▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『俺がグレートソードだ!! 』
小宮 雅春aa4756)&最上 維鈴aa4992)&あいaa5422


 秋深まりゆく木曜日の昼下がり。
 チェックのシャツをチノパンにイン、“木曜日なのに日曜日のお父さん”を完全再現してみせる小宮 雅春は、ふとダッドスニーカー(けして流行のやつではない)で包んだ足を止めて。
「俺がグレートソードだ?」
 彼が立ち止まったのはグロリアモールの一角に建つ雑居ビルの前で、眼鏡に映り込んでいるのはビルの地下にあるミニシアターの広告ポスターで、そして。
 口にしたのはそう、この土曜日から公開される映画タイトル『俺がグレートソードだ!!』だった。
 ミニシアターは大手の配給会社の傘下におらず、それゆえに大作は上映されないものの快作や怪作に当たる可能性を秘めた出逢いの場である。もっともそれは一定のラインを越えた映画好きにしか適用されない理屈ではあるのだが……
『グレートソードには夢があった。そう、いずれは階級という枠を超え、数多の大剣を統べる【偉大なる剣(TSURUGI)】となる夢が……』
 その宣伝文句に、雅春は魅入られてしまったのだ。
『前代未聞の無機物アドベンチャー』とかいう、「具体的になにするんだ?」、「オチは? オチはっ!?」なツッコミどころ満載な決め文句をうっかり見逃してしまうほどに。
「伝えなくちゃ……!」
 よくわからない使命感を胸に雅春は駆けだした。
 少しでも早く誰かへ、この高揚を伝えるために!


 果たして土曜日。
 ミニシアターの入口に立った雅春は、売り場で買ってきたチケットを2枚差し出した。
「これが維鈴くんの分で、こっちがあいちゃんさんの分ね」
「誘ってくれてありがとー! えへへ〜、楽しみー♪」
 チケットを受け取った最上 維鈴が大きな笑みを輝かせ。
「デェース!」
 同じくチケットをもらったあいがぴょんぴょん飛び跳ねて気持ちを表現する。
「オレ昔映画で見たんだー。映画館でポップコーン食べてコーラ飲んで映画見るの」
 孤児院出身の維鈴、実は初映画館である。もちろん施設内での鑑賞会はあったのだが、彼の大好きな英雄譚は暴力的という理由でリクエストに応じてもらえなかった。まあ、そういう過去がベースにあることもあって……
『これが運命なんだなって、そう思ったんだ』
 ……雅春に話を聞いた瞬間のことを、後にそう述懐したものだ。まあ、そこまでのものだったかどうかは置いておいて。
「デスデスデェース!!」
 あいは、維鈴と出くわした雅春が熱く語り始めたそのとき、どこからか現われた。ふたりの会話に『デス』と『デェース』で相槌を打ち、気がつけばいっしょに行くこととなったのだった。
 で。多分、維鈴と同じく初映画館なんだろう彼女は、ふんふんにおいを嗅いだりあちこち見回したりいそがしい。ついにはふら〜っとどこかへ行ってしまいかけて――雅春に襟首をつままれた。
「ふたりとも注目してー。中へ入る前に確認しておくよ。映画館ではほかのお客さんに迷惑をかけないこと。それだけ守って、あとは楽しくね」
 年少者ふたりの「はーい!」、「デス!」、いいお返事にやさしくうなずく雅春の風情は、引率役というよりは年齢不詳のお父さんなんであった。

「これも監督のこだわりとかなのかな」
 席についた雅春は300ページ超のパンフレットをながめてつぶやいた。
 内容の大半がグレートソードの造りかたの詳細で、『コークス(石炭燃料)はガンガン焚け!』とか『土は刃の産着だ!』とか、よくわからないキャッチが躍っていたり。
「椅子のとこにコップ置けるんだ。これが映画館、なんだね……!」
 コーラがたぷたぷする紙コップを肘掛けの先のホルダーに収め、維鈴はむふー、息をつく。ちなみに、コーラと合わせるポップコーンは王道の塩バター味だ。
「デェース! デス!」
 座席の上でぽいんぽいん体を弾ませながら、あいはキャラメルポップコーンをもくもく食べたり、オレンジジュースを吸い上げたり。アイアイのワイルドブラッドだけあって器用なものである。
 と、ついに場内の灯が落とされて。
 よくある広告がひとしきり流れた後、本編が始まった。

