『cross×eyes 』

石井　菊次郎（aa0866）

　俺の名は石井　菊次郎(aa0866)――リンカ―だ。しかし今は、とある理由で役者もどきを演じている。
　その理由は行きつけのバーまで遡る。その日も俺は恋人を殺した愚神の手掛かりを探していた。そして、その晩、この作品の監督と出会う事になる。

「お、おおお…兄さん、その眼」
　普段はサングラスをしている俺だが、その時はたまたま汚れを拭いていたから特徴的な瞳を晒していた。　それにつられて、男が声をかけてくる。
（まさかと思うが…聞いておきますか）
　きゅっと手持ちのハンカチでレンズを拭き切って、俺が顔を上げる。
「ああ、これねぇ。面白いカラーコンタクトでしょう。こんなおかしなカラコン付けてる人、他にどなたかご存じですか？」
　それは俺のお決まりのセリフだった。この眼を持つ愚神が俺の仇でもある。
　だから、そいつを探す為にわざわざこんな真似までしている俺だ。
「知ってるも何も俺が撮る予定の映画に出てくんだよ〜。あんた顔もいいし、出てくれないか？」
　がしっと俺の手を掴み、男が強引に距離を詰める。
「いや、俺はそう言うのはちょっと…」
「何でぇ？　大チャンスだよ〜。まあ敵っぽい役にはなっちまうけどさぁ、そんなカラコンしてるって事は原作者のファンなんだろう？」
「は、はぁ…」
　思いの外グイグイ来る男だ。押しが強くて、思わず曖昧な言葉を返してしまう。

　だが、この後その原作者の事を調べて、少しばかり気になる情報を得、今に至る。
　それはこの映画の原作本の後書きに「この作品は私が出会った人をモデルにしているんです。だからか、すらすらと言葉や仕草が出てきました」とあったから。つまりこの作者に会えれば、探している愚神の情報を掴めるかもしれない。
「あー、次のカットはその眼力でかっこよくお願いします」
　ＡＤが監督からの指示を俺に伝達する。撮影は既に最終シーン直前。話によれば、クランクインの時にその原作者が撮影所に来ていたそうだが、残念ながらその時は入れ違いになってしまった。そういう訳で次会えるとすれば、クランクアップか打ち上げか。こんな仕事をしたのは初めてだ。朝早くのメイクと打ち合わせに、台詞の確認。役者というのは思っているよりもかなりハードだと言える。
「じゃあ、本番いきまーす。3…2…1…アクション」
　カチンコが音を立てると同時にカメラが回り出す。それは最後に来ての登場シーンだった。なぜ最後になったのかと言えばそれは監督の考えによるもの。この作品では主演二人の息が大切であり、始めに撮るよりも慣れてきた最後に撮る方がよりいいものが取れるとの判断から。
　どうやらリンカーと英雄をモデルにしているらしいが、今の状況を予知していた様なストーリーで驚かされる。ちなみに俺は転移してきた十字眼を持つ堕天使の役だった。しかも能力者とは相性が悪く、事あるごとにぶつかり本気の殺し合いを演技でさせられた。次元を超えてやってくるという事で登場シーンはマッパに近い。それなりに鍛えてはいるが、それでも人に見せた経験はないから緊張する。スモークが焚かれた中からむくりと立ち上がる俺。主演の男が目を見開く。
「あ、あんたは…」
「小僧。私の眠りを覚ますとは…覚悟はいいか？」
　廃虚の中でのアクションシーン。流し撮りの休憩なし。相手は一般人俳優であるから力はセーブする。
　主演は俺の動きによくついてきていた。まあ、もともと空手や柔道の経験があると言っていたから、この動きも頷ける。次第に速さを増していく打ち合いに現場が息を呑む。そして、ゴスッと拳を止め合い、睨み合う形となって動から静へ。俺の瞳が光の加減できらりと煌く。
「はい、カーット！」
　そこで撮影終了となった。スタッフからも大きな拍手が起こる。
「凄いよっ、菊次郎さん。マジで役者やらない？」
　近くにいた監督が言う。俺は早々にガウンを羽織って、見慣れぬ顔がいないか視線を走らせる。
　するとスタジオの少し後ろにその人はいた。巻末にあった写真と同じ顔、間違いない原作者だ。俺は足早に彼女の元へと歩を進める。向こうもこちらに気付いたようで、あわあわしつつも持ってきていた品を鞄から取り出す。
「原作者の方ですよね？」
　俺の質問に彼女がこくりと頷く。そして、単刀直入にモデルについて聞いてみけば、答えは――。
「その…笑わないで下さいね。あの堕天使は夢に出てきたんです。そんな彼を凄く素敵に演じて頂き有難う御座いましたっ！　カラコンも自前って聞いて…本当に有難う御座います！」
　俺をファンだと勘違いしているらしい。彼女は照れながら持参した箱を俺にだと差し出す。
「あ、いや…まあ、こちらこそいい経験になりました」
　俺は心で溜息を吐きつつ微苦笑する。
　貰った箱には彼女の手作りであろう瞳の十字を意識した形のクッキーが詰められていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0866／石井　菊次郎／男／25／人間／リンカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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おまかせノベルという勇気ある発注に
数あるライターの中から私を選んで頂き有難う御座います、奈華里です
目が印象的でしたので、某未来から助けに来るあのＳＦ映画を意識して執筆
けれど、気が付いたらこんな感じに化けておりましたが、如何でしたでしょうか？
ギャグな方ではない気がしましたので色々抑えめに
雰囲気から本人視点でのノベルにしましたが、気に入って頂けたら嬉しいです！

リンブレは終息に向かっておりますが、最後までよき物語が紡がれますように
誤字等ありましたら、お手数ですがご連絡の程よろしくお願いします

おまかせノベル

奈華里

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2018年10月23日