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『彼の名は――。 』
鞍馬 真ka5819

 秋は実りの季節というが、子供達において秋と言えば南瓜のパーティー。
 仮装をし街をねり歩くだけでお菓子が貰えるのだからやりたくないという子供は少ない。
 そんな訳で各地では多くのハロウィンイベントが行われ、ハンター達もそれに駆り出される。というのも子供が多いイベントだけに迷子は日常茶飯事。危険な場所への立ち入りにも目が離せない。それに加えて予想がつかないようなハプニングもままある訳だ。
(今のところ異常なしか)
 そんな現場であるからより周囲に注意を払う。
 日が高いからと言って油断はできない。以前手伝った事のある教会の子供達を見守る彼は実に真剣だ。まだ仮装パレードは始まっていないというのに、既に仕事モード。しかし、その姿は子供達から見れば真剣過ぎて怖い位だった。それに気付いて、シスターが彼の元へ歩み寄る。
「お手伝い感謝します。しかし、今日はパレードの日。あなたも仮装してみては如何ですか?」
 緩やかな微笑みで彼女が言う。
「そう…だな。けど、私は今日何も持ってきていないんだが」
「そこは任せて下さいませ。貴方が来ると知って、子供達が色々考えていたんですよ」
「え…」
 思わぬ言葉につい声が漏れた。彼がここに来たのはだいぶ前の事。クリスマス用のフルーツケーキを作る手伝いをする仕事だったと記憶している。なのに、そんな自分を覚えていて子供達は自分に合った衣装を考えてくれたのだという。
「有り合わせの布で作っているからいいのではないけれど、良かったら着てみて下さいな」
 驚く彼を余所にシスターはそう言うと、一旦その場を離脱する。
 ここは教会の礼拝堂――今は子供達の着替え兼待合室という事になっている。
「あ、笛のおにーちゃんだ。それ絶対着てよねっ」
「絶対だよ〜」
 子供達が彼が衣装を受け取ったのを知って声をかけてくれる。
「わかった。今すぐ着替えるよ」
 彼はそう言い小さく微笑んだ。

「ん、うーん…」
 この薄衣のヴェールは頭に被ればいいんだろうか。なかなか見慣れないその品に少し困惑する。そして、衣装も思っていたものと割と違う。一言で言えばそれは着物だが、リアルブルー出身の彼でも多分手にした事はない代物だ。そして履物も…一本下駄であるから不安定な事この上ない。
「ちょっとこれは流石に…」
 警備としては目立ち過ぎるし、いざという時動けるか心配だ。しかし、子供達からはとても人気だ。
「やっぱぴったりー」
「おにーさん、かっこいいー」
 と目をキラキラさせて寄ってくるから脱ぐに脱げない。
(あ、はは……仕方ない。これで頑張ってみるかな)
 下駄にさえ目をつぶれば動きやすい着物だ。いざという時の為に武器を潜ませて、パレードを見守る。
 お菓子を貰う子供達の笑顔がとても眩しい。が、街の小さな橋に差し掛かった時事件は起きた。
「あ…」
 一人の少年が橋でつんのめる。その拍子に手にしていたお化けの風船がぷかりと舞い上がり、それを掴もうと振り返った少年に別の子がぶつかり、後は連鎖だ。
「ちょっ、何すんだよぉ」
「あぅぅ、私のふうせん…」
 お気に入りだったら尚更の事。その場で軽い喧嘩が始まる。せっかく貰ったバケツのお菓子を零しながら全体が騒ぎ出す。シスターも止めに入ろうとしているが、元凶の二人に辿りつくまでには時間がかかりそうだ。
(折角のパレードを嫌な思い出にはしたくない)
 そう思い、彼は橋の手すりに足をかけて頭を覆うヴェールがふわりと軌道を描いた。長い髪もしなやかな曲線を描き、ぱしっと掴んだのは舞い上がりつつあった風船の糸。欄干を足場に次々とそれらを回収する。その動きに喧嘩をしていた子供のみならず、道行く人たちまで魅了されて…。

 パチ…パチパチパチパチ

 全ての風船を手にした彼に盛大な拍手が送られる。
「え……えーと、どうも」
 思わぬ注目に照れる彼。
「ねぇ、どうせだったら笛も吹いてよ〜」
 そこでリクエストが入って、周りからの期待の眼差しにまたも断る術なし。
 彼は風船を傍にいたシスターに託し、携帯していた笛を口に当てる。
 その仕草一つ一つが今の衣装の為か、彼をやんごとなき人へと押し上げる。
 そうして彼が雅な旋律を奏でれば、そこには本物と見紛うばかりの『牛若丸』の姿がある。
「あぁ、神様。我々にも癒しを有難う御座います」
 後ろにいたシスターが小声で呟く。
「フフッ、やっぱり我々の目に狂いはなかったですねぇ」
「ええ。色々探して子供達にお話を読み聞かせた甲斐がありましたわ」
 とこれは別の二人。どうやら、彼女達も彼の衣装選定に関わっていたらしい。というか、どちらかと言えばそっちに仕向けたような発言をしているのは気のせいか。しかし、彼にその真実は届かない。彼は純粋に、皆が喜んでくれるならと空の下で最高の演奏を披露する。
 彼の名は鞍馬 真(ka5819)――とても真面目で少し天然な素敵なハンター。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819/鞍馬 真/男/22/人間(リアルブルー)/闘狩人】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はおまかせノベル発注有難う御座いました、奈華里です
参加頂いた懐かしの依頼の思い出と共に、ハロウィンの一幕を綴らせて頂きました
あれから可愛くなられているご様子、着物姿のイラストに幕末の美剣士と迷いましたが
笛とくればやはり義経様だと思いまして…こちらに決めさせて頂きました
あの衣装もきっと似合うと思いますし、短いノベルですが気に入って頂けたら嬉しいです

今後も真さんの旅路が素敵なものになりますように
誤字等ありましたら、ご連絡の程よろしくお願いします 
おまかせノベル -
奈華里 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年10月25日

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