『それは泥だった。
 泥を燃やした後に残されたひとつまみの鉄だった。
 ひとつまみはやがてひと握りとなり、ひと塊となり、火の内で偉大なる刃と成った』
 薄暗い画面の内で赤々と燃える火。そこから抜き出される、太い刃。
 思ってた以上におもしろそう? 思わず見入った雅春の左脇で、維鈴はぐっと手を握り締める。あいもきょろきょろしながら、四方から迫り来る音と火のゆらめきのコラボを楽しんでいた。
 が。
『俺はここから始まる! ここから始める! グレートの名に恥じない俺となるために』
 剣がしゃべった。
 鍔元に生えた擬人化感まんまんな顔で。
 えー!? 雅春が座席からずり落ちる。
 しょうがないんである。無機物が主人公として心情やドラマを観客へ伝えるには、これしか(思いつか)なかったのだから。
「なんかやばい」
 維鈴は口の内で言ったものだが、本当にやばいのはここからだった。
『俺は、弱いっ!』
 当初は最強であったはずのグレートソードが、次々と生み出される新たな大剣や片手剣、刀に打ちのめされ、ついには屠剣「神斬」の衝撃波に刃を砕かれるに至る。剣の顔さえ無視すれば、激しいアクションに彩られた質の高い王道展開だったのだが。
 剣だから当然遣い手が必要なわけで、それがまたボンデージにしか見えない黒革鎧でキメたアメリカンハードオネェだったりして……なんというか、別の意味で目が離せないのだ。しかも。
『ふん。貴君に刃の心あらば我が元まで這い上がって来るアルよ』
 屠剣、まさかのエセ中国人。加えて遣い手、弁髪オネェ。
 維鈴とあいの目はもう、主人公とか屠剣じゃなくてオネェの目バリに釘づけだ。

 しかし、しかしである。
 そこから始まるグレートソードの旅は熱かった。
『俺は終わらない! こんなところで、終われない!』
 伝説の剣豪(オネェ)に隕鉄を授かり、深山にて隠遁する稀代の鍛冶師(オネェ)に鍛えなおされるまでの道のりは険しく。
『この身を磨くだけじゃなく、技を磨く! 心を磨く!』
 重たい甲冑を着込んだオネェは、重りを巻きつけたグレートソードを担いで駆けたり振り回したり跳んだりはねたり――これ、実際中世で行われていた両手剣遣いの鍛錬法である――胸を打つひたむきさで繰り返して。
『鋼は澄ますほどに固さを増すが、同時にもろくなる! 欲を弾き出せ! ただし想いだけは手放すな! 俺はもう、二度と折れたりしない!』
 幾人もの鍛冶師(全員オネェ)の手でコークスにくべられて叩かれ、不純物の粘りを含んだ“やわらかさ”をまとっていく。
 雅春はいつしかグレートソードに共感を覚えていた。ああ、あれは僕だ。失くしちゃったものを取り戻したくて必死だった、あのころの僕。
 入り込み過ぎて、観客の誰かが口にした「グレートソード、なんもしてなくね?」のツッコミも届かない。
 維鈴は雅春とは別の意味で見入っている。
 筋書きの無茶さやオネェの迫力、なにより映像と音響が織り成す「熱」にだ。
 すごい! なんて言っていいかわかんないけど、超すごい!
 あんなに憧れていたはずのポップコーンもコーラも、もう維鈴の頭から飛び失せていた。なのに、順調に減っている。もちろん彼が無意識に食べていたとかじゃない。
 デスデスもくもく。
 すでに自分の分を食べ終えていたあいが、アイアイのシッポでこっそり盗み食いしていたから。
 あいは鍛錬編が始まったころにはもう、映画に飽きていた。
 心情系を理解するにはそれなりの経験の蓄積、言い換えれば一定以上の精神年齢が必要となるが、精神年齢低めな維鈴でさえ「大きなお兄ちゃん」レベルのあいには難しすぎたのだ。
「デス?」
「ああ」
「デェース」
「そういうことだね」
 後ろの席の小太りなおっさんとなにやら通じ合ったりしているのは本気で謎だが、ともあれ彼女は彼女なりに映画館という場所を満喫しているようだった。

