殺ゲームですね。銀腕の使い方とか特に。
何かありましたらリテイクを。

ではまた、御縁がありましたら。



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2018年10月22日

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