 かくて物語は進み、剣たちとの再戦に勝利したグレートソードはあの屠剣と向かい合った。
『ずいぶん汚れたアルね』
 白かった剣身を黒くくすませたグレートソードに屠剣が言う。
『あの日から休むことなく、俺は俺を鍛え続けてきた。この姿こそが鍛錬とそれを貫いた末に在る、今このときの俺だ!』
 ちなみに遣い手のオネェ、猛烈にバンプアップしていた。撮影の中で本当に体が鍛わってしまったのだろう。その圧倒的存在感が醸し出す説得力に、観客も息を飲む。
『ならば刃で確かめさせてもらおうアル!』
 青白く色づけられた屠剣の衝撃波が飛んだ。
 それを真っ向から受け止めたグレートソード(というか遣い手のオネェ)は一気に間合を詰め、大上段から降り落ちる。
『この重さはなにアルか!?』
 自らへ食いついた太い刃に押し込まれ、屠剣が声をあげた。
 以前は一撃で剣身をへし折ってやったはずの衝撃波をあっさり押し退けたばかりか、この一撃。いったいグレートソードになにがあったのか?
『綺麗なだけだった俺にまとわせた“汚れ”の重さだ!』
 鉄から不純物を追い出すには火にくべて叩く必要がある。端的に言えば、それをあえて控えることで硬さと鋭さの代わりに粘りと重さを得た。それが「今このとき」のグレートソードであった。
 得るために失い、重ねた、刃の意志。
 そもそもグレソなんてぶっ叩く武器だから鋭さとかいらんけどなぁ。後ろのおっさんのツッコミは、前席の三人へ届かない。
 無駄にレベルの高い剣技の応酬、そして交錯するオネェの筋肉に魅せられていたからだ。
『鍛え上げ、研ぎ澄ませてきたこの刃、味わわせてやるアル! 吼えよ我!』
 ライヴスを猛らせた屠剣が無尽の剣閃を描き出し、八方からグレートソードを打ち据えた。
 噛みちぎられた刃が黒光の欠片と化して荒野へ散り落ちる。
『さあ、もう一度折れ砕けるがいいアル!!』
 グレートソード(とオネェ)の答は、不敵な笑み。
『俺は二度と折れたりしない。その誓いを破るくらいなら、折れちまうほうがマシだぜ!!』
 結局折れるんかい。おっさんのツッ(略)
「だめだよ! それ以上打たれたら折れちゃう!」
「デェス! デスデスデェース!!」
 真ん中の雅春に抱きついて震え上がる、維鈴とあい。
 雅春にもなだめている余裕はなかった。
「がんばれ――グレートソード!」
 ふたりといっしょに祈っていたから。
 グレートソードの勝利を、一心に。
 果たして。
『一撃粉砕グレートぉおおおおおお!!』
 オネェ捨て身の袈裟斬りが屠剣の鍔元へ叩きつけられた。
『この程度アルか――なにぃアル!?』
 大きく撓んだグレートソードの刃が、弾けるように屠剣の硬き刃を押し返しながらその内へ食い込んで、そのまま刃を根元から斬り落とした。
『我が、折られるどころか斬られるとはアル……』
 顔の真ん中から断ち斬られた屠剣が重たい声でしゃべり続ける様は強烈にシュールだったが、ともあれ。
『俺の旅はまだまだ始まったばかりだ』
 物語は宣伝文句を投げっぱなしたまま、大団円を迎えたのだった。


「なんかあんまり食べた気しなくてさー。お腹空いちゃった!」
 パンフ以外の唯一の映画グッズである“グレートソード顔面ピンバッチ”を胸につけた維鈴が、お腹をさすりながら眉を困らせる。
「デェス? デェースデェース!」
 と、あからさまに目を逸らすあい。
 あいちゃんさんが食べちゃったかー。雅春は胸中で苦笑しながらもそれは言わず、代わりに維鈴へやわらかな笑みを向けた。
「映画の話もしたいし、ファミレスにでも寄っていこうか。僕がごちそうするよ」
「え? ほんと? やったー!」
「デェース!!」
 そういえば維鈴は犬のワイルドブラッドで、あいはアイアイのワイルドブラッド。犬猿の仲のはずなのに息ぴったりだねぇ。そんなことを思いつつ、雅春はふたりを招き寄せた。

 グロリアモールの一角にあるイタリアンなファミリーレストラン。
「いただきまーすっ!」
「デスデスデェース!」
 運ばれてきた料理を前に手を合わせた維鈴とあいへ、雅春はうなずいてみせ。
「はい召し上がれ」
「あそこよかったよねー! もう折れちゃうかっとところで『俺は二度と折れたりしない!』で、一撃粉砕グレート! すっごくカッコよかったよ〜」
 パンチェッタとモッツァレラのピザを頬張る合間に語る維鈴。再現用のグレートソードはお店のナイフである。
「デス!」
 お子様ランチの甘口カレーライスをもっちもっち食べる手を止めて、あいもなにかを取り出した。大剣にセットしてライヴスをチャージする装置“終一閃”だ。本体の剣がないのでただの機械なのだが、そこにしっかりとライヴスがチャージされていって……
「あいちゃんさん、コインあるよコイン」
 とっさに雅春がお子様ランチのおまけについてくるガチャガチャ用コインを渡し、あいから装置を取り上げた。
「デス? デスデス! デェース!」
 ふらふらとガチャガチャに向かうあいを見送って、雅春は息をつく。謎だなぁ、あいちゃんさん。
 そして気を取り直して。
「最後のバトル、ほんとに熱かったね。絵面はかなりアレだったけど……染みたよ。エージェントってだけじゃなくて、僕自身にも」
 もう二度と折れない。
 うん、染みた。すごく心に染み入った。
 でも、それだって屠剣やほかの剣っていうライバルがいてくれて……独りじゃないからあそこまでたどりつけたんだ。
 静かに語りあげる雅春に維鈴が思いっきりうなずいて。
「オレもそう思う! 弱かったグレソーが自分と向き合って、強くなったんだよね!」
 たっぷりケチャップをかけたポテトを口へ詰め込んでパワーをチャージ、そして。
「決めた! 今度からグレソーのこともっと大切にするっ!」
 あ、でもオレ銃遣いだった! ケチャップまみれの口を大きく笑ませた維鈴は気づいた後も往生際悪く。
「9-SPにグレートソードって名前つけたら行けなくない?」
 さすがに雅春も「う、うん」としか応えようがなかった……。
 などということもありながら、ふたりはグレートソードと屠剣の対決について語り合う。
「やっぱグレソーは思いっきり振り下ろす! だよねー」
「純粋な鋼は硬いけどもろいっていう伏線が効いてたね。柔よく剛を制すって言葉の意味、考えちゃったなぁ」
 そこへあいが戻ってきた。
 空になったカプセルを雅春へ渡し、終一閃を取り戻す。
「ん? どうしたの、あいちゃんさ」
 最後の「ん」は言い切れなかった。
 あいの手にあるガチャガチャの景品――男の子用のおもちゃ武器シリーズその4、“グレートソード”に装置が接続される様を見てしまったがゆえに。
「ちょ、あい、なに」
 維鈴の言葉もまた、先ほどチャージされたライヴスがプラスチックの剣へ流れ込む音にかき消された。
「あいちゃんさん! それはダメだってば!」
「あい落ち着けー! ごはんもまだ残ってるんだぞっ!」
 かくりと小首を傾げたあい。
「デェス?」
 一応説明しておけば、彼女は映画で見た剣劇を再現したいだけなのだが、すでにそんなことはどうでもいいことで。

 雅春と維鈴を巻き込んだあいの旅は、今まさにここから始まるのだ!


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【小宮 雅春(aa4756) / 男性 / 24歳 / グレートお父さん】
【最上 維鈴(aa4992) / 男性 / 16歳 / グレート犬ガンナー】
【あい(aa5422) / 女性 / 14歳 / グレート不思議ちゃんさん】
パーティノベル この商品を注文する
電気石八生 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年10月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.